アメリカのデービス=ベッセ原発
圧力容器上蓋に大穴
一次冷却水喪失事故の一歩手前だった
関電の原発にも上蓋ひび割れの危険
 

●海外での上蓋貫通部でのひび割れの頻発とその危険性。
 海外で加圧水型炉の上蓋を貫通する制御棒駆動軸の管台にひび割れが発生するという事故が90年代に入って多発し、フランス、スウェーデン、米国で大きな問題となってきた。フランスでは、検査された29機の原発のうち20機に上蓋貫通部でのひび割れが見つかった(1993年8月時点)。またアメリカのPWR69機のうち、33機について上蓋貫通部での検査が実施され、そのうち13機で応力腐食割れが見つかり、うち4機で円周方向のひび割れ、9機で一次冷却水の漏洩が発見されている(2002年8月時点)。フランスの場合は、検査した原発の約7割、アメリカでは約4割にひび割れが発見されていることになる。上蓋貫通部での応力腐食割れの発生は、PWRにとって普遍的な事象であると言わざるを得ない。
 
●今年に入って発生したデービス=ベッセ原発でのひび割れは上蓋鋼材を腐食し、LOCAの一歩手前だった。
 さらに今年に入り、米オハイオ州にあるデービス=ベッセ原発では、管台のひび割れ(貫通割れ)に接触した部位で上蓋母材の大規模な腐食が発生するというまったく新しい現象が見つかった。上蓋鋼材がすべて腐食し、ステンレスの内張1枚の文字通り皮1枚という状態であった。NRCは「LOCAの可能性があった」と評価している。またNRCは腐食のメカニズムはまだ明らかではないとしながらも、貫通部に蓄積したホウ酸が高温湿潤環境中で、低合金鋼製の上蓋母材を腐食した可能性を強く示唆している。
 
●インコネル600を使っているPWRすべてに共通の危険性がある−上蓋管台はPWRのアキレス腱。
 これら一連の上蓋貫通部でのひび割れの主原因は、管台の材質がインコネル600であることによるものであるとされている。これまで一般的にインコネル600の一次冷却水中での応力腐食割れの問題は指摘されてきたが、上蓋での損傷問題を受け、NRCは改めて「[原子力]産業の経験は、600合金が応力腐食割れに弱いことを示した」とその危険性を強調している(NRC INFORMATION NOTICE 2001-05)。欧米のPWRの上蓋管台はほとんどすべてがインコネル600でできている。このため、欧米で共通してひび割れが多発したのである。円周方向の割れが進展すれば、制御棒飛び出し事故からLOCAに発展し、上蓋母材の腐食が起これば、同じくLOCAから深刻な重大事故へと発展する危険性がある。インコネル600製の管台を持ち、一次冷却水にホウ酸を添加するPWRにとって、上蓋管台部はアキレス腱的存在であると言うことができるだろう。
 
●上蓋を交換していない関電の高浜3・4、大飯3・4号機はひび割れ事故の危険性を抱えている。
 日本のPWRの場合はどうだろうか。日本のPWRも上蓋管台部の素材はインコネル600であり、欧米と同様、ひび割れの危険性を抱えている。海外での事例を受け、関西電力は1996年から2001年にかけて若狭にある全11機の原発のうち7機の上蓋を交換し、それに伴ってインコネル600製の管台をインコネル690に取り替えた。しかし、大飯3・4、高浜3・4号機については交換を実施せず、炉頂部の温度低減化工事ですませている。これら上蓋未交換の4機について大きな問題がある。
 フランスの場合、289℃という比較的低い温度でも3機の原発がひび割れを起こしている。4機の改良工事による温度低下は310℃→294℃(高浜)である。フランスではそれよりも低い炉頂温度ですでに損傷が起こっているのである。上蓋を交換しなかった4機に損傷が発生しないなどとなぜ言えるのか(EDFはひび割れ開始時間と頂部温度・運転時間に明確な相関はなく、応力レベルと材質が決定的要因であると指摘している)。
 関電は、炉頂部の温度を下げたのでひび割れは発生しないとし、たとえひび割れが起こるとしても軸方向の割れであり深刻な冷却水漏洩には発展しないとしている。これはまったく無根拠であると言わざるをえない。関西電力は上蓋を交換していない4機の原発について、安全の根拠を示すべきである。また、ひび割れやその兆候はないのか。これら未交換の上蓋の検査結果について、全資料を公開すべきである。東京電力をはじめ、各電力の隠蔽工作が明らかとなり、安全性に重大な疑義が生じている今こそ、関電は率先して広く情報を公開し、安全性を明らかにすべきである。
 
