六ヶ所再処理工場アクティブ試験−核燃料せん断のつまずき
せん断の長期中断の理由を明らかにすべきです
◆せん断機内の「固着物」によるため?・・・8/19〜10/3(約1ヶ月半)
◆排気筒からの放射能放出が核実験モニタリングのじゃまになるため?・・・10/9〜10/16

2006.10.23 美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会

 六ヶ所再処理工場におけるアクティブ試験第2ステップは8月12日に始まり、使用済み核燃料集合体のせん断は8月18日に開始された。せん断は再処理の最初の工程であり、これがうまく行かなければ、その後の工程のさまざまな試験が不可能になるほどに重要である。
 18日午前11時10分ごろから第1体目のせん断を開始し、第6体目が19日午前0時30分ごろに終了している。次に第7体目に移るところで、集合体がせん断機内で移動できず、せん断は停止してしまった。その後、10月3日まで1ヶ月半もせん断は停止状態のままになった。
 せん断は10月3日に再開されたが、しばらくしてスムーズに行っていないことが誰の目にもわかるようなモタモタ状態が続いた。その後、10月9日21:30ごろに再度停止し、10月16日に再開している。
 10月23日15時で、104体=約48トン分のせん断が終了している。ところが、第2ステップでは約60トンを10月半ばまでにせん断する予定であったので、明らかに予定より遅れている。PWR燃料50トン分のせん断が終了した後、BWR燃料10トン分のせん断をすることになっているが、これは56体分に相当する。原燃社長は9月21日の記者会見で、分析の精度を上げるためだと別の理由づけしながらも、全体の試験工程が「若干遅れることとなっている」と認めている。
 このように、再処理の最初の工程であるせん断が予定どおり進んでいない理由として、実は2つの事情があると推察される。第1は、せん断機内に「固着物」が固着するため、集合体を思うように動かすことができないこと。第2は、10月9日からの中断に関しては、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核実験に関連していると推測されることである。
しかし、原燃はせん断停止の理由はひた隠しにしている。これでは安全管理にかかわる重要問題がすべて隠されてしまうことになりかねない。せん断停止の事実とその理由を明らかにさせねばならない。

1.せん断機内に固着物―8月19日のせん断停止
 せん断の様子は、主排気筒の放出放射能を監視しているA1モニタの動きを通じて見ることができる。下図グラフは8月18日のA1モニタを示しており、使用済み核燃料のせん断によって発生するクリプトン85の放出に応じて動いている。縦軸はcpm(1分当たりの放射線カウント数)を表しており、ある時間間隔のグラフ下の面積がその間のクリプトン放出量に比例している。グラフの山の3つ組が使用済み核燃料1体分のせん断に対応しているが、そのことをまず説明しよう。


