だ ま さ れ て は い け な い
科技庁によるゴマカシと被ばくの過少評価を許すな


 去る11月4日、科技庁事故調査対策本部は、「(株)ジェー・シー・オー東海事業所の事故の状況と周辺環境への影響」と題する資料を公表しました。これによると今回の臨界事故では2.5x1018個のウランが核分裂を起こしたものとされています。彼らはこれに基づいて周辺の被ばく量も評価していますが、そこには過少評価とゴマカシがあります。みなさんだまされてはいけません。

「実効線量当量」では中性子の危険性が過少評価される

 科技庁は、「臨界継続時の周辺環境に達する中性子線量及びガンマー線の線量」に関して「理論的な基礎資料」を公表しました。それは「ある人が表に示された距離に事故発生時から示された時刻まで屋外に滞在した場合の線量を示し」たものです。更に彼らは「理論的な基礎資料」は、「安全側にたって条件設定」したことや「遮へいによる線量減少」によって、「実際に個人が受けた線量よりも高めに評価される」と述べています。


表 科技庁が示した「実効線量当量」とここで新たに評価した「実効線量」
(単位;ミリシーベルト mSv)
時刻 9月30日 16:00 10月1日 06:15
距離(m) 実効線量当量 実効線量 実効線量当量 実効線量
80 110 202 160 294
100 62 114 90 165
150 21 38.4 31 56.8
200 9.3 17 13 23.7
300 2.5 4.55 3.6 6.55
350 1.4 2.54 2.1 3.82
500 0.34 0.616 0.49 0.888
1000 0.0076 0.0137 0.011 0.0198
1500 0.00031 0.000554 0.00045 0.000805
安全委員会事故調査委員会資料に基づいて作成

 ここには大きな問題が隠されています。彼らは被ばく線量を「実効線量当量」で表しているのです。ところが、この「量」を使うと、現在の知見に照らせば、中性子の危険性が過少に評価されてしまうのです。我々は、少なくとも、現在法令への取り入れ作業が進んでいる「実効線量」で被ばく量を表すべきであると考ます。「実効線量」では中性子の危険性が「実効線量当量」でのそれよりも2倍危険であるとして計算されます。今回の東海JCO臨界事故の大きな特徴は、大量の中性子が漏れ出たことであり、住民と作業員とがこうむった被ばくはもっぱら中性子によるものです。過去に例を見ない中性子被ばく事故だったのです。つとめて中性子の影響をより正確に評価するべきなのは当然です。

  350mで約4ミリシーベルトの被ばく、
        480mで1ミリシーベルトの被ばく


 科技庁の「理論的な基礎資料」によれば、臨界が終息するまでに、東海村からの避難要請のあった境界である350mでは2.1ミリシーベルトの被ばくがあり、公衆の被ばく限度である1ミリシーベルトの被ばくがあったのは約420メートルの距離であったことになります。しかし「実効線量」で評価すれば350mでは約2倍の3.82ミリシーベルトの被ばくがあり、1ミリシーベルトの被ばくがあった距離もおよそ480mまで拡大します。東海村や茨城県、そして国は、350m内の住民だけでなく、せめて500m圏内の住民やそこで働いていた人達の懇切な健康調査と長期の健康管理計画の立案と実施に取り組むべきです。
 また「理論的な基礎資料」では、80mの距離での最大被ばく線量は160ミリシーベルトとされています。しかし「実効線量」では最大で294ミリシーベルトにも達します。急性障害が現れても不思議でないような高い被ばく量です。隣接の会社の従業員は自覚症状を訴えています。しかし東海村や茨城県、そして国もそれにまともにとりあおうとはしていない。これは到底許されないことです。彼らの訴えには十分な根拠があります。それを根拠のないものとして切り捨てるのではなく適切な医療と健康管理上の保護を行うべきです。
 事故後、「健康調査」と称して電力会社の社員らがサーベイメータで住民の方々の調べていましたが、あれでは被ばくの有無は分かりません(表面の汚染の有無だけです)。まして彼らは医者でも看護婦でもなく健康調査などやれる立場の人間ではありません。科技庁は正確な被ばく評価の出来ないことを事実上白状しています。住民の皆さんは、当日の自分や家族の動きを記録し気になることはすべてメモとして残しておくのが現在最低限必要なことだと考えます。
 
        低線量の被ばくは過少評価されている
 
 科技庁が用いる「実効線量当量」はICRP(国際放射線防護委員会)の1977年勧告に基づくものです。従来の方式と比べて、計算によってより小さい被ばく線量が与えられるため良心的な科学者らによる反対運動がありましたが、彼らはそれを押し切って法令に取り入れました。ところが、一方では80年代に入って広島と長崎に投下された原爆の被ばく線量見直しがはじまり、従来考えられていた以上に中性子が危険であることが確認されたのです(ICRP自身が、1985年にそれを訴える声明を出したほどです)。1990年勧告はこの線量見直しと被爆者の死亡率の増加を受けて出されたものであり、被ばく線量として新たに「実効線量」を導入しています。実際、被ばく限度についても77年勧告よりも低い値を勧告しています(公衆は同じ年間1ミリシーベルト)。日本政府自身も現在この90年勧告を受け入れる準備を進めています。
 しかし多くの研究者はこの90年勧告でも十分安全であるとは考えていません。米国科学アカデミーは90年勧告の1.6倍、国連放射線影響委員会は0.8〜2.2倍、放射線影響研究所も3.4倍、京大原子炉実験所の今中先生は1.2〜4倍、J.W.ゴフマン博士は8倍高いリスクを予想しています。この間の歴史的経緯の示すところでは、研究が進むにつれて放射線がより危険であることが次々と判明しています。まして中性子は、ここでも述べたように、最近になって危険性の認識が変わる程であり、比較的被ばく影響の研究が進んでいない放射線と言えるのです。

       科技庁のゴマカシを許すな

 科技庁の事故調査対策本部は「がんの増加に代表される確率的影響も、一般的には実効線量で約200ミリシーベルト以上の線量でのみ現れる」などという無茶苦茶なことを言っています。約200ミリシーベルトというのはそれ以下ではガンや白血病の起こらない被ばく線量ということではなくて、広島と長崎の疫学データにおいて「95%レベルで統計的に有意なガンの過剰が見られる」被ばく線量のことです。数十から数ミリシーベルトでも発ガンの確率は増加します(しかしこのレベルでは線量が高いほど発ガンの確率が高くなるという関係ははっきりさせるのが難しいということです)。実際そうであるがためにICRPは被ばく線量の評価体系を作り、被ばく限度を決めているのです。このような科技庁のゴマカシに絶対にだまされてはなりません。 これまで以上に厳しい目で彼らの事故調査を監視しましよう。 
                                       (Ym,1999.11.20.)
     (科技庁の報告書全体の批判については、現在準備中です)
 



JCO周辺の被ばく線量地図(JPEG、194K)



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