維持基準は、
 ■ひび割れを放置したままでの運転を容認し
 ■経済性最優先で原発事故の危険を一層高める


維持基準の導入を狙う電気事業法の改悪に反対しよう!
全国から反対の声をあげ、廃案に追い込もう!


衆議院・経済産業委員会の理事達にFAXやメールを送ろう


 政府は、わずか数回の審理で早期の法案通過を狙っている
政府は臨時国会に電気事業法の改定案を提出した。11月5日に閣議決定し、12日の衆議院本会議に上程し、議論が開始された。20日の衆院経済産業委員会での審議から数回の議論だけで、12月初めには法案通過を狙っている。
電気事業法改定の最大の目玉は、維持基準を法制化することである。該当する条文は、電気事業法の第55条(定期安全管理検査=定期自主検査のこと)の3項「一定の期間が経過した後に第39条第1項の経済産業省令で定める技術基準に適合しなくなるおそれがある部分があると認めるときには、当該部分が同項の経済産業省令で定める技術基準に適合しなくなると見込まれる時期その他の経済産業省令で定める事項について、経済産業省令で定めるところにより、評価を行い、その結果を記録し、これを保存しなければならない」である(下線は引用者)。この「経済産業省令で定めるところにより」とあるように、維持基準の具体的中身については、省令にゆだねるという姑息なものである。

 維持基準は、ひび割れを放置したままでの運転を容認する
維持基準が導入されれば、検査でひび割れが発見されても、ひび割れを放置したままでの運転が可能となる。これまでの安全規制の根本的改悪である。
 現在の原発機器の安全基準は、電気事業法39条の「技術基準」(詳細は通産省告示501号で規定されている)である。いわゆる「新品同様の基準」と言われているものだ。この「技術基準」は、シュラウドやそれぞれの配管毎に、非破壊試験を行い、「これに合格すものでなければならない」と規定されている。すなわち、検査で傷が見つかれば、そのままでの運転は認めず、ひびの削り取りや施栓等の対策を講じなければならないというものだ。ひび割れを放置したままでの運転を認めないというのが、現行の「技術基準」の本質である。
維持基準は、これまでと全く性格の異なる基準となる。維持基準が導入されれば、国・電力会社の評価で「安全上問題なし」と評価できる傷の大きさのみが問題となり、ひび割れの原因究明などそっちのけになる。事実、ひび割れが起きないとして交換されたシュラウドの新材料SUS316Lでなぜ早期にひび割れが生じたのか等々は一切解明されておらず、問題にもされていない。また、「評価手法」もいい加減なものである。東電や国はシュラウドのひび割れ進展の評価において、年間片側11oの割合でひび割れが進むとした。しかし、実際に起こっている傷の同時多発的発生に関しては、なんの評価も行っていない。
 さらに、ひび割れを放置したままでの運転容認は、配管等からの漏えいが起こっても運転を認めることになる。「安全上問題なし」とは、配管等から冷却水が漏れても次の定検まではそのまま運転を続けるということである。漏れてから対策をとればいいとする「事後保全」の導入でもある。

 維持基準の導入は、原発の大事故の危険を一層高める
 維持基準が導入されればどういうことが起こるのか。その具体的例がアメリカにある。
アメリカでは早期に維持基準を導入している。さらに90年代以降、NRCによる安全規制の緩和、定検の短縮等徹底したコスト管理を行い、設備稼働率は90%にも達している。定期検査期間は最短で十数日となり、短縮競争が激化している。その結果待ち受けていたものが、デービス・ベッセ原発で起きた原子炉上ぶたの損傷事故である。上ぶた管台にひび割れが生じても運転は続けられた。ひび割れが貫通し冷却水が漏れても運転は続けられた。その結果、漏れ出たホウ酸水のホウ酸が上ぶた本体に大量に蓄積し、上ぶた本体に腐食が進み大穴があいてしまったのである。穴の大きさは、深さ約15p、幅約10〜12.5p、長さ約17.8pにも達していた。わずか9.5oの内張だけで150気圧を支えていた。一次冷却材喪失事故のまさに一歩手前の大事故だった。
 維持基準の導入は、原発事故の危険を一層高める危険極まりないものである。

 維持基準の狙いは、経済性最優先
定期検査のたび毎に、ひび割れの補修等を行っていけば、定検期間は延長し修理費はかさむ一方だ。原発の老朽化が進む中では、ひび割れ等は増える一方だから、原発の経済性は一層低下する。シュラウド交換などのように機器の丸ごと交換となると、それだけで莫大な費用と定検期間の大幅な延長が必要になる。他方では、部分的とはいえ、電力自由化の中で、電力会社は修繕費などのコスト大幅削減等によって原発の経済性を上げざるを得なくなっている。
維持基準は、電力会社の経済的欲求を背景にして、経済性最優先の原発の運転を保証するものだ。維持基準が導入されれば、ひび割れがあっても「安全上問題なし」と評価すれば、ひび割れの補修の必要もなくなる。コストは大幅に削減でき、定検期間も短縮できる。維持基準は、原発の老朽化と電力自由化の中で、原発生き残りのための危険な手段である。

