2000年7月7日

関電最終報告(6/14)及び通産省BNFL問題検討委員会報告(6/22)を受けて

MOXスキャンダルにふたをしたままの検査改善策などあり得ない


           グリーン・アクション
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会


昨年9月に発覚したBNFL社のMOX燃料データ不正事件(BNFLスキャンダル)に関して、政治的に決着をつけるために形式を整える過程がこの間急速に進行した。6月14日に関西電力が調査最終報告書を通産省と福井県に提出し、翌々日の16日に通産省の第3回BNFL問題検討委員会が開かれて輸入MOX燃料体検査の改善案をまとめ、その報告が6月22日の原子力安全委員会に提出されて「改善策」(以下、通産省の改善策と称する)となった。6月末の関電などの株主総会までに決着を付けようと急いだ結果である。
 しかし、BNFLスキャンダルは同時に、関西電力と通産省のスキャンダルでもある。まさにそのことが自らの手で何も解明されず、ふたがされたままになっている。これでは、嘘をつき国民をだましてきた関西電力と通産省の体質は何も変わらない。関西電力の報告書内容や通産省の「改善策」は実際には改善策になってはいない。今後の国内MOX燃料の装荷は当然認められるべきものではない。


1.通産省の「改善策」では改善にならない
改善の対象となる主なものは、(1)MOX燃料について通産省の行う輸入燃料体検査、(2)事業者による品質保証活動である。そのうち、通産省が担当する輸入燃料体検査制度は「品質保証システムが健全に機能していることを前提」として成り立つことになっている(BNFL問題検討委員会報告「おわりに」参照)。検査制度の基本的な改善点は、「製造前に品質保証体制及び設計を確認」することなど確認や報告の時期をずらすこと、及び「第三者機関を活用すること」を求めることにとどまっている(注1参照)。「第三者機関」とはいうものの、それは電力会社が選び依頼するものである。結局この検査は従来どおり、「品質保証体制」や「設計」を確認する範囲にとどまっていて、具体的なデータ分析に立ち入ることはないため、不正の有無を直接判断できることは原理的にあり得ない。すなわちこれでは、今回起こった不正問題が今後は起こらないという保証にならない。通産省の「改善策」では、検査が有効となる前提として重要な位置にある品質管理活動は、基本的に事業者の責任で行われるものと位置づけられている。このことが実際に何を意味しているかは、いま問題になっている東京電力のベルゴニュークリア製MOX燃料の扱いを見れば明らかである。通産省は、MOX燃料の検査に必要な具体的なデータの提出を基本的に求めようとはしていないのだ。燃料データに不正がないかどうかの判断を、ほぼすべて東電にまかせている。また、東電が依頼したベルギーの「第三者機関」AVI社には、ベルゴニュークリア社の息がかかっていた。その発生母胎であるベルギー国立研究所の資本の半分はベルゴニュークリア社からのものである。
 以上のように、今回の検査「改善策」では不正の有無の判断ができるようにはならないし、それはもともと不正の有無の判断を目的としたものではない。輸入燃料に関するデータが公開されない現行の枠組みでは、その審査・判断をすること自体が原理的に不可能である。そもそも今回のBNFLスキャンダルは、BNFL社員の内部告発がなければ明るみに出ることはなかったであろう。いまのままでは、これまで抱えてきた問題の性質は今後も基本的に変わらないのである。


