MOX燃料問題の現在の状況と運動


1.5月26日通産省交渉
 「100人署名」提出の5月26日に、主に東電MOX問題で通産省との交渉をもった。いまの最大の焦点は、現にサイトにある福島原発T−3号用をどうするのかという点にある。通産省で、MOX燃料問題を検討するBNFL委員会(電気事業審議会・基本政策部会・BNFL社製MOX燃料データ問題検討委員会)がもたれているが、そこでの審議内容との関わりはどうなるのかという点にある。
 この日「東電用MOX燃料データ問題市民検討委員会」が東京、福島、新潟、京都、大阪の15名で結成され、BNFL委員会への要望書が交渉時に手渡された。さらに当会はグリーン・アクションと連名で第2回目の要望書をやはりBNFL委員会に提出した。
 このBNFL委員会を通産省は当初、4月末までの3回で終える予定でいた。イギリス政府代表が5月に再訪する予定のため、適当にお茶を濁して間に合わせるつもりでいたのであろう。ところが、現在までに3月21日に第1回、4月20日に第2回が行われたものの、第3回目は目途さえ立っていない。この背景には、イギリス国内状況が非常に不透明になっていることがあると思われる(後述)。
 さて、東電MOX燃料の扱いとBNFL委員会審議との関係などについて、資源エネ庁原子力発電安全企画審査課の市村課長補佐(総括班長)は、次のように答えた。
▼1.BNFL委員会は当初3回程度で考えていたが、「いまは先生方にゆだねられています」。第3回目は未定だが、そこで具体的な検査制度が審議されるはずで、通産省としてはその結論を受けて新たな制度を考え、「基本的に」それに従って検査を進める。
この考えは、原子力開発長期計画策定会議第2分科会(近藤駿介座長)の6月1日付け報告内容とほぼ付合している。プルサーマルは計画どおり推進すること、その際電気事業者は、問題が再び起きないよう品質保証体制の再点検をせよ、というものである。
▼2.福島T−3については、輸入燃料体検査の申請がすでに昨年にこれまでの制度に基づいて出されており、「一般論でございますが」このような場合は、制度が変わったからと言って新制度が適用されることはない。「仕組み上はいまでも判断できます」。「ただまあ実際は、委員会の議論もあることなので、完全に独立ということでできるかなあ、と個人的には思っております」。という官僚風言い回しで、BNFL委員会の審査待ちの姿勢を表明した。
▼3.柏崎・刈羽3号については、まだ輸入燃料体検査の申請も出されていないことなので、新制度ができれば当然それに従って審査するとのこと。
▼4.コジェマ社製MOX燃料については、それをどうするか、まさにそのために、BNFL事件の反省に立ってBNFL委員会がもたれているわけで、そこでの結論に応じて考えるというのが回答。実際は、BNFL委員会が審査中なのに、製造の方はお構いなしに続けられているのである。
▼5.東電のMOX燃料に関するデータそのものは入手していないが、東電報告書については、適切な品質管理が行われており、再調査など必要ないの一点張りであった。
▼6.そこで、「東電のMOXペレットには、関電のような植木鉢型がないことを通産省は確認したのか」と質問。すると、「関電のペレットが植木鉢型をしているという何か証拠でもお持ちですか」ときた。通産省が関電の植木鉢型のことを初めて聞いたのは今年3月に新聞に出てからだという。福井県は昨年9月に関電から報告を受けているのにおかしいではないか。測定点を中心から3ミリのところから2ミリに変更したこと、両端が削られているのでそこを避けたためと、関電から聞いたとのこと。データには異常がないから問題ないと判断したそうだが、中心部しか測っていないのだから異常なしで当然。これでは関電の言いなりで、いまだに去年のまま何の反省もなく、何も変わっていないではないかと我々が言い立てたところで時間切れとなった。