 このときはPWRの17×17型燃料集合体のせん断を行っている。その集合体は長さ約4mの燃料棒264本で構成されている。それを右図のように横に寝かせ、端栓部分を切り離してから、残りを長さ4cm程度にせん断し、次々と下の溶解槽に落としていく。
 溶解槽内の車は内部が12等分に仕切られており、その1区分はバケットと呼ばれている。1バケットに燃料集合体の1/3(4cm片で約8500個)が入るので、1/3のせん断が終わると車を30度回して次のせん断に備える。バケットの仕切り板には穴があいていて硝酸が自由に出入りできるので、せん断片は溶解槽の硝酸で溶かされる。そのとき、クリプトンなどの気体が一挙に放出され、主排気筒に導かれてA1モニタで測定される。したがって、燃料集合体1体をせん断すると、3バケット分のクリプトンが順に放出されるので、A1モニタでは3つの山が現れる。つまり、A1モニタの1つの山が1バケットに相当し、山の3つ組が燃料集合体1体分のせん断を表すことになる。
 さて、8月18日のせん断の様子を見てみよう。上図のように山の3つ組を数えていくと確かに6体がせん断されている。ところが奇妙なことに、第2体〜第4体の山が低いこと、つまりクリプトンが余り出なかったことに気づく(ある時間間隔のグラフ下の面積がその間のクリプトン放出量に比例)。第1〜第6の燃料の性質がそれほど異なるとは考えられないので、第2〜第4体では溶解槽に落ちた燃料が少なかったと推定される。ということは、落ちなかった燃料は、おそらく粉末または細片状で、せん断機内に残ったことを示唆している。
注:6月は燃焼度30000〜33000MWd/tのPWR燃料を31体せん断。第2ステップでは、燃焼度30000〜36000MWd/tのPWR燃料をせん断することになっている。この燃焼度から見れば、8月のグラフは6月と同程度の挙動になるべきである。ところが、8月の第5、第6体は6月とほぼ同程度の挙動を示しているが、奇妙なことに第1体目から山が少し小さ目になっており、第2〜第4ははっきりと小さい。
この裏づけとして、原燃が公表したクリプトン放出量の数値を見ると、6月は31体で1.9×1015Bqであり、8月は6体で3.1×1014Bqである。これより1体当たりの平均放出量は、6月分が6.1×1013Bq、8月分が5.2×1013Bqであり、8月分は6月分の85%である。つまり、6月を正常とするなら、8月分の場合溶解槽に入った燃料が85%しかなく、15%はせん断機内にとどまったことを意味している。そうすると6体分では1体の約90%にも相当する量、すなわち約400kgがせん断機内に残ったことになる。そのうち幾分かは窒素ガスによってどこかに除去された可能性はあるにしても、きわめて異常な事態が起きたことになる。
 せん断の停止についての原燃の説明では、8月19日に第7体目をせん断しようとしたところ集合体がせん断機内で移動できないようになり、その後「固着物」を掃除機のような吸引機で吸い取ったという。その「固着物」が何かは明らかになっていないというが、吸い取った物を調べれば分かるはずなのに奇妙なことだ。上記のA1モニタの挙動から推定すれば、固着物とはおそらく相当量の燃料粉や小さな被覆管の破片ではないだろうか。このような状態は原燃の予想されたトラブル事例集になかったため、新たな対応の仕方を考案したと9月末に公表されている。このような事情で、1ヶ月半も停止状態に追い込まれたのである。吸引作業で作業員に被ばくはなかったのだろうか。原燃は明らかにすべきである。

2.せん断再開でトラブルも再開−10月3日〜9日でのせん断
 原燃はようやく10月3日の9:50からせん断を再開し、翌4日の19:00ごろに第15体を終了するところまではほぼ順調に進んだ。1体をせん断するのに約2時間かかることがグラフの3つ組からわかる。
 ところが、第16体では第1と第2の山は予定どおりだったものの第3の山が現れるのに時間がかかり、終了まで4時間近くもかかっている。次の第17体となると、4日22:50開始で5日16:20まで17時間半もかかっている。その後第31体、第35体、第40体、第43体で1体のせん断に異常に多くの時間がかかっている。8月の事態から推察すると、これらはおそらく1体をせん断する途中でせん断機の中での燃料集合体が思うように動かなかったためであろうと推察される。
 この他にも、1体分のせん断終了から次の集合体のせん断にとりかかるまでに異常に多くの時間がかかっている例も多くある。また、第1と第2の山が異常に接近している例もいくつかある。
 これらの様子の一端を10月7日の第31体〜第35体の事例で示そう(下図)。第31体は前日の22:00ごろにせん断が開始され第3の1/3分のせん断が遅れている。第35体もそのパターンである。


 全体としてトラブルが頻発している様子であり、おそらく燃料粉や被覆管の破片などがせん断機内に溜まるという問題が解決できないまま、スケジュールに押されてせん断を強行しているのではないだろうか。そのように見えるのである。
 しかもこのようなトラブルについてはまったく何も公表せず、この異常な進行状態も予定通りだと強弁している。原燃にとって再処理がうまくいかないことは、国や電力会社や社会に対して面目がたたないことなのであろう。しかし、このようにトラブルをひた隠しにすることは、安全管理上のすべての問題を隠すことにつながるため、けっして許されることではない。