●上蓋の損傷はゼロだったする関電の発表は疑わしい。本当にひび割れやその兆候はなかったのか。
 さらに東京電力の損傷隠蔽・検査記録ねつ造事件を受け、東電と同じ様に関電も上蓋部でのひび割れやその兆候を隠していたかも知れないという疑いが浮かび上がってきた。
 関電は、1993年〜1995年にかけて9機の原発の上蓋管台について渦電流探傷検査を実施した。その結果は、損傷数ゼロである。しかし関電は、損傷がなかったにもかかわらず「予防保全」を理由に1機分約30億円という費用をかけて7機の交換工事を行った。東電が福島第一原発1、3、5号機のシュラウドの傷を隠しながら「予防保全」と称して交換を実施したのとよく似た話である。「予防保全」だけでは納得し難い。多数のひび割れが管台部で見つかったが、それを隠蔽するために交換したのではないかという疑いが生じる。
 フランスでは検査したうち約7割の原発でひび割れが見つかっているが、美浜3、高浜1・2については、これら損傷を起こしたフランスの原発よりも温度も高く、運転時間も長い。アメリカでの検査手法はほとんどが視覚的検査(ファイバースコープや直接の目視)によるもので、超音波探傷を行ったのは4機、ECTは6機だけである。目視に比べ、より精度の高いECTや超音波、浸透検査等、詳細な非破壊検査の実施をNRCは求めているが、これが実施されれば目視では発見できなかったような損傷ももっと増えると予想される。しかし精度の悪い視覚的検査でも、アメリカでは約4割のPWRでひび割れが見つかっている。ECTを使っても損傷がゼロだったとする関西電力の主張は疑わしい。
 関電は、今回の一斉検査で交換済みの上蓋は調査の対象から外すと発表した。しかし、ひび割れやひび割れの兆候が本当になかったのかを明らかにするため、SG保管庫に保管されている古い上蓋を徹底検査し、過去の検査資料も含めて検査結果を公開すべきである。四国電力は交換済みの上蓋も検査するとしている。今回の東電の検査記録ねつ造事件を通じて、改めて情報資料の公開が大きな問題になっている。この事件を重く受け止め他山の石とするならば、再検査は当然である。「現在作動中の機器の検査を優先させるため」などという関電の言い訳は極めて不自然である。関西電力は、これまでのような情報非公開の姿勢を根本的に改め、新たに浮上してきた上蓋交換等に関する疑いに対して真摯に回答すべきであろう。


[1]加圧水型炉の制御棒駆動装置上蓋貫通部の仕組み
 
(1)上蓋と制御棒駆動機構用管台の構造図
 
 加圧水型炉の上蓋は、直径約5メートル、厚さ40cm。材質は低合金で、内側には厚さ10mm程度のステンレスが被覆材として溶接されている。そして、上蓋の上から制御棒駆動軸を通すため、インコネル製のステンレスの管台が40〜80本、上蓋を貫通して設置されている【資料1】【資料2】。これら、制御棒駆動機構(CRDM:Control Rod Drive Mechanism)の管台は、外径約10cm、内径7cm、厚さ約1.5cmのステンレスの管で、長さはおよそ1mである。欧米および日本のほとんどのPWRでは、材質としてインコネル600が使用されている。管台を通す貫通穴の周辺には、円周状に深さ約2cmほど削り込まれており、そこには厚めにインコネルの被覆が施され、管台を取り付けるために、厚さ1.5cm程度の溶接が行われている。管台の中にはさらに、制御棒駆動軸を通すためのサーマルスリーブが溶接され、取り付けられている【資料3】。
  
