国土交通省への意見書
国土交通省は、MOX( モックス) 燃料海上輸送の安全性については
十分に念を入れて確認すべきです

日本の核燃料輸送上の法律が守られているという確認がされるまでは、
MOX 燃料の輸送を承認しないようにすべきです

 日本のプルサーマル計画の実施にあたり、ヨーロッパから日本へのMOX 燃料海上輸送が、3月初旬にも開始されようとしています。

 状況:2010 年度までに導入するプルサーマル計画にあたり、フランスで製造されたMOX( ウラン・プルトニウム混合酸化物) 燃料の輸送が3 月1 日以降行われると報道されている。日本の電力会社三社( 九州電力、四国電力、中部電力) が共同輸送する。現在65 体のMOX 燃料集合体がフランスで製造されており、この集合体が運ばれると予想される。その場合、輸送されるプルトニウムの量は約1.8 トンになり、この量は平成4 年- 平成5 年(1992-1993) に行われた「あかつき丸」の1.7 トンを上回る。輸送ルートの候補はアフリカの南側、南米の南側、パナマ運河をそれぞれ経由する三つがある。国土交通省が安全性を確認し、佐賀県知事が事前了解を行えば、輸送船の出航が可能になる。

 MOX 燃料輸送の安全性は、日本国内の問題のみならず、輸送時におけるヨーロッパ- 日本航路上の沿岸諸国の安全と安心にも大きく関わる問題です。輸送には国内の原子力発電所に払うべき安全に対する注意と同等の注意を払わなければなりません。国土交通省は電力会社が安全を厳重に満たしていることを確認する義務を全うし、輸送には万全の注意を払わなければなりません。

 具体的には、輸送時の安全性に関しては輸送中のあらゆる状況でもMOX 燃料集合体とその輸送容器が安全に保たれることが重要課題です。とりわけ、MOX 燃料は核分裂性物質で、臨界事故を起こす可能性があるので、臨界( 核分裂連鎖反応が継続すること) を起こさないことが法的に要求され、試験を行って確かめることが義務づけられています。

 詳しくは、輸送物(MOX 燃料集合体の入った輸送容器) と「同一のもの」を、次の三つの条件に順次おいても臨界に達しないことが要求されています。

@ 輸送容器を9 メートルの高さから落下させること
A 輸送容器を800℃の火炎中に30 分間置いた後、燃料放射能が発熱するという条件の下、38℃の空気中で自然冷却すること
B 燃料集合体に浸水があり、「放射性物質等は中性子増倍率が最大となる配置及び減速状態にあること」という条件に置くこと。( ただし中性子増倍率とは、核分裂反応の連鎖において、核分裂に寄与する中性子数が今世代では一つ前の世代の何倍になるかということ。)

 この試験で問題になるのは、MOX 燃料集合体が浸水し、9 メートルの落下によって何らかの変形が起こった場合です。中性子増倍率が1 を超えると臨界事故が発生することになります。

 実際、2007 年10 月の輸送に関する国際シンポジウムPATRAM2007 でのファリントン (LynFarrington) の論文で、このことに関する新たな問題が提起されました。9 メートル落下試験によって燃料棒は変形を起こすことが提起されたのです。

 水に漬かっている燃料集合体が鳥かご型に膨らむように変形すると、燃料棒間を飛び交う中性子の水による減速がそれだけ進み、その結果核分裂が進むようになります。ファリントンの評価では、燃料棒当たり1mm 変形するだけで中性子増倍率が0.96 を超えることになり、日本原子力学会の基準である0.95 を超えて臨界の危険が生じることになります。輸送容器を9 メートルの高さから落下させること

 それまでの事業者の申請書では、9 メートル落下によって燃料集合体には何の変化も起こらないと仮定され、その結果臨界は起こらないとして審査を通っていました。今回の輸送はこのときの審査に基づいています。

