通産省BNFL社製MOX燃料データ問題検討委員会への要望書


                                                                2000年5月26日

通商産業省
電気事業審議会基本政策部会
BNFL社製MOX燃料データ問題検討委員会

                      近藤駿介委員長ならびに委員のみなさまへ

 私たちは、貴委員会(以下で、BNFL問題委員会とも称す)に対し、すでに4月19日付けで要望書を提出し、その中で今回の問題に対して通産省と原子力安全委員会のとった事業者と癒着的で秘密主義的な態度を具体的に指摘した上で、BNFL問題委員会がまず通産省と原子力安全委員会の監督責任を明らかにされることを要望しました。
今回の不正問題を通じて明らかになったのは、単に不正という事実だけでなく、MOX燃料の製造・検査過程にはウラン燃料にはない本質的な困難がつきまとい、それが経済性を脅かすことが不正を行う基盤となっているということです。そのMOX固有の困難は、@異質な2種類の粉末を混ぜること、Aプルトニウムが臨界事故を起こす危険から湿式研削ができないためにペレット外径のバラツキが大きいこと、B強いガンマ線のため検査が困難であること、Cプルトニウムなどの出すアルファ線がヘリウムガスとなってペレット内部に貯まることなどです。MOX燃料問題は、このような安全性の本質に係わる問題を抱えているために、その検査体制をどうするかの検討には、厳しい姿勢を貫くことが絶対に不可欠であると考えます。
 そこで今回は、とりわけ重要な次の2点について、改めて私たちなりに問題点を整理した上で、これらに対しBNFL問題委員会が原則的な姿勢で臨まれることを要望したいと思います。 第1は、通産省がMOX燃料の安全性について行う審査及び直接の検査、そこにおける独立性及び判断の根拠の問題です。第1回委員会に通産省が提出した資料(資料7)の最初に「通産省は、燃料の健全性については厳正に輸入燃料体検査を行い総合的に判断するとしつつ、関西電力の報告内容については妥当と判断した」と書かれているように、通産省が行う判断には、関電報告内容の審査と自らが行う輸入燃料体検査の両方があります。その際通産省は、どのデータに基づいて健全性を調査するのか、健全であるという判断は何に根拠をおいて行うのか、通産省として事業者とは別の独自のデータ・判断の根拠をもち得るのかという原則的な問題です。
 第2は、その輸入燃料体検査の対象となる具体的なデータとして、通産省は、P824について品質管理データには不正の疑いがあったためにその採用をあきらめ、代わりに全数選別データをとりあげると決定していたことです(資料7、1(9))。しかもこの決定については、何らの反省も否定も書かれていないため、今に至ってもまだこの態度が続いていると考えられます。このような内容を臆面もなく記述すること自体が信じられないほどにきわめて異常なことです。このような誰が見ても異常な態度が前提になったままで、いったい委員会として何を審議するというのでしょうか。
これら2点について、私たちの考えを説明した後、それぞれの最後で貴委員会への要望を行いたいと思います。

グリーン・アクション (代表:アイリーン・美緒子・スミス)
〒606-8203 京都市左京区田中関田町22-75-103
TEL 075-701-7223 FAX 075-702-1952

美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 (代表:小山英之)
〒530-0047 大阪市北区西天満4-3-3星光ビル1F
TEL 06-6367-6580 FAX 06-6367-6581


I.規制当局としての独立性について

1. はじめに
第1回BNFL問題委員会で配られた資料(資料4)によると委員会の検討事項として(1)事実関係の整理、(2)問題点の整理、(3)再発防止対策が挙げられている。その中で我々は特に委員のみなさまに(イ)現行の輸入燃料体に関する規制体系、(ロ)昨年9月のデータ不正問題発生後の通産省の対応は適切であったか、(ハ)輸入燃料体に係わる規制においてデータ不正に対しどう対応すべきか、(ニ)品質保証体制を確認できる規制体系になっているかの4点についてしっかりと議論をしてもらいたいと考えている。事実確認をすることにより通産省がこれまで取ってきた姿勢には独立性がなかったのが明らかになる。同時に燃料の健全性の判断について規制当局が独自の根拠に基づいて独立の判断をすることが、原理的にどのようにして可能なるのかが必然的に問題になるはずである。そしてこれらのことを整理した上でなければ再発防止対策についての議論をしても無意味であるように思う。

