六ヶ所再処理工場使用済燃料受入れ・貯蔵施設での
国の「使用前検査」と日本原燃の「自主検査」日程から判明すること


美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 04年2月21日

要  約

1.日本原燃がいう後張りライニングの工事期間約7ヶ月は、虚偽である。国の使用前検査を受けるために日本原燃が提出した「使用前検査成績書」添付資料からは、ライニングの工事期間は約3ヶ月となる。この不一致について、釈明がなされるべきである。
2.現場での板取工程が存在するかのような記述を原燃はしているが、事実に照らせばその工程は最初から想定されていなかった。

 六ヶ所再処理工場使用済燃料受入れ・貯蔵施設(F施設)において、大量の不正溶接がなぜ起こったのか、その原因として無理な工程があったのではないかと、検討会を通じて繰り返し議論されてきた。
 それに対し日本原燃は、「根本原因分析結果を踏まえた」反省と改善策をまとめた資料7−2−1において、工期の設定は妥当であったと反論したが、その判断に対して検討会では何も検討されていない。結果として原燃の主張が鵜呑みにされている。
 しかし実は、原燃が根拠とした後張りライニングの「工事期間」(資料6−5)は虚偽である。約7ヶ月ではなく約3ヶ月であること、工期の迫った95年10〜12月に慌ただしく行われたことが、ここでの事実資料に基づく分析から明らかになる。
 また、ライニングプレートの板取を現場で行うことは最初から想定されていなかったことも明らかになる。この点もこれまでの検討会で原燃はごまかしている。
 この例だけを見ても、さらに、事実に基づかない「出来事」を前提にした「根本原因分析」には、まるで信頼性がないことが分かる。
 少なくともこれらの重要な点について、検討会は検討し直すべきである。原燃の大ウソを鵜呑みにしたままで結論を出したところで、県民も国民もとうてい納得できないであろう。

はじめに
 六ヶ所・再処理工場使用済燃料受入れ・貯蔵施設(以下、F施設)での「不適切」溶接をはじめとする施工上の数々の問題が、原子力安全・保安院の設置した「六ヶ所再処理施設総点検に関する検討会」(以下、検討会)の俎上に上っている。しかし、その過程で日本原燃が検討会に提出したのは、ほとんどが「判断」ばかりで、その基礎となる生の資料が提出されていない。
 「再処理とめよう!全国ネットワーク」は、検討会にあてた要望書や原燃への質問書により、根本原因を究明するよう求め続けてきた。ところが、原因究明を曖昧にしたままで、ウラン試験に入る動きが強まっている。
 われわれはこれまでから、「不適切」工事は、スケジュール優先の、無理な工程に主要な原因があったのではないかと指摘してきたが、ここでは、具体的な資料に基づいて実際の工程がどうなっていたかを推察する。その結果を原燃の主張と対比することを通じて問題点を鮮明にしたい。
 私たちの手元に、核燃料規制課(現在は、原子力安全・保安院、核燃料サイクル規制課)が作成した「日本原燃株式会社 再処理事業所 再処理施設の工事についての使用前検査成績書」(以下「成績書」)がある。これは、「再処理とめよう!全国ネットワーク」が保安院との交渉を通じて獲得した貴重な資料である。
 その「成績書」の添付資料には、F施設での、国の「使用前検査」と原燃による「自主検査」の両方が記録されている。その記録から両検査での検査年月日ばかりでなく、ライニング材の出荷年月日も判明する。その出荷年月日とF施設への搬入年月日には多少の差があると思われるが、その両年月日をほぼ同じと見なし、これらをまとめて表にしたのが【資料A】である(別紙資料として添付)。
 さらに、材料検査記録に添付されているライニングプレートの「検査証明書」から、施設ごとのプレートの搬入年月日や寸法などの貴重な情報が得られる。
これらの情報を総合すれば、F施設のコンクリート打設やライニングプレート溶接の工程に関する具体的な実態が相当に明らかになる。
ただし、これらの内容はかなり複雑であるため、まずはPWRプールを例にとって、上記の資料から何が得られるかを逐一たどるように検討する。その後、【資料A】に基づいて、各施設での工程を総合的に見れば、どのような結論が得られるかを検討しよう。

