申立書


       MOX燃料使用差止仮処分命令申立書

               債権者の表示   小   山   英   之、外二一一名
                 別紙債権者目録記載のとおり

〒530-0047  大阪市北区西天満四丁目三番三号 星光ビル二階
               右債権者二一二名代理人
弁 護 士   冠    木    克    彦

      (送達先)右同所
          TEL六三一五−一五一七 FAX六三一五−七二六六

    〒530-0047  大阪市北区西天満四丁目三番三号 星光ビル三階
                同 
弁 護 士   岡    田    義    雄

    〒530-0047  大阪市北区西天満四丁目六番一二号 サン・アロービル四階
                同
弁 護 士   武    村    二  三  夫

    〒530-0005  大阪市北区中之島三丁目三番二二号
                    債 務 者   関西電力株式会社
                    右代表者代表取締役  石   川   博   志

MOX燃料使用差止仮処分命令申立事件

         申  立  の  趣  旨
 一、債務者は別紙物件目録記載のMOX燃料を、高浜発電所四号機に装荷して使用してはならない。
 二、債務者の別紙物件目録記載の燃料に対する占有を解いて、福井地方裁判所執行官に保管を命ずる。執行官は、債務者が現状において保管すること、保存と安全確保のために必要な措置をとることを許さなければならない。この場合においては、執行官は、その保管にかかることを公示するため、適当な方法をとらなければならない。
との裁判を求める。