原子力発電所の安全運転のためには安全設計及び品質保証は欠かすことができない。そのため規制当局は事業者から完全独立した立場で、燃料の健全性を判断しなければならないのである。しかし高浜4号機用MOX燃料に不正疑惑があったにも関わらず、輸入燃料体検査の審査対象となるデータを何にするかを決めていたのは、通産省ではなく事業者自身であったという疑いがある。このことを以下で事実に基づいて明らかにしたい。

2. 輸入燃料体検査にについての事実確認
第1回BNFL問題委員会で配られた資料(資料7)の最初に「通産省は、燃料の健全性については厳正に輸入燃料体検査を行い総合的に判断するとしつつ、関西電力の報告内容については妥当と判断した」と書かれている。この文章から、通産省が行った判断には、関西電力の報告内容についての審査と自らが行う輸入燃料体検査の両方がある。資料7で通産省は「データ等の確認そのものは事業者の責任において行われるべきものである」との基本的な態度を示しつつ、他方では「その妥当性を通産省として評価するため、外部機関を活用するなどにより、独自の分析を行うことも考えられた」として独立の判断を行うべきであったことを示唆している。この通産省の基本的な態度を念頭に置きながら、事実確認の整理をしてみたいと思う。

昨年9月14日、関西電力からデータを流用した疑いがあると報告を受けた通産省は関西電力に対し,「詳細な調査を行うよう」指示したと同時に関西電力による調査が適切に行われるかどうかを確認するため二人の職員を英国BNFL社に派遣した。この二人の職員はイギリス在中、英国原子力施設検査局(NII)の担当者と会い、燃料の健全性について意見を求めた。するとNIIの担当者から「現在日本に向かっている燃料に関わる全てのデータを確認するためには若干の時間、恐らく数週間はかかるだろう」と説明した。燃料の品質を保証するための抜き取り検査データについての重要な情報を受けたにもかかわらず、通産省は9月27日に原子力安全委員会に「現地に派遣した当庁職員を通じて関西電力の調査が適切に行われていることを確認しており、高浜4号機向けMOX燃料の品質管理検査データに問題がないとしている関西電力の判断は妥当であると考える」と報告している。これは関西電力の報告内容の審査についての判断であり、NIIからの情報を考えると規制当局としては無責任な判断である。また通産省は同じ報告の中、原子力安全委員会に対し、「MOX燃料の健全性については、今後、原子力技術顧問の意見を踏まえながら、厳正に輸入燃料体検査を行う」と報告しているが、通産省はどのデータに基づいて燃料の健全性を調査するのか何も明らかにしていない。

第1回BNFL問題委員会で配られた資料7によると通産省は関西電力が最終報告書を提出した11月1日までは輸入燃料体検査を中断していた。そしてその後MOX燃料の健全性を確認するため、「検査手続きを再開し、通産省として申請書類の審査や発電所において現地調査を進めた」としている。しかし通産省がここで言う「申請書類」は何を指しているかが問題になる。つまり、通産省は輸入燃料体検査を進めるにあたって、何に基づいてMOX 燃料が健全であると判断するつもりだったのかが明らかにされなければならない。

