裁判傍聴報告
東海村臨界被ばく事故裁判 第19回法廷 12月20日
JCOは中性子線フィッティングカーブの過小評価に反論できず


 12月20日、水戸地裁で東海村臨界被ばく事故裁判の第19回法廷が開かれた。今回の法廷では、山内知也証人(神戸大学海事科学部教授)が原告側証人として証言台に立った。証人調べは午前10時30分から正午すぎまで行われた(主尋問45分・反対尋問45分)。
 まず原告側の伊東良徳弁護士が主尋問を行った。主尋問の中で山内氏は、旧科学技術庁の被曝線量の計算には重大な過小評価があることを証言した。JCO事故の後、国は様々な手段を使って被ばく線量を過小評価した。その1つが19地点での中性子線量測定値から最小自乗法(ある種の平均値)でフィッティングカーブを求め、それを基に住民の被ばく線量を推定するというものだった。これに対して山内証人は、「そもそも報告されている中性子線の測定データがあまりにも少ない」と指摘した上で、次の3つの問題点があると主張した。
[1]旧科技庁が採用した19地点以外のデータもプロットしてみると、線量評価式(フィッティングカーブ)よりも大きな値を示している実測データが多く存在する。これは測定点毎に遮蔽の状況が異なり、その効果によって実測値がばらついているためである。旧科技庁の線量計算は、これらの実測値を包絡していないという点で過小評価となっている。安全側に立ってすべての実測値を包絡するようなカーブを用いるべきである。
[2]中性子線の線質係数として国際的に常識となっていた20という値を使わずに、当時国内法令に取り入れていなかったという理由だけで10という不当に小さい係数を用いている。
[3]行動調査は30分刻みという大雑把なもので結果的に被ばく線量が過小評価されている。
 さらに山内証人は、中性子線の低線量被ばくの人体影響(生物学的効果比)が、従来考えられてきたものよりも大きいことを佐々木正夫氏ら、最近の研究が明らかにしつつあると証言した。
 対してJCO側は、内容的には一切踏み込んで来なかった。すべての実測値を包絡するようなカーブを使って線量を計算すべきという山内証人の主張に対して、正面切って「誤っている」と反論することができなかったのである。これが今回の最大の成果であった。
 かわりにJCOは、「証人が論じている線質係数は確率的影響に関するものだが、原告の皮膚症状の悪化は確定的影響によるものではないのか」「確定的影響の線質係数はICRPによれば10より大幅に低いではないか」という2点を手を変え品を変え執拗に繰り返してきた。
 しかし山内証人は、「健康状態にない皮膚に中性子線を浴びせた場合の影響については事例研究やデータなどない。その上、今回の事故では中性子の測定データも少なくエネルギースペクトルさえ明らかになっていない。具体的な形で生物効果比を論じることはできず、むしろ、実際に悪化したという臨床的結果を重視すべきだ」と毅然と述べ、JCO側を寄せ付けなかった。
 健康被害の実態から線量評価と中性子線の人体影響まで、原告側の証人を立てた立証は山内氏をもって全て終了した。次回法廷(3月7日)では、原告の陳述書が提出され、本人尋問の採否が決められる。(H)

(参加者の感想)
 山内証人は実際の測定地点のいくつかを回り、測定値にばらつきが出るのは遮蔽効果の大小のためだと直感した。そこで最も高い一点を通る包絡線こそを基礎にするべきだとした。その後明らかになったデータは証人の考えを裏付けるものだった。
 原告の大泉夫妻が、住民の被ばく被害を何としても公に認めさせたいと始めた裁判。本人尋問を除く証人尋問は今のところ今回が最後となる。原告の執念と証人の信念…今回の尋問はそれが見事に結び付いたと感じた。(J)