プルトニウム微粒子1個の吸入でも2ミリシーベルト超の被ばくをもたらす
原燃報告の「内部被ばくなし」には根拠がない


 日本原燃は7月3日付報告書で、作業員の糞中にプルトニウムがでなかったから内部被ばくもないと結論づけている。しかし、プルトニウム微粒子をただ1個だけ肺に吸い込み、それが口内に押し戻されずに肺にとどまるだけで、2mSv(ミリシーベルト)を超える内部被ばくをする。糞になくても肺にはある可能性、そのような可能性を原燃は頭から無視している。
 試料小皿から剥離・飛散して汚染と被ばくとをもたらしたプルトニウムは基本的に酸化プルトニウムであった。本来はごく微量の硝酸プルトニウムを焼きつけるはずだったその試料小皿には、大量の酸化プルトニウムがのせられ加熱され、桁違いに強い放射能を持つに至った。融点の高い酸化プルトニウムは十分に焼きつけることができずにあちこちに飛散したのである。

1.たった1個のプルトニウム微粒子が数mSvの被ばくをもたらす
 プルトニウムのアルファ線スペクトルが未公表なので飛散したプルトニウムの核種とそれらの組成は分からないが、燃焼度が30000MWD/Tであるような典型的な場合をとりあげよう。直径5ミクロンのプルトニウム酸化物微粒子の放射能は、α線だけで13Bq(ベクレル)程度になる。このような粒子を1個吸い込むと、それだけで約2.3mSv(ミリシーベルト)の被ばくに至る。つまり、日本原燃が最初予測した2mSv超の被ばくはたった1個の微粒子吸入で実現される。
 今回の被ばく事故をもたらしたプルトニウム酸化物は、これほどまでに放射能の強い粒子であった。したがって、バイオアッセイで糞中に放射能が見つからなかったからといって、内部被ばくが無かったとは絶対に言えない。1個の微粒子が肺の奥に入ってしまえば、数日間後の糞の中にそれが出てくることはないからである。ICRP-78にも記載されているように、酸化物の微粉末を吸引した後であっても、咽せ返すような生理反応によって気管から肺に入ろうとしていた粉末が口腔に戻り、食道から消化器系統に入ることは一般にはあり得るだろう。そして、消化器系からは非常に吸収されにくいプルトニウム微粉末が糞の中に見つかることはあり得る。ICRP-78のモデルは一定の割合で吸引したプルトニウムの一部は、最初の数日間はその一割程度が糞から検出されるであろうと予測している。原子状のガスか、あるいは、大量の微粉末が、被ばくをもたらす放射能の実体であったならばこのようなモデルは成立すると思われる。しかし、放射能の実体が極めて放射能の高い微粉末になると事態は一変する。たった1個の微粉末で数ミリシーベルトを超える内部被ばくが簡単にもたらされてしまうからである。内部被ばくがなかったと断定するのであれば、糞の中にプルトニウムがないことを示すだけでは不十分であり、肺の中にプルトニウム微粒子が1個もないことを確かめなければならない。
 わずか1個の微粒子が生涯にわたって肺や肝臓や骨表面を被ばくさせる。これこそが内部被ばくの恐ろしさ、危険性なのである。

2.原燃報告では、内部被ばくなしとは言えない
 プルトニウム微粒子の強い放射能強度にはもっと注意が払われるべきであるが、青森県の顧問である「専門家」はこれについて一切沈黙し、その一方で暴言を繰り返している。そして原燃の報告書にも、飛散したプルトニウム酸化物微粒子の危険性を記した箇所がない。
 それだけでなく原燃報告書には、事故に関係する設備や施設の写真は一枚もない。汚染源となった試料小皿の写真すらない。記されている放射能も全て評価値であって、その基礎になったはずの計測値は皆無であり、計測時間等の測定条件も記されていない。したがって、原燃が述べている放射能に関する量等を誰も検証することが出来ない。汚染したプルトニウムの組成を把握するために必要な、計測していたアルファ線スペクトルは未公開。鼻スミヤの測定値や測定条件も未公開。バイオアッセイ法で採取した糞の重量、その化学処理方法、放射能測定の測定値と測定条件も未公開だ。被ばく線量はICRP-78等を参考にして、直径5ミクロンの粒子を考えているというが、いわゆる「公式」として示されているだけであって、被ばくの実態を解明するために必要な、飛散したプルトニウムの化学形や粒子サイズの実測データはない。それらについての議論もどこにも示されていない。
 このような無内容な報告書に対し、原子力安全・保安院は書きなおしを指示していた。それに対し原燃は7月11日に「調査結果の補正について」を公表した。これは、「内部被ばくなし」の判断の不備にはまったく何も触れていない。ただ、運転員等の技術・技能の資格更新を改善するというだけのものだ。報告書をあれだけ酷評した保安院はこれを黙って受け入れるのだろうか。

