ソープ再処理工場漏えい事故 最新情報
THORP Leak Update

CORE ブリーフイング 2005年5月13日


http://www.corecumbria.co.uk/newsapp/pressreleases/pressmain.asp?StrNewsID=212

[CORE:環境の放射能汚染に反対するカンブリア人の会]


ソープ再処理工場の前処理施設において、使用済み核燃料の溶解液が配管から漏えいする事故が最初に見つかったのは4月18日のことであった。それは、せん断し、硝酸に溶かした分量の燃料が、次の工程である供給清澄セル内の計量タンクに「到達」していなかったことを運転員がはっきりと認識するに至った後のことであった。ソープの前処理施設の一部分であるこのセルは、長さが60メートル、幅は20メートルであり、部分的には20メートルの高さを持っている。事故の発覚にともなって、即刻、燃料の全てのせん断と溶解作業は中断され、前処理施設は操業を停止した。

4月19日に行われた遠隔カメラによる放射能レベルが高いセル内の調査によって、2つある計量タンクのうち、そのひとつの頭部につながっている供給配管に生じた「完全な破断」と表現されているような破損箇所から、硝酸溶液が漏れ出てしまっていることが明らかになった。通常運転下では、これらの計量タンクにおいて硝酸溶液の量が見積もられる手順になっており、次いで、溶液中の核分裂性成分の量が計量される。破損した配管から硝酸溶液が漏れ出た際に、それが計量タンクに隣接する鋼鉄製の枠組みに降り注ぎ、その鋼鉄製枠組みの一部が溶けてしまったことも今では明らかになっている。そして、この溶けた鉄成分もまたセルの床に溜まった83立方メートルの硝酸溶液に含まれている。鋼鉄製枠組みの溶け残り、すなわち、セル本来の構造物の残骸をどのように処理するのかについての検討は現在進められている、とCOREには伝えられている。その溶けた枠組みは、計量タンクにとって必要不可欠な部分ではないし、また、計量タンクの精密な重量計測機構の一部でもないと理解されている。

事故の詳細がより明らかになるにつれて、今回の漏えい事故の深刻さは、ソープ再処理工場の運転が遅れるという観点からも、そして、原子力廃止措置機関(NDA)の収益の喪失という観点からも、一層明瞭なものになっている。さしあたっては、漏れた83立方メートルの硝酸溶液はセルの内部に溜まっているので、その施設の外部の安全については大きな問題にはなっていない。詳細な評価はまだ完全には与えられていないが、原子力施設検査局(NII)は、臨界事故の可能性は完全に排除できるとCOREに伝えてきている。BNFLは、「その核燃料物質は、臨界を生ずるには富化度が低すぎると、はっきりと確認することができる」と述べている。

信頼できる情報筋からCOREに寄せられたところによると、漏れ出た硝酸溶液には、ドイツのウンテルヴェーザー加圧水型原子力発電所(PWR)から取り出された核燃料の溶解した22トン分が含まれているという。現在、ウンテルヴェーザー原発は、巨大企業イーオン社[E.oN company]が所有するが、同社はソープ工場とおよそ225トンの燃料の再処理契約を交わしており、その最後の再処理は2001年に行われることになっていた。今日になってようやく再処理が行われたということは、1994年の運転開始以来のソープ再処理工場における度重なる事故と機能不全とによって、ソープの運転計画が著しく変更され、遅れることを英国原子力グループ(BNG、以前のBNFL)が余儀なくされてきていたことをはっきりと示すものである。ウンテルヴェーザー原発は、セラフィールドの呪われたMOX工場からMOX燃料を受け入れる契約をイーオン社が2002年に結んだドイツの原発のひとつであることは、ほぼ間違いない。

明るみに出た1995年のNACインターナショナル社の報告書「世界の再処理概要」に出ているBNFLからのデータによれば、2001年にソープ工場に投入されるはずであったウンテルヴェーザー原発の使用済み燃料の最後のバッチは、初期富化度は3.43%であり平均燃焼度は37,376MWd/MTUであった。そのNAC社報告書によれば、この燃料を22トン再処理すると、全体で196kgのプルトニウムが回収され、そのうちの132kgが核分裂性プルトニウムであるということになる。BNGは、漏れ出た硝酸溶液に含まれている核燃料の発生国の特定をいまだに拒んでおり、BNGは「その物質にはおよそ20トンのウランが溶解しており、そして160kgのプルトニウムが極めて希薄な状態で溶けている」と述べているだけである。

セル床面からの漏えいした燃料物質・硝酸・溶解した鋼鉄の除去については、まだ何も始まっていない。セル床面の集水坑を通じてこれらの抜き取りが実施されるだろうという当初の予測とは異なり、硝酸溶液はセル内部の「一時保管」タンクに床から直接ポンプで汲み上げられるだろう。これらのポンプと容器とはセルに元々付属している設備である。硝酸溶液は、「一時保管」タンクから遠心分離機を通じて未溶解の固形物を除去して清澄するシステムまでいったん戻され、その後、計量タンクに移送されることになる。