         申  立  の  理  由
第一、本件仮処分申立の概要
 一、茨城県東海村における、全く想定外の臨界事故により広範囲にわたる深刻な放射能被害が発生し、住民を極度の不安に陥れているこの時期に、債務者は、検査データが捏造されたと強く推認されるMOX燃料(ウランとプルトニウムの混合酸化物燃料)を、高浜四号機原子炉に装荷して運転しようとしている。新潟県ではプルサーマル計画の実行を延期決定し、福井県民の強い不安を無視して債務者は運転を強行しようとしている。
 二、イギリス原子燃料会社(BNFL)において製造され、日本に輸送のため出港した後に、高浜三号機用MOX燃料に関係する検査データが、他のデータを流用した偽物であることが発覚し、債務者は調査の上データ流用を確認し、この高浜三号機用MOX燃料の作りかえをBNFLに命じた。
 三、ところが、債務者は本件高浜四号機用MOX燃料については、右三号機用で発覚されたデータ流用と同様と考えられる事実や、公開されたデータを分析した結果明らかに人為的に細工されたと考えられるデータ分布があるにもかかわらず、データに不正はないとして使用しようとしている。不正がないとの根拠は、BNFLの検査員の内の一人から事情を聴取した結果、データ流用はないと述べているからというだけの理由である。債権者らから、データ捏造を強く推認せしめる証拠を示されて、質問されても、債務者は全く答えることができない状態でありながら、同燃料の使用を強行しようとしている。債務者会社内部でも一時延期の動きがでたが、秋山会長直々の号令で強行する方針になったといういきさつもある。
 四、そもそも、原子力発電所の設置と運転は原子力安全委員会の安全審査基準に適合しなければならず、極めて危険な原子炉の運転の安全性の最低限の保証が同審査基準に適合していることである。
   MOX燃料の一つのペレットの外径仕様は八・一七九o〜八・二〇四oを満たすよう要請されているように、ミクロン単位での厳格性が求められている。検査データはこのペレットが同基準内か否かの重要な資料であり、このデータに不正があれば、右基準外のペレットが混入している可能性がある。
   安全審査は右基準を満たす燃料を使用している事を前提にしているわけであるから、基準を満たさない燃料ペレットが混入している場合、そもそも安全審査の前提を欠き、安全保証の埒外で原子炉を運転することになる。
 五、規格外燃料を使用すれば、燃料ペレットがコナゴナに破裂し被覆管を破って冷却水中に飛び出し放射能がまき散らされる外、正に、想定外の重大事故に発展する危険性がある。フランスのカブリ炉で行われた実験では右のようにコナゴナになって冷却水中に飛び散った事実が報告されている。重大事故の実験などそもそも不可能であり、今のところその事実はないが、規格外のペレットの使用自体が想定されていないわけであるから、いかなる重大事故に発展するか、そして、その場合どのようにして安全装置が働いて制御できるかなど想定自体がなされておらず、安全の保証は全く存在していない。
 六、債権者らは、それぞれ、福井県、京都府、兵庫県、滋賀県、大阪府、奈良県、和歌山県に居住する住民であり、高浜四号機において重大事故が発生した場合、重大な生命身体に対する被害を蒙る可能性をもっている住民である。
 七、債務者は現在の進行状態でいくと、一二月初旬には本件MOX燃料を高浜四号機に装荷する予定であり、一刻の猶予も許されない状態に至っている。
第二、プルサーマル計画の概要
 一、プルサーマルとは、特性の異なるウランにプルトニウムを混ぜたMOX燃料を、通常のウラン燃料用に設計された軽水炉に装荷して燃焼させる方式のことである。特性の異なる燃料を混ぜるため、ウラン燃料だけの場合と燃料挙動が全体的に同じになるよう工夫がなされているが、これが複雑になっている。
 二、重要な指標は富化度と燃焼度であるが、富化度(正確にはプルトニウム富化度という)とは、ウランに混ぜるプルトニウムの割合を示し、これが高くなるほど危険度が増加する。現在、プルサーマルの実績はフランスで最大であるが、フランスでは燃料集合体(燃料ペレットを棒状に積み重ねた、被覆管によって保護された燃料棒の集合体、甲第四号証三〇頁)の平均富化度が約三・七%であるのに対し、高浜四号機では六・一%とほぼ二倍にのぼり、そのためプルトニウムの量も、フランスの約〇・八トンに対し高浜四号機は約一・二トンにのぼる。
   燃焼度とは一定重量(一トン)の燃料がどれほど多く燃えるかを表す数値であるが、平均燃焼度の最高がフランスでは四万MWd/t(一MWd=二四〇〇〇kwh)なのに対し、高浜四号機では四五〇〇〇MWd/t(甲第二号証、六頁)になっている。燃焼度が四万をこえると、燃料ペレット内部の気体(アルファ線−ヘリウムガスなど)の放出率が急激に増えることが実験で示されているが、この四万MWd/tの限界値をこえて高浜四号機は運転されようとしている。
   このように、高浜四号機で実施されるプルサーマルは富化度と燃焼度の両面で世界に例を見ない大規模かつ危険な実験である。
第三、MOX燃料
 一、MOX燃料ペレットは、酸化ウランと酸化プルトニウムの粉末を混ぜ合わせた原料を焼き固めてつくられ、それを今度は研削機にかけて外径が一定の仕様を満たすように研削される(なぜ、外径が重要かは後に述べる)。この燃料ペレットの品質には富化度等検査の対象になるが、本件で問題になっているのはペレットの外径である。
