六ヶ所再処理工場での耐震計算ミスを11年間も隠ぺい
日立製作所は計算ミスをいつ知ったのか明らかにせよ
原子力安全・保安院は日本原燃に対しても総点検指示をだせ

2007年4月25日 美浜の会

 4月18日、日本原燃は六ヶ所再処理工場で2つの機器の耐震設計に計算ミスがあったことを公表した。第1はBWR燃料集合体を包んでいたチャネルボックスを切断する装置である。第2はせん断のためにプール内から燃料を引き上げるのに用いる装置である。
 日立製作所の子会社・日立エンジニアリング・アンド・サービスがこれらを設計した1993年に、地震の固有振動数を入力すべきところ、逆数の固有周期を入力して耐震性を計算したというお粗末である。96年になって担当者が誤りに気づいたが日立製作所に報告せず、今日までずっと11年間も隠しとおしてきたという。原燃は昨年3月末からのアクティブ試験において、耐震性の満たされない機器をずっと使用してきたことになる。
 原燃はこの「可能性について」4月13日に日立製作所から報告を受けたが、正式の報告は4月17日だったということで、17日夜にこれら機器の使用を禁止する措置をとった。しかし、第3ステップは終了まで継続するとしている。その後、第4ステップに入るのは対策が終了してからだというが、11月の本格操業開始は変更しないと社長は表明している。
 青森県の三村知事と六ヶ所村の古川村長は4月20日に原子力安全・保安院の広瀬院長に会い、国の「厳正な対応」を要請した。第3ステップをまず止めるべきだという要請はなされていない。日立製作所を調査すべきだという要請もなされていない。保安院としては核燃料サイクル安全小委員会の「六ヶ所再処理施設総点検に関する検討会」に諮って対策を決めるという。
 しかしその前に、この件についてはまだ明らかにされていない肝心な点がある。それは日立製作所がいつの時点で計算ミスがあることを知ったのか、どのようにして計算ミスの存在が分かったのかという点である。また問題を直接関連する狭い範囲に限ろうとしている。

■日立製作所は計算ミスの存在をいつ、どのようにして知ったのか
 「当社は、耐震設計審査指針の改訂に伴い、既設設備の耐震安全性評価を実施しておりますが、このたび(株)日立製作所から、・・・誤って入力していたとの報告がありました」というのが原燃の公表である。この「報告」が正式には4月17日にきたという。この原燃の公表文は、日立製作所がいつ、どのようにして計算ミスの存在を知ったのかという点には触れていない。原燃広報によれば、今回の公表はとりあえずのことで、このような調査はこれから行うのだという。
 この点は非常に重要である。なぜなら、もし日立製作所が例えば3月にすでに事実を知っていたのに原燃に報告しなかったとすれば、アクティブ試験第3ステップでのせん断が終了するのを待ってから報告することにしたとの疑いが浮上するからである。計算ミスのあった2つの機器のうち一つはせん断機に燃料を運ぶために不可欠な機器なのである。これがもし3月段階で使えなくなっていれば、予定したPWR燃料のせん断は中断してしまい、第3ステップを終了することは不可能になっていただろう。
 耐震設計審査指針の改訂に伴う保安院の指示は昨年9月20日に出され、原燃は10月18日に計画書を提出している。それから6ヶ月近くが経過している。その間に、11月30日にはすべての電力会社にデータ改ざん等の総点検指示が出されている。原燃にはこの指示は適用されなかったが、日立製作所は総点検対象に密接に関係していた。たとえば、臨界事故を起こした志賀1号の当時のまさにその試験に日立製作所が直接関与していたのである。この総点検の過程で電力会社では聞き取り調査などが行われ、過去の問題が焙り出されたのであるが、日立製作所は聞き取り調査などはいっさいしなかったのだろうか。もししていれば、そのような雰囲気の中で、11年前に隠蔽したままになっていた計算ミスの事実が思い出された可能性はある。このような過程と日時が具体的に明らかにされるべきである。

■保安院は原燃にも総点検指示を適用せよ
 原子力発電に関する安全性の点検では、電力会社に対する総点検ばかりでなく、このようなメーカやさらに下請けなどすべてを点検する必要があるのはいうまでもない。この事情は、原燃の六ヶ所再処理工場でも同様である。以前の使用済み燃料貯蔵プール漏洩問題やガラス固化体貯蔵建屋の設計ミスでも、メーカが問題になっている。
 六ヶ所再処理工場では以前にプールの水漏れが問題になったとき、プールばかりでなく全体について文字通り総点検を行っている。設計レベルまで立ち戻って点検したことになっていた。しかしそれが実は総点検ではなかったことが今回明らかになったのである。
 なぜ保安院は昨年11月30日の総点検指示から原燃をはずしたのか。水力ダムの問題に端を発したとは言え、「原子力立国」に向けて身をきれいにしておくための点検ではなかったのか。今回のような耐震性のミスが出た以上、いまからでもメーカまで含めた総点検を原燃に対して行うべきである。そのためにはまず試験第3ステップを直ちに止めることから始めるべきである。

