要 望 書
国土交通省規則に適合していない疑いのある
MOX燃料輸送を許可しないでください

国土交通大臣 金子 一義様
2009年2月13日
MOX燃料輸送中の臨界事故を憂慮する全国の市民


 九州電力、四国電力及び中部電力のMOX燃料が、まもなくフランスから輸送されると報道されています。しかし、それらのMOX燃料は臨界事故を起こす危険性があるという疑義が、下記に述べるように新たに浮上しています。
 そのため私たちはMOX燃料の輸送を深く憂慮しています。この憂慮は、私たちばかりでなく、輸送ルートにつらなる国々の人たちにも共通するものです。
 そのため、この問題について貴省として独自の解析などを行い、私たちの疑問に答えてください。疑義が完全に払拭されるまで、けっしてMOX燃料の輸送を許可しないよう要望いたします。

1.安全審査を通した時の臨界解析
 MOX燃料の輸送に関しては、9メートル落下試験をしたという条件の下で、MOX燃料が水に浸かった場合でも臨界に達しないことが要求されています。実際、電気事業者は放射性輸送物設計承認申請書の輸送物安全解析書の中でそのような臨界解析を実施しています。
 その際問題になるのは、国土交通省の「船舶による放射性物質等の運送基準の細目等を定める告示」(以下で告示という)第9条第二項の規定です。そこでは、「放射性物質等は中性子増倍率(原子核分裂の連鎖反応において、核分裂により放出された一個の中性子ごとに、次の核分裂によって放出される中性子の数をいう)が最大となる配置及び減速状態にあること」という条件が課せられています。
 上記規定では、「中性子増倍率が最大となる配置」を想定することが要求されているのに、事業者が行った安全解析書では、9メートル落下した後でもMOX燃料集合体には何らの変形もないと頭から仮定していました。その結果、臨界には達しないとの結論が導かれ、2007年より前に貴省の安全審査を通っていたのです。

2.新たな問題を提起した2007年10月の論文
 上記のような解析の前提に対して、2007年10月、新たな問題が提起されました。それは核燃料輸送事業者の国際団体WNTI(World Nuclear Transport lnstitute)のPATRAM2007において発表されたLyn M.Farringtonの論文です。
 この論文によると、加圧水型(PWR)燃料集合体の場合、9メートル落下によって最下部区分の燃料棒が鳥かご型に膨らみ、燃料棒間に介在する水による中性子の減速が進むために中性子増倍率が増大することが指摘されています。燃料集合体の最下部の支持格子が壊れて燃料棒1本当たりに3mmの変形が生じた場合には中性子実効増倍率Keff+3σが1以上となって臨界を超えることが示されています。また、1mm変形の場合でも中性子実効増倍率は0.96を超えています。日本原子力学会の標準(2006年)では、臨界の危険性の基準を0.95にとっているため、わずか1mm変形の場合でも重大な問題が起こる可能性があると考えるべきです。

3.事業者による緊急の試験と解析
 この問題提起を受け止めて、電気事業者は直ちに2007年12月から2008年3月までの間に新たな試験を実施したということです(12月24日の近藤正道参議員レクにおける国土交通省検査測度課長の説明。電気事業者がFarringtonの論文を直ちに重く受け止め、緊急な試験を行ったことはとても注目に値するものです)。その試験に関すると思われる公表された資料によれば、それは次のような内容になっています(ただし、この公表資料には作成者と日付が書かれていません)。

◆試験 :PWR17×17型燃料集合体の模擬物1体を収納した容器を9メートルの高さから落下。ペレットは鉛-アンチモンで重量を模擬。その結果、変形のパターンは上記論文と同様であったが、燃料棒1本当りの変形量は約0.5mm程度だった。
◆解析 :九州電力や四国電力のMOX燃料集合体8体を収納した輸送容器について、燃料棒1本当りの変形が最下部区分全体で1mmとして臨界解析を実施。その結果、中性子実効増倍率Keff+3σが0.862〜0.864となり、臨界には達しないことが確認できた。

 この試験結果によって、それ以前に終了していた審査の前提は崩れていないと判断したと、検査測度課長は12月24日に説明しています。しかし、この結論には下記に指摘するような問題があります。