 二、債務者が通産大臣に提出した平成一〇年五月一一日付高浜発電所の原子炉設置変更許可申請書(甲第五号証の二)の8(3)−57にペレットの仕様が記載されている。そこでは、ペレット直径を「約八・一九o又は約八・〇五o」とあり、これで安全審査を通過して、現実の仕様を「八・一七九o〜八・二〇四o」(甲第一一号証最終報告書三頁)として、製造会社BNFLとの間の品質管理基準としている。
 三、なぜ、このペレットの外径がミクロン(1/1000o)の単位まで厳格に規定されなければならないかという理由について述べる。前記甲第五号証の二の8(3)−58には、被覆管の「外径約九・五〇o」「厚さ約〇・五七o又は約〇・六四o」「ペレット−被覆管間げき(直径)約〇・一七o」と規定されているが、このこととペレットの外径とが関係している。
   まず、燃料被覆管とペレットとの隙間(ギャップ)は運転期間を通じて厳しく制御される必要がある(甲第五号証の二、設置許可申請書第3.2.6.(1)(2)図、8(3)−69頁)。その理由は、運転初期には燃料ペレットからの熱の発生が大きいため、約〇・〇八五o(直径〇・一七oの半分)の隙間がつくられているが、運転が進むにつれて被覆管は外側の約一五〇気圧の圧力に押されて縮み、燃料ペレットは内部に核分裂による気体(アルファ線によるヘリウムガスなど)がたまるため膨張し、途中で隙間がなくなり、さらに、この膨張におされて全体的に膨張していく。もし、ペレット外径が大きいと早く隙間がなくなり、被覆管の酸化を進め、被覆管がもろくなり崩れる危険性が発生し、一方、ペレット外径が小さいと隙間の埋まるのが遅れて熱がペレット内にこもり、制御棒飛び出し事故などの場合に燃料ペレットがコナゴナに破裂して被覆管を破って冷却水中に飛び出す危険性がある。
   さらに、外径をそろえておく必要がある。外径がかなり異なるペレットを並べた場合、外径の大きい部分ではペレットが被覆管に密着するため被覆管の温度が高まってその酸化が進むが、外径の小さいところでは隙間ができて熱伝達が悪くなりペレットに熱がこもって破裂する危険が生じる。
 四、このように燃料ペレットの外径は燃料と被覆管の健全性・安全性に重大な影響を与える。燃料ペレットと被覆管は放射能を閉じこめるための第一と第二の壁であるが、ペレットの外径の厳密性は、このペレットと被覆管が破裂しないように保つための重要な要素である。
  1.そのため、製造工程の過程で「工程管理検査」(甲第一〇号証の二、三頁の添付図参照)で全てのペレット外径の自動計測がなされ、この段階で、この自動計測データによって仕様外のペレットは排除される。
    次に、一つのロットから二〇〇個を抜取検査する。一つのロットには約三〇〇〇個(債務者は約三〇〇〇個と述べているが四〇〇〇個に近いものもある)のペレットがあり、その内二〇〇個をアトランダムに抜き取って手動検査(自動検査と同等な精密度の計測器を使用して)する。この抜取検査において六個以上の仕様外が発見された場合は、そのロット全体が不合格にされる。
  2.抜取検査が品質管理上合否を決定する不可欠の最重要な検査であることはもちろん債務者も認めているし全く異論はない。ところで、前記工程管理検査において自動計測されているのに何故抜取検査が必要かについて念のために述べておくと、自動計測(機械計測)はレーザーを使ってなされるのであるが、ペレット外径、上、中、下とも計測する位置が一定になっており、ミクロン単位の正確さを他の部位において保証しえないという点に存在すると考えられている。
    ともあれ、この抜取検査において合格した燃料のみが、合格品であり、合格品という意味は同燃料の使用は安全審査の対象として適合しており、安全審査における安全保証を満たすものである。
  3. ところが、この重要な外径の検査記録が高浜三号機用の品質管理においてそのデータが捏造されたという重大な事実が発覚したのである。
第四、高浜三号機用検査データの捏造(流用)
 一、本年(一九九九年、平成一一年)八月二〇日製造会社BNFLの最終の品質検査員が、他のロットの計数値と同一の計数値が多数記載されていたことに不信を抱き調べたところ、現実に計測していた検査員において、他のデータを流用して計数値を記載していた事が発覚した。
 二、そのありさまは、甲第一一号証の関電最終報告書(その前に中間報告書も出されていたが同一)の表3−2(1)から表3−2(24)までをみると歴然としている。最初の表3−2(1)をみると、抜取検査員の二〇〇個についてP853のロットとP855のロットを比較しているが、塗りつぶしている数値は全て同一で流用数値である事が明らかである。
 三、この流用発覚による調査結果を債務者は前記甲第一一号証で報告しているが、製造会社BNFLにおいて何故このような不正が発生したかを「4−1問題発生要因」の項でまとめている。重要な部分を左記に引用する(なお、MDFとあるのは工場)。
「(1)測定装置
     @ペレット外径の抜取り検査では、測定、記録とも手作業であり、データ流用を行う余地のある装置が採用されていた。
     A過去の検査データを簡単にコピーできる状態であり、データ流用を許す検査データ保管システムとなっていた。
    (2)人的要因
