2002年12月20日の交渉を踏まえた
福島第一原発1号機のアルファ汚染・被ばくに関する
質  問  書



経済産業大臣 平沼赳夫様
                                                        2003年2月25日

(回答は青字)
2002年12月20日の交渉を踏まえた福島第一原発1号機の
アルファ汚染・被ばくに関する質問書に対する回答
                                                       平成15年3月18日
                                                       原子力安全・保安院


 昨年12月20日、福島第一原発1号機のアルファ汚染・被ばく問題に関して、貴省と交渉を行いました。その中での確認事項などを含めて、質問いたします。3月11日までに、文書で御回答願います。

1.東電からの聞き取り調査の内容に関する資料提出について
貴省は福島第一原発1号機のアルファ汚染・被ばく問題に関して、昨年12月2日から、3回にわたり東京電力に対して聞き取りを行い、その際、東電から文書資料を受けとって旨を述べられました。交渉当日にも確認したよう、この3回にわたる聞き取り調査の日時・内容と、東電資料を提出してください。

 平成14年10月24日に、東京電力に新聞報道内容(10月24日)について確認を求め、東京電力から、現在調査中との説明を受けました。
 また、平成14年10月28日には、東京電力に新聞報道にあった内部文書、当時の社内規定及び排気筒からの放射線放出管理記録について説明を求め、これらについての説明を受けました。
 東京電力から提出を受けた資料には、今回提出させていただくもののほか、放射性気体廃棄物の管理に関する当時の社内規定がありますが、これについては開示の可否について検討中です。

2.燃料棒ひび割れ事故の報告書提出について
1978年第6回定期検査時に発表された燃料体6体のひび割れに関しては、国への報告がなされています。その報告書を公開してください。

 平成14年12月20日付の資料要求を受けて既に提出しておりますが、再度、報告書を添付します。

3.12月4日付、保安院発表文書に関して
12月4日に保安院が発表した「申告に関する見解」の中では、調査対象範囲を79〜83年とした上で、「当時、東京電力から資源エネ庁に対しなされた報告には、アルファ核種についての放出実績は含まれていない」と記載されています。しかし、交渉当日も貴省の職員は「東電の文書には82年から報告したと書いてあった」と述べられました。また、東電は、私達の質問に対しても、「82年から国に報告している」と回答しています。そうすると、上記12月4日付保安院文書は、虚偽となります。
(1)アルファ核種の放出について、東電から報告を受けたのは何年からですか。

 東京電力からの毎年度の国への報告においては、放射性気体廃棄物の放出量を、全希ガス、放射性よう素(131I)、全粒子状物質及びトリチウムに分類して、報告されています。アルファ核種の放出量については、全粒子状物質の放出量の内数とされており、アルファ核種のみを区分した形での放出量の報告は受けていません。

(2)12月4日付保安院文書の訂正と、なぜそのような虚偽が記載されたのかについて釈明してください。

 1982年以降の東京電力からの毎年度の国への報告においては、「3.(1)について」のとおり、アルファ核種の放出量が全粒子状物質の放出量の内数として報告されており、アルファ核種のみを区分した形での放出量は報告されていなかったことから、平成14年12月4日付けの原子力安全・保安院の発表文書においては「当時、東京電力(株)から資源エネルギー庁に対し、アルファ核種についての放出実績は報告されていない」としたものであり、ご指摘のような「虚偽」にはあたらないと考えます。

4.「1万倍放出されなければ法令上も安全上も問題なし」について
79年当時排気筒から放出されたアルファ核種濃度(管理区域の許容濃度の1.5倍)は、敷地境界での濃度を計算すると、敷地境界許容濃度の1万分の1であり、法令上も安全上も問題はないとの回答でした。
(1)この「1万分の1」の算出にあたっては、敷地境界での「地表面濃度」を採用したと述べられました。「地表面」の濃度を採用するということは、法令・告示などのどこに指定されているのですか。

 実用発電用原子炉の安全審査に当たって用いられる原子力安全委員会の「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針(気象指針)」では、敷地境界外における放射性物質の地表空気中濃度を計算することとされています。
 お尋ねの濃度は、福島第一原子力発電所原子炉設置許可申請書に記載された放射性よう素(131I)の放出率と「気象指針」に基づき計算された地表空気中濃度との比率を用いて、1979年度に測定されたアルファ核種の1週間の平均濃度の最大値で1年間にわたって放出され続けたと仮定して、敷地境界外におけるアルファ核種の地表空気中濃度を推定したものです。