補 足 説 明

(1)飛散したプルトニウムは基本的に酸化プルトニウムである
 試料は本来、ほとんどが酸化プルトニウムである溶液から酸化プルトニウムを除いて(4価のプルトニウムを除いて)、わずかに残る硝酸プルトニウム(3価のプルトニウム)をチェックするためにつくられるはずであった。ところが、酸化プルトニウムを除くための前処理が省略されたため、大量の酸化プルトニウムを試料皿に焼付けることになった。融点の高い酸化プルトニウムでは焼付けがうまくいかず、酸化プルトニウムが粉末状の微粒子になって飛び散ったと考えられる。それゆえ、ここでは吸入した微粒子は酸化プルトニウム(タイプS)であると想定する(原燃は被ばくを高めに評価するためにタイプMの硝酸プルトニウムを想定している)。

(2)直径5ミクロンのプルトニウム粒子の放射能とそれによる被ばく評価
 ここでは原燃が報告書で採用している直径5ミクロンの酸化プルトニウム粒子について、燃焼度30000MWd/tの場合を考察する。Am241はないとし(あると効果は相当に高くなるが)、Pu238,239,240のアルファ線による効果を考える。Puの密度10.1g/cm3を用いると、5ミクロン粒子のPu全重量は6.61×10-10gとなる。
 燃焼度30000MWd/tで、存在比率をPu238:Pu239:Pu240:Pu241=0.0254:0.6097:0.2502:0.1147とし、各半減期を用いて重量(g)をBq単位に直すことができる。そうすると、Pu238=10.64Bq、Pu239=0.926Bq、Pu240=1.39Bq、合計13.0Bqとなる(Pu241は無視できる)。つまり5ミクロンの微粒子1個は約13Bqのアルファ放射能である。
 さて、次にこの微粒子1個を肺に吸入したときの預託等価線量を計算しよう。それは、指針「核燃料施設の立地評価上必要なプルトニウムに関するめやす線量について」を適用すれば可能となる。指針第4表で、直径1ミクロンの酸化プルトニウムを1回吸入したとき、それが1Bqであったときに50年間にどれだけ被ばくするかという数値が書かれている。骨表面、肺、肝の合計値で書くと、その1BqのPuがPu238、Pu239、Pu240であったときの値がそれぞれ0.29mSv、0.31mSv、0.31mSvとなる。この数値はBqをmSvに直す換算係数となる。ただしこれは直径1ミクロンの場合であり、直径が5ミクロンの酸化プルトニウムの場合は、この換算係数に0.6をかけることになる(指針第1表)。
 前記のBq単位の各数値にこれらの係数をかけて計算すると、
      (10.64×0.29+0.926×0.31+1.39×0.31)×0.6=2.3(mSv)
が得られる。結局、5ミクロンの微粒子1個の吸入で生涯に2.3mSvの被ばくをすることになる。

(3)微粒子の放射能が0.7Bqの場合
 鼻スミヤで鼻孔から0.7Bqが検出されていることから、参考までに、1個の微粒子が0.7Bqである場合を考えておこう。この場合の微粒子の直径は1.89ミクロンとなる(鼻孔に0.7Bqでも、肺には5ミクロンが入ることも十分考えられるが)。これから(2)で行ったのと同様の計算をすると、0.7Bq微粒子1個の吸入によって0.19mSvの被ばく線量となる(この場合、1ミクロンの場合の換算係数に対し0.6ではなく0.91倍することになる)。
 仮に存在するのがこの径の微粒子ばかりだとすると、11個を吸入すると2mSvを超えることになる。11個が肺に入って口にでないからと言って、それが不自然だと言えるだろうか。