     @検査業務に関する検査の位置付け・重要性等の教育不足から、検査データ取得のための測定の目的、重要性の認識が欠如しており、安易に不正を行った。
     AMOX燃料製造の重要性、要領書に従うことの重要性及び関連不具合事項の反映事項に関する教育不足から作業手順を守るという技術者としてのモラルに欠ける点があった。
     B検査員の資格認定制度が上記の抑制として機能していなかった。
    (3)品質保証体制
     @検査は、原子力発電所の品質保証指針(JEAG4101)に『検査は、検査の対象となる作業を行った者以外の者が実施しなければならない』とされているように、一般に検査部門(品質保証を行う部門)で行われるが、MDF工場では製造部門により行われ、かつ、検査員は運転員としても作業を行っていたことから、検査員の検査に対する重要性の認識、意義付けが薄くなった。
     A検査は、測定する検査員と記録を行う運転員の二人のみが行う作業体制であり、品質管理員の現場監視の頻度が低く、データ流用を行う余地のある作業管理、検査体制であった。
     B品質管理員による検査データの認識、回収の頻度が低く、BNFL内でデータ流用を早期に発見する品質保証体制となっていなかった。
     C当社、元請メーカの立会検査、品質監査ではデータ流用を検知、防止する体制ができていなかった。
     D昨年のキャスク中性子しゃへい材データ問題については、BNFLも関連しており、当社からも再発防止の連絡をしていたが、BNFL内で作業員までの徹底がされていなかった。また、当社としても徹底されていないことを見逃していた。」
四、1.右報告は測定装置の問題として「測定記録とも手作業であり、データ流用を行う余地のある装置が採用されていた」とある。だとすれば、流用以外の捏造の方法、例えば合格適合値に近い数値を適当に記録することが可能であるが、本件高浜四号機用のペレット外径データについて流用以外の捏造に全く言及していないことが問題となる。
  2.また、人的要因では「教育不足」「モラルの欠如」等ありうべからざる事実の指摘とともに、品質保証体制では品質保証指針の「検査は、検査の対象となる作業を行った者以外の者が実施しなければならない」という余りにも当然の定めが守られず、「製造部門により行われ」た事実が認められている。製造部門は品質管理検査で不合格となると、そのロット分全体を作りかえなければならず、その責任も問題となるわけであるから、品質管理を合格させようという強い衝動欲が働くことは自明である。
  3.そして、債務者自身及び元請けの三菱重工については「当然元請メーカーの立会検査、品質監査ではデータ流用を検知、防止する体制ができていなかった」と自認しており、データの不正を発見防止する能力がないことを認めている。
    この点は、本件で高浜四号機用データに「不正がない」と強弁しながら、全くその根拠を説明できないことと符合し、かつ、いかに強弁しても全くなんらの信憑性もないことを示している。
 五、債務者はこの高浜三号機燃料については、BNFLに作り直しを命じて使用できないことを表明した。ここで念のために確認しておくと、製造工程における全数自動計測検査で合格していても、抜取検査で合格していない燃料は使用しえないし使用してはならないことは当然の前提であること、本件高浜四号機用燃料が自動計測で合格していることを理由に使用施行するという抗弁は成りたたないことをあらかじめ指摘しておきたい。
第五、本件高浜四号機用検査データのほぼ確実な捏造
 一、一例のみについての言及(P824ロット)
  1.債務者は甲第一一号証最終報告書で、本件高浜四号機について使用予定のP824ロットについて、P823ロットのデータとの比較を示している(表3−2(25))。抜取検査の二〇〇個のうち六六個のデータが同一であるにもかかわらず、債務者は「たまたま一致しただけ」としてデータ流用はないと結論づけている。
  2.詳しい検討に入る前に、何人でも当然に疑うべき要素を指摘する。
   (一) 高浜四号機用燃料は、高浜三号機用燃料におけるデータ捏造事実発覚前にイギリスを出港している。もちろん、製造も高浜三号機用より先に完成している。高浜三号機用の前記流用方法は余りにも大胆すぎる方法であり、発覚しやすいことも前記のとおりであるが、このような方法を突如大胆にはじめるとは考えにくい。高浜四号機用で「試しに」した方法が発覚せずに通過し、以後大胆になされたという流れが合理的に推認できる。
   (二) また、その測定装置において「測定、記録とも手作業」であるから合格しうる数値を、まずは、記録するという形で捏造がはじまり、試しに、流用もしたところ発覚せずにすみ、そして、高浜三号機用で全面的に流用したと考えるのが合理的である。
     P824ロットについては流用疑惑であるが、他の捏造方法についても当然にありうることを債務者は一切言及していないことをここで指摘しておく。
  3.さて、P824について、このあらわれている数値から、ほぼ確実にデータが捏造されている事を証拠づける分析が、甲第一号証九頁のグラフである。
   (一) これは、債務者から福井県に提出された全数自動計測検査数値(一ロット分で約一万個以上のデータ)をコンピューターに入力して、全数の数値の分布グラフと二〇〇個抜取の数値の分布グラフを比較したものである。説明の便宜のため甲第一号証九頁上段のグラフを引用する。

