アレバ社製のMOX燃料集合体を使った
米国でのMOX燃料試験が失敗



 米国では、核兵器解体に伴う余剰プルトニウムをMOX燃料にして通常の原発で使用するという計画がある。いくつかの原発で、先行試験が2005年から開始されている。その先行試験の一つが失敗したことが明らかになった。
サウスカロライナ州のカトーバ原発1号機(デューク・エナジー社)では、4体のMOX燃料集合体を装荷して2005年から先行試験を行っていた。カトーバ原発1号機では3サイクル(1サイクルは18ヶ月運転)でMOX燃料を使用する予定であったが、2サイクルが終了した今年6月、予定を早めてMOX燃料を炉心から取り除いた。デューク・エナジー社はNRC(原子力規制委員会)に、「集合体の過大な膨張のため、炉心からMOX燃料をとりださなければならなくなった」と述べている。米国の「憂慮する科学者同盟」は、アレバ社が製造したMOX燃料集合体の設計に問題があり、制御棒案内管が想定以上に膨張し、燃料棒の損傷、事故の危険があると発表している。
 「憂慮する科学者同盟」は、この先行試験の失敗によって、米国での本格的なMOX燃料使用が大幅に延期されると述べ、安全性と経済性の問題からMOX燃料使用を中止するよう訴えている。MOX燃料集合体の中にある制御棒案内管の膨張については、今後原因調査が進められるが、アレバ社のこのMOX燃料集合体の安全性が大きな問題となっていくに違いない。日本のプルサーマル計画では、MOX燃料の製造をアレバ社に委託している。今回のカトーバ原発の問題は、単に米国のみの問題ではなく、日本のプルサーマル計画にも関連してくる可能性もある。
 「憂慮する科学者同盟」の記事を紹介する。

AREVA燃料集合体テストの失敗は
MOX燃料テストの破滅を運命づける
AREVA Fuel Assembly Test Failure Dooms Plutonium Fuel Test
2008年8月4日
憂慮する科学者同盟

Union of Concerned Scientists Citizens and Scientists for Environmental Solutions
http://www.ucsusa.org/news/press_release/areva-fuel-assembly-test.html
翻訳 グリーン・アクション/美浜の会


34トンの余剰核兵器プルトニウムを、「混合酸化物」(MOX)燃料として原発で使用(燃焼)するエネルギー省(DOE)の計画は、また一つの深刻な障害につまずいてしまった。デューク・エナジー社は、サウスカロライナ州のカトーバ原発1号機で4つの試験用MOX燃料集合体を多年にわたって装荷するテストの期間を早めて終了した。この燃料の設計が深刻な欠陥を持っている可能性があるというのがその理由である。

その結果、もしDOEのMOXテストが、MOX燃料を大規模スケールで使用するために必要な裏付けデータを獲得するのならば、MOX燃料製造会社−フランス国有核会社AREVA−は、欠陥のある燃料設計をやり直して新たにMOX燃料を製造し、原発での燃焼テストを再度行わなければならないことになる。実際に使用されるものと同一の、同じ規模の燃料集合体完全燃焼テストなしには、いかなるMOXプログラムも前に進むことはできない。

しかしながら、新たなテストはDOEプログラムの一層の遅れと一層のコスト超過をもたらす。DOEのこのプログラムは既にスケジュールが10年遅れており、最初に提案された時より数十億ドル以上かかると見積もられている。

分離されたプルトニウムを処分するためのはるかに簡単で、迅速で、安価な方法は、それを高レベル廃棄物と混合しガラスブロックに「固定する」ことである。しかし、DOEは、あらゆる固定化技術の開発を中止することを計画している。

原発の燃料

過去30年の間、米国の原発はウラン燃料を使ってきた。ウラン燃料ペレットが詰まっている長い金属管は金属製の枠に多数収められて燃料集合体を形成する。燃料集合体は原子力発電所に輸送され炉心に装荷される。

