要 望 理 由


1.新たな活断層の発見により耐震安全性の再検討が必要
 島根原発の近傍を走る「宍道断層」について中国電力は、「長さは10kmで1・2号機の耐震安全性は保たれている」としていました。元広島大学の中田教授は独自の調査から、「長さは最低でも18km、M7クラスの地震を想定すべきだ」と指摘していましたが、中国電力はこれを無視し続けました。
ところが今年5月5日に、中国電力が「松江市福原から東には活断層が続かない」と言い切ってきた松江市上本庄町川部に於いて、活断層が発見されたと公表がありました。この活断層は、ほぼ5万年前以降に活動したものと見られており、中国電力の調査の杜撰さと結果の間違いが明らかとなりました。更なる調査によって、活断層の長さは20km以上に及ぶ可能性もあります。
 中国電力は現在、「活断層が仮に20qの長さであっても、原発の耐震安全性は保たれている」と主張します。しかし、活断層は地下深くの震源断層の破壊によって生じる地層のずれが地表まで到達し、その繰り返しによってできた、云わば、地震の痕跡として「地表面において」確認できるものです。地震規模の評価は、地下の震源断層をできるだけ正確に評価しなければできません。活断層は震源断層の一部が地表面に到達したものが多いことを考えれば、当然、確認できる18qないし20qより地下の震源断層は大きく評価しなければなりません。すなわち、中国電力の主張は成り立たないのです。
 昨年8月16日に発生した宮城県沖の地震の東北電力女川原発での観測結果から、現行の耐震設計審査指針に従う設計用基準地震動の作成方法には大幅な過小評価があることが明らかになりました。この事実を認定した金沢地裁は今年3月24日、北陸電力志賀原発2号機の運転差し止めを認める判決を下しています。国は指針を改定し、今後、既設の原発についても再確認を行うとしています。島根での活断層発見はそのような折りでした。島根1・2号機については、活断層が大幅に伸び、震源断層面が広がることから、再検討により、新旧どちらの指針に基づいても、中国電力の想定を大きく上回る地震動が原発を襲うと評価されるでしょう。
 このように島根1・2号機については、通常のウラン燃料を用いた運転についての耐震安全性すら確認できていません。このような状況で、プルサーマルの実施について検討することなどできるはずはありません。

2.トラブルが絶えない島根2号機
 島根原発2号機では、近年トラブルが多発しています。シュラウドのひびを始め、2004年には再循環系配管のひびが確認され、給水ポンプ駆動用タービン軸封蒸気排気配管では穴あきが確認されています。
 今年2月の定期検査では、高圧炉心スプレイ系ノズルの中のデフレクタ9個が溶接部から脱落し、炉内で見つかっています。中国電力は建設時の試運転で亀裂が入ったとし、昨年のシュラウドのひびを削ったことによる応力緩和のためのジェット・ピーニングによって亀裂が進展したとしています。このことは、新品の状態からすでに傷があったことになり、中国電力はこれをチェックできていなかったことになります。なにより、炉心にこのようなものが落下すれば、燃料棒が破損され、事故に至る恐れもあります。
 さらに、原子炉給水ポンプのメカニカルシール水漏れも頻繁に発生し、定期検査で取り替えるも、運転開始とともに再び漏れ出すなど、定期検査で安全を確保できていない実態が続いています。
 中国電力の言う「定期検査で安全を確保している」との言葉は、現状からしていかにも空疎な言葉でしかありません。こんな状態で、安全余裕を削ってしまうようなプルサーマル実施は、一層危険性を増してしまいます。