2.今回は何が問題になったのか
今回のMOX燃料データ不正問題では、何が本質的に問題にされるべきなのか、その目的意識そのものが原点に立ち返って改めて検討される必要がある。不正の事実を解明する上で、「関西電力の調査体制や能力に問題があったと考えられる」とBNFL問題検討委員会報告は13頁で述べているが、はたして調査体制や能力の問題だったのだろうか。
 焦点は決してそのような問題にあったのではない。それ以前の問題にあったのだ。関西電力のBNFL社製高浜4号用MOX燃料が問題になった時点では、すでに高浜3号用MOX燃料で不正が明るみに出されていた。そして高浜4号用データは明らかに統計的異常を示していた。それなのに関電と通産省は、高浜4号用MOX燃料については不正は決してあり得ないとする姿勢・立場をとった。わざわざその姿勢・立場をとった動機・目的は何なのか、ここに最大の問題がある。関西電力は、すでに高浜3号でBNFL社から痛い目に遭わされていたにもかかわらず、高浜4号用燃料では一貫してBNFL社を全面的に信頼するという立場をとった。また、通産省は基本的にこの立場を擁護し、コピー以外の不正を行う動機などあり得ないとの立場をとった。事実、昨年11月に通産省原子力発電安全管理課の坂内課長補佐は、この立場を我々に力説した。そして、結局最後まで関電と通産省は、不正に関する何らの特別な問題意識をもとうともせず、独自の調査努力を何もしなかった。
 福井と関西の212名の原告が高浜4号用MOX燃料データに不正があるとして提訴した裁判で、不正を認める判決がでる見込みが高まったために、またNIIが自らの統計的調査でロットP824とP783という新たな不正を見い出したために、さらにBNFLが独自に依頼した調査でP814という新たな不正を発見したがために、通産省と関電はどたんばになってそれらの不正を認めざるを得なくなっただけである。しかも関西電力は、BNFL社だけを信頼して、NIIから提起された不正を今年1月になってもまだ頑なに認めようとせず、今年3月1日になってようやく渋々認めたのであった。
 要するに関西電力も通産省も、単に調査能力や努力が至らなかったというのではけっしてなく、高浜4号用には不正があり得ないという立場を積極的に堅持して、NIIからの指摘を隠し、我々市民の正当な疑問をも抑え込んだのである。そして後には、このような姿勢をとったことが誤りであったことは、通産省も関電も言葉では認めた。しかし、なぜこのような立場・姿勢をとったのか、その動機と目的は何なのか、このことが本来は事実に即して徹底的に分析され、解明されるべきであるのに、関電の最終報告書にも、通産省のBNFL問題検討委員会報告にも、この最も肝心な本質的に重要な問題が完全に抜け落ちているのである。


3.自己防衛で人々の安全を犠牲に
通産省と関電という当事者の特殊な立場を離れて、一般市民の立場から見れば、問題はきわめて単純明快である。もし彼らが昨年秋に高浜4号用MOX燃料データの不正を認めていたとすれば、彼らはメンツをつぶすばかりか、例えばすでに高浜原発サイトに置かれている不正燃料をどうするかなど、いま現在問題になっているようなすべての問題がその段階で表面化したはずである。その光景が目に浮かんだからこそ、自分たちのメンツと利益を守ろうとする意識が強く働いて、不正を隠す方向を選択したに違いない。普通の人なら誰でも当然にこのような見方をするであろう。
 このような自己保身・自己防衛の意識は誰にでもあるものとは言え、ことが原子力となるとそれではとうてい済まされない。彼らの自己防衛行為はすなわち、人々の安全を犠牲にして省みない立場をとったことを意味している。この点、BNFL問題検討委員会報告の「おわりに」でも、次のように指摘されている。「そもそも電気事業者は、自らが高い品質保証システムを堅持するとともに、これを通じてメーカの品質保証システムの健全性を確認することにより、原子力発電所の安全運転を確保する責務を有している。電気事業者は、・・・この責務を的確に果たすために不断に努力することが必要である」と。すなわちこの指摘からすれば、品質保証データの不正を隠したりすることは、原発の安全運転を確保する責務を放棄したことになる。関電はそれほどに重要な違反行為をしたことをまず第1に深く反省し、この点で社会一般に対して責任を表明し、謝罪しなければならない。
 ところが、関西電力の最終報告書では、この責任らしきものについては「はじめに」で次のように触れているだけである。「当社を信頼して高浜4号機へのMOX燃料装荷に理解と強力をしていただいた国、地元、社会にご迷惑をお掛けするとともに、重要な原子力政策であるプルサーマル計画がスタートでつまづく結果となり、社会の信頼を大きく失うこととなった」。地元福井県にはプルサーマルに疑問をもっている県民が半数はいるのである。ところが、関電が謝っているのはプルサーマル推進の特殊な勢力だけであり、一般の住民やその生活・生命には何の関心も示していない。最後の文章はまさに自己防衛意識の表明に他ならない。要するに人々の生活や生命に対する責任感が無いからこそ、自己防衛意識だけでことを済まそうとするのである。