全面的復旧のための戦略は、個々のプロジェクトに分割されていくだろう。これらの最初のものとして、硝酸溶液をセル床面からポンプで吸い上げる計画が、来週にもBNGからNIIに提示されるだろう。おそらくは数ヶ月後になると見られる最後のプロジェクトでは、破損配管が修理可能か否か、あるいは修理する価値があるか否か、そして、(事故には巻き込まれていない)2つ目の計量タンクから出ている配管の安全性については、再稼働した場合の運転において信頼がおけるのか否か、の評価が行われることになるだろう。計量タンクが1台でもソープ工場を運転することは可能であったとしても、そうなれば、使用済み燃料の処理量を著しく減少させる必要がでてくる。

セル床面から漏えい硝酸溶液を回収したり、(可能であれば)破損した配管を修理するのに見込まれる時間は、公式には詳しいことは何も発表されていないが、BNGは数ヶ月を要する作業であるとしてきている。4月末のマスコミに対する記者会見では、「我々には技術的な経験と能力とがあるので、この状態から復旧させ、工場を再び稼働させることができると固く信じている」とBNGは述べた。

漏えいが見つかった4月19日の後も、ソープ工場の化学分離施設は5月3日まで稼働を続けた(硝酸溶液は最終的に同施設に供給され、高レベル廃棄物とプルトニウムやウランが分離される)。この時までに、そして漏れた硝酸溶液を回収するBNGの戦略の一部として、事故当時に供給清澄セル内の計量タンクや調整槽にあった硝酸溶液の全量を保管するために、化学分離施設内のタンクの十分な容量が利用できるようにされた。この貯蔵供給分が処理されてしまうと、化学分離施設もまた停止してしまう。

従来は、ソープ工場を1日運転停止するコストは少なくとも100万ポンドであるとされてきていた。したがって、数カ月の運転停止は、今の会計年度にソープ工場から得られると見込まれていた収益に対して著しい打撃を与えることになる。今年度に約5億6000万ポンドを見込まれていたソープの収益は、セラフィールドでさし迫って必要となっているクリーンナップ作業のコストの埋め合わせに使われることになっていた。そのコストは年間20億ポンド以上であると見積もられている。この作業は原子力廃止措置機関(NDA)によって行われることになっている。同機関は英国貿易産業省の一機関であったところのものであり、同省は現在では生産エネルギー産業省と改名された。

2005年4月1日にNDAはセラフィールド・サイトとその全ての商業運転についての所有権を獲得し、その際にソープ工場は資産として分類された。ソープ工場での事故後、NDAのスポークスマンは、「同工場からの収益が用意されないとすれば、そのときは当然、クリーンナップ諸計画を遅らせるしかない」と述べた。さらに詳しい声明において、新しい機構(NDA)は、「NDAは今回の事故は、セラフィールドの許認可に関する計画と契約とに打撃を与え得る重大な事象であると認識している」と述べている。NDAはソープ工場の最初の操業契約者(3年間)としてBNGに委託している。その契約者が安全なあるいは目標通りの操業に失敗すれば、NDAが3年後にはその契約からBNGを排除することが示唆されている。

グリーンピースや他のNGOとの今週の会合において、NDAはプラント所有者として、漏えい事故の補修や復旧のためのコストを支払わなければならなくなることを認めた。クリーンナップ・プログラムを予定通りに実施するためには、NDAは生産エネルギー産業省に働きかけることになるだろう、そして遂には、ソープ再処理工場からの収益が低下した結果NDAが直面することになる不足額を納税者が支払う税金で埋め合わすべく、英国大蔵省に働きかけることになるだろう。このようなやり方でソープ工場をNDAが救済することは「国庫補助」ではないのかとの疑問の声が既に上がっている。

解説:
1.前処理溶解槽より。硝酸に溶かした燃料が、燃料供給清澄セルに移送された。 
2.燃料の溶解溶液が遠心分離供給タンクで保管される。
3.清澄工程の最初の段階で、硝酸溶液は遠心分離機を通り、そこで未溶解の固形廃棄物を除去する。
4.計量タンク(2つのうちの1つ)。攪拌後、清澄溶液は計量のために検査を受けるが、その中には核分裂性物質も含まれている。
5.清澄され計量を受けた硝酸溶液を保管する調整槽(3つのうちの1つ)。
6.核分裂生成物からウランとプルトニウムを分離するソープ工場の化学分離施設へ。
CORE Briefing 8/05, 13th May 2005


[訳注]
原子力廃止措置機関(NDA:Nuclear Decommissioning Authority)は、今年4月1日に設立された省庁から独立した公的機関。NDAは、BNFLとUKAEA(英国原子力公社)の所有する諸施設を引き継ぎ、マグノックス炉の廃炉や除染(clean-upクリーンナップ)等に関する法的・財政的責任を負う。NDAは、ソープ再処理工場からの収益を、これら施設のクリーンナップの費用にあてることを想定している。
・ソープの建設費         約21億ポンド(約4140億円)
・ソープの1日の収益       約100万ポンド(約2億円)
・ソープの今年度の収益見込み 約5億6000万ポンド(約1100億円)
・NDAの今年度の諸施設のクリーンナップ費用 約22億ポンド(約4340億円)
[為替レートは現在のもので、1ポンドを197円で換算]