ブッシュは地震地帯に核のゴミを捨てようとしている
Bush to dump nuclear waste in earthquake zone


2002年3月15日 ロサンジェルス・インディペンデント紙
アンドリュー・ガンベル



 空からも、またモヘベ砂漠の中央を通る幹線道路95号線の人里はなれた荒地からも、地球上のさいはてと見える土地。ユッカマウンテンは何マイルにもわたって、塵埃に取り巻かれた山の尾根以外ほとんど何もないところである。しかしながら、この地はアメリカの現政権を直撃する、大きなスキャンダル源に今後なるであろう。
ジョージ・ブッシュ大統領は、国中にある7万7000トンもの核廃棄物を山の下の貯蔵庫へ移動させるという、彼の父も含め、前の2政権がやらなかった計画を承認した。
 ユッカマウンテンは、想像がつくとおり、処分場には不適格である。この地域には33本もの地震断層が縦横に走っている。岩石は火山岩である。この地には、最新の科学的推量によれば、25万年と予測される核廃棄物の毒性の寿命からすればわずかにすぎない、過去2万年の間に爆発が起こっているという円錐火山がある。さらに、元エネルギー省の役人が行った科学的研究により、現在処分場の地下300メートルを流れている地下水が過去には上昇し、貯蔵エリアに流れ込んでいたという証拠が発見された。同じことが廃棄物が運び込まれた後に起これば、付近に住んでいる数百人(その中には、先住民、すなわち19世紀の土地協定では、ユッカマウンテンが自分たちのものであったと考えている西ショショーニ族の人間も含まれる)の飲料水が汚染されるだけではない。放射能の毒性は地表に至って濃縮し、アメリカ西部の広大な地域で重大な健康上の脅威を引き起こすであろう。
 一極集中化した廃棄物処分場を建設することを選択した国は他にない。それゆえ、世界中の原子力エネルギーの専門家が、アメリカ合衆国が行っていることを、そしてその結果がどうなるかを注目して見守っている。
 環境保護者達以外からも、アメリカのこの計画に対する警鐘が鳴らされている。政府自身の監視組織、the Nuclear Waste Technical Review Board(核廃棄物技術評価会議)も1月に、エネルギー省のユッカマウンテンのケースは、「中程度以下」であり、「データや基礎理解における欠陥」が含まれていると報告した。
 しかしながら、この報告書も、エネルギー省長官スペンサー・エブラハムが大統領の認可を求める提案を行うことを止めることは出来なかった。「私は、ユッカマウンテンが処分場の開発にふさわしいかどうかの適切な科学をもって決定するよう考え、科学的に適切だと確信している」とエブラハム氏は記しているが、どんな科学的根拠も明らかにされていない。大統領が彼の推薦に対して承認を与えるのに、1日しかかからなかった。
 ネヴァダでは、最大級の抵抗が繰り広げられている。民主党の上院議員ハリー・リードは、ブッシュ氏を、その支援がなければブッシュ氏が大統領になることはなかったであろうネヴァダ州の投票者を裏切ったと告発している。ユッカマウンテンの北東90マイル(140km)にあるロサンジェルスの市長オスカー・グッドマンは、エブラハム氏を「間抜け野郎」と呼んでいる。共和党のネヴァダ州知事、ケニー・グインは、この先2、3ヶ月の間に議会での投票が行われることを意味する、この大統領の決定を拒否すると宣言した。しかも、まさにこの2,3ヶ月に、真の闘争が始まると予想されているのである。
 ブッシュ政権の観点から言えば、問題は簡単である。大統領は、全エネルギー部門同様に、原子力を好ましく思っている。原子力発電会社は、彼の選挙戦に30万ドル(およそ21万1000ポンド)を寄贈している。彼は1979年のスリーマイル事故以後初めての原発建設に、熱心な態度を示している。131ある原発の廃棄物の送先を見つけることができない限り、彼らは建設を中止せねばならない。
 ユッカマウンテンは、ニューハンプシャー州とテキサス州にある他の候補地が、政治的なロビー活動の結果拒否された1987年(このことと、当時副大統領であった父ジョージ・ブッシュが、ホワイトハウスでの(大統領)レースを始めており、主要なカギを握るニューハンプシャーで自身のチャンスを危険にさらすことを望んでいなかったことは、単なる偶然の一致ではなかったであろう)以来、政府の考慮の対象であった唯一のサイトである。西部以外では"Screw Nevada bill"として知られるこの決定は、他の同様に政治的な人々によって引き継がれている。
 表面上は、ユッカマウンテンは、その地質学的性質のために選定されたかのように見える。しかし、地質学上の恐れが明確になったとき、エネルギー省は、廃棄物の容器がいかに安全であるかを検査するとのみ言っただけであった。容器が政府の基準を満たす見込みがなさそうだとなると、環境保護局は基準を引き下げた。
 ブッシュ政権誕生以降、矛盾は増大している。昨年、エネルギー省は、ユッカマウンテン認可の草案作成の上での助力として雇用した法律事務所が、原子力産業のロビー団体であることを知った。このWinston & Strawn法律事務所の14人もの弁護士が、政府と、この分野の主要なロビー団体である原子力エネルギー協会の双方の名簿に名前を連ねていたのである。
 消費者保護団体パブリック・シチズンのアナリストであるリサ・グーは、これは原子力ロビーがルールを決めているといういっそうの証拠である、と述べている。「事柄の過程に秘密が隠されている。」と彼女は言う。「政府は正直に物事を進めていない。すでに決まっている結論の正当化を図っているだけである。」と。
 ブッシュ氏の反対者は、環境の分野が、潜在的な政治的弱点であることを知っている。結局のところ、彼は、地球温暖化に関する京都議定書をズタズタにし、飲料水中の砒素の制限値を緩和し、納税者に対して、エネルギー産業ではなく納税者こそが毒物除去のための税金を支払わねばならないだろうと述べた大統領なのである。
 仮に議会がこの計画を承認し、多くの議員が原子力エネルギー産業から金を受け取ったとしても、この闘いはそこでは終らない。ネヴァダ州は、処分場建設に必要とされる水を供給しないと脅す姿勢を構えている。他州の議員達は、廃棄物の貨物−その一つ一つが、「動くチェルノブイリ」となる可能性があり、またテロリストの目標物になる恐れもある−がユッカマウンテンに向かって彼らの地盤を横断することができないようにする貨物法を検討中である。
 ホワイトハウスには躊躇が全くない。エブラハム氏は、ユッカマウンテンの推薦の文面で、「前進しなければ無責任にも義務を放棄していることになるだろう」と述べた。論争が熱を帯びるにつれ、これらの言葉は彼自身に跳ね返って付きまとうことであろう。



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