【資料1】−PWR全体図(出典:NRC)
【資料2】−上蓋断面模式図(出典:NRC)
【資料3】−制御棒駆動機構(CRDM)用管台詳細図


(2)上蓋貫通部での破断事故は、制御棒飛び出し事故やLOCAから深刻な重大事故へと発展

 
 制御棒駆動機構の管台部での損傷は重大な問題である。貫通割れが発生すれば、即一次冷却水の漏洩事故となる。また、円周方向の割れが進展すれば、管台そのものの破断を引き起こす。管台が破断すれば、内部の約150気圧の圧力によって一挙に制御棒が飛び出す、いわゆる制御棒飛びだし事故が起こり、炉心の一部で瞬間的に出力が上昇するような事故となる。続いて、破断した管台から冷却水が噴出し、空焚きという重大事故に発展する可能性を持っている。
 
 
[2]海外での上蓋貫通部でのひび割れの頻発とその危険性。
 
(1)90年代以降、フランス、スウェーデン、スイス、アメリカの原発で上蓋貫通部のひび割れ事故が頻発
 
 1991年9月、フランスのビジェイ原発3号機の駆動機構の管台で最初に損傷が見つかった。圧力容器に耐圧試験(通常の125%の水圧)を実施した際、上蓋内側の管台の溶接部の亀裂から一次冷却水が、表側に漏れだしたのである。その後、フランスEDFが各原発で上蓋貫通部の検査を実施したところ、1993年8月までに、29機中19機の原発でひび割れが見つかった【資料4】。さらにその後、スウェーデンやスイス等の他のプラントにおいても同様の損傷が発生していることが判明【資料5】【資料6】。しかも、フランスにおける損傷例では、ほとんどが軸方向の割れであったが、スウェーデンのリングハルス2号における損傷は、軸方向の割れに比べてより深刻な円周方向の割れであり、円周上に18cmもの亀裂が確認されたのである。
 2000年に入って今度はアメリカで、次々と損傷が見つかりはじめた。全69機のPWRのうち、2002年8月時点で、33機について検査が実施され、うち13機でひび割れが見つかっている【資料7】。中でも2001年に見つかったオコニー3号機の事例が深刻で、この事例では軸方向に入ったひび割れから円周方向の割れが確認されている【資料8】【資料9】。
 
【資料4】−1993年8月までに公表されたフランスの原子炉の検査結果
原発名
 
運転時間
(92年末)
上蓋下部温度℃
 
検査年月 検査数
 
上蓋貫通部
ひび割れ本数
ビジェイ2 75615 315 1992/10 65/65 6
ビジェイ3
 
74330
 
315
 
1991/11 65/65 2
1993/06 20/65 1
ビジェイ4 75554 315 1991/11 65/65 8
ビジェイ5 78548 315 1992/07 53/65 2
フェッセンハイム1
 
84320
 
313.4
 
1991/11 26/65 1
1993/05 65/65
フェッセンハイム2 87303 313.4 1992/06 30/65 0
トリカスタン2     1993/05 全数 0
トリカスタン3     1993/07 全数 0
トリカスタン4 70400 289.1 1993/01 65/65 1
ブライエ1
 
70914
 
289.1
 
1992/10 65/65 3
1993/05 2/65 2
ブライエ2     1993/03 全数 5
グラブリーヌB3     1993/06 全数 2
グラブリーヌB4 72698 289.1 1992/12 65/65 5
ダンピエール1     1993/07 全数 1
ダンピエール4     1993/03 全数 1
サンローラン2     1993/02 全数 5
シノン3     1993/01 全数 0
パルウェル1 46957 313.7 1992/08 78/78 0
パルウェル2 45265 313.7 1992/10 全数 0
パルウェル3
 