(2)「1万倍放出されなければ、法令上違反にはならない。1万倍放出できる」とも回答されましたが、これは正式見解ですか。

 先日の回答では、1979年度に排気筒で計測されたアルファ核種の1週間の平均濃度の最大値が1年間継続したと仮定して評価した場合であっても、周辺監視区域外における地表空気中濃度は、線量告示で定める周辺監視区域外の空気中の濃度限度の1万分の1程度であり、十分に低いことを説明したものです。
 なお、周辺監視区域外の空気中の濃度限度が守られたとしても、放射線業務従事者の呼吸する空気中の放射性物質の濃度限度等が守られていなければ、法令違反となります。

(3)排気筒から1万倍のアルファ核種が放出されるためには、単純に、建屋内のアルファ濃度も1万倍ということになります。建屋内が1万倍汚染されても、法令上も安全上も問題がないという見解ですか。

 周辺監視区域外における空気中の放射性物質の濃度限度を厳守することとは別に、建屋内の汚染については、管理区域内の人の触れるおそれのある物の表面密度限度、放射線業務従事者の線量限度、放射線業務従事者の呼吸する空気中の放射性物質の濃度限度等についての法令を厳守し、放射線業務従事者の被ばく線量を低減することが必要になります。

5.管理区域が許容濃度を超えていたことについて
第6回定検当時頃、建屋の管理区域内は、法令で定められている許容濃度を超えていたことは貴省も認められました。
(1)この場合、管理区域内が許容濃度を超えていれば、法令違反ではないのですか。
(2)法令違反でないとすれば、その理由を明らかにしてください。
(3)「許容濃度」が設定されている目的は何ですか。

(1)〜(3)について
 1978年当時の法令には、「従事者の呼吸する空気中又は飲用する水中の放射性物質の許容濃度」が規定されていました。「従事者の呼吸する」等とあるように、これらは、単に、管理区域内に許容濃度を超える場所が存在すれば直ちに法令違反となるということではありません。すなわち、空気中の濃度がこの濃度を超えるような場所については、立入りを禁じたり、立入る場合には防護服やマスク等の防護具を着用することによって従事者が呼吸する空気がこの濃度を下回るようにするなどの措置をとっていれば、法令違反とはなりません。
 こうした「従事者の呼吸する空気中又は飲用する水中の放射性物質の許容濃度」が規定されていた目的は、人体への被ばくを制限するためであります。

(4)アルファ放射能による汚染はいつから始まっていたのですか。

 第6回定期検査時の燃料棒破損時の報告にはアルファ核種の分析結果がなく、ご質問の件は確認ができませんでした。

(5)いつから、建屋のどの範囲をB、Cの区域に指定していたのですか。

 原子炉建屋内における管理区域の設定については、保安規定で定めることとしていますが、その管理区域内を汚染のレベル又は放射線のレベルによりさらに区分することについては、事業者自らの管理に基づくものであります。したがって、各発電所の管理区域内の区分については承知しておりません。


6.第6回定検当時のアルファ核種測定資料について
第6回定検当時の建屋のアルファ核種測定資料に関して、東電は貴省に対し「保存期間を過ぎており、あるものとないものがあり、ほとんどがない」と回答したと述べられました。
(1)東電は私達の質問に対し「資料が膨大なので出すのは勘弁してほしい」と述べています。これは、貴省への回答と異なるものです。この点について貴省は、交渉当日「初めて聞いたことなので確認する必要がある」と述べられました。確認された結果を明らかにしてください。

 ご質問の回答ぶりについて、東京電力に確認したところ、事実関係は以下のとおりでした。
 まず、東京電力が貴殿に対し「資料が膨大なので出すのは勘弁してほしい。」と述べたのは、「『放射線作業許可書』が膨大であることから、それらの許可書に添付されているサーベイデータから、アルファ核種に関するものを選び出す作業は膨大な作業量になる。」が主旨とのことでした。
 しかし、その後、東京電力において当時のサーベイデータを精査したところ、アルファ核種の測定データはなかったときいています。
 このため、東京電力は、その後の当院よりの確認に対して、「放射線作業許可書」の記載はベータ核種/ガンマ核種についてのみでありアルファ核種のデータはなく、それ以外の第6回定期検査時の管理区域内の汚染に係るデータは保存期間を過ぎており確認できなかった旨説明しています。当院からは、前回のご説明の際、その主旨で説明を行ったものです。

