スイスでの事故はデービス・ベッセの穴が
格別珍しいものではないことを示している
DAVIS-BESSE: GAMBLING SAFETY FOR PROFITS






 1971年、アメリカ合衆国オハイオ州にあるデービス・ベッセ原発の原子炉上蓋で穴が発見される30年前に、スイスのベズナウ原発1号機で、似たような穴が発見されていた。この事実は、アメリカの原子力規制委員会が保存していたウェスティングハウス社の内部報告書で明らかになっていたが、NRCの委員長リチャード・メザーブは、デービス・ベッセで見つかった穴は、「予期せぬ」ものだったと言い続けている。

(581.5477) NIRS/WISE アムステルダム-


ウェスティングハウス社の報告書は、憂慮する科学者同盟(Union of Concerned Scientists、UCS)が1977年に情報公開法(Freedom of Information Act、FOIA)を利用して取得した、合計12インチ(30センチ)もの厚さになる山のような文書のうちの1つである。
 原発での事故や安全性の欠陥について詳述している文書の山は、10年以上にわたって、アメリカの原子力規制委員会(NRC)の上級官ステファン・H・ハノワー博士が集めたものである。「金塊ファイル」と異名をとっていたハノワー博士のコレクションの存在は、情報公開法に基づいて取得した細長い紙切れに手書きで書かれていたコメントにUCSが気付いたことでようやく明らかになった。
興味を抱いたUCSは、ハノワー博士に電話し、彼は自分の「金塊ファイル」について語ってくれた。そのコピーは、また別に情報公開請求がなされていた結果として、NRCの文書公開室に設置されていた。UCSは、博士のコレクションからの抄録を、1979年に古典的な著作である「貴重なファイル」(2)として出版した。
 この本の28ページには、スイスのベズナウ原発1号機で、運転開始からわずか2年後に、原子炉上蓋に「くぼみ」が発見されたという事実が述べられている。「制御棒駆動機構の密封熔接部からの漏洩が起こった結果、原子炉上部でホウ酸残留物がかなり堆積しているのが見つかった。ホウ酸「雪」の体積は、2?(35〜70立方フィート)にもなった。
 それに引き続いて、「熔接部の補修が完了した後、原子炉上蓋を検査すると、おおよその寸法にして深さが最大1.75インチ、最大幅2インチで、制御棒駆動機構を原子炉上蓋に接合するアダプターの周囲を180度取り囲んでいる、三日月形の傷が発見された。」
 この報告書によれば、「ピッツバーグやヨーロッパで、くぼみが起こるメカニズムを正確に把握し解決しようとして試験が開始されている」。それらの試験の結果については触れられていない。
 にもかかわらず、結局、「稼動中のウェスティングハウス社製の加圧水型軽水炉の管理者は、このような状況について直ちに報告を受けた。彼らは、一次冷却系に接するホウ酸の堆積物を全て除去するよう警告を受けた。デービス・ベッセ原発はバブコック&ウィルコックス社製の原発であり、運転開始も1977年だったため、この1971年の報告がデービス・ベッセ原発に送られることはなかった。

デービス・ベッセとの比較
 デービス・ベッセの主な「穴」では、腐食は制御棒に最も近い「三日月状の」部分だけではなく、さらに広い範囲に影響をもたらしていた(3)。またこの穴ははるかに深く、ステンレス・スティール製の内張りのところまで広がっていたのである(しかし、デービス・ベッセの原子炉上蓋は214ミリ、内張りは4.8ミリの厚さがあったのに対し、ベズナウ1号機の原子炉上蓋の厚さは166ミリ、内張りは5ミリしかなかった)。
 やがてベズナウ1号機での事故から30年が経過し、ホウ酸による腐食の問題はほぼ忘れ去られたかに見えた。NRC委員長リチャード・メザーブは、デービス・ベッセの事故におけるNRCの監督ぶりについて非難する監察官の報告書に対する2003年1月8日付の回答において、デービス・ベッセでは「炉頂部の予期できない腐食」について述べている。NRCの誰もが(デービス・ベッセで起こったように)三日月状の穴がベズナウで発見されたものよりも大きくなると予測できなかったことそのものが信じ難いことである。
 また、たとえNRCの職員がこのような状況を予測していたとしても、彼らは沈黙を守っていただろう。内部調査(4)によれば、NRCの半分近くの職員は、安全性やその他の諸問題に関する事柄があれば、「NRCで率直に意見を述べることが安全を保障する手段だ」と考えてはいないのだ。
 これらの状況は、NIRSが情報公開法を用いて取得した、(デービス・ベッセ原発を運転していた)ファーストエナジー社が利益追求のために安全性を冒していたことを示す文書(5)によって、昨年はじめに明るみに出た。

