内部被ばく事故の真相は明らかにされていない
原燃報告書(7/3)が示すあまりにお粗末な被ばく・安全管理
―アクティブ試験を直ちに中止せよ─


2006年7月7日
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会

 5月20日に続いて6月24日に発生した「協力会社」作業員の内部被ばく事故について、日本原燃は7月3日に報告書「再処理施設における作業員の内部被ばくに係る調査結果」(以下、報告書と呼ぶ)を原子力安全・保安院に提出し公表した。「内部被ばくはなかった」と断定するとともに、今回の諸「原因」に即した対症療法的な「対策」を並べることで、高まる批判をかわそうとしている。しかし、報告書ではいたる所に矛盾が存在し、事故の真相を明らかにしていない。原燃が真摯に反省するのなら、百の言葉より、まずはアクティブ試験の中止をもって態度で示すべきである。その上で、事故に関する資料を全て公開し、広範な批判を受けるべきである。

1.当初の予測2ミリシーベルトがなぜ突然「内部被ばくなし」に覆ったのか
 今回の内部被ばくの直接的原因は、異常に高濃度のプルトニウム試料が、試料皿への焼付けが不十分だったために第15分析室内で飛散したことだった。その高濃度プルトニウムが19歳作業員の鼻孔に付着していたことが確認され(鼻スミヤ)、いったんは2ミリシーベルトを超える内部被ばくがありうると報告された。それ自体は定められた予測法に基づく判断だったに違いない(19頁13:33の項)。
 ところが報告書では、4日分の糞と5日分の尿を採取したうち、糞だけの検査を行った結果、プルトニウム等は検出限界値未満だったという(16頁)。それから直ちに内部被ばくはないと結論づけている(3頁、16頁)。糞で検出されなければ、肺への吸入もないと判断している。すなわち、気管支から肺に吸入されたプルトニウムのある部分が、いつも必ず気管支の繊毛運動によって押し戻されて口に入り糞に移行することが前提にされている。
 そうならば、鼻スミヤで検出され肺に入って2ミリシーベルトの被ばくをもたらすはずだったプルトニウムのある部分が初期糞に出るはずだ。それが検出されなかったのはなぜか、むしろその原因こそが問題にされるべきではないのだろうか。公式を当てはめて済ませるのではなく、実際に飛散したプルトニウム微粒子の径や形態などを詳細に検討すべきである。そうでない限り、糞に出なかったから内部被ばくもないと結論することはとうていできない。
 また、最初の糞の採取が被ばく事故の翌日になっているが(19頁)、それは事故後初めての糞だったのかは明らかでない。さらに、尿を採取しながらその検査をしなかったのも奇妙なことである。当初の2ミリシーベルトの予測がなぜ急に覆ったのか、非常に不可解である。

2.信じられないほどのミスの重なりが高濃度プルトニウム試料の飛散をもたらした
 異常に高濃度のプルトニウム試料が作成された原因は、次のような複数のミスが集中し重なったためだった。
 (1)第1分析室で、プルトニウムを洗浄で落とす前処理が、表示画面の見誤りによってなされなかった。そのため、高濃度のままのプルトニウム溶液が試料の原料として送られてきた(5頁)。
 (2)第22分析室では、その溶液を百倍に薄めて測定したところ、1分間の放射線計測数が90万(90万cpm)だった(5頁、27頁表)。この試料は予定では5000cpm未満であったので、正常な感覚があれば異常が起きたと判断し直ちに報告するはずである。ところが、担当者は何か別の高濃度プルトニウムが混ざったためだと勝手に解釈し、ただそれを試料からはずしただけで別の試料作成を継続した(5〜6頁)。
 (3)さらに放射線測定器の能力不足、つまり「放射線の数え落とし」があったとされている(6、8頁)。今度は薄めない原液の試料を測定器で測ったところ、約4800cpmだったという。このような試料を3回作って3回測定しているが、いずれも5000cpm以下だった。他方、100倍に薄めた試料が90万cpmを示しているから、この薄めない試料の場合、それより高い値を示すはずである。このようにつじつまの合っていないことが事故後に浮上した。これに対する原燃の説明では、放射線の「数え落とし」によって5000cpm以下になったのだという。しかし、現に90万cpmまで数えた実績があるし、原燃は測定器の能力は100万cpmだと別に記述しているのに、「数え落とし」で5000cpm以下になったというのはまったく理由にならない。原燃は「数え落とし」のあることが「後の調査で判明した」と6頁で述べているが、それがいったいどのような調査なのか明らかでない。
 とにかくこのようにして、前処理のミスが、思い込みと測定器のミスによって見逃され、結果的に5000cpm以下の試料の代わりに、その約2万倍も高濃度のプルトニウム試料が、第15分析室に送られた。それが飛散し、吸入を引き起こしたのだった。
 第15分析室では、6月24日の午前10時半頃に、αスペクトロメータの計数の急激な上昇によって、当該試料に異常のあることが明確に示された(18頁)。そのため作業員はその試料を元の第22分析室に戻して異常を訴えたが、それに対する適切な対処は何もなされなかった。その当該試料は結局、廃棄処分となるべき「測定済み保管箱」に入れられただけである(6頁)。