        
                      <824のグラフ>


     全数のグラフは・・・・○・・・・で示されているが、例えばペレット外径が八・一九六のデータ(横軸)は全数値の中で三〇〇個あったので、P824ロットの全ペレット数三七五八個のうちの七・九八%となるから、縦軸の全体数における割合%の七・九八の点にとるという形で作成されている。抜取検査データもこの方法は同じで、二〇〇個のうちで右八・一九六データのペレット数は二四個であるから一二%の縦軸の点をとっている。
   (二) このようにすると、全数から二〇〇個を抜き取って、それを現実に正確に測定したとすると、割合的には同一に近い形となり、グラフの形としてはよく似た形となる。もちろん、全く同一になるわけではないが、少なくとも極端な形の差異はあらわれない。
   (三) ところが、右グラフは極端な形の差異が明確にあらわれている。これは、抜取検査において人為的加工がなされたが故に発生したと合理的に推認される。
     そして、そもそも、二〇〇個中六六個、つまり、三三%が「たまたま一致する」などということは経験則的にもありえないことである。
  4.ここで、債務者の反論の仕方を批判しておくと、甲第一一号証最終報告書においてP824ロットに関する図3−6を左記に引用して説明する。

                                    <関電のグラフ>

    債務者も全数分布グラフと抜取分布グラフで比較していく方法をとっており、この方法がデータに捏造があるか否かに関する検証の一つの仕方であることを債務者も認めている。
    この図は、縦軸に割合ではなく現数をとり、横軸にペレット外径数値をとっている。折れ線は抜取検査数値をあらわしており、甲第一号証の前記赤線の抜取検査グラフと同じである。ただ、地にはうような折れ線グラフの作り方であるため「二つの山」がよくみないとわからないが存在している。従って、この折れ線グラフと全数の 棒グラフが似ているかどうかをみればよいが、折れ線の二つの山とその間の谷など 棒グラフには存在しない。の棒グラフがあるが、これは、全数の数値から二〇〇個の数値を抜き取りの試行を一万回行った中の「代表例」というが、一万回中のただの一例を示しているにすぎない。抜取検査数値が捏造かどうかをみるのに一万回中の一例だけ示しても意味がない。また、債務者は 棒グラフと折線グラフが似ているというが、折線グラフは正確には甲第一号証のグラフであることを考えれば、どこがどう似ているのかさっぱりわからない。債務者は意図的にわかりにくいグラフを作ってごまかしている。債権者の主張に対する反論になっていない。
 二、その他のロットについて流用及び流用以外の捏造
  1.債務者はペレット外径データについては流用のみの不正だけで、他の方法による捏造についてはまったく触れていない。甲第一三号証はP753ロットの第一枚目が二〇〇個の抜取検査データで、他が全数データである。
    他のロットの分も存在するが、一例としてP753ロット分のみを証拠としている。
  2.これについて前同様のグラフを作ると甲第一号証一二頁のグラフである。これも全数と抜取検査グラフ(赤線)は著しく異なっている。
  3.P784ロットについても同様の分析をしている(甲第一号証一〇頁)が、これも一目でグラフの形がちがっている。このロットで特徴的なのはペレット外径八・一九五の個数が異常に多いためシャープな山ができている。二〇〇個の抜取データの中に八・一九五の数値が六個以上連続しているところ、及び三個連続しているところが二カ所でてくるが、一番中央値で安全な数値を捏造して書き入れていることが強く推認される。
  4.P841ロットについても、少し似てはいるが(甲第一号証一一頁)それでも右側の異常な山が一致しない。この場合は仕様上限値(八・二〇四o)のあたりに数値が集中しているが、合格数値を作るために仕様外にはみ出した測定値を仕様上限値内の数値に押し込めたと考えられる。
 三、以上のように、本件高浜四号機において使用を予定されているMOX燃料ペレットの、その抜取検査データは捏造されている事がほぼ確実である。もし、高浜三号機用データ捏造の発覚が、本件四号機用燃料の出港前になされていたならば、そして、債権者小山が行ったような分析を債務者がしたならば、決して日本への輸送を、少なくとも直ちにはさせなかったにちがいない。
   債権者が具体的なデータ分析をもとに、本件四号機用燃料についての疑惑をつきつけても債務者が使用中止を決めないのは、ひとえに、プルサーマル計画を「やった」という実績を早く作るために強弁しようとしているわけであるが、このことは債権者らに対してのみならず、北陸近畿一円の住民全てに対する無謀な「実験」であり、決して、許される事ではありえない。
