大規模な放射能漏れがソープ核工場を閉鎖する
Huge radioactive leak closes Thorp nuclear plant


ポール・ブラウン environment correspondent
ガーディアン 2005年5月9日(月)


http://www.guardian.co.uk/uk_news/story/0,,1479483,00.html



セラフィールド核施設、ここでソープ再処理工場は閉鎖された
Photograph: Christopher Furlong/Getty


濃縮硝酸に溶解された高レベル放射能の核燃料が、オリンピック・サイズ競泳プールの半分を満たすほども漏えいしたため、セラフィールドのソープ再処理工場は閉鎖に追い込まれた。

約20トンのウラン・プルトニウム燃料を含むひじょうに危険な混合物が、破断した配管から大きなステンレス製の室(セル)へ漏えいした。その室はひじょうに放射能が強いために入ることができない。

液体を回収し、配管を修理するのに数ヶ月かかるし、そのためには特別なロボットの製造が必要で、21億ポンドの工場を修理するために精巧な工学技術を考案する必要がある。

今回の漏えいは公衆に対する危険ではないが、納税者にとっては財政上の災難となりそうである。1日あたり100万ポンド以上になると見積もられていたソープ再処理工場からの収入が、不要になった核施設のクリーンアップ(洗浄除染)の費用に当てられることになっていたからである。

今回の閉鎖は原子力産業にとって、これ以上に悪いタイミングでやってくることはありそうにないほどだ。英国は、風力発電所で実のある建設計画をもっているものの、2010年までに温室効果ガス排出を1990年レベルで20%削減するという目標を達成するために奮闘している最中であり、他方では、英国のいくつかの石炭火力発電所の停止によって発電能力が影響を受けることにもなる。

新しい原子力発電所を建設するかどうかの判断は、トニー・ブレアが第3期のスタート時に直面している最も繊細な問題の中に入っている。

昨日リークされた原子力の選択肢についての閣僚向けの説明資料は、新原発の温室効果ガス削減への寄与については、環境食糧農業大臣であるマーガレット・ベケットからの反対のために、いまだ考慮されていないことを明らかにした。

原子力廃止措置機関(NDA)―4月1日に英国核燃料公社(BNFL)から工場の所有権を引き継いだ独立公共機関―は、事業1年目の今年、22億ポンドのクリーンアップ予算を組んでいるが、このうちの5億6000万ポンドは、ソープ再処理工場から入ると予定されていた。

NDAのスポークスマンであるリチャード・フリンは「もし同工場からの収入が間に合わなければ、クリーンアップ計画は明らかに遅れることになる」と述べた。

英国原子力グループ―NDAに代わってセラフィールド・サイトを運転するために設立された管理会社―は、金曜日に、政府の安全当局である原子力施設検査局(NII)と漏えい物の除去と配管修理の方法について話し合うために会合を持った。この会社は、作業の前に検査局の許可を得なければならない。

同施設での問題が最初に発覚したのは4月19日のことであり、それは硝酸に溶かした使用済み燃料の全量を、運転員が報告できなかった時のことであった。硝酸に溶かされた使用済み燃料は、計量のためにその施設を通じて流され、その後、一連の遠心分離機の中でウランとプルトニウム、そして放射性廃棄物に分離されることになっていた。同施設の内部を監視していた遠隔カメラがその漏えいを発見した。

ほとんどはウランだが、燃料には核爆弾20個を作るのに十分な約200kg(440lb)のプルトニウムが含まれており、核物質が悪者の手に渡るのを防ぐ目的の国際保障措置に従って、回収され、把握されなければならない。液体は吸い上げて、工場が修理されるまで貯蔵されなければならないが、その方法はまだ考案されていない。

この会社は、漏えいがどのように発生したか見つけるために調査委員会を設置した。NIIは独自の調査を開始し、現行の手順が法令に従っていなければ、起訴する権限を持つことになる。

ソープ再処理工場は、使用済み燃料から大量のウランとプルトニウムを取り出したが、これまでそのうちのわずかしか、原子炉燃料として再利用されていない。また、12年前に操業を開始して以来、設計能力どおりに操業されたことは一度もなく、契約履行に関するスケジュールが数年遅れているために、同工場は非経済的だと批評家たちは主張している。

このことは、いくつかの顧客を怒らせ、英国原子力グループは、顧客のうちの1つであるドイツのブロックドルフ原発の所有会社との訴訟に巻き込まれている。同社は、使用済み燃料は数年前に再処理されるべきだったものだと主張し、1日あたり2,772ポンドの使用済み燃料貯蔵代金の支払いを保留している。

ソープ再処理工場は最初の10年間の目標7,000トンに対し、12年間で5,644トンの燃料を再処理した。昨年は590トンしか再処理できず、725トンの目標が達成できなかった。

環境の放射能汚染に反対するカンブリア人の会(CORE)のマーティン・フォワードは、NDAはソープから業績が上がるとして、「馬鹿正直に」ソープ再処理工場からの収入に信頼を置いてきたと述べた。「再処理は、NDAの公的なクリーンアップ事業とは、あまりにも明らかに矛盾している。NDAは、最近のソープ再処理工場の事故の結果として、損をすることに気づくだろう。新しい所有者は、ソープ再処理工場を窮状から救い、きっぱりと閉鎖することで、納税者に対して最大のサービスを提供することになる」と述べた。

ソープ再処理工場の閉鎖を命じたセラフィールドの英国原子力グループの常務取締役バリー・スネルソンは、「同工場の安全は確保されており、安定状態にあることを人々に保証させてください」と述べた。


訳者注
・漏えい量は、硝酸溶液で83立方メートル。その中に含まれている使用済み燃料(ウランとプルトニウム)は約20トン。さらにその中のプルトニウムは約200キログラムである。
・室(セル)の大きさは、長さ60m、幅20m、高さ20m。コンクリートの厚さは2〜3m。
(以上は「ニュー・サイエンティスト」記事「Nuclear plant closed after radioactive flood」2005.5.9による)

(5/14 翻訳一部改訂)