英・BNFL社 新MOX工場に2つの打撃



 BNFL社の新MOX工場(SMP)は2001年12月に操業を開始したが、最大の顧客である日本からの受注の見とおしがたたない状況で、わずかな契約さえも破られる危機に直面している。
(1)SMPは現在、最初の契約分であるスイス向けMOXを製造している。しかし、製造の遅れが著しいため、BNFLが約束していたスイスへの今春の引き渡し期日は守れそうになく、2004年までスイスへの輸送は行われそうにないことが英・インディペンデント紙のBNFLへの取材で明かになった。
(2)ソープ再処理工場での再処理コストの値上げ要求に反対するため、ドイツの電力会社が再処理契約を破棄し、原発敷地内貯蔵をした方が安上がりであるとの計算をしていると、ニュークリア・フュエル誌(2/17)が報じた。SMPの受注台帳の約13%に相当するMOX製造契約をこの電力会社は結んでいる。もし、再処理契約が破棄されれば、MOX製造契約も破棄されることになる。




【翻訳資料】


セラフィールドの将来に対する二重の脅威
Double threat to future of Sellafield


2003年3月2日 インディペンデント紙
ジェフリー・リーン、ジェイソン・ニセ


 セラフィールドの新しい危機は、その将来に対する新たな脅威を有していると、日曜版インディペンデント紙は暴いている。その最新の、最も激しく論争を呼び起こしている2つの施設は、(ソープ再処理工場と新MOX工場SMPのこと)深刻なトラブルに見舞われており、大臣達は、セラフィールドの国家的理由を損なう2つの新しい原発の建設を計画している。
 不吉な二重の致命的な打撃の一つは、カンブリアの核燃施設を操業しているBNFLが、新工場でのプルトニウム燃料の最初の注文の完成が、少なくとも1年以上遅れることを認めたことである。つまりこれは、BNFLが以前に施設の生存可能性を危うくすると警告していた遅れである。
2つ目は、多くの批判をあびているソープ再処理工場の主要な顧客達が、BNFLによる値上げの企てに対する報復として、それをボイコットすると脅しをかけていることだ。
 この2つの危機は、セラフィールドの心臓部を直撃している。セラフィールドの役割は、イギリス国内と海外の原子力発電所から発生する高い放射能をおびた使用済核燃料を受け入れ、「再処理を行い」、再び原発で使用するためにプルトニウムとウランを抽出することである。
 問題は、前述のセラフィールドの役割に対する需要がないことにある。というのも、世界でプルトニウムとウランがだぶついているからだ。イギリスはすでにプルトニウムを大量に貯蔵しており、テロリスト達の潜在的な標的になっているという懸念が増加している。15ヶ月前にBNFLは、プルトニウムとウランの混合酸化物燃料(MOX燃料)を製造する新しい施設の操業を開始したが、それは高くつくので、会社は顧客を見つけることに苦労している。
 また一方で、再処理に要する費用がブリティッシュ・エナジー社の倒産の主因であり、そしてこの費用の問題は、原子力に終止符を打つことに手助けしている大臣達によって認められている。原子力は、先週公表されたエネルギー白書から削除された。そして、直近のこの事態が起こる前でさえ、再処理とMOX工場の経済性は不安定なものであった。BNFLは、イギリス国内の批判者達やアイルランド政府の批判を押し切って、この春までに終えなければならないスイスの原発用の最初の注文を完成させることに関する「明確な遅れ」は、その操業に「深刻な損害」を与えるだろうと主張することで、政府を説き伏せて、2001年12月にMOX工場の操業開始許可を得た。
 工場がフル操業するまでに予想以上に時間がかかっているため、2004年春の段階でもプルトニウム燃料の製造が完了しないことを、今ではBNFLも認めている。スイスの顧客は、不承不承この事態を受け入れているが、BNFLは以前から、このような遅延が「数千万ポンド」の価値のあるほかの注文に影響をあたえかねないと主張している。
 2つ目の危機は、ヨーロッパにおける再処理の最大の顧客であるドイツの原子力会社が、BNFLの値上げ要求に対し、再処理から撤退すると脅していることである。BNFLは、ソープ再処理工場の経済的困難を緩和するために、契約にコスト上昇の「変更」を要求している。BNFLは、これは「機密事項」であり、「マスコミを通じた交渉を行わない」と述べ、この危機について語ることを拒んでいる。
 現在、最終的には皮肉なことだが、大臣達は18億ポンドの費用をかけて、売れないMOX燃料を燃やすためにセラフィールドに2つの新しい原発を建設しようとしている。この計画は、増えつづけるプルトニウムの在庫をなくすため、「環境保護の見地」から正当化されることであろう。それは異常な事態である。まず使用済核燃料がセラフィールドの原子力コンビナートの一方の端から入れられ、再処理されてプルトニウムとウランが抽出される。それらの物質は、MOX工場で燃料となる。するとこの燃料が新しい原発で燃やされて再び使用済核燃料となり、サイクルが完成する。
環境への放射能汚染に反対するカンブリア人の会の活動責任者であるマーティン・フォワードは、昨日、次のように述べた。「これは長く続けられてきた茶番劇の最終幕だ。事業が破綻したため、セラフィールドは結局、納税者に何十億ポンドの犠牲を課して、まるでヘビが自分の尻尾を飲み込むような結末になっている。政府はもはやこれらすべてのばかばかしい事態に終止符を打ち、再処理を安楽死させ、英国をこの苦悩から解放させるべきだ。