4.事業者の試験と解析に関する疑問点
 以下の疑問点に答えてください。

(1) Farringtonの論文は、落下によって3mmの変形が起こりうることを理論的に提起しているので、そのような場合を告示別記第9条のいう「中性子増倍率が最大となる配置」として捉え、審査をやり直すべきです。この理論的指摘を事業者が重視したからこそ、緊急に試験と解析を実施したものと考えられます。規制当局である貴省は告示別記第9条に基づき、事業者の解析結果を鵜呑みにせず、Farringtonの提起した解析結果を踏まえて新たに独自の解析を行い、それ以前の審査結果を再検討するような措置を講ずるべきではありませんか。

(2) 事業者が実施したことは試験と解析ですが、試験は変形パターンと変形の上限を確認するにとどまっており、安全性の確認は主に解析によってなされています。そして、その解析では、なぜか中性子増倍率が低い値にしかならないような結果になっています。このことから、次の疑問が起こります。

(a)中性子実効増倍率Keff+3σが燃料の変形がない場合に0.850(九州電力)、0.846(四国電力)と、比較的低い値になっています。基本的に同じ仕様のMOX燃料を収納しているはずの関西電力の解析では、この値(最大値)は次のようになっています。
   ・1997年10月16日申請のTN−12P(M)型では0.947
   ・1998年12月24日設計承認申請のEXCELLOX−4(M)型では0.948
   ・2001年8月23日申請のEXCELLOX−4(M)R型では0.899
 すなわち、なぜか2000年代になって値が急に下がっています。そして、2006年8月21日に設計承認を受けた四国電力の値は上記のように0.846と格段に下がっています。この値をベースにして変形を仮定してもそれほど大きな値にはならないわけです。
  なぜ、貴省は同じ仕様のMOX燃料でありながら、このようにだんだんと甘い解析になるのを許しているのですか。

(b)Farringtonの論文では、部分的な1mm変形でもKeff+3σが0.96を超えています。ところが今回電力会社が行った試験の解析では全体的な1mm変形でも0.862と低い値になっています。なぜこのような違いが起こっているのかについて、どうして検討しないのですか。

(3) この試験では、燃料ペレットとして鉛+アンチモンを用いているため、実際運ばれるMOX燃料のように温度が高くなることを考慮していないのは明らかです。輸送中のMOX燃料集合体の温度は約300℃になり、その場合MOX燃料の強度が4割〜9割にまで落ちることが北海道電力の資料に明記されています。強度が落ちると落下によって最下部の支持格子が破壊される可能性が起こります。それゆえ、試験では燃料集合体を約300℃の温度に保って落下させる必要があります。なぜなら、告示第1条第一項では「試験しようとする放射性物質等をできるだけ模擬した供試物を九メートルの高さから落下させること」と規定しているからです。今回の試験はこの要求を満たしていないがゆえに法的に有効とは言えないのではありませんか。

(4) 今回の事業者の試験では、斜めに落ちるコーナー落下の場合を実施していません。この場合には燃料集合体の衝撃の受け方が異なるため、やはり試験と解析を実施するべきではありませんか。

(5) 今回の試験と解析の報告書は誰が何時に作成したもので、その内容に関する責任はどこがもっているのですか。

5.結論と要望事項

 前項に記述した疑問点が解消されない限り、少なくとも加圧水型である九州電力と四国電力のMOX燃料については、輸送中に臨界事故を起こす危険性があると考えざるを得ません。輸送中に輸送ルートの国の近くで、あるいは日本の港に到着したときに臨界事故を起こす危険性があるのに、それを無視して輸送を強行するのはけっして許されることではありません。
 以上の考えに立って、以下の点を要望いたします。

要 望 事 項
1.第4項で記述した疑問点に文書で回答してください。
2.臨界の疑義が完全に払拭されるまで、けっしてMOX燃料の輸送を許可しないようにしてください。


MOX燃料輸送中の臨界事故を憂慮する全国の市民(97団体)
<連絡先>
 原子力資料情報室
   〒162-0065 新宿区住吉町8-5 曙橋コーポ2B
   TEL 03-3357-3800 / FAX 03-3357-3801
 美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会
   〒530-0047 大阪市北区西天満4-3-3 星光ビル3F
   TEL 06-6367-6580 / FAX 06-6367-6581

<団体名>
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(09/02/16UP)