3.対症療法的な対策を並べても解決にならない
 原燃は、これらミスの一つひとつに対して「チェックシートの作成」などの対症療法的な対策を並べているが、その前になすべきことがあるはずだ。いったいなぜこのようなミスが、しかも集中的に起きたのか、その背後にある管理上の組織的欠陥は何か、その責任は誰にあるのかを明らかにすべきである。イギリスのソープ再処理工場では、まさに小さなミスが重なって、大量漏えいという大事故に発展したことを肝に銘じるべきである。

4.高濃度の試料は8枚目の試料皿だけだったのか
 なお、異常を示した試料は8枚目の当該試料だけだったように読み取れる。すべての袋の外面からは汚染が検出されなかったこと(3頁)、当該試料袋の内面のみが汚染されていたこと(8頁)が記述されているからである。ただし、他の15個の袋内面が汚染されていなかったという直接の記述はない。また、他の15の試料で計数の異常な上昇がなかったかどうかは定かでない。
 そもそも16の試料がすべて前処理されない高濃度の原液からつくられた試料だったのか、それとも8枚目だけがそうだったのかが明らかにされていない。もし仮に異常な試料が8枚目だけだったのであれば、なぜそうなのか、他の15の試料はどうして作成の異常を免れたのか、試料の作成過程に遡った解明が必要であるが、それはまったくなされていない。

5.「16枚目の試料皿をセットした際に汚染した」は本当か?
 第15分析室の汚染の状況、作業員にプルトニウムが移行した状況は、被ばく事故の真相を明らかにする上で、極めて重要な問題である。しかし報告書は、不確かで不自然な点が多く、信憑性を疑わせるものだ。
報告書によれば、汚染が確認されたのは、作業員の両手のゴム手袋、右靴底、被服の右足大腿部などである。さらに、第15分析室の表面密度を測定した結果、αスペクトロメータの試料測定部蓋表面やその周辺のテーブルやピンセット、パソコンキーボード、床でも汚染が確認されている(21頁)。
 この汚染の原因については、「αスペクトロメータが開放系に設置されていたため、αスペクトロメータ検出器−1に次の試料皿(引用者注:16枚目の試料皿)をセットした作業の際に、放射性物質が室内の作業環境に飛散し、当該分析作業員の手部(ゴム手袋表面)、靴底部、鼻部等に移行した」(8頁)となっている。すなわち、作業員の被ばく等は16枚目の試料皿をセットした際に起きたと断定している。
 作業員は16枚目の試料皿をセットした直後に部屋を出ている。この時のフットモニタで汚染が確認されたという。しかし、手の汚染もこの時だったことを証明するものは何もない。部屋を出る直前にプルトニウムが付着したというのであれば、なぜ、出口とは反対方向のテーブルやパソコンキーボード等から汚染が見つかったのだろうか。
 原燃は、汚染源が当該試料皿である8枚目の試料皿であることを認めている。そうであれば、8枚目の試料皿に触れた時点で汚染したと考えるのが自然である。それから1時間以上作業を続け、テーブル等に汚染が広がったと考えられる。また、8枚目の試料皿をもって隣の第22分析室にまで行っているのだから、汚染が拡大した可能性も否定できなくなる。
 フットモニタの数値を根拠として、手の汚染についても退出直前と断定する原燃の報告書は、被ばく事故の真相を覆い隠すものである。
 また、パソコンキーボードがどうして、いつ汚染されたのかも一切書かれていない。事故前の第15分析室の汚染密度の数値などを公表し、部屋の汚染がいつからだったのかを明らかにすべきだ。
時系列では、19才の下請け作業員が忙しく立ち働いている様子はうかがえるが、一緒に部屋にいた原燃社員が何をしていたのかは何も書かれていない。明らかにすべきだ。