2.BNFL委員会をめぐる通産省の矛盾
 このように、MOX問題をめぐる現在の焦点は、BNFL委員会でどのような審議が行われ、どのような制度的方向が打ち出されるかにある。その第1回委員会に通産省が提出した報告(資料7)では、昨年のBNFL製MOX問題について、関電が報告を怠ったことを非難し、通産省独自の検討も必要であったかもと反省している。ところが、目の前の東電MOXについては、東電がデータを出さなくても何も問題なく、通産省として独自の検討など必要なしという態度で、明らかに矛盾している。事業者がデータを出さないことに目をつぶったまま、BNFL事件の反省に立った何らかの独立性ある審査体制を築くことなど原理的に不可能である。せいぜい、通産省の技術顧問の意見を聞くというプロセスをひとつ加える程度の改善しか考えていないのであろう。
 また、通産省はその第1回委員会に提出した見解の中で、関電のロットP824の品質管理データ(抜取検査データ)には統計的疑義があると技術顧問から昨年秋に指摘されたので、輸入燃料体検査にそのデータを使用しないことにしたと、臆面もなく述べている。この疑義ありとの指摘をこれまで隠していたが、疑義があるなら燃料の使用を中止するよう関電に指示するのが役目ではないのか。この異常な姿勢がいまもまだ生きているのである。我々が今回BNFL委員会に出した要望書では、この点をくわしく批判している(美浜の会のホームページを参照されたい)。
  
3.MOX燃料返還問題に関する福井県知事の発言
 今年5月10日の福井新聞は、栗田知事の9日定例記者会見での発言を次のように報じている。「燃料の返還について『すぐ返還されなくても、見通しがついた段階とか、いろいろなケースがある』として、微妙な言い回しながらも、返還の方向性が固まれば、問題の燃料が実際に返還されなくても、別の新燃料の装荷があり得るとの考えを示唆した」。4月段階の発言よりは後退したと受け止められている。ただ、今後示される関電と国の最終報告では、▽不正の経緯、▽再発防止策、▽新たな燃料の加工法の3点について明確な結論が出るよう知事は求めている。コジェマ製燃料はすでにほぼ加工を終わっているのに、「新たな加工法」とは何を意味しているのだろうか。
 いずれにせよ、この後退は何かの事情の変化を反映しているに違いない。考えられる第1は、柏崎・刈羽3号用燃料との関連である。地元新潟県の新聞報道によれば、この炉のMOX燃料は来年2月ないし3月に装荷される予定になっている。そのためには年内に輸送して来なければならない。はたしてこの炉の燃料が単独で輸送されるということがあり得るだろうか。恐らく無理で、前回のように2艘で互いに護衛しあいながらということになるだろう。そうなると、ペアを組む相手が必要になる。その相手とは、関電のコジェマ製MOX燃料しか考えられない。この燃料を年内に高浜港に迎え入れるためのアドバルーン、これこそが栗田知事発言の真意ではないだろうか。
 もう一つの大きな状況変化が、MOX燃料返還先のイギリスで起こっている。はたして燃料は実際に返還され得る状況にあるのか。それを次にかいつまんで見ておこう。

4.イギリスBNFL社をめぐる状況の地滑り的変動
 MOX燃料データ不正を行ったBNFLスキャンダルの後始末として、NII(原子力施設検査局)は2月18日にBNFL社に勧告を出し、2ヶ月以内に答えるよう指示していた。それに対する回答がちょうど2ヶ月目の4月18日にBNFL社から公表された。ところが、その報告の中では15個の勧告に対して完全な回答は3個しかなく、残りは7月末までに提出すると書かれている。これは命令違反ではないのか。提出した分の回答を見ると、ほとんどただの形式的な作文に過ぎないのに、どうしてすべてについて作文しなかったのだろうか、不可解である。
 実はいまではBNFL問題は、NIIの勧告にどう答えるか、MOX工場のあり方をどうするかという範囲をはるかに越えてしまっている。BNFL社の存続自体が危ういものになっているのである。この動向について我々はすでに、パンフレット「BNFLスキャンダル」を発行し、その後の動向も美浜の会ホームページで紹介している。それでここではごくごく最近の動きだけを簡単に指摘しておきたい。
@BNFL再処理工場の契約の1/3を占めている英国エネルギ−社が、再処理事業から手を引くことを決定した。
ABNFLは老朽8機のマグノックス炉のうちの6機を閉鎖し、その燃料の再処理工場を閉鎖することを、5月23日に発表した(例えば5月26日付ガーディアン紙)。
BBNFL社で新たに90億ポンドの負債が明らかになり、負債は全部で360億ポンドにのぼって破産に直面している(5月28日付サンデー・テレグラフなど)。
C6月26日〜30日にコペンハーゲンでOSPAR会議が開かれ、そこでアイルランドとデンマークがBNFLとラ・アーグの再処理工場を閉鎖するよう求める決議を出すことになっている。5月26日付ワイズの見解によれば、この決議に確実に賛成する国はいまのところ、当の2カ国以外にフィンランド、アイスランド、ノルウエイ及びスエーデンの4カ国合計6カ国である。条約加盟国16カ国中少なくとも12カ国が賛成に回るべきだとワイズは言う。そうなれば、イギリスとフランスには拒否権が認められているものの、実際に行使することはできないだろうと予測している。
 多くの状況は、BNFLが再処理事業から撤退せざるを得ない方向へとますます日毎に進んでおり、そうなるとMOX事業からも撤退せざるを得ないようになる。このような地滑り的状況をつくりだした契機が、まさに福井と関西の裁判闘争にあることをイギリス人ははっきりと認めており、それだけ我々は責任を感じている。
 このような状況でBNFLは、はたして高浜4号サイトにある燃料を現実に引き取るだろうか。返還問題はいっそう不透明になりつつある。また、引き取る場合、英国政府はルートの国々の了解を求めるために頭を下げて回ることも必要となり、地に堕ちた姿を世界にさらけ出すことになるが、これも引き取りを躊躇させることになる。