I )PWR用プール部分のデータを抜き出すことについて
 別紙【資料A】にはいろいろな施設全体が含まれており、また、さまざまな記号が記述されている。それらが何を意味しているのか、そこから何をどのように読み取ればよいのかを明らかにするために、まずはPWR用プールの部分だけを抜き出して検討しよう。
 国が行った「使用前検査」は、設備(燃料移送設備、燃料貯蔵設備など)ごとに、材料検査、寸法検査、耐圧・漏えい検査、据付・外観検査の各検査であったことが「成績書」に示されている。また、原燃が行った「自主検査」も、国の検査と同じ検査項目で行われている。例えば、「据付・外観検査記録(自主検査)」簿には、検査年月日、検査場所と日本原燃褐沚ク実施者(氏名はマスキングされている)が記載されている。(資料1)
 これに基づき、PWR用プールで各検査の検査年月日をまとめたのが表Aである。その表にいろいろな検査年月日が記述されているのは、同じPWR用プールでも部位(場所)によって検査の日が異なっているためである。図1では、その部位別に、ライニングプレートを溶接する前に行った「据付・外観」の自主検査の検査年月日を示している。


II )PWR用プールの自主検査日から読み取れる工程の実態

II-1)据付・外観自主検査はライニング溶接の前に実施
 表A内の▽印は、据付・外観検査を示している。黒色の▽は、原燃による「自主検査」を、赤色の▽は国の「使用前検査」を表している。94年11月7日と12月2日に自主検査が実施され、その後10ヶ月経った95年10月以降に7回(7日)の自主検査が実施されている。例えば、10月18日、20-21日と24日などの▽印も、据付・外観の自主検査日である。
 ▽で示した据付・外観自主検査では、何を検査したのか。
 添付している資料2の「結果」欄に「良」と記入された項目が検査内容であり、「(5)プール水の漏えいに対し、漏えい水を収集できること」「(6)下地材がコンクリート躯体に埋設されていること」を「判定基準」としている。そのことから、それがライニング溶接前に行った検査であることが分かるが、さらに、「検査方法」欄の(5)と(6)にも「・・・(ライニング溶接前)」と明確に記載されているから、ライニング溶接を行う前に下地材等が適正に設置されていることを目視で判定する検査であることが確認できる。

II-2)検査の箇所もわかる
 次に、図1では、各検査年月日にどの部分を検査したかを図示している。94年11月と12月の据付・外観自主検査個所は、壁−壁コーナ部と移送水路につながる狭い部位の壁であり、ごく限られた部分である。それに比べ95年10月以降の据付・外観自主検査は、壁面と床面の大部分である。

II-3)壁-壁コーナ部は先張り工程だと想定
 ところで、壁壁コーナ部のライニングについて原燃は、「先張り工法」であり、コンクリートの打設前に設置し、型枠の代わりにすると第6回検討会での資料6−5図4で、説明している。
(このことは、判定基準の(6)「下地材がコンクリート躯体に埋設されていること」と矛盾するが、ここではとりあえず資料6-5図4の通りコーナ部は「先張り工法」であったと想定しよう。なお、先張り個所は、下地材にライニングを溶接した状態で、型枠の代わりとして打設前に設置していると考えられる。コーナ部検査は、その下地材を検査したのであろう。)
  コーナ部が「先張り工法」であるとの想定に立つと、94年11月と12月に実施された2回の据付・外観自主検査(壁−壁コーナ部)時点では、コンクリートはまだ打設されていなかったと読み取ることができる。