3.せん断停止は核実験のせい?−10月9日のせん断停止
 10月9日21:30ごろに突然せん断が停止したが、これは実は、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核実験を察知するためのモニタリング活動に関係しているためだと推測される。
 10月11日付デーリー東北の記事などから次のことが分かる。 
・せん断が中断した10月9日21:30の少し後、21:55に三沢基地から自衛隊のT4練習機が飛び立っている。核実験による空気中の放射能測定のためで、フィルター付集塵器を備えて、北海道から岩手県までの太平洋側の高度3千mを約1時間飛行している。10日も午前9時過ぎと午後零時過ぎに飛行して試料を集めている。このような臨時飛行は当面連日行われるという。
・そればかりでなく、青森県は文部科学省の要請で、10日から空間放射線量測定結果を1日1回国に報告することになった。岩手県も24時間体制で調査を開始している。
・このような調査は、関係省庁でつくる政府の放射能対策連絡会議の指示で行われており、同会議は(1)大気中の放射線、(2)上空のちり、(3)地上で浮遊するちり、(4)降下物、の緊急4項目の調査項目をまとめて都道府県などに指示している。

 このような核実験による微量の放射能をキャッチしようとする大掛かりな活動の最中に、まさにその調査範囲の真ん中に放射能を撒き散らすことなどできることではない(実験場があるとされる北緯41度の線はちょうど六ヶ所を通っているので、核実験の放射能は偏西風に乗って六ヶ所近辺にやってくる)。
 核実験で撒き散らされるのと同じ放射能を、再処理工場では日常的にばら撒いていることが、誰の目にも分かるようになったのである。もし日本原燃が、10月9日のせん断中止は核実験に関係していることを認めれば、自らばら撒いている放射能が社会的にきわめて大きな影響をもつほどのものだと認めることを意味している。そのせいか、原燃は10月9日のせん断停止理由を未だ明らかにしようとしない。「せん断はいつもサクサクとうまく行くとは限らないですからね」などというだけである。
 残念ながら、せん断停止が核実験がらみではないかという疑念は、まだ広くは知られてはいない。核実験に反対するのはもちろんだが、再処理工場からの日常的な放射能放出にも同様に反対していこう。

4.せん断再開は核実験確認のせい?−10月16日20:30より
 10月16日に、米国が核実験による放射能を確認したと報道された。そのためか、日本原燃は20:30ごろからせん断を再開した。ところが、下図に示すように、2体目のせん断からA1モニタグラフの形が早くも崩れてせん断がスムーズに行かないことを示し、17日1:30ごろに3体目の1/3をせん断したところで停止してしまった。その第2の1/3のせん断が開始されたのは17日の9:10ごろのことである。


 この動きによって、せん断にかかわる問題が根本的に解決されていないことが改めて示されたのである。それでも、10月22日の正午現在で10月3日から91体をせん断しており、8月の6体とあわせて97体、約45トンをせん断している。第2ステップではPWR燃料を約50トンせん断する予定なので、約90%が終わったことになる。だが、この後BWR燃料10トンをせん断する予定になっている。BWR燃料はPWRの17×17(または15×15)と異なり、8×8で1体のウラン重量が約180kgしかない(PWRは約460kg)。ゆえに、10トンは約56体に相当する。これにはかなりの時間がかかるに違いない。
 原燃はせん断工程が遅れた事実を率直に認め、なぜ遅れたのかその理由をすべて明らかにすべきである。それに関するすべての事実資料を公開すべきである。

 以上の内容などについては、11月3日の学習・討論会で、最新の情報も入れて詳しく報告します。是非、ご参加ください。