 ファリントン論文の問題提起を受けて、日本の事業者は急遽、2007 年12 月?2008 年3 月に試験と解析をやり直しました。その結果、事業者は報告書で変形は起こるが、臨界には達しないと結論しています。しかし、その報告書が問題なのです。提出者の名前も日付もなく、試験と解析の詳細な説明がいっさいなく、ほとんど結論だけが書かれている非常に不完全なものです。この試験と解析が正しく行われたかどうかの確認は議員、地元自治体、第三者には不可能です。本来、国土交通省がその試験と解析の結果についての妥当性を丁寧に説明するべきものです。

 結局今回輸送されようとしているMOX 燃料は、ファリントン論文の問題提起以前の何の変化も起こらないという仮定のもとで審査をパスした燃料だといえます。

以上の点を踏まえて、国土交通省は以下二つの疑問点に明確な回答をするべきです。

国土交通省への質問事項
(1)MOX 燃料輸送時の臨界防止に重要な国際的問題提起の内容確認について

 燃料棒が1 ミリ変形した場合、前述のように、2007 年10 月、国際シンポジウムPATRAM2007 で報告されたファリントンの論文では中性子増倍率が0.96 以上となり、日本原子力学界の基準0.95 を超えています。ところが、同じ1mm 変形でも日本の事業者の値は0.86 程度と非常に低い値になっています。
 ファリントンの論文は世界の専門家が集まったシンポジウムで発表されたものであるだけに簡単に無視できるものではないはずです。現に日本の事業者はその結果を重視したからこそ、急遽試験と解析をやり直したはずです。なぜこのような違いが生じているのかを明らかにし、日本の事業者の低い値が意図的な解析を行った結果ではないことを国土交通省は明らかにする義務があります。
 ところが、2 月13 日の議員レクのときに出された「ファリントン論文で想定されたプルトニウム同位体組成と含有率についても教えてください」との質問に対し、国土交通省の回答は「当省としては承知しておりません」というだけでした。このような無責任な回答では誰も納得できるものではありません。
 改めて、ファリントン論文で想定されているMOX 燃料について、核分裂性プルトニウム富化度、ウランとプルトニウムの同位体組成を示すよう要求します。

(2)MOX 燃料輸送時の安全性を確認する試験が法的要請を満たすよう実施されるべきことについて
 今回の日本の事業者が行った試験が法的要求を満たしているのかどうかがという問題です。
 国土交通省告示第14 条第3 号では、「当該輸送物と同一のもの」を9 メートル落下させることになっていると読みとれます。MOX 燃料集合体は崩壊熱によって約300℃になり、それだけ構造物の強度が落ちています。それゆえ、試験に用いる燃料集合体も同程度の温度にして落下させる必要があります。ところが実際には、燃料ペレットは鉛+ アンチモンでつくられていたため( 事業者報告書)、温度は常温でしかありませんでした。これでは、「当該輸送物と同一のもの」とは言えず、法的な要求を満たしているとは言えないのではないでしょうか。


 以上の理由により、MOX 燃料の海上輸送中の安全性は確保されているとは言えません。このような疑念を国内はもとより、輸送ルートの国々の人々も抱くに違いありません。日本の法律を満たしていない輸送は開始すべきではありません。

輸送開始の前提条件の一つは日本の法律が守られているという確認です。
これらの点が明確になるまで、MOX 燃料の輸送を承認しないようにすべきです。

2009 年( 平成21 年)2 月26 日 現在
以下、議員名(参議院・衆議院)

■民主党
大河原 雅子 参議院
大串 博志 衆議院
大島 九州男 参議院
金田 誠一 衆議院
下田 敦子 参議院
原口 一博 衆議院
前原 誠司 衆議院
松野 信夫 参議院
■社民党
阿部 知子 衆議院
菅野 哲雄 衆議院
近藤 正道 参議院
重野 安正 衆議院
照屋 寛徳 衆議院
日森 文尋 衆議院
福島 瑞穂 参議院
渕上 貞雄 参議院
保坂 展人 衆議院
又市 征治 参議院
山内 徳信 参議院
■無所属
川田 龍平 参議院

(09/03/03UP)