II-4)95年10月の検査日時点で、コンクリート躯体は完成、ライニング溶接は未着手
 95年10月18日以降の据付・外観検査は、検査部位がコーナ部ではないので、判定基準(6)の通り「下地材がコンクリート躯体に埋設されていること」を検査したことになる。だからこの時点、当該の検査部位では、コンクリート躯体は出来あがっているが、ライニング溶接には未着手であると判断できる。
 この結果、プールの壁から上の部分のコンクリートの打設は、94年12月2日以降95年10月18日の間に、何回かに分けて行われたと推定できる。

II-5)ライニング溶接は96年1月17〜18日前には完了
 それでは、ライニング溶接は、いつ終了したのか?
 96年1月に印したが、溶接の終了を教えてくれる。1月12日の印は、据付・外観と寸法に関する自主検査が同じ日に行われたことを、▽と▼(寸法検査)を重ねることで示している。さらに○で囲み、この日の据付・外観自主検査の内容が、ライニング溶接後の検査であることを示している。資料2でこの時の検査内容をみれば、判定基準「(3)ライニングプレートが下地材に溶接固定されていること」と同列の結果欄に「良」と記載していることから、ライニング溶接の後の検査であることが判明する。さらに、資料3の寸法検査では、幅、長さ、深さと各部のライニング材の厚さを実測しているから、この時点で全ての箇所の溶接が終了していることが示されている。なお、印は、自主検査と同じ内容の二つの検査を、国が使用前検査で行ったことを示している。
 1月12日に原燃がライニング溶接後の自主検査を行った後、1月17日と18日にかけて国の使用前検査が行われた。この時点でPWRプールの溶接工事は全て終了し、ライニング槽は基本的に完成していると確認できるのである。(ただし、機器取付けや配管などの設備関係までもが完成しているかは不明。)
 プールという器に関して、後は、機能を確かめる「耐圧・漏えい検査」を残すのみである。

II-6)ライニング溶接工事期間は約3ヶ月
 ライニング溶接の開始と終了の間が、溶接の工事期間である。つまり、溶接前の検査と溶接後の検査の間が溶接工事の最大限の期間となる。このことから、PWR用プールのライニング溶接の大部を占める壁と床の溶接の工期は、95年10月18日から96年1月12日直前までの、最大限で約3ヶ月間と読み取ることができる。床部に限れば、図1に示したように溶接前検査が95年12月16日、溶接後の検査が96年1月12日であるので、床のライニング溶接期間は、正月をはさんでわずか25日間のみである。しかも、表Aからは、95年10月から12月にかけて、検査が次々と慌しく、従って溶接工事も慌しく行われているように見える。
 ちなみに、このプールの壁−床コーナ部(北面)において、床プレートと埋込金物との溶接で、「不正な」継ぎ足し溶接が行われた日は、12月14日と原燃が推測している。  
  (補足)11月14日の印は、プール上部に設置されている「越流せき」(横幅方向に3ヶ所に設置された平板形状のもので、プールの水位を確認するものと思われる。)の寸法の自主検査(完成した高さの実測)である。(印は、国の使用前検査で、越流せきの寸法検査を示す。) また、12月1日の▼は、原燃が行った寸法検査(自主検査)であるが、どの部分かは不明である。(寸法検査記録簿では、後から書き加えたように見える。)

II-7)PWR用プールに関するまとめ
 表Aの「自主検査日」が示している事柄を再度まとめれば、
 (1)96年1月12日には、ライニング溶接は終了しており、プールのライニング槽は完成していた。
 (2)壁と床のライニング溶接の工事期間は、約3ヶ月間。床部は、正月三日間を含めてわずか25日間。
  ところで、軽水炉PWRプールでは、軽水炉BWRプールの先張り工法とは違って、F施設と同じように後張り工法が行われており、その期間は約4.5ヶ月であった(原燃資料6−5・図−1)。この工事期間と比較して、上記約3ヶ月は相当に短い。さらに、床部については、原燃が第6回検討会で「工事期間が厳しいとは言えない」と説明した根拠に用いた発電所(BWR)の床部の後張り部の工期「1ヶ月間」と比べても短い。
約3ヶ月(床では25日)という溶接工期は、どのような制約から決められたのか? 96年1月には、プールのライニング槽を完成させなければならない事情があったのか? 
 (3)溶接前の下地材検査は、95年10月から12月にかけて次々と行われた。溶接工事を急いでいるかのようである。当初の工程通りなのか、それともコンクリート工事が遅れたからではないのか。
 (4)先張り工法であったコーナ部の据付・外観検査は94年の年末。この直後からコンクリート躯体工事に取りかかり、約10ヶ月後の95年10月18日までには、コンクリートは完成していた。