43604
 
313.7
 
1992/01 17/74 0
1993/04 74/74 1
パルウェル4 39199 313.7 1992/05 31/74 5
セントアルバン1 35935 313.7 1992/08 7/74 2
セントアルバン2 30947 313.7 1992/10 77/77 1
フラマンビレ1 38186 313.7 1992/09 77/77 1
フラマンビレ2
 
35501
 
313.7
 
1992/05 4/74 0
1993/05 74/74 0
カテノン1 28975 313.7 1992/10 部分 1
カテノン2     1993/08 全数 1
ノジャン1     1993/06 全数 0
ベルビル1     1993/03 全数 0
出典:"VESSEL HEAD PENETRATION CRACKING IN NUCLEAR REACTORS" - GreenPeace International
1993/08EDF年次報告(資料情報室資料)
 
【資料5】−1994年5月までのスウェーデンの原子炉の検査結果
原発名
 
検査年月 検査数
 
上蓋貫通部
ひび割れ本数
リングハルス2 1992/06 65/65 5
リングハルス3 60/65 0
リングハルス4 65/65 2
Nucleonics Week(〜1994/05)(資料情報室資料)
 
【資料6】−1994年5月までのスイスの原子炉の検査結果
原発名
 
検査年月 検査数
 
上蓋貫通部
ひび割れ本数
ベズナウ1 1992/08 22/36 2
ベズナウ2 1992/05 27/36 0
Nucleonics Week(〜1994/05)からの孫引き(資料情報室資料)
 
【資料7】−2002年8月までに行われたアメリカの原子炉上蓋貫通部の検査結果
プラント名

 
FEPY
01/02末
炉頂部水流温度℃
 
検査日

 
検査率

 
検査方法

 
ひび割れ本数
 
円周方向割れ
 
漏洩本数
 
ANO 1 18.0 316.7 2001/03 100%(69/69) 1 0 1
Calvert Cliffs 2 17.9 312.2 2001/03 11%(8/73) 0 0 0
Cook 1 16.0 303.3 1994/02 33%(26/79) 0 0 0
Cook 2
 
13.3
 
316.1
 
1994/09 91% 視 ECT 1 0  
2002/01 91% 視 ECT UT 0 0 0
Crystal River 3

 
14.9

 
316.1

 
1996/02 100%(69/69)1 0 0 0
1999/10 00%(69/69) 0 0 0
2001/10 100%(69/69) 1 1 1
Davis-Besse
 
14.7
 
318.3
 
2000/03 100%(69/69)      
2002/02 100%(69/69) UT 5 1 3
Farley 1 18.2 313.9 1995/09 46%(32/69) 0 0 0
Farley 2 16.4 313.9 2001/02 100%(69/69) 0 0 0
Ginna 23.9 304.4 1999/03 100% 視 ECT 1※ 0 0
Indian Point 3 13.6 312.2 2001/04 60% 0 0 0
Kewaunee 21.6 306.1 1905/06 100% 0 0 0
McGuire 1 13.6 291.7 2001/03 14%(11/78) 0 0 0
Millstone 2
 
14.0
 
312.2
 
1997/08 100% 視 ECT 1※ 0 0
2002/02 100% UT 3 0 0
North Anna 1
 
17.1
 
315.6
 
1996/02 31% 視 ECT 0 0 0
2001/09 100% 視 ECT 8 0 0
North Anna 2 16.7 315.6 2001/10 100% 3 0 3
Oconee 1
 
20.4
 
316.7
 
2000/11 100%(69/69) 1 0 1
2002/03 100%(69/69) 2 0 1
Oconee 2 20.3 316.7 2001/04 100%(69/69) 4 1 4
Oconee 3
 