MOX燃料集合体は従来のウラン集合体と似ている。違いは、MOX燃料ペレットの方はウランとプルトニウムの両方から作られているということだ。

燃料集合体は、普通3つの運転サイクルの間、炉心に装荷されている。1運転サイクルとは次の燃料取り替えまでの期間であり、カトーバ原発の場合それは18ヶ月である。燃料取り替えのときに、燃料集合体の約40パーセントが炉心から取り出され、新しい燃料集合体と交換される。

デューク・エナジー社は、原子炉の最近の定期点検(燃料取り替え停止)に関する6月10日の報告書で、中断しなければならなかったMOXテストについて原子力規制委員会(NRC)に報告した。その報告書では次のように述べられている:「過大な集合体の膨張のため、炉心からMOX燃料集合体を取り出さなければならなくなり、カトーバ原発1号機の18ヶ月運転サイクル炉心設計は変更を余儀なくされた。・・・」[i]

MOX試験を中断させた問題は、燃料集合体制御棒案内管に、M5と呼ばれる独自の試験的な合金をAREVAが使用していることにどうも起因しているらしい。M5案内管を使用する何十ものAREVAのウラン燃料集合体は、ペンシルバニア州のスリーマイル島原発1号機、オハイオ州のデイビス・ベッセ原発、サウスカロライナ州のオーコニー原発およびフロリダ州のクリスタル・リバー原発3号機を含む、他のいくつかの米国の原発の炉心に現に存在している。

失敗した実験

2005年6月に、デューク・エナジー社は、 サウスカロライナ州のロックヒル近くのカトーバ原発1号機に4体の兵器級プルトニウム(MOX)燃料の先行試験集合体(LTA)を装荷した。 AREVAは、チャールストンからフランスに送られていたロスアラモス国立研究所の米国産プルトニウムを使用して、先行試験集合体を製造した。カトーバ原発での試験プログラムは、米国の原発でMOX 先行試験集合体が安全に使用できることを実証するためのものだった。その実証は、カトーバ原発とマクガイヤー原発の合計4機の炉心に最高40パーセントまでMOX燃料を装荷するのに必要なNRCライセンスを得るための必須条件であった。

MOX先行試験集合体は改良型Mark-BWと呼ばれるAREVAの設計に基づいていた。このタイプの燃料は、燃料ペレットを詰め込んだ燃料被覆管、および原子炉を停止するために炉心に制御棒を挿入するための制御棒案内管に従来のジルカロイ−4金属を使用する代わりに、M5を使用している。AREVAがジルカロイの代わりにM5を使用した理由は、M5の方が一般に運転中での腐食の進展がより遅いからである。

デューク・エナジー社は、2006年12月に、2回目の18ヶ月運転サイクルのために4体の集合体すべてを再装荷した。2008年4月のNRCへの説明では、AREVAはMOX先行試験集合体は3運転サイクルにわたって使用されることを予定していると述べていた。[ii] (デューク・エナジー社は、通常、非MOX燃料[ウラン燃料]を3運転サイクルまで使用する。) しかしながら、今年6月の燃料交換停止中に、デューク社は「過大な集合体の膨張のため」カトーバ原発1号機の炉心から全てのMOX先行試験燃料を取り出した。そして、膨張が起こったため、炉心の設計を変更するという対応をしなければならなかった。[iii]  予期しなかった制御棒案内管の膨張は、燃料集合体を変形させ、損傷を与え、そのために燃料冷却の質を低下させ、原子炉停止のために必要な制御棒を挿入する能力を妨害させる可能性が生ずる。結果として、デューク社とAREVAは、非MOX燃料[ウラン燃料]で最近達成されたような高い燃焼度についてのMOX先行試験集合体の燃焼データを何も得ることができないだろう。さらに、欠陥のある燃料で過去3年間の使用中に入手したデータは使えないだろう。AREVAはMOX燃料を設計し直し、資格認定プロセスを再び全面的にやり直さなければならない。

アトランタでの8月1日のNRCとの会合でデューク・エナジー社が供述したところによると、欠陥のあるMOX燃料集合体は、現在カトーバ原発1号機の使用済み燃料プールにあり、それらに関する今後の計画ははっきりしていない。

