いろんな人に聞いてみました。森との関係。  

森の列島に暮らす・10  

大麻とバイオリージョナルと植物化学

 

赤星栄志さん(Hemp Revo,Inc.代表)

 

 今年の春から夏にかけて、“ヘンプカー”が各地でイベントを行いながら日本を縦断した。ヘンプとは英語で大麻のこと。ヘンプカーは、大麻油を軽油化したものを燃料としたディーゼル車である。ヘンプオイルは従来の軽油と比べて硫黄酸化物を排出せず黒煙も3分の1、なにより石油由来ではないということで、環境負荷が小さい。「このプロジェクトは、大麻が化石燃料の代替になるというアピールもありますが、植物資源である麻を“衣食住”にもっと使いませんか、ということが全体のテーマなんです」と、プロジェクトの事務局長を務めた赤星栄志さんは言う。大麻は衣類だけでなく、建築素材や土に戻るプラスチック化粧品等、25,000種類もの商品になるそうだ。
大麻は、半年で3mにも成長する1年草。農薬や化学肥料等もほとんど必要としない。日本では稲作が行われる前から利用されてきた植物だが、戦後の「大麻取締法」によって栽培が免許制となり、大麻を利用する技術は失われていった。赤星さんは、群馬県吾妻町の岩島麻保存会と一緒に活動し、大麻づくりや利用の技術習得にも励んでいる。
 「大麻には、向精神作用を及ぼす化合物含有量の違いによって、医療・嗜好品となる薬用タイプと、繊維タイプの2種類があります。私達が扱っている大麻は、マリファナにはなりません。香りは似ているんですけどね」

 高校3年生の時赤星さんは、世の中で求められていることに自分を活かそうと考えた。その時に見つけたキーワードが “環境問題”と“農業問題”、それを解決する手段としての“NGO”であった。そこで大学は農学部に進んで草本作物を研究し、NGO活動にも参加した。そして卒業後に大麻の可能性を知り、調べるにつれて魅せられていった。では、なぜ大麻なのか。
 「今の社会は石油という資源を中心に動いていますよね。しかし、原油が生成するまでに2億5,000万年もかかっています。こんな資源をわずかな時間で使い捨ててしまうのは、どう考えてもおかしいでしょう。そうではなく、3カ月で育つ大麻のような資源を使うことでこそ“持続可能な社会”になるのではないかと。また、グローバリゼーションの対抗手段としてバイオリージョナル(生命地域主義)を掲げているのですが、ほぼ世界中で栽培出来る大麻を資源化すれば、環境問題だけでなく、文化の多様性や世界平和まで見えてくるのではないでしょうか。とにかく現在は、資源の選択を間違っているのです」

 「今までは廃棄物にしかならない、一方通行の資源を使って来ました。これが石油化学の資源の流れです。それに対極する木や草は、循環する資源です。ですから石油化学はやめて、バイオマスを利用する植物化学を発展させようというのが私のスタンスです。石油を何かに変換する石油化学と比べて、バイオマス素材を何かに変換する技術は全然発達していませんが、石油化学に費やされている人とお金を植物化学にシフトすれば、相当のことが出来るはずです。そうすれば“森とともにくらす社会”にも近づくと思います」
 現在林業の現場では、木材生産だけでなく“森”というバイオマスをいかに利用して“業”とするか、という動きが盛んになってきているが…
 「バイオマスの利用は5F、つまり食料(Food)、繊維(Fiber)、飼料(Feed)、肥料(Fertilizer)、燃料(Fuel)の多段階利用が原則です。エネルギーは一番採算がとれない分野なんです。エネルギー利用より前に、もっと素材としての利用を考えるべきでしょう」
 赤星さんが設立したHemp Revo,Inc.は、バイオマスに関する研究開発と商品企画を行うベンチャー企業。Revoはレボリューションの略、つまり大麻革命だ。最も儲かっているのは、やはり食料の分野だそうだ。赤星さんの事務所でごちそうになった麻ビールは、どこかスパイシーな味わいがした。 

 

 (編集部)



YOSHIYUKI AKAHOSHI

1974年滋賀県生まれ。学生時代から環境と農をテーマとしたNGO活動を開始し、きゃんぱすえころじー実行委員会初代事務局長、A SEED JAPAN95年度代表を務める。現在はHemp Revo,Inc.代表の他、バイオマス産業社会ネットワーク顧問、国際雑穀食フォーラム理事、ヘンプ製品普及協会顧問等。
http://www.hemp-revo.com/index.html

 

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