セラフィールドの「汚れた」貯蔵プールがもたらしている恐れ
Fears over Sellafield's 'dirty' pond


サンデー・ヘラルド 2003年7月13日
環境論説委員 ロブ・エドワーズ


http://www.sundayherald.com/35261


 リークされた報告書によって、開放型貯蔵プールに入っている核物質の量の推定値について明白な相違があることが判明した。
 どれくらいの量のプルトニウムやウラン、放射性廃棄物が、セラフィールド核コンビナートにある開放型貯蔵プールに置かれているのかという推定値に、大きな相違のあることが発覚し、欧州連合の安全査察官らに不安を与えている。サンデー・ヘラルド紙にリークされた機密文書によって、カンブリアのプラントを操業している国営企業である英国核燃料公社(BNFL)が、貯蔵プールにどれだけの核物質が入っているのかについてまるで把握できていないことが明らかになったのである。ひとつの都市を壊滅させることが可能な核爆弾をつくるには、数キログラムのプルトニウムがあれば事足りる。その貯蔵プール内にある金属ウランについての公式の推定値は、300トンから450トンの間をさまよっている。
 上記暴露の結果として、EUの欧州原子力共同体の安全保障機関の査察官たちは、セラフィールドのプルトニウムが核兵器に転用されていないことを確証できないという点に危惧を抱いている。このような保障こそが、イラクやイラン、北朝鮮のような国々への核兵器拡散を抑止する国際的活動の核心であるからだ。
 英国が数百トンの単位で核物質の管理に失敗しているもとでは、他の国々にグラム単位で核物質を適正に管理せよと強要すること自体意味をなさなくなっているという批判がなされている。「核大国であるイギリスは、保障措置機関に対し無責任な対応を取ることが出来る」と、原子力コンサルタントの専門家デービッド・ローリー博士は断言した。
 アイルランドのレンスター地方選出の緑グループの欧州議会議員、ヌーラ・アハーンが、今回の暴露内容についてEUで問題提起を行った。「これは、アイルランドの多くの人々を怯えさせている、セラフィールドの深刻な不正管理の一例である」と彼女は述べた。
 公式にはB30、非公式には「汚れた30(dirty 30)」として有名なセラフィールドの貯蔵プールは、イギリスにおける軍事用及び民生用の第一世代の原子炉で燃やされたウラン燃料棒を取り出して貯蔵するために、1959年に作られた。
 プールの水は発熱している燃料を冷却し、さらにその強い放射線から労働者を守る役割を果たしていた。1970年代に燃料が腐食し始めた後に、この貯蔵プールは段階的に使用されなくなり、結局1992年に閉鎖された。しかし、その水中には膨大な核廃棄物が遺産として残されたままになっており、ゆっくりと周辺の大気や土壌に漏れ出している。
 BNFLの秘密報告書は、貯蔵プールの中に存在しているものを正確に把握するという点に関して、この企業がずっと抱えてきた大問題を暴露している。
 その報告書には次のように記されている。「その数字には大変な不確実性が伴っている。それは、腐食による減損、過去の間違い、さらには、その操業期間中に何回も運搬容器が倒れ、その内容物がプールの底にぶちまけられたという事実がもたらしている不確実性である。」
 「個々の燃料体要素もまた様々な再処理工程における失敗のためにここに集められたものである。プール水の透明度が低いうえスラッジが溜まっているために、こぼれ出ている燃料を回収したり目視検査を実施するのは困難である。」
 燃料棒は長い期間水中に置かれていたので、マグネシウム合金でできた被覆管のほとんどは腐食している。「ウランの腐食によって個々の燃料棒の重量は著しく減少しており、最も減少が進んだ場合では、いくつかの燃料棒は被覆管の金属よりもわずかに重いだけにまで痩せ細っている。」
 ウランに加え、相当な量のプルトニウムが、セシウムやストロンチウムのような放射性廃棄物とともに、そのプールに入っている。それらはすべて、民生目的でのみ利用されているという保障を与える立場の欧州原子力共同体により、厳重な保障措置のもとにおかれ、査察を受けなければならない。
 民生用核開発が核兵器製造のためのカムフラージュとして利用されているのではないかと疑われているイランや北朝鮮のような国々に対して、信頼性を実証することがその目的である。これは、核兵器の拡散を防止するため1970年に発効した、核拡散防止条約に記載されている取り決めの重要な要素である。
 しかし、リークされたBNFL報告書には次のように記されている。「B30の中に貯蔵されている核物質の総量をめぐる不確実性は、欧州原子力共同体の懸念材料である。この相違は早期に解消されなければならない。」
 1999年と記されたこの報告書には、全てのページに『BNFL限定』という文字が記されている。「本報告書には未公表であるB30プール内核燃料貯蔵量の相違に関する詳細事項や、商業上の機密情報も含まれているので、『BNFL限定』である。」と報告書中に明記されている。
 同報告書はまた、このプールに日本の東海村の原子炉からの使用済燃料が入っているという事実を暴露している。日本は、歴史的に、原子力発電と核兵器とを明確に区別することを強く望む国である。しかし、ローリーが主張するように、そのプール内の「暗黒の混合状態」のために「欧州原子力共同体には民生核物質と軍事核物質との分離を保障することは不可能」ということにならざるを得ない。
 核物質が国防目的に転用されているという証拠が存在していないことに欧州原子力共同体は満足しているとBNFLは主張している。「1988年に『戦略国防概観』(SDR)が出されて以後、防衛上以外の余剰核物質については保障措置をうけることになったため、実際のところここ数年で、保障措置のもとにある核物質の量は増加している」とこの企業のスポークスマンは述べた。
 しかし、ヨーロッパの保障措置に関する最新報告書において、欧州原子力共同体は、セラフィールドのプルトニウム貯蔵については「重大な検証問題」があると結論をづけている。「放射線防護や安全上の理由により、接近して活動することが困難であるため、実施すべき規定どおりの保障措置活動を全部行うことが出来なかった。しかしながら、格納及び監視システムによって現状維持はされていた」と報告書には記載されている。
 BNFLは、放射能がB30プールのコンクリート壁に入っている亀裂を通じてしみ出し、また、水面からは大気中に出ていることを認めた。しかし、そのレベルは非常に低く、「セラフィールドの敷地外に有意な影響はない」と主張している。
 この企業は、テロリストに情報が利用されることがないようにという名目で、B30の構造上の欠陥に関する詳細情報についてはどんなものであれ公表を拒否してきた。英国の前環境大臣マイケル・ミーチャーは、環境へのリスクを隠すために安全防護を理由に挙げることを非難していた。
 地元の環境保護者たちもまた同様にB30をめぐる諸問題に懸念を抱いてきた。「我々は建設後44年が経過するこの貯蔵プールについて、腐食して高い放射能を帯びたスラッジがごたまぜになった慢性的状態を大変憂慮している」と、環境の放射能汚染に反対するカンブリア人の会(CORE)の運動責任者マーティン・フォワードは語った。
 「一層深刻なのは、欧州原子力共同体の査察官が明らかにB30の中に何が入っているのかを正確には把握していないように思われることだ。したがって、プルトニウムやウランが核兵器に転用されたのか否かについて我々は決して知り得ないということになってしまう。」