20.1
 
316.7
 
2001/02 100%(69/69) 9 0 9
2001/11 100%(69/69) 視 UT 7 1 5
Palisades 15.6 301.7 1995/05 100%(53/53) 視 ECT 0 0 0
Point Beach 1 22.9 311.1 1994/04 100% ECT 0 0 0
Prairie Island 1 22.4 304.4 2001/01 100%(40/40) 0 0 0
Prairie Island 2 22.3 304.4 2000/04 100%(40/40) 0 0 0
Robinson 2 20.6 314.4 2001/04 100%(69/69) 0 0 0
Salem 1 13.1 312.8 2001/04 100%(78/78) 0 0 0
San Onofre 2 13.5 310.6 2000/10 34%(34/101) 0 0 0
San Onofre 3 13.3 310.6 2001/01 34%(34/101) 0 0 0
St.Lucie 1 18.8 310.6 2001/04 3%(2/77) 0 0 0
Surry 1 19.5 314.4 2001/10 100% 10 0 4
Surry 2 19.4 314.4 2001/11 100% 0 0 0
TMI1
 
16.8
 
316.1
 
1999/09 100%(69/69) 0 0 0
2001/10 100%(69/69) 8 0 5
Turkey Point 3 19.3 312.2 1988/01 100% 0 0 0
Turkey Point 4 19.0 312.2 1994/03 5%(3/65) 0 0 0
Waterford 3 12.4 315.6 1997/04 〜20% 0 0 0
出典:"Public Meeting Between NRC and NEI and PWR Licensees to Discuss Bulletin 2002-02"
- Nuclear Regulatory Commission  August 23 2002
"PWR Materials Reliability Program Response to NRC Bulletin 2001-01"
- Electric Power Reserch Institute  August 2001
※浅い兆候 FEPY:全出力換算年数
 
【資料8】−オコニー3の漏洩箇所 上蓋貫通部(ノズル#56)上側からの写真(白色はホウ酸)
(出典:"Oconee Unit 1 & Unit 3 Reactor Vessel Head Leakage" -Duke Power Company April 12, 2001
   
【資料9】−オコニー3 ノズル#56 のひび割れ状況−軸方向から円周方向にひび割れ
(出典:"Oconee Unit 1 & Unit 3 Reactor Vessel Head Leakage" -Duke Power Company April 12, 2001

(2)今年に入って発生したデービスベッセ(米)原発での深刻な実態。上蓋そのものが腐食。ぽっかりと空洞があき、LOCAの一歩手前だった。
 
 今年2月27日、米・デービスベッセ原発で深刻な上蓋部の腐食が発見された。同炉は、1月18日に燃料交換のため停止し、NRC公報2001-01(オコニー1・2・3号、アーカンソーニュークリアワン1号での圧力容器上蓋貫通部ノズル亀裂問題を契機とする調査の通達)に従って制御棒駆動装置の貫通部について超音波探傷検査を行っていた所、3本のノズルの貫通亀裂が判明した【資料10】。その内1本のノズル(#3)を修理するため、周辺のほう酸堆積物を除去した所、圧力容器の母材内部に深さ約15センチ、幅約10〜12.5センチ、長さ約17.8センチの空洞部が見つかった【資料11】。貫通孔近傍の低合金鋼部分が腐食してぽっかりと穴があいていたのである。。最も腐食されていた部分では、圧力容器内側にある厚さ9.5ミリのステンレスの内張(クラッド)が露出している状態であり、その後の調査の結果、ステンレスの内張にも約3ミリの深さの亀裂が認められている【資料12】【資料13】【資料14】。
 NRCは、「構造マージンが著しく劣化して」おり、「冷却材喪失事故(LOCA)の可能性があった」としている(2002/03/20 NRC公聴会)【資料15】。原因は調査中であるが、応力腐食割れによって生じたノズル部の貫通割れから漏れ出た冷却水によってホウ酸が当該部位に堆積し、湿潤環境下でホウ酸による腐食が進展したものとされている。
 NRCはデービスベッセ原発での事態を受け、ブリテン2002-02を3月18日に発行。米国内で稼働する69基のPWRを操業している全企業に対して、上蓋の健全性についての情報と今後圧力バウンダリとして正常に機能し得る根拠について報告するように求めた。さらに、8月9日には、補足検査の実施を勧告するよう通達を出した。
 上蓋貫通部でのひび割れは、冷却水漏れだけでなく、ホウ酸の析出による上蓋そのものの腐食を伴う可能性があるということがデービス=ベッセの事例で明らかになった。これは、これまで経験したことのない、まったく新しい事態である。インコネル600製の管台を持ち、一次冷却水にホウ酸を添加するPWRにとって、上蓋管台部はPWRのアキレス腱的存在であると言うことができるだろう。