III )PWR用プールのライニングプレートに関する記録が物語るもの
III-1)「検査証明書」が示すライニングプレートの出荷日と枚数
 次に、材料検査に添付されている「検査証明書」(ステンレス製造所が発行)から何が判明するか。
 材料検査記録(自主検査)に添付されているライニングプレートの「検査証明書」には、製造所(最多数は住友金属工業・鹿島工場)から出荷された年月日が記載されている。正確には、製造所が発行した「検査証明書」の発行日であるが、多数の製造所で慣習的に発行日を出荷日としているので、出荷日とみなすことができる。それを基にして月ごとに枚数を集計し、表A上で(壁部)と(床部)に分けて示した。白抜きの数字が月ごとの枚数合計である。また、出荷後数日で六ヶ所の現場に到着すると想定した。出荷された月は、ほぼ現場に搬入された月と等しいと見なせる。

III-2)ライニングプレートはコンクリート躯体ができる前に搬入
 最も早い出荷は、93年12月15日。12枚の壁用ライニングプレートが、「大江工業梶vにあてて出荷され、大江工業の担当者(マスキング)が確認印を押している。(これ以後のあて先は全て、「JNFL(F)日立製作所梶@日立工場」となっており、出荷日と同じ日付及び「日立/日立」という書き込みと日立の担当者による署名か捺印(マスキング)がある。)
 この12枚の板の寸法はすべて4.000×1000.×11422.(厚さ4ミリ×幅1.0m×長さ11.422m)であり、このような非常に長い板でさえミリ単位の精度がある製品として出荷されていることが分かる。「ミリ単位の精度の製品」が意味することは、搬入された板は、そのまま壁や床に使用し、現場では切断・加工を行わないからだと考えられる。
 次が、2ヶ月半後の94年4月28日に出荷された2枚の壁用である。寸法は、4_×1.914m×7.041mであり、日立と大江の両社の担当者が確認している。
 そののち約8ヶ月後の95年1月から4月にかけて、ほぼ全てのライニング板が出荷され、現場に搬入されたことが分かる。(「検査証明書」から、全てのライニング板の面積を合計し、プールの壁・床のおおよその合計面積と比較すると97%となるのでほぼ全てと判断できる。)
 前記のU-4)で示したコンクリート工事の工事期間を再度確認しておきたい。壁部のコンクリート工事は94年12月に取りかかり、コンクリート躯体に埋め込まれた下地材の最初の検査が95年10月なので、躯体のその部分ができあがったのもほぼその頃であろう。
 ところが、ライニング板が現場に搬入されたのは、95年4月以前、つまり、まだ躯体が完成していない頃である。だから、ライニングの「板取」を、コンクリート躯体に基づいて行うことはできない。
 結局、このような現場寸法測定は最初から組まれていなかったのであり、「板取」は実際のコンクリート躯体とは無関係に設計図に合わせて行われたことを示している。
 他方、95年10月以降になると、検査が慌ただしく行われており、したがってライニング溶接も相応のスピードで行われていることが読みとれる。