 維持基準の導入の次には、定検短縮等の本格的な経済性追求が待ち受けている
日本の電力会社と推進派は、アメリカと比べ日本の状況を「失われた10年」と嘆き、アメリカ型の徹底した経済性追求を狙っている。その第一歩が維持基準導入である。維持基準導入は、東電不正事件の前から、今年2月に始まった「検査のあり方に関する検討会」で準備されてきた。不正事件直後に経産省が設置した「原子力安全規制法制検討小委員会」(近藤駿介委員長)のメンバー8人中7人が「検討会」のメンバーである。その「委員会」が維持基準導入のための法律改定を提唱したのである。「検討会」の議論の中では、現在の定検が13ヶ月に一度と決められていること等に不満を述べ「アメリカでは、燃料交換にあわせて定検を行っている」「アメリカでは18〜24ヶ月連続運転が認められている」「事故のたびに『水平展開』と称して他の電力へ検査を要求するのは無駄なこと」「事故のたびに国が分厚い報告書を作るのは資源の無駄」等々。規制緩和のオンパレードである。維持基準導入の後には、これら定検の短縮、高燃焼度燃料による長期連続運転、検査の簡略化等々が待ちかまえている。

 すでに維持基準先取りの動きが始まっている
 「ひび割れはあったが安全上問題ないと確認している」「安全上問題がないので報告しなかった」。これが一連の損傷隠しに対する電力会社の常套句である。そして経産省も「安全上問題はない」と追認している。これらは、維持基準の先取りそのものである。
 8月29日の東電不正事件発表の時から、この手法が意図的に取られてきた。シュラウドにひび割れがあっても、アメリカの維持基準の基礎である機会学会の評価手法を取り入れれば、「安全上問題なし」。維持基準導入以前から、(もちろんそれを意図的に導入させるためでもあるが)それを先取りして、住民を危険な状態においたことに関して一切の謝罪も反省もない。福島第一原発3号機では1996年当時、シュラウドに2つの全周にわたるひび割れが生じていたにもかかわらず、運転を強行していたのだ[詳細は美浜の会ニュースbU9号への投稿記事「維持基準どころではない」参照]。
 関電も、11月15日に発表した「中間報告」で同様のことを表明している。原子炉上ぶたについては、今後傷が見つかれば、@アメリカの維持基準か、A告示501に従って傷の判断を行うという。後者は、現在の「技術基準」の悪用である。先にも述べたように、現在の「技術基準」は損傷を放置した運転を認めていない。同時に、それぞれの機器について許容圧力等を細かく規定している。関電の手法は、ひび割れがあっても配管等の残りの厚みで「許容応力」を満たしているので問題ないというものだ。「中間報告」で明らかになった塩化ビニールテープによる腐食についても、同じ手法で「安全上問題なし」としてしまっている。
 さらに美浜3号炉の冷却水漏れ事故での関電の対応は、「事故保全」そのものだ。漏れは12日から始まっていたが「たいした量ではない」と運転を継続した。その後14日になって漏れの量が増大したため、運転停止に追い込まれた。関電と福井県は事故を15日まで隠していたのである。
 また国は、維持基準の先取りの旗振り役を果たしている。維持基準の内容は省令で定めるため、今臨時国会で法改定が可能となっても実施には約1年かかる。他方、東電は、シュラウドのひび割れ等で運転を停止している原発を来年早々にも運転再開しようとしている。そのため保安院は、「専門家会議」を設置し、維持基準策定までの間、「ひび割れがあっても安全上問題なし」のお墨付きを与えようとしているのだ。

 維持基準導入反対の声を集中しよう 法案を廃案に追い込もう
 そもそも、国と電力会社は、「原発に傷が見つかれば修理を行う」「漏れはすぐに止める」と言って原発の設置と運転の了解をとってきたのではないか。経済性最優先の危険な運転など認めることはできない。 
 原発立地道県の知事達でつくる「原子力発電関係団体連絡会」は、維持基準導入の前に、国民的議論が必要であり、国会審議は時期尚早とする内容の要望書を20日に国に提出する。
 維持基準導入反対の声を国会に集中しよう。国会が今やるべきことは、東電不正事件等に関する具体的資料を公開し、電力各社と国の責任を明らかにすることである。電力会社の不正事件は終わっていない。東電福島第一原発1号機からのα核種放出等についても、なんら明らかにされていない。
 衆院の経済産業委員会は20日に審議を行い、その後27日の予定である。早ければこれで審議をうち切り、参院でもわずかな審理のみで12月初めにも成立させようとしている。
 全国の力を合わせれば、維持基準導入を阻止することは可能だ。「脱原発福島ネットワーク」等の5団体は、20日の経済産業委員会で参考人意見陳述を行う双葉町長に対し、維持基準導入に反対すること等を申し入れた。
 維持基準反対の声を国会に集中しよう。法案を廃案に追い込もう。

■維持基準導入のための電気事業法改悪に反対しよう。反対の声を国会に集中しよう。
 衆議院の経済産業委員会の理事達に、反対するようFAXやメールを送ろう。
■各電力会社との交渉等を通じて、維持基準の先取りに反対していこう。



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