長尾光明氏の労災補償請求(多発性骨髄腫)についての要望書



2003年7月24日

厚生労働大臣 坂口 力 殿

長尾光明氏の労災補償請求(多発性骨髄腫)についての要望書


 貴職におかれましては、よき労働行政のため日夜邁進されておられることと存じます。
 さて、標記長尾氏はベテランの配管技術者として多くの現場で手腕を発揮し無事定年まで勤め上げ、充実した余生を送っておられたところを、多発性骨髄腫という病魔に襲われてしまいました。なぜ、こんな病気になってしまったのか?思い当たるのは、原子力発電所での作業でした。
 長尾氏は1973年から1986年1月31日定年退職までの期間、石川島プラント建設株式会社に所属しました。放射線に被曝したのはこの期間のうち、1977年10月から1982年1月までの間の原子力発電所における補修作業においてしかありません。長尾氏が所持する放射線管理手帳によると、この4年3ヶ月の間に、東京電力福島第一原子力発電所、動燃新型転換炉ふげん、中部電力浜岡原子力発電所の3カ所で放射線下作業に従事しており、外部被曝線量は合計70ミリシーベルトと記録されています。
 体調の異変は1993、4年頃からはじまり、1998年に「第3頸椎病的骨折」の手術を受けるに及んで「多発性骨髄腫」に罹患していることが明らかとなりました。
 この確定診断から労災請求した昨年11月までは4年以上が経過しており、労災補償請求権の多くの部分が時効で消滅してしまいました。それぞれの医療機関は親身になって長尾さんの治療にあたられ、厳重な医療監視下にあるとはいえ、一定の小康状態にあります。長尾さんは自身の被曝歴をこれら医療関係者に訴えたといいますが、残念ながら一般的に医療機関の労災への理解、とりわけこうした分野への理解は乏しいのが実情であり、労災請求に行き着くのに貴重な時間が空費されてしまいました。
 長尾氏は地元の労基署にも電話相談したことがありましたが、そのときも労災請求への道筋はつけてもらえなかったそうです。こうしたきわめて同情すべき状況の中でやっとのことで行われた労災請求であるという切実さを、まずもって、真剣にかみしめていただきたいと思います。
 改めて労災請求を準備する中でわかったことは、長尾さんが直感した通り、発症した多発性骨髄腫が長尾氏の放射線曝露と因果関係があるということでした。まじめに仕事を勤め上げ、そのために被曝し、それが原因と考えられる疾病を発症し、長期間この病気と闘うことを余儀なくされた長尾氏への労災適用が、今さらできないようでは、何のための労災補償制度なのかということになってしまうのです。
 以上の基本認識を踏まえ、以下の各項目について要望するとともに、誠実なご回答と対応をお願いする次第です。

(1)長尾氏の労災請求に対してできるだけ早期に業務上疾病として認め、支給決定を行うこと。

 現行の電離放射線障害にかかる労災認定基準(基発第810号通達)に則って、「多発性骨髄腫」であることを理由に、所轄の富岡労基署から本省へりん伺されるに至ったことは、認定までに長期間を要することに繋がるものであり、被災者早期救済の観点からは不適切であると言わざるを得ません。現状において本件請求にかかる調査、審理等の段階、状況、また、今後どのように進めることになっているのかについて、具体的に明らかにされたい。仮に、専門家に検討を依頼するのであれば、誰に依頼するのか、個別案件として検討するのか、あるいは認定基準の見直しを含めて検討するのか、といった点についても明らかにされたい。
 ただし、ここで強調したいことは、長尾氏の被曝線量が記録された外部被曝線量において白血病の認定基準線量の約3倍に達していること、多発性骨髄腫が白血病と類似の骨髄の癌(血液の悪性疾患)であること、多発性骨髄腫が放射線起因性の疾病であること(たとえば、すでに原爆症の認定疾患とされている)、国内外の疫学調査によって放射線被曝と多発性骨髄腫の関連が明らかであること、から、すでに労災補償上の相当因果関係は明らかだということです。27年前に作られた認定基準上の手続きに、今、囚われるのではなく、白血病に準じて可及的速やかに支給決定するべきだと考えます。この点、どのようなお考えかお聞かせ願いたい。

(2)東京電力、核燃料サイクル開発機構、中部電力といった工事施主や東芝、石川島プラント建設等関係会社に対して被曝原因に関連する全資料の提出をさせるとともに、これらを開示すること。

 長尾氏の被曝と多発性骨髄腫発症が相当因果関係にあることは、放射線管理手帳に記載された外部被曝線量によってもすでに十分明らかなところですが、ただその分だけが長尾氏の全被曝線量であると推定していいのかということについては疑義があります。
 たとえば、長尾氏の就労時期を含んだ時期に、福島第一原発1号機においてα核種汚染が存在したという証拠が明らかになっていることは、貴職も承知されているところだと思います。この問題は未だに全貌が明かになっていないこともまた承知されているところでしょう。長尾氏が就労したのは同原発2号機、3号機でしたが、このα核種汚染の影響が及んでいなかったという証拠は全くありません。それどころか、当時2号機の1次冷却水がα核種によって汚染されていたという証拠があります。この場合、長尾氏の作業現場となった原子炉建屋内がα核種で汚染されていたのは確実です。こうした、放射線管理手帳には記録されない内部被曝をもたらした可能性のある汚染状況が存在していたことの実態は、ぜひとも解明されなければならない重要な問題です。またこれは、長尾氏だけではなく、当時、福島第一原発で就労したすべての労働者に関係する問題であることに留意しなければなりません。
 貴職として、施主である東京電力、元請会社である東芝、その下請けであり長尾氏の直接雇用主の石川島プラント建設に対して、当時の放射線管理記録、汚染調査記録等のすべての関連資料を提出するように命じるべきです。労災請求にかかる立証は請求者がするべきものと一般的にはされていますが、労働者にとって困難であることが多く、特に、原子力に関連する職場においてはさらに困難ですので、是非とも貴職の職権によって提出させるとともに徹底した事実究明が必要です。そして、請求者であり、汚染の影響を受けた当事者である長尾氏に対して、そうした情報を開示、提供していただきたい。
 また、放射線管理手帳に記載された被曝線量以外の被曝の可能性の有無に関する詳細な調査は、この福島第一原発以外についても行われるべきであることは言うまでもありません。
関西労働者安全センター
東京労働安全センター
神奈川労災職業病センター
全国労働安全衛生センター
双葉地方原発反対同盟
ヒバク反対キャンペーン
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会
被曝労働研究会
原水爆禁止日本国民会議
福島県平和フォーラム
脱原発福島ネットワーク
全造船石川島分会
原子力資料情報室