第六、本件MOX燃料使用による重大事故の危険性
 一、原子力発電所の安全保証の根幹は原子炉の安全性にあることはいうまでもない。その原子炉の安全性の大前提は使用核燃料の健全性である。原子力安全白書(平成三年版、甲第三号証)は明確に「原子力発電所は、原子炉の運転によって発生する放射性物質を内部に封じ込める設計となっている。具体的には、燃料被覆管の健全性を確保して燃料棒内に蓄積した核分裂生成物が冷却水中に漏出しないようにするとともに・・・・」(一三八頁)と述べている。
   また、「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」(甲第四号証の一)でも、「指針12.燃料設計」において次のように定式化されている。「1.燃料集合体は、原子炉内における使用期間中に生じ得る種々の因子を考慮しても、その健全性を失うことがない設計であること」とされ、その「生じうる種々の因子」とは、「燃料棒の内外圧差、燃料棒及び他の材料の照射、負荷の変化により起こる圧力・温度の変化、化学的効果、静的・動的加重、燃料ペレットの変形、燃料棒内封入ガスの組成の変化等をいう」と解説に書かれている。
 二、原子炉の安全性に関しては、「運転時の異常な過度変化」や「設計基準事故」が起こっても基本的に放射能が閉じ込められることが要求されている。そのため、「運転時の異常な過度変化」においては、安全性の判断基準として、「燃料被覆管は機械的に破損しないこと」、「燃料ペレットの保有熱量は許容限界値を超えないこと」が直接燃料の健全性に係わる要求として設定されている(甲第四号証の三、一〇四頁)。「設計基準事故」においては、もはや燃料と被覆管の健全性がある程度破壊されるに至るものの、その場合でも、その破壊が著しくない程度にとどまることが要求されている(甲第四号証の三、一〇五頁)。
   事故で最も燃料の破損が起こり得る場合は、「制御棒飛び出し事故」及び「冷却材喪失事故」であるが、制御棒飛び出し事故では、中性子が一挙に増えて反応度が高まり、燃料がコナゴナに破損して冷却水中に飛び出す恐れが生じる。事実フランスのカブリ炉で行われた実験では、意外にもろく、MOX燃料はコナゴナになって冷却水中に飛び散っている(甲第二〇号証一〇頁)。そうなると冷却水の流れが塞がれるため、冷却が妨げられて大惨事になる危険性が起こる。高浜四号プルサーマルに関する債務者の解析では、制御棒飛び出し事故で約一%=約四一〇本の燃料棒が破損することになっている(実はこの場合に、冷却機能が保持されるかどうかが設置変更許可申請書では解析されていない(甲第六号証及び甲第八号証)。また、冷却材喪失事故では、燃料被覆管の酸化度合いが厳しく制限されている。もしあまりにも酸化が進んでいると事故中に燃料棒が破裂し、燃料=放射能が飛び散るからである。これらの度合いがある範囲内に納まるかどうかは、まさに燃料と被覆管の健全性にかかっている。
   もし燃料データに偽造があれば、燃料の健全性が基礎から揺らぎ、すべての安全解析が基礎を失うことになる。それ故、ある範囲内にすべての事故が納まるという現在の事故解析の結論は信憑性を失い、その範囲を越えて事故が発展する可能性が生じて、チェルノブイリ級の事故に発展することも否定できない。
   これらの危険性について一〇月二九日、米国の非政府組織核管理研究所のポール・レーベンソール所長とエドウィン・スチュアート・ライマン科学部長が福井県を訪れて、「重大事故に至る危険性が増大。最悪の事態の想定もない」として本プルサーマル計画実行の中止を申し入れた(甲第二四号証の一二)。また、本件MOX燃料が日本に向けて輸送中の九月二四日、国際的な環境保護団体「グリーンピース・インターナショナル」 は「MOX燃料はプルトニウムとウランの均質性の品質管理が非常に難しく、炉心の中性子物理や被覆管損傷に与える影響は深刻」とする最新の研究報告書を福井県に提出した。この報告書はオックスフォード・リサーチ・グループのフランク・バーナビー氏がグリーンピースの依頼でまとめたものであるが、バーナビー氏は元ロンドン大学教授をつとめた英国核兵器開発計画の研究者である(甲第二四号証の五)。
 四、これら第一線の核科学研究者らは、その知見に基づいて重大事故の危険性を指摘している。
   くりかえし述べれば、安全審査は規格に合格した燃料使用を前提にしてなされているものであり、本件MOX燃料にデータ捏造があれば一切の安全保証は存在しない。そして、データ捏造は既に述べたようにほぼ確実な事実である。