昨年の11月8日にグリーン・アクションと美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会は通産省に対し、不正疑惑についての質問書を提出した。その中の質問で、「11月5日の朝日新聞によると、11月4日に行われた福井県安管協で平岡英治原子力発電安全管理課長(資源エネルギー庁)は国の輸入燃料体検査を行う際、関西電力の検査記録や外観を確認すると発言しています。この検査記録とは何を指しているのでしょうか。何を用いて燃料の健全性を確認するか明らかにしてください。特にBNFLから関西電力に出されている品質管理認定書を参考材料にするか明らかにしてください」と聞いている。その回答の文章(添付資料1を参照)において通産省は、「検査記録とは、関西電力(株)による検査記録を指しています。ここで、検査記録として、燃料製造元の品質管理記録認定書を用いるかどうかは、関西電力(株)の判断によります」と答えている。さらに輸入燃料体検査の現地調査が始まってから、福島瑞穂参議院議員の質問書に対する回答(添付資料2参照)において、通産省は輸入燃料体検査の確認検査項目として、「関西電力(株)の実施した検査記録を確認します」と答えている。

本来ならば事業者が規制当局に提出しなければならない資料は事前に決まっているはずである。しかし不正疑惑があったにもかかわらず、通産省は事業者にとって都合のいいデータを審査対象とし、輸入燃料体検査を進めた。BNFLは抜き取り検査をし、その検査結果をもって品質を保証している。そしてそれを品質管理認定書という形で関西電力に提出している。本来ならば通産省はこの品質管理認定書を審査の対象にしなければならないのだが、少なくともロットP824についてはこのデータを使用せず、全数測定データを使うことにしていた。なお、平岡原子力発電安全管理課長は第1回BNFL問題委員会において、「通産省は輸入燃料体検査ということで、関西電力の検査についての記録を確認しています」と報告している。関西電力が実施した外径抜き取り検査というのは40ペレットだけである。もし「関西電力の検査記録」、が関西電力が実施した立会検査記録(添付資料3を参照)のことを指しているとするならばこれは決して「厳正に」行われた輸入燃料体検査とはいえない。

3. この問題に関する委員各位への要望
私たち2団体は委員のみなさまにまず「関西電力の検査記録」とは何を指すかを確認していただきたいと思う。そして通産省になぜ、輸入燃料体検査で用いるデータは事業者の判断で提供されるものに限られるのかを追求していただきたい。さらに現在進行中の東京電力の輸入燃料体検査について、その判断材料となるデータや情報は誰が決めているのかを明らかにしていただきたい。そしてBNFL問題委員会として、このような実態を放置したままで、燃料の健全性を保証できるかどうかを議論していただき、輸入燃料体検査の今後のあり方に国民が納得する結論を出していただきたい。


U.輸入燃料体検査の合否判断に品質管理データを使用しないことにした通産省の判断について

1.はじめに
 ここで問題にするのは、通産省が第1回BNFL問題委員会に提出した資料7の1(3)項の記述内容である。この項(3)の表題「ロットP824に不正はないとする関西電力の判断に対する通産省の評価は、より慎重に行うことが可能だったのではないか」からは、ロットP824に関する通産省の評価判断がやや早計だった点を反省しているかのように見える。しかしその実、この項の内容の本質はむしろ、品質管理検査(抜き取り検査)と全数測定との関連をどう捉えるかにあり、それ故今後の検査のあり方にも影響するきわめて重大な内容を含んでいると思われる。そのため、この問題の経過を事実資料に即して整理し、若干の問題提起をしたいと思う。

2.この項の記述内容の重大性−−抜き取り検査と全数測定
この項の締めくくりは次のように書かれている。「その後(引用者注:関電の最終報告書提出後)、通産省としては、原子力発電技術顧問の意見を踏まえ、輸入燃料体検査の合否判断においてロットP824の品質管理データは使用せず、当該ロットの全数測定データ及び選別機能の信頼性を確認することにより判断することとした。
 以上のような経過にかんがみれば、通産省が11月1日において関西電力の最終報告書の内容を妥当としたことは、やや早計であったと考えられる」。
 この判断の前提には、「原子力発電技術顧問の意見を聴取したところ、ロットP824の品質管理データについては統計的に不正を疑うべきである」とされたことがある。要するに、通産省は本来の品質管理のための抜き取り検査データが信頼できないので、輸入燃料体検査にはそれを使用せず、それに代えて全数測定データなどを使用することにしたというのが結論になっている。不正の疑いを隠したままで、こっそりと全数測定データに切り替えようとしたというこの記述内容には何も反省がないため、この判断は現在でも生きていると考えられる。この判断を当然のこととしたままで、関電の最終報告書に関する自らの判断の仕方を反省して見せているだけである。
 品質管理に責任をもつはずの規制当局がこのような姿勢をとるとは、これはとんでもない発想ではないだろうか。そこで、まず事実経過から確認していきたい。

