―六ヶ所再処理工場―
10月9日〜16日のせん断中断は核実験モニタリングとの関係か!?
時系列からみればタイミングは一致
 日本原燃は、10月9日から16日まで燃料集合体のせん断を中断した。原燃宛ての要望書「せん断の長期中断の理由やプルトニウム抽出等に関する情報公開を求めます(11/10)」では、1週間せん断を中断したのは、朝鮮民主主義人民共和国の行った核実験に伴う放射能モニタリングのためではないかと質している(疑問点2−(2))。これまで日本原燃は、この問題に関してせん断中断の理由を明らかにしていない。
 ここでは、核実験とせん断中断にどのような関係があるのか、事実関係を示しながら見ていきたい。

1.時系列からみれば絶妙のタイミングで行われていたせん断の中断と再開
(1)せん断の中断(9日21:30頃)は、核実験に係わるモニタリング開始の直前
 表1は、核実験に係わるモニタリングと六ヶ所再処理工場の動きについて時系列に沿ってまとめたものである。
 核実験が行われたのは10月9日の午前中。日本政府は11:30に対策本部を設置、情報収集を開始した。関係諸国から「実験に伴う地震波を観測」との情報が流れる中、日本政府も「通常とは異なる地震波」を気象庁が検知していたことを明らかにした。しかし地震波は小さく、核実験が本当に行われたのかどうかは確定できない。そこで、核実験の実施を確認するために、漏れ出た放射性物質の検出に焦点は移った。日本政府は同日夜、核実験に伴う放射能モニタリング体制の強化を目的として、放射能対策連絡会議の代表幹事会を開いた。放射能対策連絡会議とは、「国外で発生する原子力関係事象に際し放射能測定分析」等を目的に内閣に設置されているもので、官房副長官をトップに、文科省、防衛庁、環境省、原子力安全・保安院等、関係省庁・部署から構成されている。
 20:30、連絡会議代表幹事会は終了し、文科省や防衛庁など関係省庁が4項目の調査を全国で実施するとの決定を公表した。(1)自衛隊機による大気浮遊じんの採取と分析(従来の月1回を毎日に強化)、(2)空間放射線量率の測定の強化(環境庁が全国12箇所で行っているものを強化)、(3)地上大気浮遊じんの採取・測定(都道府県で実施)、(4)雨を含む降下物の採取・測定(都道府県で実施)である。
 連絡会議の決定を受けて、21:55には三沢基地から自衛隊のT4練習機が北部空域で放射能を含んだ粉塵を採取するために飛び立った(図1)。また、文科省は放射能測定の強化を各都道府県に要請した。青森県は、空間放射線量測定結果を翌10日から1日1回国に報告することとなり、岩手県も調査を開始している。
 一方、六ヶ所再処理工場の動きを見ると、主排気筒のA1モニタの値から同日の21:30頃にせん断が中断されていることが分かる(図2)。これはちょうど、連絡会議の決定の直後、三沢からT4練習機が実際に放射能測定のために飛び立つ直前という絶妙のタイミングであった。

(2)せん断の再開(16日20:30頃)は、アメリカの核種検出声明と連絡会議の方針転換表明の直後
 その後、自衛隊機は大気中のちりを捕集するために連日出動し、各都道府県も1日1回国に観測結果を報告し続けた。その一方で、六ヶ所再処理工場はせん断を中断したままであった。
 放射能対策連絡会議は測定結果を毎日発表したが、いずれも「人工放射性核種は検出されず」であった。一方米政府は、16日になって「大気の分析で放射線を帯びた物質が検出され、北朝鮮が地下核爆発を行ったことが確認された」との声明を正式に公表した。
 これを受けて、文科省の松川文彦防災環境対策室長は「(北朝鮮上空の大気浮遊じんは)1週間もすれば日本に届いているはず。今後新たに異常が検出されることは考えにくい」との談話を発表。「放射能対策連絡会議は、毎日の観測体制をいつまで続けるか検討している」との報道が流れた(16日18:09報道)。
 この時の六ヶ所再処理工場の動きを見ると、同じ16日の20:30頃、原燃は突然せん断を再開している。ちょうど、米政府の声明を受け、観測体制の見直しが報じられた直後のタイミングである。

 これらせん断の中断と再開は、時系列から見れば、とても偶然とは考えられないような絶妙のタイミングで行われている。
 さらにつけ加えると、原燃はせん断機のトラブルのために8月19日から10月3日まで約1ヶ月半に渡ってせん断のストップを余儀なくされている。したがって10月9日の中断は、やっとせん断再開にこぎつけた矢先というタイミングで起こっていることになる。原燃が必死で遅れを取り戻そうとしていたことは明らかである。
 これらのことを考え合わせると、9日のせん断中断は核実験モニタリングのためだったという疑いが極めて濃厚になるのである。

