7月26日刈羽村長を問いただす−同行記

2002年7月29日 小山英之(美浜の会)

 7月26日、刈羽村生命を守る女性の会の近藤ゆき子さんたちが品田村長を訪れ、ベルゴ製MOX燃料データの信ぴょう性を確認したという判断についての事実を問いただし、質問書(資料1)を手渡して文書回答を求めた。私もそれに同行し、村長がベルゴ社などで何をしてきたかを直接確かめてきた。
 品田村長は7月1日に突然ヨーロッパ行きを発表し、東電社員の先導で7月6日〜10日にベルゴ社、「第3者機関」、コジェマ社などを訪問。11日に記者会見して「生データを含め確認し、データの信ぴょう性と燃料の健全性を確認した」と発表した。しかし、その判断の具体的な根拠は何も示されていない。それにもかかわらず、7月15日の臨時村議会では、180万円の旅費や通訳料を支出することを賛成12対反対4で可決している。
 話は遡り、6月27日の村議会。ここでいわゆるエネルギー決議(資料2)が反対1で可決された。この決議は直接MOX装荷の是非には触れていないものの、プルサーマル計画そのものの事前了解は今も生かされていると認識し、原子力発電との共存共栄を讃え、東京電力に村民への理解活動を継続するよう要請し、国には財源の確保などを要望し、村長には村民の意見を積極的に汲み上げて「適切な行政判断」を行うことを求めている。この決議をもって22日に、村議会議長と副議長が南東電社長と平沼経産大臣を訪れ、趣旨を尊重するよう要請した。
 この決議で住民投票の結果凍結されていたプルサーマル論議は解禁されたのだという。すなわち、住民投票結果は過去のものとなり、改めて「事前了解」したプルサーマル実施をどうするのだという議論を起こしていくという。そのために20地区での「対話集会」を順に開くが、それは村長との対話の場、すなわち村長が村民の声を親しく聞く場となるのである。したがって、その声がどのようなものであったか、それを判断するのはまさに村長なのである。その結果は知事と柏崎市長との3者会談に持ち込まれ、村長の判断が尊重されて28体MOX燃料の装荷が決められる。ご丁寧に西川柏崎市長までがベルゴやコジェマを訪問して側面援助するという、まことに用意周到な段取りになっている。
 ところで、その決議ではデータ問題にはいっさい触れられていない。それでは何を根拠に村長はヨーロッパに行ったのかというと、6月議会でデータの信ぴょう性が問題になったからだという。ところが事実は、一人の議員が村議会でデータ問題に簡単に触れただけというのが真相。用意周到にヨーロッパ行きを準備していながら、その議員の発言を表向きの理由として使うことにしたに違いない。
 シナリオは東電と経産省、そして主役はまさに品田村長その人なのである。このままでは、住民投票の結果は過去のものとなり、新たに住民の意向を汲み取った村長の判断こそがいまや絶対的な地位に昇ることになる。地区集会の第1回目は23日に村長のお膝元で開かれ、村長の縁者が1家に3〜4人ずつも参加して参加者は約70名となった。発言した12人中反対は2名であったという。陰に陽に圧力がかかっているもとで、小さな集落ごとの場では反対の発言はしにくいし、反対の気持ちをもつ女性でも夜には出づらい。村長や推進派の意図したとおりに対話集会は進んでいくのだろうか。しかし26日に村長から直接聞いたところでは、刈羽区を含めまだ4地区の日取りが決まっていないという。「刈羽区」と言ったときの村長の顔には、心なしか、にがにがしげな表情が浮かんだ。
 運動はいまこのような状況に直面している。村議会内の勢力図にも変化がある。このようなとき、「住民投票の結果を守れ」はあくまでも基本であるに違いない。それと同時に、主役の村長を野放しにしておくべきではない。ターゲットを村長におき、村長の言動を批判し、その嘘をあばいて信頼を地に落とし、真相を広く村民に知らせる活動を行う必要があるのではないだろうか。困難でも筋を通していけば、それは速効でなくても必ず村長への牽制となるに違いない。
 さて、我々の前にはまさにその村長の嘘がぶら下がっている。ベルゴ社に出向いて「データの信ぴょう性と燃料の健全性を確認してきた」という嘘である。この嘘を暴いて村長の信頼を地に落とす必要がある。26日の村長との場に私が出向いたのは、このような思いからであった。
 26日には11時半から話しを始め、終わったときは午後1時になっていた。最初近藤さんから話しがあった後、私が必要な図を次々と村長に見せながら、ひとつひとつ事実を確認していくようにして進んだ。それを10名ほどの報道関係が取り巻き、テレビカメラが人の表情や図を次々と写していた。

村長への質問の結果、次のような事実が、村長の嘘が明らかになった。

1.村長がこれまでにないもので新しく見たのは、ペレット外径に関する1ミクロンきざみの数値の並んでいる表、ただこれだけである。その表からエクセルで4ミクロンきざみの棒グラフをつくって見せるところを見たという。彼がロット番号を3つほど指定すると、目の前に順に棒グラフが現れたという。彼は、エクセル、エクセルとさもめずらしそうに何度も強調したが、数値データからエクセルで棒グラフをつくるなど、小学生でもできることなのだ。

2.その数値表以外に何も新しいものがないことは彼も認めた。とにかくそれを自分の目で見たことに価値があるんだそうだ。これで村民の税金から180万円とは!?