3.プルサーマルにより安全余裕が切り縮められる
 中国電力も認めるように、MOX燃料には、融点が下がる、ガスがたくさん出てくる、ブレーキ役の制御棒の効きが悪くなるなど、ウラン燃料と比べ、安全上不利な点がたくさんあります。逆に安全上有利な点はほとんどありません。MOX燃料の使用は、確実に原発の安全余裕を切り縮めます。
 プルサーマルとは、ウラン燃料を使うように設計された原発で、設計に反して、ウランとは特性の異なるプルトニウムを混ぜた燃料(MOX燃料)を使うことです。プルトニウムは長崎原爆の材料になった物質です。プルトニウムはウランよりはるかに爆発力が強くて臨界量が小さく、プルトニウムを用いればウランよりはるかに小型で高性能の核兵器が作れるため、核弾頭は通常プルトニウムで作られています。
 MOX燃料では、そのようなプルトニウムがウランと均一に混ざることなく、塊状(プルトニウム・スポット)で存在します。そこではウランより激しく燃え、より多くのガスを発生するため、し、燃料を内部から破壊しようとする圧力がより強くなります。政府や電力会社は、プルトニウムは普通の原発でも燃えていると言いますが、ウラン燃料内で生成されるプルトニウムは基本的に均一に分布しています。プルトニウム・スポットのような特性はけっしてウラン燃料にはないものです。
 悪魔の元素と言われる因果なプルトニウム、長崎原爆で多大の犠牲者を出したプルトニウムを、なぜよりにもよって島根原発で使わなければならないのでしょうか。
 国は今、プルサーマルを早々に認めた県に対し、特別の交付金を支給していますが、これは、プルサーマルに対する危険手当ともいえるものです。これもウラン燃料とプルトニウム燃料が同等ではないことを表しています。それも以下に見るように、とうてい割りの合わないものです。

4.反応度事故(核暴走事故)の際に燃料が破裂する可能性
 日本原子力研究開発機構(旧日本原子力研究所)による実証研究により、原発で制御棒が落下するなどして生じる反応度事故(核暴走事故)の際に、燃料が破裂し、コナゴナになって冷却水中に飛び出す現象が起こることが明らかになっています。それも、新品の燃料よりも、燃焼が進んで燃料中にガスが溜まった燃料のほうが発生しやすいことが、ウラン燃料を使った実験から明らかになっています。MOX燃料では、プルトニウム・スポットの影響により、破裂がさらに発生しやすいと考えられます。しかし、燃焼が進んだMOX燃料について、軽水炉を模擬した実験は進んでいません。
 原子力安全委員会は、炉心の3分の1までという制限の中で、MOX燃料を使うことを認める指針を出しており、これにより、プルサーマルの安全性にお墨付きを与えています。この指針が出たのは1995年ですから、今から10年以上も前です。この指針において、反応度事故の影響について参考にしている実験事例は、新品の燃料についてのものだけで、燃焼が進んだ燃料については解析値があるだけです。また、別に大粒のプルトニウムの塊を燃料の表面に貼り付けた実験事例はありますが、これはとても現実を模擬したものとはいえません。

5.冷却材喪失事故時に燃料が破裂する可能性
 再循環系配管の破断等により、原子炉の冷却材が失われる事故が冷却材喪失事故ですが、その際に、燃料被覆管が膨れ、そこに被覆管中で壊れた燃料の破片が集まってきて、その部分の出力が上がるために、そこで酸化が進み被覆管が破壊されるという現象が知られています。その燃料の破片は、MOX燃料では、プルトニウム・スポットのために燃料が壊れて生じやすく、したがってMOX燃料では、この破片の集まる現象がより顕著に起こる可能性があります。この問題について、フランスの研究機関は、米国原子力規制委員会(NRC)に対し、実験を行うための援助を求めましたが、援助が得られず実験は行われていません。実証的な研究は全く不十分です。

6.事故時の被害面積はウラン燃料の4倍にも広がる
 燃焼が進んだ状態で反応度事故や冷却水喪失事故が起きた時に、MOX燃料が破裂しない保証はありません。そうなればプルトニウムの微粉末が環境中に出てくることになります。プルトニウムの微粉末は、肺に吸い込むと、非常に高い確率で肺ガンを引き起こす猛毒物質です。事故によって同じ被害を受ける面積はウラン燃料の4倍にもなるとの評価もあります。被爆地広島も含めて被害が広範囲に及ぶことが憂慮されます。電力会社は、事故の影響はウラン燃料と同じだと主張していますが、これはプルトニウムが環境中には出ないことが前提になっています。

7.海外でも実績はほとんどない
 プルサーマルの安全性の根拠として海外の実績がしばしば強調されます。ところが、島根2号機と同じタイプのBWR原発でプルトニウムの商業利用をしているのはドイツだけ、しかもMOX燃料を装荷しているのはグンドレミンゲン原発の2機だけです。これで十分な実績があるといえるでしょうか。しかもドイツは脱原発政策を進めており、再処理を禁止しています。将来的には原発から撤退するのでプルサーマルも止まる、そういう流れの中でかろうじて行われているというのが現状です。