2007年7月に、国家原子力安全保障局(NNSA)の職員、ケーティー・フォーグラーは、「MOX燃料先行集合体は・・・うまく機能している」と報告した。 [iv] フォーグラーは誤った情報を伝えられていたのだ。NNSAおよびその契約者(デューク・エナジー社とAREVA)は、MOX先行試験集合体で問題が起こっているかもしれないことをその時認識していたはずだった。 AREVAの燃料での過大なM5制御棒案内管の膨張− AREVAによれば「予想されたよりはるかに高い」膨張率−の問題は、実は2007年4月にAREVAのMarkB12を2運転サイクルにわたって使用していたスリーマイル島原発1号機の20体のウランの燃料集合体で最初に発見されていた。発見されたとき、少なくとも94の欠陥のある集合体がスリーマイル島原発1号機の炉心にあった。

2008年4月のAREVAの燃料性能の説明会では、多くの原発−オコニー原発2・3号機、スリーマイル島原発1号機、デイビス・ベッセ原発、クリスタル・リバー原発を含む−では「予期しない」Mark B12 のM5制御棒案内管の膨張について追跡検査がなされた事実が報告されている。

集合体の膨張が設計限界を超えていたという事実にもかかわらず、スリーマイル島原発のオペレーター(AmerGen社)は、上端の器具を変更した後に、3回目の運転サイクルで、それらの集合体のうち2つ以外のすべてを再装荷することを決定した。オハイオ州のデイビス・ベッセ原発のオペレーターも同じことをした。逆に、デューク・エナジー社は、カトーバ原発1号機で、3回目の運転サイクルでは欠陥のあるMOX集合体を全く再装荷しないことを決定した。

MOXプログラムははたして継続するべきか?

このAREVAのMOX燃料の大失敗は、MOXプログラムがもつ技術的な不確実性、危険性、およびコスト問題を暴露したまたもう一つの実例である。 AREVAは、過大な集合体膨張の原因をまだ突き止めていないが、多分、M5制御棒案内管を備えたMark Bシリーズは設計変更、または放棄されなければならないことになるだろう。これは、MOXテストが失敗したことを意味し、AREVAがMOX燃料計画の振り出しに戻る必要を意味している。米国ではMOX燃料製造能力がないため、新たな先行試験集合体はフランスで製造されなければならないことになる。しかしそれは、新たな環境関連の書類、輸出ライセンス、輸送のセキュリティ計画および新たな燃料製造計画が必要とされ、政治的および技術的に挑戦的な問題である。さらにやっかいな問題は、AREVAが欠陥のある集合体で使われていたMOX燃料ペレットを製造したフランスのカダラッシュにある工場はもう閉鎖されてしまっていることにある。「憂慮する科学者同盟」(UCS)および「地球の友」(FOE)は、この問題は核兵器級MOX燃料の資格認定プログラムに少なくとも8年の遅れを引き起こすだろう、と推定している。

米国議会は直ちにMOXプログラムについて審理を開始し、そのプログラムを終了させることを検討するべきだ。また、MOXプログラムに関する四半期報告書を提供することを議会から課せられている会計検査院(GAO)は、M5材料を使用しているすべての米国の原発を調査し、更にそれらの原発を停止させて欠陥材料を除去するべきかを調査すべきだ。


Endnotes

[i] Duke Energy, "Catawba, Unit 1 - Core Operating Limits Report, Cycle 18, Revision 2," June 10, 2008, p.6.NRC ADAMS accession number ML081650181.

[ii] AREVA, Fuel Performance Meeting overheads, April 8-9, 2008, Lynchburg, Virginia, ADAMS accession number ML081300390

[iii] Ibid.

[iv] Katie Vogler, "U.S. Surplus Weapon-Grade Disposition Program," Proceedings of the Institute of Nuclear Materials Management 48th Annual Meeting, Tucson, Arizona, July 2007.

[v] AREVA Fuel Performance Meeting overheads, op cit.

(08/08/29UP)