【CORE訳】


セラフィールドMOX工場は契約危機にある
Sellafield MOX Plant in Contract Trouble


2003年3月2日 コア・プレスリリース


 セラフィールドMOX工場(SMP)は合意した受け渡し期日をもはや守ることができそうにないので、その最初のMOX燃料契約を破りそうになってきていることを、地元グループCORE(放射能環境に反対するカンブリア人の会)は、匿名の情報元から知らされていた。

 SMPの最初の契約が破られることは、顧客の信頼を壊す点において及び、すでに損失を生み出している工場に受注台帳からおよそ2000万ポンドを費やしている点において、BNFLにとって実に恥ずべきことになるだろう(@)。SMPを訴えたアイルランド政府に対して英国の立場を弁護した2001年11月のハンブルグ国際海洋法廷の前に、これらの行く末は、英国政府によって詳細に説明されていた。法廷は、最初の契約が破られるならば、SMPの2番目の契約もそして、3番目の契約も破られることになるとの説明を受けた。

 この契約が現実に危機にあるという見解を後押しするものが、日曜版ジャーナリストであるジェフリー・リーンのインディペンデント紙の記事に対するBNFLの確認において今日、次のように示された。MOX燃料の初輸送は2004年まで行われないだろう。これはBNFLが当初予想していたより1年遅れることになる。

 BNFLは、この不正なプルトニウム工場が初の商業試験に現在失敗している状況で、死に馬に鞭を打ちつづけている、とCOREのスポークスパーソンは今日話した。顧客達は彼らの他の契約がBNFLの手中にあって本当に守られるのかどうか、あるいは、彼らは彼らのビジネスを他に移すべきかどうか、迷っているにちがいない。

 もしも最初の発注が、実際のところ[訳注:契約が]失われないように都合よく「再調整」されたものだとすれば、BNFLと英国政府によって、公衆とハンブルグ法廷とに対して出されてきた、遅延は契約破棄をもたらす、とするあからさまな警告は、よく言っても根拠のないものであり、悪く言えばSMPの操業開始を急ぐための不誠実な策略だったということになる、とCOREのスポークスパーソンは指摘した。

 SMPの初めての契約MOX燃料の受け渡しは今春までに完了すると、昨年BNFLは約束していた。Nordostschweizerische Kraftwerke(NOK)社が運転しているスイスのベズナウ原発向けへの受け渡しはウォーキントン港を経て、非武装のBNFLの輸送船アトランティック・オスプレイ号によって輸送される予定だった。そして、今夏の6月及び7月中に年1回の停止時にベズナウ原発の炉心に装荷する予定だった。

 2001年12月にSMPが操業を開始して以来、SMPの処理状況が予期していたより遅いと、BNFLによって伝えられていた。2002年12月には、セラフィールド地域連絡委員会に、工場の処理は1バッチ分のMOX燃料ペレットの完成以降は進んでいなくて、さらに燃料棒への装荷と燃料集合体製造の段階が未だに行われていることが報告された。

 このMOXの窮地はSMPの運転への国際的な反対が正当であることを証明している、とCOREは話しつづけた。重要なことに、高まるテロリズムの恐怖にともない、少なくとももう1年、私達にプルトニウム海上輸送の全面中止の圧力をかけさせつづけようとしている。とりわけ、危なっかしいウォーキントン港を使用し、核兵器に転用可能な物質(B)の輸送船にとって最も基本的な安全性さえ欠如しているRORO船[訳注:船の前後のランプウエイからトラックやトレーラー、フォークリフトによって直接荷物を積み降ろしする船]、アトランティック・オスプレイ号を使用するBNFLの計画は中止されるにちがいない。

 セラフィールドのTHORP再処理工場で原子炉燃料を処理させるために海外顧客の契約にコスト上昇分を負わせようとするBNFLの企てに関する、BNFLと海外再処理顧客の間の深刻な対立を原子力産業雑誌ニュークリア・フエル誌が先週報じた際、SMPのさらなる失敗が浮上した。

 顧客達−ここにはたった9ヶ月前に、THORPから今後出る自社の全てのプルトニウムをSMPでMOX燃料に転換させることに合意した(C)ドイツ企業、E.ONエネルギー社を含む−は、もしBNFLがさらなるお金の支払いを要求するなら、転換のために燃料をセラフィールドに運ぶよりむしろ燃料を原発敷地内貯蔵にゆだねることになるだろうと脅しをかけている。この将来の契約の喪失はSMPの受注台帳にとってもう1つのより重要な失敗となるだろう。

編集者向けの覚書

(@)SMPの「実質黒字額(Net Positive Value)」は、2001年に政府によって、約1億9900万ポンドと評価された。この評価は、評価を押し下げる費用として扱われる工場の建設費4億7000万ポンドを無視していた。正確に取り込まれれば、建設費はSMPを2億7000万ポンドの損失生産工場にするだろう。

(A)2001年のSMPについての長期公衆協議の間、BNFLは繰り返し、工場の操業開始の延期は当初の契約金を彼等が費やしてしまうことになると圧力をかけた。この警告は、SMPに関するBNFLの経済ケースを評価した政府コンサルタント、アーサー・ディー・リトル社によってさらに発せられた。政府のSMP許可が延期されるだけではなく、工場の処理に問題が発生すれば、最初の契約が破られる重大な機会となると彼等は確認した。

(B)MOX燃料はプルトニウム核分裂成分のために、IAEAによって、厳重な警備と輸送のための安全性測定が要求されるカテゴリー1の物質として分類されている。アトランティック・オスプレイ号は、日本向けMOX輸送にBNFLが使った武装船とは異なり、非武装であり、一重の船体でエンジンは1つである。

(C)SMPにとってE.ON社の注文は工場の受注台帳の約13%に相当すると見積もられている。ドイツとスイスを除いて、スウェーデンは契約に締結した唯一の国である。