3.全数測定をめぐる事実経過について
(1)関電の9月24日付け中間報告と9月27日原子力安全委員会への通産省提出資料
前記資料7のこの項目(3)の中で、通産省は次のように記述している。「関西電力は、9月24日の中間報告において、・・・、全数測定データが確認できることから、ペレットの外径は仕様値を満足しているとしていた。この中間報告について通産省は、・・・、妥当と判断した」。
この点を確認すると、関電の9月24日付け中間報告書4頁の3-1-3(1).に次のように書かれている。「自動外径測定の結果によりペレットの選別を行う自動選別装置については、ペレットが外径許容範囲に基づき適切に選別されていることをレーザーマイクロメータの校正記録の確認及び研削前ペレットを用いた試験により、確認されている。したがって、品質管理データに疑義のあるペレットを含む全てのペレットの外径は仕様値を満足しているものと判断した」。
 この記述内容は16頁の3-4調査結果のまとめで、次のように書かれている。「(2)高浜3、4号機については、工程中全数測定記録により、全てのペレットが仕様を満足していることを確認した」。
しかし、この内容は、工程管理を目的とする全数測定がそれなりの役割を果たしていることを確認しているだけだと解釈すべきである。事実、高浜3号機用燃料ペレットについては、全数測定で仕様内にあることを上記のように確認しながら、作り直すことをすでにこの時点で決定していたからである。
さらに、この中間報告の内容を「妥当」とした通産省が、その直後の9月27日原子力安全委員会に提出した資料で次のような趣旨の説明を行っている(第56回原子力安全委員会資料第1号3頁)。
 MOXペレットはウランペレットに比べて外径のバラツキが大きい。そのためウランペレットでは工程管理検査を抜き取りでやっているのに対し、MOXペレットでは全数検査を行う。品質管理検査は、ウランペレットでは1体に付き約13個の抜き取りであるが、MOXペレットでは1体約4200個を抜き取る。ところで、「工程管理検査」とは、製造者が不良品をなくすために社内用に実施しているもので、「品質管理検査」は製造者が電力会社に対し、品質を保証する手続きのため実施し、電力会社に報告するものである。
 通産省が9月27日原子力安全委員会にこのような趣旨説明を行った以上、関電の中間報告に書かれている全数測定の結果についての妥当判断は、あくまでも工程管理に関する判断であったと見なすべきである。しかし、通産省の今回の資料7にはそのような趣旨が書かれていない。
 もうひとつ重要な事実を付加しておくと、全数測定ですべて仕様内になったはずのペレットを抜き取り検査したところ、合格品質水準を満たさないペレットが6個以上現れたためいったんは不合格になったロットが、高浜4号用199ロット中7ロットある(参考資料4参照)。もし全数測定を事前に実施していなければ、不合格ロットがさらにさらにたくさん現れるため、商売にならないという事情が生じる。そのため、仕様外をあらかじめ跳ねておくことが商売上どうしても必要になる。そのために、社内で行う工程管理がすなわち全数測定なのであって、本来それ以上のものではないはずである。