6.マスク着用など前回被ばく後にとるべき措置が守られていなかった
 前回5月20日に内部被ばくが第22分析室で発生した後、原燃はマスク着用を義務付けることを県や村に約束し公表した。ところが今回の報告書では、被ばくの起きた第15分析室については、「放射性物質による汚染のリスクが低い焼付け試料皿を取り扱うため、半面マスクの着用を必要とする作業とはしていなかった」(7頁)としている。ところが、第15分析室でもチャック付き袋から生の試料を取り出すのだから、飛び散る可能性を当然考慮しておくべきであった。
 また、今回は当該試料作成において、3回試料を作成したうち、初めの2回分は試料皿の底部がフード内での測定により放射能で汚染されていると判明し、除染ができなかったために廃棄にしている(27頁)。前回5月の被ばく事故の後、放射能がフードへ極力移行しないよう管理するとされていながら、それがまったく守られていない。つまりフード内が放射能で汚染されており、試料皿底部の汚染が日常的に起こることを示している。いくら試料皿の底を除染するとはいえ、そのような試料皿を第15分析室に運びマスクなしに扱うのだから、放射能に対する感覚が麻痺しているとしかいいようがない。
 次に、前回5月の被ばく事故の反省として、「フード作業については半面マスクの着用を義務付けていた」と今回の資料に書かれている(31頁の次の頁)。そうすると、前回に内部被ばくの起きた第22分析室では当然半面マスクを付けていたはずだった。ところが今回事故の時系列の12:10頃の項に「第22分析室内分析作業員に半面マスク着用指示」と書かれている(19頁)。すなわち、その時点まで第22分析室でもマスクが着用されていなかったことを強く示唆している。これは県や村に対する約束違反ではないのだろうか。

7.再処理工場での内部被ばくは「百姓に泥」か
 原燃社員の中に六ヶ所村民は160数名いるという。協力会社社員まで含めると村民は数百名になり、関連会社まで含めるとさらに多数にのぼるという。7月4日に要望書を手渡しに六ヶ所村を訪れた際、古川村長はこのように述べ、2度も続いた内部被ばく事故の背後に関する説明はまだ何も聞いていない、これからだと明確に表明された。
 「再処理する限り内部被ばくは起こる。百姓に泥がつくのと同じだ」と石川迪夫・日本原子力技術協会理事長が青森県の三村知事に例えたという。「放射性物質が存在する区域がある再処理工場では体内被ばくは避けられない。区域外に持ち出さないことが大切だ」。マスクは「必要でない区域では適宜はずした方が安全だ」などと述べたという。工場内で働いている人やその家族は、この言葉をいったいどのような気持ちで聞いただろうか。このような人物が六ヶ所再処理工場の安全管理体制の評価・作業安全を確認する役目を請け負っているのだ。再処理工場内部がプルトニウムという名の泥だらけになるのが不可避であることを認めている。
 このような人物がお目付け役であるのではなおさら、内部被ばくが起こるのは絶対に避けられない。   

8.まずはアクティブ試験を中止させよ
 7月5日に開かれた「六ヶ所再処理施設総点検に関する検討会」で原子力安全・保安院の古西課長は今回の日本原燃の報告を厳しく批判した。6月26日付保安院の指示では、「2件目の作業員の内部被ばく」に厳重注意をし、「徹底的に原因の究明を行うこと」と書かれている。古西課長は、「これが回答の文書なら、明らかに失格」、「報告書は極めてできが悪い」と酷評したという。結局、原燃は7月14日に報告書の修正案を出すことになった。しかし、言葉でいろいろ修正するのは簡単なことだ。保安院が本当に今回の報告書を批判するのであれば、まずはアクティブ試験を中止させるべきである。
 青森県や六ヶ所村がアクティブ試験を中止させ、これらの諸問題について原燃に問いただす公開の場を設定することが不可欠である。