米国の原子力ルネッサンスは立ち往生
コンステレーション社 カルバート・クリフス原発3号機の建設計画から撤退
債務保証を受けるための頭金の支払いが「不当な負担」として撤退


 電力会社コンステレーション・エナジーは新原発建設のために、税金を投入した債務保証の獲得を目指して政府と交渉を行ってきたが、債務保証を受ける条件が「不当な負担」になるとして、10月9日、同社は新原発建設計画から撤退すると発表した。
 原子力資料情報サービス(NIRS)は直ちに祝福の声明(下記に翻訳)を出した。NIRSをはじめ、反原子力、環境、納税者の団体を網羅した全米の草の根運動は原発建設への税金を投入した債務保証に一貫して強く反対し、大キャンペーンを張ってきた。このような債務保証は納税者に重いリスクを押し付けるからである。それでも、連邦議会は185億ドルの債務保証を承認し、オバマ大統領はさらに360億ドルを追加する提案をしている。このような政治的状況下での撤退発表は全米の草の根運動を鼓舞している。

 債務保証を受ける条件は、政府の行政管理予算局がこの原発建設計画が挫折して納税者に負債が転化されるリスクをどう評価するかに大きく左右される。行政管理予算局は厳しい経済的状況を踏まえて、そのリスクは大きいと評価し、債務保証の「保証料」(電力会社が債務の頭金として払い込む)の引下げ要求に応じなかった。電力会社はリスクのすべてを納税者に負わせようとしたが、リスクの押し付けに反対する全米の草の根運動の圧力が引下げを許さなかったのである。
進行する恐慌局面、急落している電力需要、天井知らずの原発建設費、天然ガスの安値の継続、競合する持続可能なエネルギー源の存在などの経済的逆風の下では、原発建設は経済的に成立しないことが債務保証の条件に大きな影響を及ぼした。コンステレーション社の撤退発表はそのことをあらためて明らかにした。このことは、コンステレーション社の原発建設計画に限らず、米国の他の電力会社の原発建設計画にも当てはまり、ほとんどが原発建設計画を延期・中断して(あるいは、しようとして)いる。
 例えば、テキサス州のサウステキサス原発建設計画を進めてきたNRGエナジー社は天然ガスの安値が続くならば債務保証をうけても建設しないと言明し、持続可能なエネルギーなどの他の可能性も検討し始めている。サウスカロライナ州のバージル・C・サマー原発近くでの原発建設計画では45%を出資する予定の州立電力会社が逃げ腰になっている。建設費の見積りがあまりにも非現実的であることが明白になってきたからである。投資家を見つけることが困難になっている。

 原発建設のリスクを電力消費者に転化させることをも電力会社は追求している。しかし、電力市場が自由化された州では、例えばメリーランド州の規制では原発の建設資金は原発が稼動し始めないと消費者に課すことができないので、原発建設のリスクを電力消費者に転化させることができない。
 これまでに債務保証(83億ドル)を受けて建設されようとしている唯一の計画はジョージア州のボウトル(Vogtle)原発2基だけである。ジョージア州では電力市場が自由化されていないので、電力会社は建設段階から原発建設のリスクを電力消費者に転化させることができる。

 納税者や電力消費者にすべてのリスクを転化できない限り、米国での原発建設は極めて困難になっている。強い経済的逆風を追い風にして、リスクの押し付けに反対する全米の草の根運動は米国の原子力ルネッサンスを立ち往生させようとしている。


《翻訳》
カルバート・クリフス原発3号機の建設計画から撤退するとの
コンステレーション・エナジー社の発表についての声明


マイケル・マリオット 原子力資料情報サービス(NIRS)事務局長
 2010年10月9日

 コンステレーション・エナジー社は正しい決定を下した−その理由は間違っているが。同社はメリーランド州チェサピーク湾の海岸にカルバート・クリフス原発3号機を建設する計画から撤退することを決定した。

 コンステレーション・エナジー社のプレスリリースは次のように述べている(注1);カルバート・クリフス原発3号機の建設を援助するために米国エネルギー省が提供する、税金を投入する債務75億ドル(注2)は「不当な負担となり、わが社には受け入れられないリスクと費用をもたらすであろう」。ワシントンポスト紙の報道では(注3)、エネルギー省はこの債務をたった12%、すなわち8.8億ドルの「保証料」(本質的には債務の頭金−借金するとき頭金として払い込まなければならないものと同様)で提供した。ポスト紙は次のようにも報じている;エネルギー省はもっと気前の良い条件−コンステレーション社が原発の発電量の75%の購入さえ保証するならば、約3億ドルの頭金でよい−をも申し出た。
 これらの申し出がコンステレーション・エナジー社によって「不当な負担」と考えられたことは、同社がこの原発が負わせる異常な金融リスクを取りたがらなかったことを示している。同社は納税者がこの原発のリスクのすべてを負うことを望んでいた。(注4

 しかし、コンステレーション社が納税者にこのリスクのすべてを強要することにたとえ成功したとしても、この計画は経済的には成立しないものであった。最近、NIRSはこの原発のNRCの許認可手続きにおいて新たな論点を申し立て、次のことを告発した;コンステレーション社が地区の電力需要を過剰評価したこと、メリーランド州のエネルギー効率化プログラムの存在と、州に提案されていた、クリーンな沖合いの風力発電のような競合するエネルギー源の存在とを認識していなかったこと、そして、クリーンで持続可能な他のエネルギー源と比較するときに、故意に原発の費用を少なく言っていたこと。
 事実、競合する発電手段が十分にある、自由化された電力市場における、この原発の法外な見積り費用は、税金を投入する債務の条件よりも、コンステレーション社の決定にはるかに強い影響を及ぼしたのである。

 NIRSはすでにヒアリングに受理された主張を提出していた−それは、このカルバート・クリフス原発計画での外国企業の所有権が前例のない水準、原子力法で明白に禁止されている水準にあることである。この禁止とこの件が訴訟中である事実は、コンステレーション社のパートナーのフランス電力が債務保証の「頭金」をもっと多く分担すると申し出ることをおそらく妨げたであろう。

 今日は、メリーランド州にとって、安全でクリーンで入手可能な、原子力に依らない、炭酸ガスを排出しないエネルギーの未来を建設することを確信するすべての人々にとって、祝福すべき日である。


(注1)http://ir.constellation.com/releasedetail.cfm?ReleaseID=516614
(注2)「債務保証」と通常言われているが、カルバート・クリフス原発3号機の建設のためにNRCへ提出された許認可申請書によれば、資金は米国財務省の連邦融資銀行から提供される。
(注3)http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/10/08/AR2010100807377.html
(注4)米国の納税者はエネルギー省が提供する債務75億ドルのリスクを負わされたであろう。フランスの納税者はフランス輸出入銀行COFACEが追加して提供する29億ドルのリスクを負わされたであろう。
http://www.baltimoresun.com/news/maryland/bs-md-calvert-cliffs-loan-20100701,0,773855.story, July 1, 2010.


(10/10/23UP)