(2)関電の最終報告の記述について
 前記資料7には、関電の最終報告について「このロットの全数測定データ及び選別機能の信頼性に関するデータを最終報告書に添付することになった。通産省はこの報告書を受理し、妥当と判断した」と書かれている。
 確かに、11月1日付け最終報告書の4頁3-1-3には、「検査データに疑義のあるペレットを含め、全てのペレットは適切に選別され、ペレットの外径は仕様値を満足していることを確認した」と書かれている。しかしこの記述は、工程管理としての選別が目的どおりに行われたということを確認したに過ぎないと解釈できる。
 事実、この記述の直前の3頁に次のように書かれている。「なお、MOXペレットの外径研削は、臨界管理等の観点より、国内PWRのウラン燃料ペレットの湿式研削と異なり、乾式で行われることから外径調整が難しいため、全数自動測定を行い、外径仕様外のペレットを除外し、この工程の歩留まりを向上させるために実施している。抜取検査は、検査データを採取するために行われているものであり、全数自動測定と抜取検査の目的は異なるものである」。
 この内容は、9月27日付け通産省資料の内容と一致しており、この内容で通産省は妥当と判断したはずである。しかし、このような全数測定と抜取検査との目的の違いや位置づけなどの重要な点が資料7には何ら書かれていない。

(3)関電の2000年3月1日付け中間報告書
今回のデータ不正問題を調査するため、関電は1月11日に社内に調査委員会を設置し、その中間報告書「BNFL製MOX燃料問題に関する調査について」が3月1日に公表された。通産省が第1回委員会に提出した資料(資料4、2(1))によれば、「検討事項」の中にこの中間報告書も含まれている。
 そこでは24頁に、BNFL社のペレット外径には正規性がないため計量抜取検査が適用できず、計数抜取検査をやむなく採用したという新たな事実が書かれている。このことは外径のバラツキが大きいことを意味しており、全数選別も必要であったことが裏付けられたことになる。
 その全数選別については21頁に、通産省の資料7の考えをはっきりと否定するような内容が明記されている。すなわち、「以下の事項から、抜き取り外径検査に対する認識が不十分であったと考えられる。(a)聞き取り調査の結果、不正を働いた検査員は全数選別をしているので無駄な抜き取り検査をしているとの認識を示していることが判明した。(b)検査要領書においても、全数外径測定選別を『全数外径検査』と呼んでおり、抜き取り外径検査はその後の『追加の検査』であるという誤解を生じる記載であった」。
 まさにこのような「誤解」が通産省にまで及んでいたことになる。しかし通産省は資料7の中で、このような「誤解」をしたことへの反省を何もしていない。もし全数測定結果で仕様内にあることを強調すれば、それでペレットの安全性を認めることになるが、そうなるといま高浜にあるMOX燃料をイギリスに引き取れという要求が根拠を失うことになる。今回の中間報告書に見られる関電の変身はそのためと推察されるが、他方、通産省はいまだに全数測定で仕様内にあることが保証されるという、NII(英国原子力施設検査局)と同じ立場に立っている。それでは、通産省も主張している不正燃料引き取り要求の根拠はいったいどうなるのだろうか。

(4)新たに判明した事実−−植木鉢型ペレットの全数測定問題
 今年3月7日付けイギリスのインディペンデント紙は、内部告発に基づいて次のような重要な事実を報道した。BNFL社で作られるペレットは植木鉢(flower pot)型または小麦の束型をしており、(通常の日本の植木鉢型と違って小麦の束のように)一方の端が広い。そのため、まともにペレットの上、中、下の位置で外径測定を行うと、広い端の外径が仕様外になる。そのために真ん中の位置から上下に2mmだけ隔たった位置を測定して上と下の測定値としていたというのである。
 ところが、次の抜き取り検査では、ほぼ本来の正しい位置でペレットの上部と下部を測定していたため、上中下の平均値が全数測定での平均値(ほぼ真ん中の値)より数ミクロンは増える傾向になり、仕様上限からはみだす可能性が高い。そのためか、仕様上限をはみ出す値が出た場合には90度回転させて、(断面が楕円の場合の)短軸側を測定するような操作までしていたのである。
 これでは、全数測定で一番太い部分を避けて測定しているのであるから、全数測定で仕様内にあったからといって、実際に仕様内にあるという保証はまったくないことになる。
 ところが、この事実を関電は昨年9月にBNFLから聞かされており、福井県も聞いており、恐らく通産省にも報告されていたはずである(この点は通産省に問い合わせているがまだ返事がない)。このような事実を知っていながら、輸入燃料体検査という唯一の重要な検査において、その全数測定データを使用しようとしていたのである。しかもこの事実には未だに何も資料7で触れていない。