3.彼がデータの信ぴょう性を確認したと言っているのは、その3つほどのロットの4ミクロンきざみの棒グラフが仕様の範囲に納まっているのをその目で見たからだということ。何というおめでたさ。こんなことなら、彼がベルギーまで行かなくても、とっくの前から東電が公表して分かっていることではないか。
 問題なのは、その仕様の範囲に納まっているデータが、意図的な操作の結果として納まっているのではないことがどうして確認できるのかということなのに。

4.検査員がペレット外径の測定値表示を目で確かめてから足踏みスイッチを押す仕組みのことを、村長は知らなかった様子。この検査の場面は、ドイツ用燃料を使って検査するところを実際に見たそうで、彼はさも足踏み場面を思い出すような表情で、「ジャンジャンジャン」とつぶやきながら、脚を動かす仕草をした。
 その結果、ペレットは動かさずにおいて足踏みスイッチを3回押せば同じ数値がペレットの上中下の数値として並ぶことを村長は認めた。さらに、仕様外の数値が表示板に現れた場合でも、例えばペレットを90度回すなどの操作をして仕様内の数値になったことを確認してから足踏みスイッチを押す可能性についても認めた。そしてこれらの操作はBNFL社の場合に不正として指摘されていることも確認した。
 なにしろ、1つでも仕様外の数値がでれば、そのペレットを含むブレンダーが不合格となり、その結果約7000個のペレットが廃棄処分を受けることになる。検査員には絶対に仕様外を出してはいけないという、無言の強い圧力が絶えずかかっていると言っても過言ではない。そのような話しも村長にした。
 このような確認は何度も行ったが、村長はその中でも同じ数値が並ぶところだけを引き出して、そのような可能性があるか聞いてみたいという。またしてはこの並ぶ話しだけを引き出すのは、BNFL社の場合はその操作はコピーによって行われているが、ベルゴ社ではコピーはできないのでその可能性はないと答えるためではないかと思われた。そのため、その話しを持ち出すたびに、それだけではなく、仕様の範囲に入っていることを確かめてから足踏みスイッチを押すことが問題なのだと何度も強調しなければならなかった(このことは質問書の1(3)と(4)に関係する。質問書1(3)については恐らく、コピーできないから不正はないと答えるのでは? このような答えがでないように村長にはクギを刺しているのに。その場合でも(4)にどう答えるか)。

5.このような操作が行われた場合は、数値(グラフ)が仕様の範囲内に入るのは当然だということ、従ってグラフが仕様の範囲に入っているからと言って、不正はないということにはならない。このことも村長は認めた。
 そうなると、彼がわざわざベルギーまで出かけて行ったのは、データに不正がないことの「確認」ではなく、「確信」だということも認めた。初めから疑ってかかれば不正に見えるが、相手を信頼することが大切だと村長は何度も強調した。

6.今回はプルトニウムスポットについては何もデータなど見ていないことも確認した。したがって、「燃料の健全性」は確認されていないということである。

7.コジェマについてはコジェマの本社に行って一般的な説明を聞いただけで、メロックス工場の2つのラインなどはまったく何も話にはでてこなかったということ。

8.その後の議論は、村長はなぜ「事前了解」にこだわっているのだという話しに進んだ。この中で村長は言葉をわざとにごしながらも、次の2点をはっきりと強調したと思う。
@ 住民投票結果は否定しようのない事実として認めなければならない。ただしそれは過去にそのようなことがあったという意味でだ。
A プルサーマル計画を事前了解したという事実には、刈羽村の置かれている諸般の事情から、あくまでもこだわらなければならない。事前了解を捨て去ることはできない。ということはすなわち、28体MOXの装荷を主張していることに他ならないではないか。

 全体で見れば、村長が見た唯一新たなことは、ペレット外径データに関する1ミクロンきざみの数値表だけである。そんなものをただ目で見ても、不正のないことが確認できる訳ではないと村長も認めている。「データには不正がないことを確認した、燃料の健全性も確認した」のは大嘘であったと村長自ら認めたのである。その嘘のために180万円も使ったことは許されるのだろうか。その嘘で村民をだまし、住民投票の貴重な結果をくつがえそうとするのは許されることだろうか。これらが厳しく問われるべきであろう。



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