第七、被保全権利
 一、プルサーマル炉心にはプルトニウムやアメリシウムなどアルファ線を出す超ウラン元素(アクチニド)という放射能が最初から含まれており、これら放射能が外部に放出されると著しい内部被曝をもたらす。それゆえ重大事故になると、通常のウラン炉心と比べて一層重大な放射能被害を住民にもたらすことになる。
   債務者が昨年四月に公表した資料によると(甲第七号証、八頁)、使用済み燃料を取り出してから一年後で、MOX燃料に含まれる全超ウラン元素の放射能はウラン燃料の場合の約六・八倍になっている。また、このような超ウラン元素(アクチニド)の影響を考慮した被曝計算が米国の核管理研究所科学部長E.Sライマン博士によって行われている(甲第二一号証の一)。それによると、高浜4号と同様の加圧水型八七万kW級の一/四MOX炉心で事故により放射能が放出された場合、原子炉から一一三q以内の周辺地域で評価すると、ウラン炉心の場合より、ガン死で一・四二〜二・二二倍に高くなるという結論になっている。   
  甲第二三号証の三の表は一九九一年に大阪地裁で行われた高浜二号機裁判に原告側が提出したもので、各地域ごとに、その方向に風が吹いた場合の放射能被曝量と被害予測が示されている。高浜四号と二号は出力などに大差はないため、これがそのままウラン炉心の高浜四号による被害予測として適用できる。一/四炉心プルサーマルの高浜四号の場合は、ライマン博士の計算を適用すると、この表の結果の二倍前後の被害が及ぶと予測されることになる。
   もともとプルサーマル炉心の場合、制御棒の効きが悪くなる、ウラン燃料より融点が下がって炉心溶融を起こしやすいなど安全余裕を切り縮める傾向があり、債務者もこの傾向については認めている。さらに、特性の異なるウラン燃料集合体とMOX燃料集合体が炉心にモザイク状に組み合わされるため複雑な二重炉心となって制御が難しいことも指摘されてる(甲第七号証)。安全性はすべて、ウラン炉心の場合より格段に複雑になった解析によって保証されているだけで、高浜四号のような世界に類を見ない大規模プルサーマルで本当に大丈夫なのか、まだ事実で確かめられたわけではない。いわば世界で初めての規模の実験が行われようとしている。そこに疑惑のMOX燃料が使われるとなると、東海村事故のイメージと重なって住民の不安は著しく高まっており、その不安は、東海村事故の後で行われた世論調査にはっきりと表れており、プルサーマル反対が大きく増えている(甲第二四号証の九)。
 三、債権者らは、夫々、福井県、京都府、滋賀県、大阪府、奈良県、兵庫県、和歌山県に居住する住民であり、もし、重大事故が発生すれば一一〇キロ圏での癌死者は二四〇〇〇人(甲第二三号証の二)、その風向きに該当すれば和歌山県住民も同範囲内に含まれる範囲内に居住している(甲第二三号証の三)。
 四、本件における被保全権利は債権者らが右被害を受けない生命身体の健全性という当然の人格権である。
第八、保全の必要性
 一、債務者から最終報告(甲第一一号証)が出された一一月一日の翌日に臨時の福井県議会が開かれ、そこに資源エネルギー庁や原子力安全委員会から出席して、同最終報告は妥当である旨の説明がなされた。その二日後の一一月四日には、住民代表も出席する福井県安全管理協議会が開かれ、そこでも同趣旨の説明がなされている。これで福井県内での意見を聞く手続きはすべて終了したことに事実上なっており、後は資源エネルギー庁による輸入燃料体検査が行われるだけであるが、これは燃料集合体の外観をカメラで見るのと、債務者が適切な判断をしているかという書類審査だけで、その結論は同報告の形式的追認のみである。その後福井県知事の承認を経て、一二月初旬に燃料の装荷が行われる段取りになっていると予測される。
 二、東海村におけるJCO社による重大事故はチェルノブイリ事故後の世界最大事故である(イギリスの国際的権威のあるネイチャー誌が明確に規定している)。この事故をみても我が国においては、原子力安全政策が公的機関によって担保されていない事が明らかとなった。本件でも右に述べたように資源エネルギー庁や原子力安全委員会が審査するような形になっているが、甲第一一号証の最終報告書が出されたその翌日の県議会で同報告書が妥当とする見解を表明するなど、信頼性など皆無に等しいと極言してもさしさわりない程度であり、書類に目をとおしてその限りで合格させるだけである。
 三、右に述べた一二月初旬装荷の日程は合理的に間違いのない現在の見通しであり、もし、装荷されて運転されれば取り返しのつかない甚大な被害が及ぶ危険性があるため、本申立に至った次第である。


