何も分からない原燃の被ばく事故情報
焼き固められたはずの試料から舞い上がったプルトニウム?!


 6月24日に起きた被ばく事故について、原燃はhpで「再処理工場分析建屋における作業員の内部被ばくについて」を公表した。しかし、この短い文章からは、被ばく事故の状況について何も分からない。事故から4日たった現在でも、追加情報は何もない。新聞報道や原燃に問い合わせた内容、5月20日に起きた被ばく事故等も参照しながら、今回の事故に関する原燃の情報公開の問題点や、明らかにすべき情報について紹介する。

◆今度は未成年者がプルトニウムを吸い込んで内部被ばく
 今回被ばくした19歳の下請け会社の労働者は、分析建屋の前回被ばく事故があった隣の部屋で、放射性溶液を焼き固めた試料をピンセットで取り出し分析器にセットする作業の最中に被ばくした。24日午後1時半頃に建屋内の部屋から出る時にハンドフットモニタによる測定で、両手と右靴底から放射性物質が確認され、鼻スミヤによって2ミリシーベルト以上の内部被ばくの可能性があると確認したという。2ミリシーベルト以上の被ばくの場合は、安全協定により即日報告することになっており、午後6時半に公表。被ばく確認から5時間後の公表である。新聞報道によれば、この鼻スミヤの際、0.7ベクレルのα線が確認されたと原燃が発表したという。

◆なぜマスクを着用させていなかったのか
 5月の被ばく事故後、マスク着用を義務づけるとしていたが、今回被ばくがあった部屋はマスク着用の必要なしとしていた。
 原燃が6月9日に発表した「調査報告」では、今後の対応として「放射性物質を扱うフード作業時には、上記対策が定着するまでの間、半面マスクを着用する」としていた。今回の被ばく事故も「放射性物質を扱うフード作業」だった。しかし原燃はこれを守っていなかった。全ての「放射性物質を扱うフード作業」でマスクを着用するのではなく、選別を行っていたことになる。今回の作業部屋は「焼き固めた放射性物質を扱うので放射性物質が飛散する危険性が少ないと判断し、マスク着用を義務づけていなかった」(デーリー東北6月26日)と説明している。5月の被ばく事故の時、原燃は「マスクを付ければ作業効率が低下する」と語り、マスク着用をいやがっていた。それでわざわざマスク着用範囲をできるだけ少なくするためにこのような選別を行っていたと推測される。
 原燃は、なぜ前回被ばく事故後に対策としていた「フード作業でのマスク着用」をこの部屋に適用しなかったのかを明らかにすべきだ。

◆焼き固めたはずの試料から、なぜプルトニウムが飛散したのか
 今回の事故原因と思われる「焼き固めた試料」からのプルトニウムの飛散という事実を見れば、「焼き固めた試料」そのものに問題があり、床などを広範囲に汚染していたと推測できる。
 被ばくした労働者が取り扱っていたのは、ステンレス製の直径3〜4pの皿に、放射性溶液を焼き固めた試料だった。その試料皿をビニール袋から取り出し、ピンセットで分析器にセットする作業だった。原燃は、「焼き固めた放射性物質を扱うので放射性物質が飛散する危険性が少ないと判断し、マスク着用を義務づけていなかった」という。しかし、被ばくの源はこの「焼き固められた試料」であり、そこに原因があったと考えられる。一部報道では、「決められた温度で焼かれていないと試料が飛び散りやすくなる」(中国新聞6月25日)と報じられている。この作業はフード内での作業にもかかわらず、床面まで汚染されていたというから、焼き固めたはずの試料からプルトニウム等が広範囲に飛散していたことになる。このことは、マスクを着用すれば問題なしということではなく、そのような試料を取り扱うことそのものに問題があることを示している。各建屋から分析建屋に送られてくる多くの試料の作成・管理がどうなっているのかが問題にされなければならない。