(5)経過のまとめ
 以上のように、昨年9月の当初から、全数測定は歩留まりを上げる工程管理のための非公式なものであり、品質管理はあくまでも抜き取り検査で行うというきわめて当然のことが、通産省自身によって確認されていたのである。したがって、輸入燃料体検査は品質管理検査のデータに基づくのは当然のことであり、品質管理データが信用できないのであれば、その燃料は破棄するように指導するのが、規制当局として当然とるべき措置だったはずである。ところが通産省は、品質管理データの採用をあきらめて、全数測定データで輸入燃料体検査をするという立場を採用した。この発想はきわめて異常なものであり、社会的にとうてい許されるべきものではない。このような異常を異常と感じない感覚・体質そのものが、きわめて異常であって、身の毛のよだつほどに恐ろしいことなのである。
 しかもその全数測定データは、植木鉢型ペレットに伴う異常な測定方法によって採取されていたためにおよそ信頼できないものであった。通産省は恐らくこのことを知っていながら、全数測定データに依拠することを繰り返し強調していたのであるから、二重の意味で異常である。
 BNFL問題委員会の第1の役割は、まず通産省に、このような異常さを気づかせることにあるのではないだろうか。これほどの異常を放置したままで、今後の方策について何らかの検討をしてもほとんど意味がないことは明らかである。これは正常な国民としてのきわめて当然の疑問である。

4.高浜原発原子炉設置変更許可申請書にある燃料の安全性の基準
 高浜原発プルサーマルに関する設置変更許可申請書は、1998年5月に提出され、原子力安全委員会の審査を同年12月にパスして通産省から変更許可を受けている。その申請書の8(3)-8頁に、燃料の安全性にかかわる「指針1.準拠規格及び基準」が記述されている。
 そこで「燃料集合体及び使用済燃料ピット水浄化冷却設備の設計、材料選定、製作及び検査については、・・・等の法令、規格及び基準に基づくとともに、原則として以下に示す法例、規格及び基準に準拠するものとする」とあって、この「以下」の中に(4)日本工業規格(JIS)が含まれているのである。
BNFL社での抜き取り検査はまさにこのJISの基準に基づいて行われているものであり、そのことが燃料の安全性の法的基礎になっていることを通産省も認めて許可を出したはずである。
 このような許可の手続きを都合が悪くなると簡単に捨て去ってしまうということで、どうして安全性が保証されるのだろうか。

5.補足−−東電のMOX燃料との関係
 通産省はBNFL製MOX燃料については、全数測定を異常に重視して、輸入燃料体検査までそれで保証できるという立場に立ち、いまだにその立場を放棄していない。 ところが東電のベルゴニュークリア製MOX燃料については、全数測定結果があるのにそれを見ようともしていない。まったくのご都合主義としか言いようがない。

6.この問題に関する委員各位への要望
 以上、くわしく見てきたように、通産省が第1回会合でBNFL問題委員会に提出した資料7の項目(3)にある記述は、燃料の品質保証の根本にかかわる基本的に重要な問題を含んでいる。都合によっては、品質保証検査を無視して、他のデータで置き換えてもよいなどという態度を規制当局・通産省が表明している。このような態度を改めることを通産省が公的に表明しない限り、BNFL問題委員会で今後の何らかの対策を審議しても、それは無意味なものにしかならないのではないだろうか。
 ぜひ、通産省のこのような無謀な態度を改めさせることを委員のみなさまが決して軽視しないように、私たちは切に要望する次第である。



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