   (上申)
     なお、上申として、各書証関係はA四版が原本で、それを縮小したり、B四版にしておりまげたりすると極めて読みづらいこと、そして、横書きなっているので、A四左とじにさせていただいたこと、並びに、審尋については、多くの当事者が出席いたしますので、法廷の広さをお願いいたします。


疎   明   方   法

   一、甲第一号証     小山英之の陳述書
   二、甲第二号証     高浜発電所三号機および四号機プルサーマル計画に係る事前了解願いについて 平成一〇年三月二四日付 関西電力株式会社資料
   三、甲第三号証     「原子力安全白書」第一章 原子力発電所の安全確保と安全審査               平成三年版 原子力安全委員会編
   四、甲第四号証の一   発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針 「原子力安全委員会安全審査指針集」 改訂九版 監修 科学技術庁原子力安全局原子力安全調査室
   五、甲第四号証の二   軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の性能評価指針
   六、甲第四号証の三   発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針
   七、甲第五号証の一   高浜発電所原子炉設置変更許可申請書 平成一〇年五月一一日付一〜三四頁
   八、甲第五号証の二   高浜発電所原子炉設置変更許可申請書 平成一〇年五月一一日付
一頁、8(3)−1〜8(3)−76
   九、甲第六号証     高浜発電所原子炉設置変更許可申請書 平成一〇年五月一一日付
一頁、10(3)−3−37〜10(3)−3−44頁
一〇、甲第七号証     パンフレット「プルサーマル・その隠された真実の姿」 発行:美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 一九九八年五月(改訂版六月)付
  一一、甲第八号証     パンフレット「高浜原発プルサーマル炉心における高燃焼度MOX燃料の危険性」 発行:美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 一九九八年八月付
  一二、甲第九号証     福井新聞 一九九九年九月一五日付
  一三、甲第一〇号証の一  英国BNFL社におけるMOX燃料に係る試験データの疑義について 資源エネルギー庁 平成一一年九月二〇日付 第五五回原子力安全委員会資料第一号
  一四、甲第一〇号証の二  英国BNFL社におけるMOX燃料に係る測定データの疑義について 資源エネルギー庁 平成一一年九月二七日付 第五六回原子力安全委員会資料第一号
  一五、甲第一一号証    BNFL製MOX燃料の製造時検査データに関する調査結果について(最終報告書) 関西電力株式会社 平成一一年一一月一日付
  一六、甲第一二号証の一  一九九九年一〇月二一日付 福井新聞 
  一七、甲第一二号証の二  一九九九年一〇月三〇日付 中日新聞(福井版)
  一八、甲第一二号証の三  一九九九年一〇月三一日付 朝日新聞(福井版)
  一九、甲第一三号証    ロット番号P七五三のペレット外径測定データ、一枚目が抜き取り検査データで、あとは全数検査のデータ
  二〇、甲第一四号証    パンフレット「高浜四号用MOX燃料データにも重大な不正疑惑」 発行:美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 一九九九年一一月付
  二一、甲第一五号証    「MOX核燃料の品質管理:英国核燃料公社(BNFL)の方法とそれが関西電力にとって持つ意味合い」 著:フランク・バーナビー 発行:グリーンピース・インターナショナル、グリーン・アクション 翻訳:田窪雅文 一九九九年一〇月一三日付
  二二、甲第一六号証の一  関西電力宛要望書 「高浜四号用のMOX燃料データにも重大な不正疑惑があります。関電は早急に疑惑に対し公の場でこの燃料の装荷を中止すべきです」 グリーン・アクション、美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 一九九九年一〇月二〇日付
  二三、甲第一六号証の二  福井県知事宛要望書 「高浜四号用のMOX燃料データにも重大な不正疑惑があります。疑惑が公的に拭えないままでの装荷を認めないでください」 グリーン・アクション、美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 一九九九年一〇月二〇日付
  二四、甲第一七号証の一  「グリーンアクションおよび美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会からの要望書に対する回答」 関西電力株式会社 平成一一年一一月一日付
  二五、甲第一七号証の二  関西電力の「回答」に対する質問 「高浜四号用MOX燃料データの不正疑惑に関する関西電力の『グリーンアクションからの要望書への回答』」に対する質問 グリーン・アクション、美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 一九九九年一一月四日付
  二六、甲第一八号証    福井県知事宛再要望書 「高浜四号用MOX燃料データの偽造疑惑はいっそう深まっています。装荷は絶対に認めないでください」 グリーン・アクション、美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 一九九九年一一月九日付
  二七、甲第一九号証    「東海村は対岸の火事やない!原発アカン!市民のつどい」の関西電力宛決議 「東海村核燃料工場の臨界事故を教訓として、関西電力はプルサーマルを中止しなさい」一九九九年一一月三日付
  二八、甲第二〇号証    パンフレット「フランスのプルサーマル事情」 作成:WISE(世界エネルギー情報サービス)パリ 翻訳・発行:美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会
  二九、甲第二一号証の一 「日本の原子力発電所で重大事故が起きる可能性にMOX燃料の使用が与える影響」 著:エドウィン・S・ライマン 米国核管理研究所(NCI)科学部長 翻訳:田窪雅文 一九九九年一〇月付 
  三〇、甲第二一号証の二  甲第二一号証の一の英文
  三一、甲第二二号証の一  核管理研究所所長ポール・L・レーヴェンソール外から福井県知事宛の手紙 一九九九年二月一八日付
三二、甲第二二号証の二 甲第二二号証の一の英文
  三三、甲第二三号証の一  高浜四号炉で重大事故が起きた時の災害評価 「原発事故・・・・その時、あなたは!」 著者:瀬尾 健 一九九五年六月三〇日付
  三四、甲第二三号証の二  京都新聞 一九九九年二月二三日付
  三五、甲第二三号証の三  高浜二号機炉心溶融時の災害規模 平成三年(ワ)第八一五〇号 関西電力高浜発電所二号機運転差止請求事件の訴状添付資料
  三六、甲第二四号証一乃至一七 MOX燃料疑惑関係の新聞記事
三七、甲第二五号証    アイリーン・美緒子・スミスの陳述書
三八、甲第二六号証    中嶌哲演の陳述書
     
         添   付   書   類
   一、甲号証写し         各一通
   二、会社登記簿謄本          一通
   三、訴訟委任状        二一二通

       一九九九年(平成一一年)一一月一九日
右債権者二一二名代理人
弁 護 士   冠    木    克    彦

同     岡    田    義    雄

同     武    村    二  三  夫
大阪地方裁判所 御中





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