【資料10】−デービス=ベッセ原発 圧力容器上蓋俯瞰図−○部でひび割れが見つかった。(出典:NRC)


【資料11】−ノズル#3付近の劣化領域の断面図(出典:NRC)


【資料12】−ノズル#3付近の劣化領域・17インチの円筒に切り出した劣化領域(出典:NRC)



【資料13】−ノズル#3の腐食領域上からステンレス内張を見たところ(出典:NRC)


【資料14】−NRCの評価と対応(出典:第20回原子力安全委員会臨時会議(2002/03/28)資料)
[3]海外で次々と見つかる損傷を受けて関電が取った対応
 
(1)関電の上蓋管台について渦電流探傷検査は損傷ゼロ
 
 海外で次々と見つかる損傷を受け、関電は1993年〜1995年にかけて9機の原発の上蓋管台について渦電流探傷検査を実施した。そのひび割れはゼロであると関電は発表している(ひび割れの兆候については言及なし)【資料15】【資料16】。また、定期点検毎に加圧した上での漏洩試験を実施し、耐圧部の健全性を確認しているとしている。「渦電流探傷検査や定期検査における漏えい検査により管台の健全性を確認しており損傷は認められておらず、現状でも健全性は十分に確保されている」というのが関電と政府の見解である【資料17】。


【資料15】−関西電力の渦電流探傷検査状況(1995年12月末現在)
プラント名
 
運開年月
 
炉頂部温度℃
 
検査年月
 
検査までの運転時間(103時間)※1 検査本数※2
 
損傷本数
 
美浜1号機 1970/11 310 1994/09 96 37/37 0
美浜2号機 1972/02 310 1993/01 105 41/41 0
      1994/06 105 41/41 0
      1995/12 115 27/41 0
美浜3号機 1976/12 321 1993/10 109 53/66 0
      1995/04 119 66/66 0
高浜1号機 1974/11 321 1993/06 99 53/66 0
      1994/11 106 66/66 0
高浜2号機 1975/11 321 1994/05 97 53/66 0
      1995/11 107 66/66 0
高浜3号機 1985/01 307 1993/11 65 56/66 0
高浜4号機 1985/06 307 1994/01 64 56/66 0
大飯1号機 1979/03 308 1993/08 71 67/79 0
大飯2号機 1979/12 308 1994/05 92 67/79 0
      1995/10 100 58/79 0
大飯3号機   310   25※3    
大飯4号機   310   16※3    
※1:1994年3月末 ※2:検査本数/設備本数(空気抜き管1本を含む)※3:1994年3月末現在
参考:装置の検査精度 約1mm
出典:関電発表資料(池野さんからの提供)
 


【資料16】−上蓋管台検査(渦電流探傷)装置概要図


(2)損傷はゼロ。しかしながら、全11機の原発の内7機は上蓋交換、4機は改造工事を実施
 
 損傷が「確認されていない」にもかかわらず、関西電力は全11機の原発の内7機については上蓋交換を行い、4機については改良工事を実施した【資料17】【資料18】【資料19】。上蓋を交換するにあたっての関電の理由は以下の通りである。

