長尾氏の労災認定にあたっては
アルファ核種による内部被ばくが考慮されるべき



2003.7.23 小山英之(美浜の会)

 長尾氏が福島第一原発2号機でプルトニウムを吸入した可能性は否定できない。それが骨に沈着し、長年にわたってα線を照射したことによる内部被ばくが、多発性骨髄腫の重要な原因の一つになった可能性がある。労災認定にあたっては、この可能性を考慮することが不可欠である。

1. 長尾氏の(外部)被ばく線量と福島第一原発
◇ 長尾氏の集積線量は、フィルムバッジで70mSv、その約85%を福島第一2・3号機で、さらに、70mSvの約75%は福島第一2号機で。これはガンマ線による外部被ばく。
◇ 一般に、福島第一原発での被ばく線量は右図のように1978年ごろから急速に増え、全国被ばく線量の約6割を占める。
◇ 長尾氏が福島第一で働いたのは、1977年4月〜1979年12月及び1981年9月〜1982年1月で、ちょうどグラフのピークの時期に該当している。
◇ 福島第一1号機では、第6回定検中の1978年12月に、燃料集合体6体で燃料棒破損が、同2号機では、1977年3月にやはり6体で燃料棒破損が見つかっている。当時の燃料に欠陥があったことは東電も認めている。しかし、これら燃料破損の資料、とりわけひび割れの写真を公表することを、東電はなぜかひどく渋っている。

2.福島第一1号機のアルファ汚染
◇ 長尾氏が働いた2号機のαデータが未公表のため、先に1号機の状況を見る。
◇ 1号機の汚染状況は昨年9月の内部告発によって初めてデータ的に明るみにでた。α汚染は20年間も隠されてきて、労働者は何も知らずに被ばく労働を強いられてきた。
東電1981年12月作成の資料「スタックからの放出放射能の低減に関する検討結果について(松葉作戦)」によれば、1号機は5階から地階までα、β・γ核種でひどい汚染状態にあった。1978年の第6回定検時には汚染はさらにひどい状態にあったことは確実。
◇ 特に「松葉作戦」では、5階の汚染はもちろんひどいが、むしろ地階(トーラス室)三角コーナーの汚染が最もひどい。1階も高い汚染状況にあることが認められている。格納容器内と大物搬入口前を人や物が行き来するので、この汚染は必然なのだ。しかし当時、このような場所は汚染とはほど遠いと捉えられていた(長尾氏の証言によっても)。まして、「α核種のことなど聞いたことがなかった、昨年の新聞で初めて知った」と長尾氏は語る。
◇ 1階はまた、「バリア」という赤いビニールの敷かれた場所で、労働者が防護服・マスク・靴などを脱ぎ去るところ。
◇ 東電は松葉作戦で排気筒からα核種を放出しないとの目標を立てた(8頁)が、無理なためか、検出濃度限界値の方を上げてα核種が見えないようにしてしまった(グラフ(A))。それだけα核種が冷却水や原子炉建屋内に存在し続けたということ。
  
3.福島第一2号機のα汚染
◇ 2号機にもα核種が存在した。第1の根拠は、松葉作戦2頁の次の記述。「2号機は1号機に比べ炉水中のα濃度が約1桁低い」。
◇ もう一つは、2号機タービン建屋換気系排気筒から1981年3月末と6月初めにαが放出されていること(グラフ(B))。その他の時期には検出限界値を上げて見えなくしている。
◇ 排気筒でこれだけのα濃度⇒タービン建屋がα核種で相当に汚染⇒冷却水がα汚染⇒原子炉建屋もα汚染:ということを意味する。
◇ 恐らく1977年3月に明らかになった6体の燃料破損が原因。プルトニウムが主な核種。
Pu238対(Pu239+240)は約7対3。

4.長尾氏がα核種を吸入した可能性
◇ 長尾氏は、格納容器内で仕事をするときは全面マスクを着けていたと言っている。しかし、格納容器外での仕事の場合は、(はっきり意識していないが)たぶんマスクは着けていなかったと証言している。特に1階での仕事のときはしていなかった。1階が汚染されているなどという意識はなく、そこは「空気のきれいなところ」だと思っていた。まして、「アルファ」などという名前は聞いたこともないという。地階の場合も同様で、彼は現場監督の立場で、バルブ切断作業が終わってから作業状況を確認する役割だった。
◇ 「放射線作業許可書」のことは、それがあることは知っていて、本来は作業現場に張り付けておくべきものだと思っていたが、一度も見たことがないという。
◇ 1階と地階の格納容器外での作業、及び彼がときどき用具をとりに通った通称「松の廊下」でもα核種(Pu)(やSr90)を吸入した可能性が高い。
◇ ときどき行われているホールボディカウンターでα核種は見えないし、バイオアッセイはせいぜい一度しかやられていない(WBCとBioの両方に丸印が一度だけある)。

5.必要なデータが公開されるべきである
◇ 2号機にα核種が存在したことは確認。正確な評価のためには、当時の2号機のα、β及びγ核種に関する、各階の表面密度と空気中濃度データが公開されるべきである。このデータ公開なしに、α内部被ばくの可能性を一概に否定するのは誤りである。
◇ 汚染の原因となった燃料破損に関するくわしい状況がひび割れの写真を伴って公開されるべきであり、冷却水や床面付着放射能中の核種分析結果も公開される必要がある。

6.プルトニウムによる内部被ばくの結果

松岡理「プルトニウムの安全性評価」より
◇ 吸入されたプルトニウムはまず肺に沈着し、それから骨に移行してそこに沈着する(右のグラフでは、初め肺にいたPuが骨格などに移行している。約10年経過しても骨格からは減っていない)。外部被ばくの場合、γ線による照射はそのときだけだが、プルトニウムは長年にわたってα線を照射し続ける。それが長尾氏の多発性骨髄腫の重要な原因の一つになった可能性は否定できない。
◇ β核種であるSr90も骨に沈着する。Sr90⇒Y90と変化し、Y90は非常に高エネルギーのβ線を出す。