III-3)原燃の現場「板取」の想定は事実に反している
 次に、原燃が「板取」に関して行った「分析」を検討しよう。
 第7回検討会資料7−2−3「使用済燃料受入れ・貯蔵施設 プール水漏えいに係る不適切な溶接施工の根本原因分析(RCA)について」の中で、原燃は、「板取図に示された寸法が、現場寸法どおりでなかった」ことを「根本原因分析」の前提におき、「分析対象の問題点」と位置づけている。
 (1)「・・・PWR燃料貯蔵プールにおけるプール水漏えいの原因は、施工会社が不適切に施工した溶接によるものであることが明白になったことから、・・(中略)・・合計291箇所の不適切な溶接が行われていることが判明した。」(1頁「はじめに」)と「施工会社の不適切な溶接」が、今回の一連の「不適切施工」判明の発端と強調する。そして、「不適合事象の概要」では、
 (2)「PWRプールでの漏えいの原因である、不適切な継ぎ足し溶接は、ライニングプレートの現場設定時にライニングプレート寸法が不足したため、施工会社は現場施工にあたって継ぎ足し材を入れて不適切な溶接を行い処理したもの」(1頁)として「施工会社の責任」を指摘する。
さらに、「継ぎ足し溶接について」は、
 (3)「施工会社が、ライニングプレートを工場にて加工する際に使用する板取図に示された寸法が、現場寸法どおりでなかった」(3頁)ことを「業務プロセス上の問題点」に据え、これが、「根本原因分析」の前提となる「分析対象の問題点」(「直接的な原因」)とするのである。
 ところで、原燃は「根本原因分析手法」について、「根本原因分析においては、まず、当該事象の発生にいたる作業項目を時系列的に整理した出来事流れ図を作成し、作業が適切に行われていれば事象の発生を防止できたと考えられる作業項目に着目し、作業を行う上で『なぜ事象の発生を防止(防護)できなかったか』を問題点として洗い出した。次に、洗い出した問題点について、なぜその問題を取り除くことができなかったか、『なぜなぜ』を繰り返して行い、直接的な原因の背景にある組織的要因を含む根本原因を明らかにし、・・・改善策を検討・立案した」と説明している。
 そこで「板取」について、「根本原因分析」を原燃がどのように行っているかを同上資料添付−2−1に基づいて、点検する。
 前 提  /「分析対象とした問題点(「防護」が機能しなかった事項)」として、
   ↓    「板取図に示された寸法が、現場寸法どおりでなかった。」を前提に「なぜなぜ」を行う。
 「1Why」/「施工会社は、板取図への現場寸法反映に係る業務*の遂行を怠った(推定)。」
   ↓
 「2Why」/「施工会社では、板取図への現場寸法手順がルール化されていなかった。」
   ↓
 「3Why」/「施工会社は、板取図への現場寸法反映手順を、従来からの軽水炉の経験から
   ↓    特にルール化しなくても対応できていた。」
 「4Why」/「施工会社は、板取図の現場寸法反映手順をルール化し、制定する仕組みがなかった。」
   ここで、「Why」を終了させ、「4Why」の回答が、施工会社における「根本原因」と断定する。
 元請会社における「根本原因」は、上記と同じ前提から出発して「なぜなぜ」を繰り返し、「4Why」の「ライニング板(曲げ加工品)単品の寸法検査は施工会社の自主管理としていた」ことを「根本原因」と断定するのである。
 ここで注目すべき点は、「1Why」の「現場寸法反映に係る業務」についての注釈である。この注釈では、「現場寸法の測定、測定結果を反映した板取図の改訂他、何れの業務が漏れたかは不明」と記載し、「現場寸法の測定」が行われたのかどうかは分からないと原燃自身が認めているのである。
 ここから問題点が2点浮かび上がる。最初の問題点は、「現場寸法を反映する仕組みを作らなかった」のは、そもそも作る必要性がなかったからではないかという点である。次に、現場寸法を計測して「板取」したのかどうかは不明であるはずなのに、「『板取図』に示された寸法が現場寸法どおりでない」といつの間にか、「板取」が行われたかのようなことを前提にしている。「板取図」ではなく、「『設計図』に示された寸法が現場寸法どおりでない」ことが前提になれば、「根本原因」はまったく異なったものになる。
 続いて、原燃が、「(まず)根本原因分析においては、作成」しなければならないとする「事実関係を業務の順に整理し」た「出来事流れ図」(資料7-2-3添付-1-1)がどうなっているかを確認する。
 「現地組織」で<コンクリート打設> →<現場寸法測定>を行った後、「本社組織」において、<板取図に反映>→<コーナ板切断・曲げ>→<検査・発送>を行い,再び「現地組織」で<コーナ板荷受>→<コーナ板設定><寸法不足発見>→(不適合報告)→<継ぎ足し溶接>・・・と出来事が時系列に整理されている。(なお、< >内の作業は「主要な実施業務/作業」であり、( )内は「実施されなかった業務/作業」である。)
 すなわちこの記述からは、(1)「板取」に反映させる「現場寸法測定」は、コンクリートの打設後であり、また、ライニング板の「荷受」前、であること、(2)現場では「ライニング板の切断・曲げ(加工)」を行わずに、荷受した板を直接設置していることが読み取れる。
 しかし、この「事実関係」は、表Aの示す事実とまったく異なっている。すなわち、ライニング板は、95年4月までにはほぼ全て搬入されていたが、その時点でコンクリート躯体は、まだ出来上がっていなかったのである。
 (補足)「本社組織」での「コーナ板切断・曲げ」が示す業務内容について補足しておく。通常、工事現場で使用する資材購入(特に金額の高い資材)は、現場サイドで行わずに本社で調達することが一般的である。従って、「本社組織」からステンレスの製造メーカに「切断・曲げ(加工)」を注文する業務と考えられるのである。実際、資料7−3−2の3頁には「施工会社が、ライニングプレートを工場で加工する際に用いた板取図」との記述がある。また、ステンレス製造メーカが発行した「検査証明書」には、製造メーカが現場に直接搬入するために、「客先」を「JNFL(F)鞄立製作所 日立工場」としている。これらのことから、「本社組織」での「切断・曲げ」とは、ライニング材調達業務であり、実際の切断・加工はステンレス製造メーカの「工場」で行ったに違いないと判断される。