4.関電報告書には自己分析が皆無
再度確認するが、今回の事件で本質的に重要な点は、すでに不正が発覚しているのに、別の不正を隠す方向で関電も通産省も積極的に働いたことにある。従って関電の最終報告書でも、最も注目すべきは、「4.4 データ不正疑惑発生後の当社及び三菱重工業の対応状況調査」の結論部分「4.4.5 当社及び三菱重工業の対応における問題点」(42頁)にある。ところがここの記述はわずか3分の2頁しかなく、しかもその内容がまるで木で鼻をくくったように素っ気ないものである(注2参照)。なぜ調査が不十分になったかの動機や組織体制における欠陥など、実態に即して具体的に暴き出すべき内容は何も書かれていない。それもそのはず、この事件に直接責任を負っているはずの原子燃料部長本人が調査委員に加わっているのだから、「自分が敷いている座布団はあげられない」という諺どおりになるわけだ。
 また同じ箇所の記述で、ロットP783に関してNIIが統計的に疑義をもっているという情報をBNFLから得ていながら、BNFLの結論を信頼して通産省に報告しなかったという件については、次のように「反省」してみせている。「当社に不都合な情報であっても、その情報が通産省の判断に影響を及ぼす可能性のあることも思量し、通産省をはじめ関係箇所に迅速に連絡すべきであった」。通産省の判断に影響があるかも知れないと自分で「思量」して、報告ではなく「連絡」すべきであったとは、通産省を規制当局と認めていないことになる。
 この点についてBNFL委員会報告書では15頁で次のように指摘している。「規制当局に対して安全に係わる事項の報告を適時に行うことは許可を受けて原子力利用を行う原子力事業者の安全管理活動の基本の一つであり、このような報告の不備は、安全規制当局にとって見逃すことのできない重大な問題である。このため、規制当局は関西電力に対して、当時の責任の所在を明らかにした上での徹底した再発防止策の実行を求めるべきである」。しかし、関電の報告書には、ここで指摘された「当時の責任の所在」などはまったく何も書かれていない。49頁から始まる「再発防止対策」にも、この問題についての「徹底した」どころかどんな再発防止策も書かれていない。
 これでは最も本質的な点で、関電は何も反省していない。先にも述べたように、輸入MOX燃料の安全性については、規制当局の検査は事業者の品質管理がまともであることを前提にしているのであり、従って安全性は基本的に事業者の姿勢によって担保されるしかないのである。その関電の姿勢に何も反省がないのでは、いくつか改善策を並べてみせたところでおよそ信頼できるものにはならない。BNFL問題検討委員会報告書22頁では、「なお、関西電力が再度MOX燃料の輸入燃料体検査申請を行うためには、通商産業省が同社の品質保証体制が申請資格を有するに足るよう改善されていることを確認する作業が必要と考える」と書かれている。通産省がまともなら、関電の報告書に書かれた姿勢のままで、まさか資格を認めることにはならないだろう。


5.自己責任など最初から眼中になし
関電の今回報告書では、最も肝心な調査の目的が明確にされていない。目的は通常なら「はじめに」で規定するはずだがそこにはなく、12頁の「調査結果」の冒頭にそれらしいものがあり、「今回のデータ不正の実態を解明するとともに、品質保証・品質管理の問題点を抽出し、さらにそれらの背景を明らかにすることによって、有効な再発防止策を導き出すこと」と書かれている。ここで「データ不正の実態を解明する」と言っているものの、報告書に書かれている内容から判断すると、それはもっぱらBNFL社の実態のことであるらしい。従って、この目的規定では、関電自らの欠陥を分析することは完全に除外されている。これでは、仮にBNFL社の不正を行う体質が明らかになり是正されたとしても、関電の体質の欠陥は不明のままなのだから、例えばコジェマ社の燃料の安全性を関電が保証したとしても、誰もそれを信用できないままということになる。そもそも今回関電が社内に調査委員会を設定したのは、自らの体質の欠陥を明らかにして改めるためではなかったのか。
 関電は3月1日に中間報告書を公表したが、それから最終報告を公表するまでに3ヶ月半もかけている。しかし、この間新しくやったことはほとんど2点だけだ。一つは、ネジなどの異物が入れられた事件の犯人探しであるが、これはBNFL社の報告を鵜呑みにして証拠もないのに、すでにデータ不正で解雇された人物のせいにしてしまった。このほとんど無駄な記述のために6頁も使っている。もう一つは、再発防止対策を付加したことであり、新たな形として「品質・安全委員会」を今年4月1日から設置した。しかし、革袋ばかりを新品にしても、中に入れるのが相変わらずの古い腐った酒のままでは、何の改善にもならない。