8.使用済みMOX燃料の行き場はない
 使用済みMOX燃料はウランの使用済み核燃料と比べ、寿命の長い放射能が格段に多いため、約2倍の熱を発生するので、冷却に約10倍の時間を要します。結局、プルサーマルとは、高レベル放射性廃棄物であるウランの使用済み核燃料を、より放射能が強くて危険な、より始末の悪い使用済み核燃料に変えることに他なりません。その使用済みMOX燃料は、現在アクティブ試験が行われている六ヶ所再処理工場の処理対象にはなっておらず、持って行く場はありません。原子力政策大綱で「2010年頃から検討を始める」とされているだけです。第二再処理工場についても「2050年ころまでに必要」と議論されただけで、建設すら決まっていません。そもそも、第二再処理工場は現在の再処理工場が操業を終える時期に間に合うように稼動する事が予定されており、ウランの使用済み核燃料の再処理が優先される事となります。現在たまり続ける使用済み核燃料よりもやっかいで高レベルの放射性廃棄物を地元に半永久的に置き去りにする方策なのです。

9.ウラン資源の節約効果は疑問
 中国電力は、プルサーマルを進める理由にウラン資源の節約をあげています。回収ウランを含め2〜4割の節約ができると宣伝しています。しかし、中国電力が計画している回収ウランの使用は、これまで国内で再処理した際に回収したウランを人形峠で濃縮したものです。すでに人形峠はその事業を終えており、また六ヶ所村の濃縮工場でも回収ウランは後回しとなり、今後の回収ウランを使う目処はありません。プルサーマルによってウランを節約できる効果はせいぜい10%程度です。しかもそれは、全世界の全原発の使用済み燃料を再処理し、世界中の核燃料の1割をMOX燃料にしたという非現実的な仮定の話です。日本が全面的にプルサーマルを進めたとしても、その節約効果は1%程度、ウランの可採年数が半年延びるか延びないかといった程度です。他方で、ただそれだけのために払う犠牲は、環境に与える負荷という点でも金銭的な負荷という点でもはかり知れません。

10.プルサーマルは借金地獄の入口
 福島原発や高浜原発用に英仏でつくったMOX燃料は1トンあたり13億円程度でした。経済産業省によると、ウラン燃料は1トンにつき約2.3億円であり、5倍を超えています。島根2号機用のMOX燃料も英仏から運ばれてくる予定です。また、六ヶ所再処理工場について、電気事業連合会が政府に提出した資料には、操業の総費用が11兆円、MOX燃料の加工費用が1兆1900億円とあり、合計で12兆1900億円です。そこからつくられるMOX燃料が4,100トンなので、1トン当たり30億円にもなります。ウラン燃料の実に13倍です。しかもこの数字は、全くトラブルが無いというのが前提です。現実にはそんなことはあり得ません。

11.プルサーマル拒否は全国的な大きな流れ
 1999年12月16日に、関西電力は高浜3・4号用MOX燃料にデータ不正があったことを認め、イギリスBNFL社で製造されたMOX燃料をすべて廃棄しました。その翌日17日には福井県議会が終了し、知事が高浜4号へのMOX燃料装荷を最終的に承認することになっていました。17日にはMOX燃料使用差し止め裁判の判決も出ることになっていました。私たち市民はこのMOX燃料には不正があると裁判で指摘し続けていましたが、関電ばかりか当時の通産省も安全委員会もが頭から不正はないとの立場に立ち、人々をだましてきたのです。その後、2001年12月にも関電は、フランス・コジェマ社で製造したMOX燃料を、違約金を払ってまで廃棄にしました。さらに三度目に、2004年夏にコジェマ社との製造契約に入ろうとした矢先、長崎原爆忌の8月9日に関電が美浜3号事故を起こしたので、福井県知事は、プルサーマルの実施計画を持ち出すこと自体を拒否しています。
 MOX燃料に関してデータ不正が起こる基盤として、MOX燃料の製造や検査には、研削してサイズを揃えるのが難しい、グローブボックスでの検査が強いられるといった、ウラン燃料にはない大きな困難があることが、続く運動の中で確認されてきました。
 2000年8月9日、長崎原爆忌を期して、東京電力福島第一原発3号機のプルサーマル実施に対する差し止め訴訟を約2000人の市民が起こしました。2001年3月に請求は棄却されましたが、判決は東京電力がデータを公開しなかったことを強く批判しています。またこの過程で市民と福島県との対話が進みました。東電に不信を募らせた知事はプルサーマル凍結を宣言し、結局東電はプルサーマルを実施することができませんでした。
 その後、東電の不正事件を受けて福島県知事と県議会はプルサーマルを拒否し、事前了解を白紙に戻したのです。
 2001年5月に、新潟県刈羽村の住民は、住民投票で柏崎刈羽3号機のプルサーマルを拒否することを決定しました。原発城下町であり、経済生活の多くが原発に依拠しているにもかかわらず、普段から不安の思いを抱きながら見ている原発が、プルサーマルによってこれ以上危険になることはごめんだと拒否したのです。その後やはり東電の不正事件を受けて、新潟県知事はプルサーマル了解を取消しました。
 福島県や新潟県のプルサーマル拒否の姿勢が、東電の不正事件のせいばかりでないことは、不正事件の罰として止まっていた福島第一原発1号機の運転が再開されても、プルサーマルについては話合いすらできず、東電が今年1月のプルトニウム利用計画に予定原発名を記載することができなかったことにも現れています。
 東電、関電のプルサーマルは全く目処が立っていません。そのため、本来なら東電や関電の後に実施するはずだった九州電力玄海原発3号機、四国電力伊方原発3号機、中部電力浜岡原発4号機、そして島根2号機が矢面に立たされていますが、いずれも地元の住民等から懸念する声が挙がり続けています。

