福島第一原発1号機の定検作業で
アルファ核種を吸入し内部被ばくした可能性
に関する調査要請書





経済産業大臣 平沼赳夫 様

 福島第一原発1号機では、運転開始当初からプルトニウムなどのアルファ核種が放出されていた可能性が高く、定検作業の中で作業者がマスクをしないままアルファ核種を吸入していた可能性の高いことが、下記のような事実によって浮上してきました。プルトニウムなどのアルファ核種が、作業者の呼吸によって肺に入り、骨などに沈着して、アルファ線による内部被ばくがいまも続いている可能性があります。ところが、政府の被ばく統計では、この可能性を無視し、内部被ばくはないものとして処理されています。

(1)東京電力が作成した、1978年9月からの1・2号機排気筒でのアルファ核種空気中濃度の測定資料によれば、アルファ濃度は1978年10月に許容濃度の5倍を記録するなど高い値を示しています。さらに、東電自身がその資料の中の説明文で認めているように、ヨウ素131の放出状況と比較すれば、ほぼ1971年(昭和56年)の運転開始時から排気筒でのアルファ核種濃度は相当に高いレベルにあったことが推測されます。
 この排気筒は1・2号機の共用ですが、アルファ核種は1号機から来ているものと東電の資料では推定しています。排気筒には1号機のさまざまな場所からの空気が集まり、しかも汚染されていない2号機の空気とも混ざります。そのように平均化された結果でも、許容濃度を超えるほどの高い値を示しているということは、1号機の原子炉建屋や格納容器内など管理区域の中に、アルファ濃度のきわめて高い個所があったことを十分予測させるものです。

(2)1978年(昭和53年)9月からの第6回定検時に測定されたアルファ核種空気中濃度のデータによれば、原子炉建屋の1階の大物搬入口(機器搬入口)前付近で、アルファ濃度は許容濃度の数倍から数百倍程度の値を示しています。ここは作業者の待機場所にもなっていたところであり、もしここで作業者がマスクをしていなければ、相当に高濃度のアルファ核種を吸入していたことになります。

(3)当時のマスク着用基準はガンマ線のレベルで決められています。したがって、ガイガーカウンタによる測定でマスク着用基準以下だと判断された場合、一般にはマスクは着用されなかったと考えるべきです。そして当時の原子炉建屋1階・大物搬入口前の測定データでは、ガンマ核種濃度はマスク着用基準を下回りながら、同じ場所でアルファ濃度は許容濃度の数倍から数十倍になっている場合が高い頻度で起こっています。このような場合、そこで待機している作業者は、マスクを着けず、高レベルのアルファ核種を吸入していたと考えるべきです。

(4) 第6回定検当時にこの原発で働いていた人は、大物搬入口前を含む原子炉建屋1階では通常マスクなどしていなかったと語っています。それどころか、そのような場所にアルファ核種が存在していたことさえも、まったく知らされていなかったと語っています。
 原子炉建屋1階には、高度に汚染されていた格納容器内などで働いてきた作業者の防護服などを脱ぐコーナーが設けられていました。そこでは、防護服や靴などに付着して来たアルファ核種が空気中に飛び散った可能性があります。また、大物搬入口にはトラックが着けられ、格納容器内などの汚染された場所から運ばれてきたドラム缶などが積み込まれます。さらに、第6回定検時には原則に反して格納容器内が正圧(外側の原子炉建屋よりも高圧)になったことも、原子炉建屋全体を汚染する一因になったと考えられます。

(5)以上によって、原子炉建屋1階では、通常はマスクをしていないのに、アルファ核種が高濃度で存在していたため、そこに居た作業者のほとんどすべてがアルファ核種を吸い込んだことは否定しようがありません。このような深刻な実態が、これまで20年間以上も闇の中に隠されてきたのです。そして今回の内部告発によってようやくこの問題が、初めて具体的な測定データを伴って明るみに出されてきたのです。

(6)しかし、東電はその汚染の実態を示す資料を持ちながら、公表することを頑なに拒んでいます。「マスクを着用していたから何も問題はない、資料を公開する必要もない」と言い張っています。しかしその姿勢は第一に、マスク以前の問題として、アルファ核種までが高濃度で存在するようなひどい労働環境にあったこと、それ自体を無視するものです。このような実態をこれまで長年にわたって隠し、多くの労働者を被ばくさせてきたことの責任を回避しようとするものです。第二に、実際には高濃度のアルファ核種が存在する場で、作業者はマスクをしていなかったという事実が、実際に当時そこで働いていた人によって語られているのです。
 それとも東電は、原子炉建屋の大物搬入口前でも作業者はずっとマスクをしていたというのでしょうか。また、その1階フロアでは誰もマスクや防護服を脱がなかったというのでしょうか(もしそこで防護服を脱がなかったとすれば、さらに外の場所がアルファ核種で汚染されたことになります)。建屋1階フロアにアルファ核種が存在することを認めれば、作業形態自体が成り立たなくなるため、東電はアルファ核種の存在を知らせることもなく、黙って被ばくするがままに放置してきたのではないでしょうか。   

(7)さらに、なぜ容易に出るはずのないアルファ核種が長年にわたって放出されてきたのか、特に第6回定検のあった1978年に多量に放出されたのか、その原因については何も明らかにされていません。第6回定検時には、6本の燃料棒に長さ10cm以上のひび割れが入ったことが確認されていますが、その実態を示す資料を公開することさえ東電は拒んでいるのです。

 以上の判断を踏まえて、私たちは貴職に対し次の点を要請します。
1. 福島第一原発1号機の放射能汚染の実態について詳細に調査し、その資料を公開すること。各アルファ核種の割合を明らかにすること。特に原子炉建屋1階での、アルファ核種濃度の実態を調査し、作業者の内部被ばくについて評価すること。
2. なぜ容易に出るはずのないアルファ核種が燃料ペレットから大量に放出されたのか、その実態と原因について詳細に調査し、その資料を公開すること。
3. 福島第一原発1号機で働いたことのある人すべてについて、被ばくの状態、その後の健康診断の経過と結果及び健康状態に関し、当人の意思を尊重しながら調査を行い、健康被害について補償措置をとること。
4. このような内部被ばくを長年にわたって放置し、隠したままにしてきたことに対して、東電の責任を明らかにし、関係者に謝罪すること。
5. 少なくとも排気筒からのアルファ核種の放出状態については、1982年(昭和57年)から政府に報告していると東電は述べている。貴職はこのようなアルファ核種の放出原因と汚染状態についてどのように認識していたのかを明らかにすること。東電の定検報告書を公開すること。このような被ばくを放置した貴職の責任を明らかにすること。被ばく統計について内部被ばくを含むように評価し直すこと。


2002年12月9日

いわきに風を   脱原発福島ネットワーク   福島原発30キロ圏ひとの会
原発反対刈羽村を守る会   プルサーマルを考える柏崎刈羽市民ネットワーク
みどりと反プルサーマル新潟県連絡会
グリーンピース・ジャパン  原子力資料情報室  原水爆禁止日本国民会議
ストップ・ザ・もんじゅ東京  東京電力と共に脱原発をめざす会  福島老朽原発を考える会
グリーン・アクション
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会
  大阪市北区西天満4−3−3 星光ビル1階 TEL 06-6367-6580 FAX 06-6367-6581



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