6.BNFL社とは手を切るべき
先にも述べたように、関西電力の最終報告書では自分自身の分析を何もせずに、BNFL社の問題点だけをあれこれ記述している。きっとBNFL社の改善に期待を寄せているからこそであろうと考えられる。それならば、NIIが2月18日に発表した15項目のBNFL改善勧告のすべてにBNFL社が答えるまで、関電は最終報告書の作成を待つべきであった。事実、BNFL社が4月18日付けで出した報告書では、勧告への完全な回答は15項目中わずか3項目しかなく、残りは7月中に出すことを表明しているのである。それともそれを待たずに評価をしたのは、BNFL社とは手を切る方向で考えているためだろうか。しかし肝心のBNFL社との契約をどうするのかについて関電の報告書は一言も触れていない。
 このBNFLの信頼性に関しては、通産省のBNFL問題検討委員会報告の「おわりに」で次のように指摘されている。「こうした事態の発生は、品質保証活動の責任者による現場管理が不十分であるなど品質保証活動が脆弱であることの証左であり、このような企業は原子力分野で事業を実施する資格がない。また、発注者(電気事業者)、受注者(国内メーカ)には、調達先である海外メーカの品質保証システムの脆弱性を見抜き、これを是正・強化していく責務があることを忘れてはならない」。この文章では、明らかに「このような企業」としてBNFL社を名指しで指定している。つまり、BNFL社の品質保証システムは脆弱であるとはっきり指摘されている。それゆえ関電は、発注者としての責務を自覚して、BNFL社とは直ちに手を切るべきである。
 他方、関電などの放射能が北東大西洋の海洋汚染を引き起こしていることが、いままさに大きな問題になっている。この海洋汚染を問題にするOSPAR会議(オスロ・パリ委員会)が6月末にコペンハーゲンで開かれ、イギリスとフランスの再処理を止めさせる方向の決議を6月29日に、賛成12(デンマーク、ベルギー、フィンランド、ドイツ、ノルウエー、オランダ、スイス、ポルトガル、スペイン、スエーデン、アイスランド、アイルランド)、反対0,棄権3(イギリス、フランス、EU)、欠席1(ルクセンブルグ)で採択した。イギリス及びフランスの再処理会社と契約を結んでいる5カ国(ドイツ、スイス、スエーデン、スペイン、オランダ)もすべて決議賛成に回った。BNFLスキャンダルに端を発し、その後さまざまな問題が浮上したBNFLをめぐる新たな状況が、ついに圧倒的多数の国々を突き動かしたのである。
 このOSPAR決議以後の新たな状況、特にドイツの原発からの撤退方針の中で、いよいよ日本だけがヨーロッパの海洋汚染を一手に担うことになる。何という恥ずべきことであろうか。関電を初め日本の電力会社は、イギリスとフランスとの再処理契約を直ちに破棄すべきである。