「(損傷はない)しかしながら、一般に応力腐食割れは、材料・応力・環境に影響される時間依存型の損傷であり、材料・応力が同じであれば、温度が高いほど、また、運転時間が長いほど応力腐食割れの発生の可能性があると考えられる。このため、将来的な健全性維持を図るという予防保全の観点から原子炉容器上部ふたの取り替えおよび原子炉容器頂部温度低減化対策を行う」(『福井県の原子力』資料編31「定期検査における主な改良工事」・以下無指定の引用の出典は同じ)
 

「貫通管についてはひび割れは見つかっていない。高熱によるひずみが起きやすい構造と分かったので、海外の損傷事例を考慮し、予防保全の視点から交換を決めた」(94/9/6毎日)
 


●第1期工事(1996年〜1997年)−美浜3号、高浜1.2号
 関電は、応力腐食割れの発生要因のうち「温度と時間に着目し、原子炉容器頂部温度が高い3ループプラントで、運転時間の長い3プラント(美浜3号機、高浜1号機、高浜2号機)に対し、将来を見据えた予防保全の観点から、原子炉容器上部ふた取り替えを決定し」た。関電は、この3機については温度が320度で、他の原発に比べて10度高く、ひび割れの危険率が2倍になるため、交換を決めたとしている(1994/9/9朝日)
 
これは「第1期工事」と呼ばれ、1997年6月までに終了している。
 工事の内容は、主に以下の3点である。
・管台の材料の変更−インコネル600→インコネル690
・管台取り付け時の溶接による残留応力を低減させるように溶接形状を変更
・出力分布調整用制御棒クラスタの駆動装置の廃止
 

●第2期工事(1998年〜2001年)−美浜1・2号、大飯1.2号
 関電によれば、第1期工事の対象となった3原発以外については「温度、運転時間の観点から、すぐに保全対策を決定する必要がなかったため、渦電流探傷検査で健全性を確認しつつ総合的な予防保全対策を検討することとした」としていた。しかし「その後、継続して海外情報の取得に努めた結果、損傷本数が増加し、上部ふた取り替えが有効な対策として採用されつつあることや、一部プラントでは、容易な工事で原子炉容器頂部温度を低くすることができることが分かった」として、残りの原発にも対策を施すことを決定した。炉頂部の温度の低化させるための改造工事が困難な、美浜1・2号、大飯1・2号については第1期工事に続いて、第2期工事として上蓋の交換をおこなった。工事の内容は第1期と同じである。

 
●炉頂部温度低下のための改造工事−高浜3.4号、大飯3.4号
 高浜3.4号、大飯3.4号については炉頂部の温度を低下させるように、原子炉容器内に流入した1次冷却材を頂部に導くスプレイノズルの内径を大きくする改造工事を実施した。
 

【資料18】−高浜発電所3号機の第10回定期検査(出典:関西電力資料)

【資料19】−国内PWR上蓋健全性評価(出典:第20回原子力安全委員会臨時会議(02/03/28)資料)