III-4) PWR用プールのライニングプレートに関するまとめ
 以上をまとめると
(1).「根本原因分析」は、事実と異なる出来事を前提にした分析であり、その結果は、「でっち上げ」である。
 国の「使用前検査成績書」添付資料から浮かび上がる事実と原燃が示した「出来事流れ図」の「事実関係」とは一致しない。「現場測定」が実施されたのかどうかが曖昧なのに、あたかも「現場寸法測定」を行ったかのような「架空」の前提に基づいた「根本原因分析」である。
(2).表Aが示すことは、現地寸法を測定して「板取」できる「工程」ではないことである。したがって、「なぜなぜ」解析から導かれる正しい「根本原因」は、「工程」上の制約から、「現場寸法測定手順のルール」作りをする必要がなかったこととなるのではないか。
 実際のコンクリート躯体に合わせて「板取」を行うような発想自体があったとは思えない。恐らく軽水炉BWRプールの工法と同じように、単に設計図に基づいた「板取」ではないだろうか。
(3).荷受人は、ほぼすべてが元請の日立であるから、ライニング板の寸法上の問題も日立の責任となるはずである。この点での元請の責任は問わず、施工メーカだけに責任転嫁するのはなぜか。

IV )PWR用プールについて想定できる工事の工程
以上に検討してきたことから、想定できる工事の工程は下図のようになる。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