7.MOXスキャンダルの教訓を踏まえ、既製のMOX燃料も徹底検査せよ
さて、我々の当面の差し迫った関心事は、東電のベルゴニュークリア製MOX燃料をどうするのか、関電のコジェマ社製MOX燃料をどうするのかにある。福島1−3号に装荷予定のベルゴニュークリア社製は、現在福島1−3原発サイトに置かれており、すでに輸入燃料体検査の申請も出されている。柏崎刈羽3号に装荷予定のベルゴニュークリア製はまだベルギーに置かれている。関電のコジェマ社製の16体については、MOX燃料の製造はすでに終わっており、関電はこれを廃棄したBNFL社製の代わりとして、8体ずつに分けて高浜4号と3号の第1回目分に使いたいとの意向を示している。恐らく柏崎刈羽用と高浜用をペアにして、年内にヨーロッパから日本に輸送するつもりでいるのであろう。
 ところが、そしてこれは大きな問題なのだが、今回のBNFL問題検討委員会報告書では、これら「既に製造されたMOX燃料」については、基本的に検査の新制度を適用しないと表明している。ただし、「そのようなMOX燃料の検査申請に際して申請者が製造当時の品質保証体制について第三者機関を利用して再確認するなど新制度の趣旨を踏まえて品質保証活動の妥当性についての説明を行うことが期待される」と述べている。これを善意に解釈すれば、これらの燃料に対しても事実上部分的にせよ新制度を適用するよう事業者に勧告しているとも受け取れる。しかし、現実に東電がとっているデータ隠蔽的態度を通産省が容認していることを見れば、実際には何も期待することができない。
 それでは、いったい何のために、通産省はベルゴニュークリア製MOX燃料の再調査を指示したのか。コジェマ社製のMOX燃料についても、ベルゴニュークリア製に対してと同様に、再調査を指示すべきだと我々が5月26日の通産省交渉で主張したときに、通産省原子力発電安全企画審査課の市村課長補佐は「だからこそ、そのためにBNFL委員会で新制度を検討しているのです」と答えた。この回答は、コジェマ社製に関しては当然新制度を適用するという意味にしかとれない。
 最初に指摘したように、通産省が行う検査については、今回の「改善策」では本質的に何も改善されない。しかもその改善策さえ、すでに製造を終えたMOX燃料には適用しないことをわざわざ表明している。これでは、目前にある既製のMOX燃料の安全性は何も保証されないことになる。いったい何のためにBNFL問題検討委員会は、BNFLスキャンダルを調査し審議してきたのか。BNFLスキャンダルへの対処の仕方が間違っていたこと自体は通産省も認め、ベルゴニュークリア製MOX燃料の再調査をわざわざ東電に指示したではないか。これはいったい何のための指示だったのか。
 BNFLスキャンダルの教訓を本当にまともに捉えるのなら、目の前にある既製のMOX燃料が安全かどうかをまず第1に具体的に確かめることに全力を注ぐべきである。それを棚に上げたままで、未来の安全性を抽象的に語ることなど何の意味もない。まず既製のMOX燃料をこそ、実態データに基づいて徹底検査すべきである。このことがいま現在の最も差し迫った問題である。


8.製造・検査の困難なMOX燃料の使用はやめるべきだ
BNFL問題検討委員会報告書では、きわめて不十分ながら12頁でMOX燃料の特徴を記述しており、その中で「燃料検査の容易性の観点からはウラン燃料とMOX燃料との間には大きな差がある」と認めている。「MOX燃料に関しては、従業員の被曝・健康管理、臨界管理、計量管理及び核物質防護の点で、ウラン燃料とは比較にならない厳重な管理が求められる。このため、製造工程、検査工程全体がグローブボックス等によって周辺環境から隔離されるとともに、焼結・切削加工されたペレットについては速やかに品質検査を行い燃料棒に挿入した後、端栓の溶接が行われ、燃料棒の形で厳重な品質管理が行われる。ペレット製造工程での加工量が数十キログラム単位で行われるMOX燃料については、これがトン単位で行われるウラン燃料に比べ、ロット単位の母集団が小さくかつ多種になる結果、検査頻度そのものも高くなる」。
 ここで指摘されているMOX燃料の製造・検査の困難があったからこそ、そのことがまさにBNFL社での不正の基盤となったのである。そしてこの基盤はどのMOX燃料製造会社にも普遍的に存在している。ベルゴニュークリア社やコジェマ社でもやはりこの事情が存在するがゆえに、その基盤が不正の動機を生み出していないという保証はない。また、ここで記述されている事情はすなわち、例えばプルトニウム富化度や均一度の検査がきわめて困難であることを事実上認めている。
 このような製造・検査の困難な燃料を敢えて使うことは止めるべきである。BNFLスキャンダルの現実に照らして見れば、その製造・検査の困難性のゆえに、それらの過程でデータの不正が行われたのである。それ故にこのスキャンダルを受けた後では、関係者は、従来のようにそのような不正がないと頭から決めつけるだけでは決して済まされない。もしどうしてもMOX燃料を装荷したいというのであれば、従来のやり方とは違って、すべての資料を全面的に公開して、燃料が安全であることを社会一般に証明しなければならない。現在はまさにそのような状況にあることをしっかりと認識すべきである。