◆汚染されていた両手袋や右の靴底、床の汚染密度は公表せず
 新聞報道によれば、作業員の両手袋、右の靴底、部屋の床が汚染されていたという。しかし原燃のhpでは、この事実さえ書かれていない。フードでの作業にもかかわらず、床面が汚染されていたというのだから、この部屋はかなり広範囲に汚染されていたと推測できる。部屋の汚染がいつからだったのか等が問題になる。
 5月の被ばく事故の時は、作業服の右胸の最大汚染密度が公表されていた。しかし、今回はそのような数値は何も書かれていない。
 原子力資料情報室に届いた「告発メール」に対する原燃の6月16日付説明では、アクティブ試験開始以降、5月の被ばく事故より前にすでに2回の被服の汚染があったという。この2回の汚染の時は床面などの汚染はなかったというが、その数値も公表していない。5月の被ばく事故時にも、建屋内の汚染についての情報は何も公表していない。
 床面などの汚染密度の測定について原燃は、「連続測定していると思う」等とあいまいな返事だけで確かなことを答えていない。「使用済核燃料の再処理の事業に関する規則」第8条では、「管理区域における空気中の放射性物質の1週間についての平均濃度及び放射性物質によって汚染された物の表面の放射性物質の密度」については、「毎週1回」記録することが定められている。床面の汚染密度は少なくとも毎週1回は記録しているはずだ。
 原燃は作業員の両手袋や靴の裏、床面の汚染密度を公表すべきだ。また同時に、今回の被ばく事故の前には、部屋が汚染されていなかったことを確認しているのかどうか、その資料を示すべきだ。上記の毎週1回記録しているはずの測定値を公表すべきだ。

◆なぜ被ばくを確認した時点でバイオアッセイ検査をやらなかったのか
 原燃は、被ばくが確認された24日にバイオアッセイ検査を行っていない。バイオアッセイ法とは、糞や尿に含まれる放射性物質を測定することによって体内に取り込んだ放射性物質の量を推定するものだ。原燃はなぜかこのバイオアッセイをすぐに実施していない。なぜすぐに実施しなかったのかと問い合わせると、「確認します」と言ったきり、その後返事はない。
 5月の被ばく事故の時は、鼻スミヤは実施せず、被服の汚染が確認されたその日(22日)にバイオアッセイ法を実施し、3日後には被ばく量の暫定値を公表した。
 なるべく早く実施することで、より正確な測定ができるはずではないのだろうか。さらに今回被ばくした作業員の検査を今後も計画的に行う必要がある。内部被ばくの影響は10年後、20年後に現れる。血液検査で「影響なし」と即日発表するなど、責任逃れに過ぎない。

◆原燃は内部被ばく事故に関する基礎的情報を公開せよ
 日本原燃が明らかにしている情報はあまりにも少なく、断片的であり、およそ被ばく事故の全体像が理解できるものではない。今回の事故に関して、少なくとも以下の情報を公表するべきである。

[マスク着用について]
(1)5月の被ばく事故後、どのような理由で今回の被ばくがあった部屋をマスク着用の必要なしと決めたのか、その理由を明らかにすること。

[焼き固めたはずの試料について]
(2)焼き固めたはずの試料が、なぜ、どのようにして飛び散ったのか明らかにすること。
(3)今回分析に用いた小皿試料の写真を公表すること。
(4)被ばくした作業員が測定していた試料のアルファ線のエネルギースペクトルを公表し、さらに、そこに含まれていた核種毎の放射能を明らかにすること。

[作業状況や部屋の汚染の実態について]
(5)被ばくした下請け労働者が作業を行っていた建物の平面図を、作業に用いた計測器やフード等の設備の位置関係を分かるようにして図示すること。
(6)被ばくした労働者の両手袋・靴の汚染密度、部屋の汚染密度の最高値を示すこと。
(7)被ばくした部屋に置かれているモニター類の機能を示すこと。被ばく確認当日の状況をサーベイメータ等の数値を含めて明らかにすること。被ばく事故以前のその部屋の線量密度等の測定値(少なくとも1週間毎)を公表すること。

[鼻スミヤについて]
(8)鼻スミヤを行ったとされているが、その実測値を明らかにすること。
(9)複数の報道によって、鼻孔内から0.7Bq(ベクレル)のアルファ線が検出されたと伝えられている。計測に用いられたアルファ線検出器の機種と測定時間、さらに放射線のカウント数とその偏差を示すこと。
(10)日本原燃は今回の被ばくが2mSv(ミリシーベルト)を超える可能性について言及している。鼻孔内に0.7Bqの汚染があったとしてその何倍の放射能を作業員が吸引したと評価しているのかを示すこと。被ばく線量を求めるには何らかの基準に基づいて線量係数(mSv/Bq)を仮定する必要がある。また、放射性物質の化学形(酸化物なのかそれ以外か等)も想定する必要がある。日本原燃が吸引したと想定している放射性物質の核種とその化学形、それに対応すると考えている線量係数を示すこと。

[バイオアッセイ法について]
(11)事故当日になぜすぐにバイオアッセイ法による検査を実施しなかったのか、その理由を明らかにすること。
(12)実施しているバイオアッセイ法による検査について、1日毎の尿と糞に検出された放射能を公表すること。被ばく線量評価に利用する体内モデルを明らかにすること。