12.MOX燃料輸送は国際的な問題になる
 また、高浜原発と福島第一原発へのMOX燃料輸送が問題になった1999年には、韓国内でプルトニウム入りの燃料輸送に反対する激しい運動が起こり、海上デモの演習まで行われています。このときは高浜港への輸送は北回りで行われたため実際の海上デモは行われませんでした。しかし、島根原発へのMOX燃料輸送となると対馬海峡を避けて通ることはできないため、国際的に問題になる可能性が十分あることは考慮しておく必要があります。

13.六ヶ所再処理工場の稼働による放射能汚染の懸念
 使用済み核燃料を処理するために青森県に建設された六ヶ所再処理工場は、3月31日に強引に実際の使用済み核燃料約430トンを処理するアクティブ試験に入りました。その後、放射能を含む溶液の漏えい事故が立て続けに発生しています。再処理工場では、事故がなくとも、大量の放射能が大気と海に日常的に放出されます。日本原燃や青森県は、米1kgから90ベクレルの放射線が出るなど、農水産物から放射線が検出されるようになることを明らかにしています。ハガキを流す実験では、六ヶ所村から岩手、宮城、茨城、遠く千葉まで流れ着きました。そのため、海洋汚染を憂慮する声が三陸沿岸で広がっています。食品の汚染を憂慮する声は首都圏、関西など、全国に広がっています。
 英仏の再処理工場の周辺では実際に小児白血病が多発する、或いは海岸付近の陸地や屋内からプルトニウムが検出されるという事態も起きています。アイルランドをはじめ国のレベルで再処理工場の稼働に反対する動きがありますが、それも深刻な放射能汚染があるためです。

14.島根2号機のプルサーマルは余剰プルトニウム問題を悪化させるだけ
 六ヶ所再処理工場を稼働させるには、余剰プルトニウムを持たないという国際公約もあることから、プルトニウムを使ってみせる必要があります。島根2号機のプルサーマルは、工場の稼働を正当化するための口実となるものです。その意味で、青森県や三陸沿岸の放射能汚染に手を貸すものといえます。
 他方で、島根2号機のプルサーマルは、余剰プルトニウム問題の何の解決にもなりません。日本は、既に40トンを超えるプルトニウムを保有しており、そのうち約37トンは英仏の再処理工場にあります。島根2号機も当面はMOX燃料をフランスから輸送して使う予定です。しかし保有プルトニウムの大半は東電分と関電分です。東電や関電のプルサーマルが止まっている限りは、大量のプルトニウムを使い切ることはとてもできません。
 それどころか、プルサーマルを口実にして六ヶ所再処理工場を稼働させることにより、かえって余剰プルトニウムが増えてしまいます。国際公約はいつまでも果たされず、世界の核拡散を助長し、核武装疑惑を世界中から受けるだけです。島根県がプルサーマルを急ぎ、わざわざ危険に近づく理由は何もないのです。
 それでもなぜ再処理を行うのでしょうか。実質的な理由は再処理を止めれば各原発から発生する使用済み核燃料の行き場がなくなり、原発を止めざるを得なくなるからということでした。再処理を選択した本質的な理由が結局はこの問題にあることが、原子力長期計画の議論の中ではっきりと浮き彫りになりました。結局のところ、原発の排泄物に対する無策のツケを、青森県民、そして島根県民に押しつけようとしているだけなのです。