損傷は無視されていた
 ベズナウ原発でのホウ酸による腐食は、明らかに密封熔接部からの漏洩が原因であった。デービス・ベッセにおいては、NRCがその存在を予知していた損傷からの漏洩によるものである。実際、彼らNRCは、2001年12月31日までに原子炉を停止するよう命じた文書を起案していたのだが、その命令は出されることなく、2002年2月までの運転続行を認めていた。
 この損傷もまた、決して新しい問題ではない。2001年、UCSは、NRCが10年間にわたり、広く波及しているこの問題を無視していると批判した(6)。それどころか、「金塊ファイル」によれば、NRCがホウ酸による腐食で(原子炉上蓋に)穴が空くという問題について、驚くべきことに30年にわたって無視していたのである!
 この損傷問題は、WISEアムステルダムが昨年明らかにしたように、NRCが考えているよりさらに広がる可能性がある。有効な検査技術があるにもかかわらず使用されていないため、世界中のPWRで、何百もの損傷が検出されていないことは明白である(7)。
 スイスについていえば、状況はそれほど良いものではない。23年後の1994年に、ベズナウ原発は「1971年の工事終了時に明らかになった深刻な欠陥」−おそらく例の「穴」もそのうちの1つであろうが−が原因で、暫定的な運転認可しか得ることが出来なかった(8)。これもまた、飛行機の衝突や地震の発生に対する防護上の不備同様、設計上の欠陥がある。しかしながら、この原発はいまだに稼働している。
 昨年デービス・ベッセの事故が明らかになるとすぐ、WISEアムステルダムは、デービス・ベッセと似たような亀裂が発生した経歴をもつ3つの原子力発電所に、詳細をFAXで知らせた(9)。ベズナウもそれらの1つである。その他に、当局が最終閉鎖の日程を決定したスペインのゾリタ原発(10)、3つ目は、日本の川内1号機であるが、この国では原発の傷を隠蔽していたことが発覚し大きなスキャンダルとなっている (11)。どの電力会社からも返事はなかった。

参考:
1.「ベズナウ1号機の原子炉上蓋の傷」ウェスティングハウス情報サービス報告書1-71、1971年1月
2.『貴重なファイル』憂慮する科学者同盟、1979年1月
3.「大事故まであと数ミリ」WISE/NIRS ニュークリア・モニター565.5385
4. 2003年1月7日AP通信
5.「デービス・ベッセ:利益のために安全性を冒していた」WISE/NIRS ニュークリア・モニター575.5448
6.「アメリカ:NRCは安全性の欠陥の問題の広がりを10年間無視している」WISEニュースコミュニケ553.5309
7.「世界中の原発で検出されていない損傷がたくさんある」WISE/NIRS ニュークリア・モニター568.5402
8.「ベズナウ:安全上の欠陥」WISEニュースコミュニケ415/6.4116
9. 「大事故まであと数ミリ」WISE/NIRS ニュークリア・モニター565.5385
10.「概要」WISE/NIRS ニュークリア・モニター575
11. 「日本:内部告発が竜巻を引き起こす」WISE/NIRS ニュークリア・モニター573.5436、
「東京電力のねつ造スキャンダルの最新情報」WISE/NIRS ニュークリア・モニター578.5471

ポール・ガンター NIRS原子炉監視プロジェクト
WISEアムステルダム/NIRS