 私たちは、ベルゴニュークリア製MOX燃料について東電と通産省が現実にとっている態度を見るとき、BNFLスキャンダルの教訓がまったく何も生かされていないどころか、BNFL社製燃料に抱いたよりもいっそうひどい危険性をそこに感じるのである。BNFLスキャダルを積極的に容認し隠そうとした関電と通産省自らのスキャンダルに対する分析も反省もないままでは、検査の「改善策」だけを形式的に提示しても、それは実際には何も改善にならないことを再確認したい。MOX燃料の装荷はけっして認められるべきではない。


注1.通産省のBNFL問題検討委員会報告書(6月22日)が23頁で記述している輸入燃料体 検査の具体的な改善点は 以下の通りである。

<すべての輸入燃料体について>
(1) 品質保証に関する説明書を、輸入燃料体検査申請の正式の添付書類に位置づけること
<MOX燃料体について>
(2) 海外工場におけるMOX燃料の製造は、当該燃料の装荷に係る原子炉の設置(変更)許可取得後に着手させること
(3) 海外工場における輸入MOX燃料の製造については、あらかじめ是正措置を講じさせることが可能である段階で、燃料の設計に関する書類並びに品質保証計画に関する書類を提出させること
(4) 輸入燃料体検査の対象であるMOX燃料体が、当該地域から日本に向けて輸送開始される前に、試験結果及び品質保証活動の結果に関する書類を提出させること
(5) 当分の間、電気事業者が海外工場の品質保証活動の妥当性の確認等を実施する際に、現地の第三者機関を活用しその信頼性を高めさせること


注2.関西電力の最終報告書(6月14日)42頁の全文は以下の通りである。

4.4.5 当社および三菱重工業の対応における問題点
BNFL製MOX燃料のデータ不正疑惑が発生した後の当社および三菱重工業の対応において、つぎのような問題点があった。
(1) データ不正の手口をインタビュー結果に基づき検査時間の短縮を目的とした全体コピーに絞り、行ずらしコピーの評価も2行ずらしまでの調査でもって、22ロット以外は問題ないと判断した。そのため、別のタイプの不正を発見することがきなかった(4.4.1説参照)。
(2) P824は、データの一致数が比較的多く疑義があったにもかかわらず、検査員の証言に重きを置いて問題ないと判断した(4.4.1節参照)。
(3) 当社は、最終報告書を提出する前に、高浜4号機用燃料のP783についてもNIIが統計的疑義をもっているとの情報をBNFLから得たにもかかわらず、BNFLの問題ないとの判断を理由に、通産省には連絡しなかった(4.4.2節参照)。当社は、最終報告書提出後もNIIの統計分析を入手したが、非開示を理由に、通産省に連絡しなかった (4.4.3節参照)。

上記(1)、(2)については、いずれも検査員のインタビュー結果、証言に基づき評価し、これで不正の全容が分かったと信じ、高浜4号機用燃料には不正はないと判断した。検査員のインタビュー結果、証言にとらわれずに品質管理実態を十分調査することが必要であった。また、(3)については、当社は、NIIが抱いた疑義について、もっと技術的解明を行うとともに、担当箇所のみで判断するのではなく、全体的な検討を行うべきであった。さらに当社に不都合な情報であっても、その情報が通産省の判断に影響を及ぼす可能性のあることも思量し、通産省をはじめ関係箇所に迅速に連絡すべきであった。
                                                                      以上
<連絡先>
グリーン・アクション(代表:アイリーン・美緒子・スミス)
〒606-8203京都市左京区田中関田町22-75-103
TEL:075-701-7223; FAX:075-702-1952
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会(代表:小山英之)
〒530-0047大阪市北区西天満4-3-3星光ビル1階
TEL: 06-6367-6580; FAX:06-6367-6581



トップ