[4]上蓋を交換していない関電の高浜3・4、大飯3・4号機はひび割れ事故の危険性を抱えている。
 
 インコネル600を使用したPWRの上蓋には安全上大きな問題が存在することは明らかである。しかし関電は、高浜3・4号炉、大飯3・4号炉については交換を実施せず、炉頂部の温度低減化工事ですませている。しかしこれには大きな問題がある。
 【資料20】を見て欲しい。これは上蓋管台破損と炉頂部温度・運転時間の相関を示したものである。これを見ればわかるように、調査の結果、EDFはひび割れ開始時間と頂部温度・運転時間に明確な相関はなく、応力レベルと材質が決定的要因であるという指摘をおこなっている。しかも、炉頂部の温度が289℃という比較的低温である3機にも、同じようにひび割れが発生している。この事実は重要である。
 関電は、高浜3.4、大飯3・4については炉頂部の温度を引き下げたので安全性を確保できたとしているが、改良工事の結果は310℃→294℃(高浜)である。同じ炉頂温度ですでにフランスでは損傷が起こっているのである。上蓋を交換しなかった4機に損傷が発生しないなどとなぜ言えるのか。しかも、この時点ですでに運転時間は破損したフランスの3プラントに近い。1年間は約8700時間、この表は1995年段階のものである。すでに8年が経過しており、さらに運転時間は増大しているはずである。
 頂部温度の低下がひび割れ防止にどれほど有効性があるのか。改造工事によって、ひび割れ開始時間と進展時間がどう変化するか具体的な解析はおこなっているのか。原子力安全委の20回議事録によれば、実験結果からの予測では大体30万時間は大丈夫とされているが、その根拠は何か。関電と政府は安全の根拠を示すべきである。
 また、ひび割れやその兆候はないのか。関電は、これら未交換の上蓋の検査結果について、全資料を公開すべきである。


【資料20】−上蓋管台破損と炉頂部温度・運転時間の相関


[5]上蓋の損傷はゼロだったする関電の発表は疑わしい。本当にひび割れやその兆候はなかったのか。
 
(1)本当にひび割れやその兆候はなかったのか?いくつかの疑問点
 
@先の【資料20】を見ても分かるように、上蓋交換前の時点ですでに、高浜1・2、美浜3については、炉頂温度も高く運転時間も長い。また管台の材質もインコネル600である。実際にひび割れを起こしたフランスのビュジェイ3号原発や、アメリカのオコニー、デービスベッセ等も管台部の材質もすべてインコネル600である。関電の原発についてひび割れはゼロだったとする主張は疑わしい。
 
AEDFの1991年の報告書では、上蓋部の温度と運転時間がひび割れ開始時間に寄与しているという想定に基づき、海外の原発についてひび割れのリスクを評価している。その中に、大飯2号炉の名前が挙げられており、大飯2号のひび割れのリスクは、1991年9月に上蓋部での腐食割れを実際に起こしたフランスのビュジェイ3号炉の1.15倍であると評価されている【資料21】。また、大飯2号と共に挙げられているアメリカのプラントは閉鎖になったもの以外の2炉についてはいずれもひび割れを起こしている。大飯2号を初め、関電のPWRにも上蓋部にひびが入っていた可能性は高い。
 
 
Bやはり「予防保全」だけでは納得し難い。上蓋を交換せざるを得なかった深刻な事情があったのではないか。多数のひび割れが管台部で見つかったが、それを隠蔽するために交換したのではないかという疑いが生じる。7基すべての原発で損傷がゼロとは極めて不自然だ。ひび割れやひび割れの兆候が本当になかったのか、関電は検査結果を示す全資料を公開すべきである。
 
 
(2)検査方法にも疑問がある。
 
 検査結果のみならず検査方法についても疑わしい点がある。公表されている検査結果を見ると、設備本数に対する検査本数が、検査毎に異なっている【資料15】。たとえば美浜2号機の場合、最初の2回の検査では41本すべての管台を検査し、次の検査では41本の中から27本だけを選んで検査している。このような検査方法を取っている理由は何か。1回目の検査でひび割れの兆候が見つかったものを選択して、2回目の検査にかけたということなのかもしれない。また逆に、ひび割れのあるような管台を検査対象から外すなど、恣意的な操作をやっていたのかも知れない。いずれにせよ関電は、何を基準として検査する管台を選択したのか明らかにすべきである。
 
 
(3)交換された上蓋を徹底検査し、その結果を公表せよ。
 
 関電は、交換された上蓋の詳細な再検査を実施していない。「不要な被曝を回避するため」という理由だが、損傷を隠すための口実ではないのか。
 交換された上蓋は、蒸気発生器保管庫に保管されている。再度取り出して再検査することは可能である。上蓋部から制御棒案内管を取り外し、分解の上、ひび割れの詳細検査を徹底的にすべきである。
 



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