5.運動の課題
 MOX燃料は、ウラン燃料と違ってプルトニウムが混ざった燃料であり、まさにそれゆえに製造も検査も困難であり、そのことが製造会社の経済性を脅かし、それが不正の基礎となっている。この性格がBNFLスキャンダルを通じて明らかになった。規制当局である通産省が輸入燃料の安全性を独自に判定することは原理的に可能とは思えない。なによりも、その判断に必要なデータが公開され得ない。輸入MOX燃料のもつこのような性格が、東電MOX問題を通じていっそう明らかになった。データが公開されず安全性が保証されないならその燃料は使うな、これが運動の合い言葉とならざるを得ない。データ非公開のままで検査の改善などあり得るのか、この問いをBNFL委員会に対し徹底して投げかける必要がある。
 東電MOX問題に対しては、すでに述べたように、現にこの問題に取り組んでいる広範な地域の15名が市民検討委員会を結成して取り組んでいる。新潟県では4月29日に全県的な集いが長岡市でもたれて「みどりと反プルサーマル新潟県連絡会」が発足し、アピール「県民のみなさまに呼びかけます」を発した。その後「プルサーマルを考える柏崎刈羽市民ネットワーク」は、新聞への意見広告を出してデータ非公開をやり玉に上げ、市民へのアンケート調査も公表した。その調査では、プルサーマルは中止すべきが53%、福井・福島の実施状況を見てからが36%を占め、できるだけ早く実施はわずか11%しかない。
 九州では、「九州電力とのプルサーマル公開討論会を実現させる会」が5月28日に佐賀市で総会を開いて発足した。これは各県ごとに九電との公開討論会を行っていくという運動で、すでにすべての県に実行委員会がつくられている。佐賀、福岡、宮崎県では複数の地域に実行委員会がつくられている。今後は、8月26日の合宿で理論固めをし、翌27日の第2回総会で具体的な方針を打ち出そうとしている。
 関西では、関電との公開討論会を行う約束になっているがまだ実現していない。そこでは、まず第1に、関電が起こしたスキャンダルについて住民・市民にどう詫びるのかが問題になる。反省は、BNFLと完全に手を切ることで具体的に示されるべきである。とりわけ関電の使用済み燃料再処理が引き起こした大西洋の海洋汚染に対し、OSPAR会議でやり玉に上げられる前に、再処理契約を破棄すべきである。コジェマで次の燃料を勝手につくっているが、これも中止すべきである。これら全体を問題にする中で、プルサーマルの中止を迫っていこう。 
次のもんじゅ裁判を準備する中でも、プルサーマルとの関連が必然的に問題になってくる。いま、各地の運動は、MOX燃料の安全性が保証されていないことをひとつひとつ丹念に問題にし、プルサーマルの理不尽さを具体的に認識し、それらを通じて、プルサーマルを絶対に実施させないという強い確信をもって進められている。全国の運動は互いに連携を強めながら、プルサーマルを確実に追いつめていこう。



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