(2)アルファ核種測定資料の「あるもの」について、少なくとも資料を入手し公開してください。非公開とする理由はなんら存在しないはずです。

 入手した資料は、添付資料中、資料タイトル「スタックからの放出放射能の低減に関する検討結果について(松葉作戦)」です。

7.核種分析について
核燃料から漏れ出るアルファ放射能としては、Pu238, Pu239, Pu240, Pu242,Am241, Cm242, Cm244, Cm246等が予想されます。また、アルファ放射能が見つかっている以上、核分裂生成物による汚染もあったはずです。
(1) 第6回定検で明らかになった破損した燃料棒から漏れ出たアルファ核種について、核種毎の放射能を公表してください。
(2)核種分析について、その測定主体、測定時期、測定場所、測定方法、測定結果について明らかにしてください。
(3)核分裂生成物としては、どのような核種がどの程度のレベルで測定されていたか明らかにしてください。
(4)Cs137やRh106については容易に測定されると思われるので、これらの測定主体、測定時期、測定場所、測定方法、測定結果について明らかにしてください。

7.(1)〜(4)について
 第6回定期検査時の燃料棒破損時の報告にはアルファ核種の分析結果がなく、ご質問の件は確認ができませんでした。

8.マスク着用について
第6回定検当時、建屋1階の作業では「すべてマスクを着用していた」から安全上問題ないとの回答でした。その根拠は、貴省は見てはいないが「東電が、放射線作業許可書」で確認しているからとのことでした。
(1)「放射線作業許可書」は、数週間前に作業内容・エリアなどについて出されるものですが、これが「すべてマスクを着用していた」ことの証明になるのはなぜですか。

 東京電力からは、「放射線作業許可書」には作業時に用いられる放射線作業チェックリストが添付されており、そのチェックリストから当時の作業者のマスク等の防護装備の着用の有無を確認したときいています。

(2)当時のマスク着用基準はガンマ核種の濃度によって決められていました。東電のマスク着用基準の値はいくらですか。

 東京電力からは、同社が定めた第6回定期検査当時のマスク着用基準は、「空気中放射性物質濃度が、1×10-9μCi/cm3以上」ときいています。

(3)ガンマ核種は許容濃度以下でも、アルファ核種は許容濃度を超えていたような場所は無かったのですか。

 東京電力からは、建屋内のアルファ核種の濃度については、当時のアルファ核種の測定データがないことから、確認できないと聞いています。
 なお、軽水炉においては、ガンマ核種による作業場所の汚染が一般的であり、仮にアルファ核種による作業場所の汚染が発生している場合、当該汚染場所には、通常ガンマ核種による高い汚染が発生しています。このため、東京電力はじめ電気事業者においては、ガンマ核種の状況を把握することにより、汚染区域を定めています。

(4)建屋1階の「更衣スペース」で作業員はマスクをはずします。また、建屋1階を通過する時には作業員はマスクをつけていません。交渉では、このような場合、作業員がアルファ核種を吸い込んだ可能性は否定できないと述べられました。正式見解と確認してよろしいですか。

 仮に放射性物質で空気が汚染されている区域でマスクを着用しなかった場合には、放射性物質を吸入するおそれがあります。しかしながら、「更衣スペース」は汚染区域から汚染区域外へ出るための場所でもあり汚染がないように管理されていること、また、汚染の可能性があれば通路等の作業員が通過する場所であっても汚染区域として管理されることから、適切な管理がなされていれば、「更衣スペース」や作業員がマスクをつけずに通過する場所で、有意な放射性物質の吸入はないものと考えられます。

9.アルファ核種による内部被ばくの評価について
貴省は、国に報告されている被ばく線量で50mSv以上被ばくした人はいないので問題はないとの見解でした。その場合、ホールボディ・カウンターではアルファ核種は検出できないこと、そのため、ガンマ線の被ばく量からアルファ線の被ばく量を換算しているとも述べられました。
(1)ガンマ線の被ばく量からアルファ線による被ばく量を換算するとは、どのようにして行うのですか。

 内部被ばくの評価においては、まずホールボディカウンタによりガンマ線内部被ばくの有無を確認し、内部被ばくが確認される場合、さらに作業した環境からアルファ核種の吸入の可能性がある場合には、バイオアッセイ法(尿や便などの排泄物中の放射性物質の量を測定する方法)等の検査を行って、アルファ核種による内部被ばくの有無及び被ばく量を評価します。

(2)これまで、貴省に報告されている被ばく線量で、アルファ線の被ばく量を換算して報告された例がありますか。第6回定検当時及び、他の時期、他の原発でもそのような事例があれば具体的に明らかにしてください。

 保安院は、定期検査期間中における作業者の内部被ばくの有無について、電気事業者から報告を受けていますが、当該第6回定検時を含め、現在までのところ、ご指摘のような事例についての報告は受けておりません。


                                                      2003年2月25日

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