2.核実験の影響が埋もれてしまうほど、再処理工場はクリプトン85を大量に放出
 地下核実験では、封じ込めが不十分で大きい割れ目ができれば、ヨウ素やセシウム、バリウムといった放射性物質が粉じんに付着し、浮遊じんとして大気中に出てくる。亀裂が小さい場合、これら固体の放射性物質は環境中に放出されにくい。しかし、少しでもすきまがあれば大気中に出てくるキセノンやクリプトンといった希ガスの類は外に出ることになる。そのため、地下核実験の検知には、まず希ガスがターゲットになる。事実、今回米側が検知したのはキセノン133だと言われている。25日に韓国政府も放射性物質を検出したと発表しているが、韓国側が確認したのもキセノンだと言われている。
 そこで文科省に、今回のモニタリングで調査対象とした放射性核種について訊いた。キセノン133については「今回は調べていない」が(※)、クリプトン85は「一応調べている」とのことであった。
 六ヶ所再処理工場はクリプトン85を全量放出しており、せん断の度に燃料集合体の中に閉じこめられていた大量のクリプトン85が一気に大気中に出てくる。核実験の調査に影響を与えないため、せん断を中断したのではないかと質した。
 これに対して文科省の担当官は、「クリプトンは半減期が長く、海外の再処理で出た分が大気中に相当量たまっている。したがって、クリプトンを調べても今回出たものの影響かどうかは判別できない。六ヶ所再処理工場を止めたからといって、核実験が検知できるものではない(だからせん断中断とは関係ない)」と否定した。
 この文科省担当官の言葉は、核実験から出るクリプトン85がかき消されるほど膨大な量のクリプトンがすでに大気中に蓄積しているという異常な実態を再び浮き彫りにするものであった。六ヶ所再処理工場は、英仏の再処理工場が作り出した膨大なクリプトンの蓄積の上に、新たに大量のクリプトンを日々つけ加え続けているのである。

※:文科省は、今回の核実験に係わるモニタリングで調査対象としたすべての核種を明らかにした。空中の浮遊じんの調査では、セリウムや、モリブデン、ジルコニウム、ニオブ、バリウムといった半減期の短い、逆に言うと比較的放射能の強い核種について調査している。希ガスについてはクリプトンだけ、キセノン133については調べていない。しかし、つくばの気象研究所ではキセノンも含めて大気中の希ガス濃度を調べている。1996年には中国が実施した地下核実験の1週間後に、キセノン133を検出し、核実験との判断を出している。六ヶ所再処理工場を止めたのは、つくばでの希ガス調査と関係があるのかも知れない。ただし、キセノン133は短寿命の核種なので、六ヶ所再処理工場から放出される量はクリプトンに比べて非常にわずかなものだと考えられる。

3.せん断中断の理由を明らかにするよう原燃を追及しよう
 せん断の中断・再開のタイミングは、核実験を巡る動きとぴたりと符号しており、そのために再処理工場を止めたことは疑いようがない。確かに、六ヶ所再処理工場の運転が、実際に核実験の検知に影響を与え得るようなものであったかどうかについて、確かなことは言えない。しかし文科省の担当官が認めるように、クリプトンに限っても再処理工場は大量の放射能を放出する存在である。さらに三沢から飛び立った自衛隊機は六ヶ所再処理工場近傍の太平洋上空で試料を採取する(図1)。「核実験検知の調査を行っている最中、すぐ近くで放射能を大量に出し続けるのはいかにもまずい」との政治的判断があったことは想像に難くない。
 放射能対策連絡会議に対して疑惑を質したが、担当の官房官からの返答は「放射能対策連絡会議として、原燃に対して特段、事業所を止めて欲しいというようなお願いをしたという事実はない」というものであった。また、原子力安全・保安院も「処理の計画に従ってスケジュール通りやっている。たまたまのタイミングでそうなっただけ」としている。
 国・原燃は核実験調査のためにせん断を止めたとは認めていない。なぜならそのことを認めれば、地下核実験以上の放射能を六ヶ所では日常的に放出しているという実態を認めることになるからだ。
 核実験によって「日本海の魚介が汚染される」「輸入産品の放射能の検査が必要」などという報道も行われた。過剰に演出された狂騒の一方で、六ヶ所再処理工場で行われている日常的な放射能放出は省みられることなく、マスコミも含めて黙殺している。せん断中断の理由を明るみに出すことは、六ヶ所再処理工場による日常的な汚染の実態を明るみに出すことでもある。
 原燃は、10月9日〜16日のせん断中断の理由を明らかにすべきである。すべての事実資料を公開するよう原燃を厳しく追及しよう。