■以下の点を問題にしていこう
(1)原燃はアクティブ試験第3ステップを直ちに停止すべきだ。 
(2)計算ミスを日立製作所がいつ、どのようにして知ったのかを明らかにすべきである。
(3)原子力安全・保安院は原燃に対しても総点検をするよう指示すべきだ。
(4)第3ステップの停止と日立製作所に対する調査と原燃の総点検を、青森県と六ヶ所村も要求すべきである。
(5)第3ステップではBWR燃料を50トンせん断する予定であったが、これは284体に相当する。しかし実際は3月8日に275体せん断したところで、9体を残して中断したままになっている。この9体がもしまだプール内にあれば、第3ステップでのせん断は不可能になった。なぜ9体を残して中断したのか、これはどうするつもりなのかを明らかにすべきである。
 また、3月8日にBWR燃料のせん断を中断してから、次は4月8日にせん断を再開したが、それはPWR燃料であった。なぜこのような切り替えをしたのだろうか。せん断・溶解には2系列あるが、PWR燃料のせん断もBWR燃料と同じ系列を用いたのか。
 (このせん断の具体的な問題については、下記の資料的考察を参照されたい)

(資料的考察)

アクティブ試験第3ステップにおける燃料せん断の四苦八苦

 原燃ホームページによれば、4月17〜18日の欄には「せん断・溶解運転性能確認試験」が記述されているが、18〜19日の欄ではこれが消えている。つまり、第3ステップにおけるせん断・溶解作業は事実上終了したことを意味している。
 しかし実は、予定のせん断量はまだ終了していないのである。第3ステップでせん断予定のBWR燃料は50トンUだが、これは燃料集合体284体に相当するのに、実際のせん断は次のように進行している。
 ・2月5日〜7日 第1〜第46まで46体
 ・2月25日〜3月8日 第47〜第275まで229体:ここまでの合計275体
つまり残り9体を残して3月8日にせん断を中断したままで、次は4月8日からPWR燃料44体のせん断にとりかかっている。結局9体のせん断は、プールから引き上げる装置が使用できない状態になったことを考慮すれば、少なくとも第3ステップでは放棄したことになる(第1図はBWRのせん断に伴うクリプトン85の放出状況を示しており、一つの山が燃料集合体1体のせん断に対応している。3月8日に276体目で中断したときの様子である)。
 この間、なぜ2月7日にせん断が中断したのか、なぜ3月8日に9体を残してせん断を中断したのか、なぜ4月8日からPWR燃料のせん断に切替えたのか、そのような説明は何もなされていない。この状況は、燃料のせん断が多くの四苦八苦を伴っていることを示唆している。以下でその状況を、PWR燃料のせん断に即して具体的に確認していこう。


■せん断の困難
 せん断と溶解は、図2のように、燃料集合体をせん断機内で横倒しにし、せん断刃で4cm程度に切り刻み、下の硝酸入り溶解槽内にある車の1区分(バケット)に次々と落としていく方式で行われる。燃料が硝酸で溶けたとき燃料内に閉じ込められていたクリプトン85が放出される(クリプトン85の一部は燃料をせん断した瞬間に放出されるが、その割合はPWRでは3%程度、BWRでは10%を超える程度と評価されている)。そのクリプトンは主排気筒に導かれA1モニタで検出された後そのまま大気中に放出される。
 BWRでは1体分が1バケットに入るので、1体のせん断がクリプトンの1つの山に対応する。PWRでは1/3体分で1バケットが満杯になるので、車を30度回して次の1/3に備える操作が必要になり、その間せん断は中断する。そのため、クリプトンの3つの山が1体分のせん断に対応している。
 では、せん断はどのように行われるのだろうか。その機能は図3に示す紙の裁断機と基本的に同じである。刃は包丁の刃などと違って非常に厚いものであり、固定刃ともどもエッジの部分で切る。紙は動かないように紙押さえでしっかり固定し、かつ移動刃は固定刃方向にしっかりと押し付けるようにしながら動かさないと、紙が切れずに2つの刃の間に挟まってしまう。
 これと同じ困難が燃料集合体のせん断にも伴っている。燃料集合体は「ギャグ」でしっかり押さえつけながら、厚い移動刃と固定刃でせん断する。図4は東海再処理工場で実際に起こったトラブル、曲がった燃料棒が押さえの主ギャグにひっかかったときの推定図である。まさに燃料棒がギリギリと千切られ、のたうちながら悲鳴をあげているかのようである(図4はせん断機を上から見たところ。図2と違い実際の刃は横向きに動く)。
 せん断は、せん断機のトラブルばかりでなく、溶解槽関係のトラブルによっても中断する。たとえば溶解槽内の車が回らなくなれば、せん断も中止せざるを得ない。

■PWR燃料せん断の四苦八苦
 次に資料的な意味もあって、第3ステップにおけるPWR燃料のせん断の経過を具体的に示しておこう。われわれが見ることができるのはせん断に伴うクリプトン85放出の様子であり、それは主排気筒に取り付けられたA1モニタ(ベータ線測定)の動きから分かる。PWR燃料だから前述のようにA1モニタの3つの山の組が燃料集合体1体のせん断に対応している(下図参照)。
 明らかに、第12、14、20、22、23、29、41体目で何らかの異常が起こっている。特に、第20体目は奇妙な形をしており、第41体目は4月12日正午ごろに1/3のせん断が終了したところで中断し、15日午前7時ごろに残りの2/3のせん断を開始している。
 もし13日までに44体目がプールから引き上げられていなければ、耐震不正問題の公表をわざと遅らせた疑いが浮上することになる。この点は、9体のBWR燃料をどうするのかとの質問とともに原燃に確かめているが、4月25日現在で回答はまだない。