V )総合的工程【資料A】が示す「使用前検査」・「自主検査」日程から判明すること
 PWR用プールで検討した内容は、F施設全体の総合的工程【資料A】にも当てはまる。(なお、燃料移送水路部は、天井にもライニング材を張っていること、三ヶ所のピットがあるなど他の設備と異なる構造である。【資料A】での▽印(据付・外観の溶接前自主検査)からはPWR用プールと違っているように見えるが、天井部、ピット部を除く主要部では、PWR用プールと同様である。) 工程の特徴を以下でまとめる。
(1)95年1月から8月までは、溶接前の据付外観検査は、(移送水路の95年2月3日と送出ピットの95年3月3日を除いて)どの設備でも行われていない。(燃料移送水路部の1月から3月の検査は、天井部とピット部の検査である。)
 この間が、コンクリート工事の時期であったことを示唆している。
(2)94年12月以前に溶接前の据付・外観自主検査が行われたあと、8ヶ月の間をおいて95年9月以降、特に10月からは慌しいように、再び溶接前の据付・外観検査が続く(注:三つの各プールで、11〜12月に寸法検査の印があるが、それらはU-6補足で述べたのと同様の理由で溶接中と見なされる)。そして、95年12月から96年3月末までに溶接後の自主検査と国の使用済検査を済ませている。96年3月には、全ての設備でライニング槽が完成し、ライニング溶接は終了している。96年3月末がライニング溶接の最終工期であったことを示している。
(3)ライニング材の搬入もPWR用プールと同様である。94年12月から95年4月にかけて、ほぼ全ての板材が搬入されている。しかも、コンクリートの躯体は、いまだ完成していないと考えられる時期での搬入である。
(注:BWR用プールだけは、据付・外観自主検査での「良」の判定は、溶接前後の区別がなく「全項目」に記入さ
れたものしかないので、溶接前の検査日程を推定した。)
 以上が工程上の特徴である。この「特徴」から判明することは何か。

総合的工程【資料A】から判明すること

*1 ライニング溶接工事は基本的に3ヶ月で無理な工程
 燃料送出し設備と燃料貯蔵設備(P、W、共用の各プール)での主要部(床・壁の大部分)の溶接工期は、約3ヵ月間であり、床部の溶接期間は、PWR用・共用の各プールで25日間である。(注:共用プールでの工期は、96年1月15日〜2月9日。BWR用プールは資料がないため判定できない。)
 しかも、主要な設備で、工期が重なっている(溶接工事が同時に行われている)。
 このことから次の点が問題となる。
 1)3ヶ月や25日という工期は、「無理をした工程」であったことを示しているのではないか?
 2)原燃が提出した検討会資料4−1図−3では、「F施設でのH社の溶接士は13名」となっているが、これだけの仕事量を13名で行うことに無理はなかったのか?
 3)原燃が示している工期は、上記3ヵ月の工期の2.3〜3倍もあるが、なぜそのように長くとっているのか、具体的な説明がなされるべきではないか?
(原燃は、検討会資料3−3−2添付2では、ライニング工事期間は「平成7年7月初〜平成8年3月末の9ヶ月間」、他方、資料6−5図−2では「7ヶ月間」となっている。)
 4)原燃は資料7−2−1の4頁で、「F施設プールライニング工事の工期設定に無理があったかどうかについて、原子力発電所プールの工事量及び作業工数と比較することにより評価した結果、・・・、工期の設定は妥当であったと判断できる」と記述している。
 この判断の「根拠」を示した資料6−5では、次のように説明する。F施設の後張りライニング工程における作業工数(=作業人数×作業日数)を計算すると6100人・日となるが、これは軽水炉BWRプールでの後張りライニング作業工数380人・日の約16倍である。他方、それらの作業対象である溶接線の長さはそれぞれ10.4kmと0.7kmで比は約15倍である。すなわち、軽水炉BWRプールとの比較において、作業すべき量である溶接線長と実際の作業量を示す作業工数が同程度と見なされるから、無理はなかったと結論できるというものである。
 その際、作業日数としては約7ヶ月を採用しているようであるが、作業人数については記述されていない。もしここで考察したように、作業日数として約3ヶ月(90日)、溶接作業員数として資料4−1図−3の13名をとると、作業工数=13×90=1,170となる。すなわち、軽水炉BWRプールと比べてF施設では非常に無理な工程が組まれていたことを如実に示すことになるが、この点はどうなっているのだろうか?

*2 現場での「板取」工程は存在しない
 「板取」を行うことができる現場状況になる前にライニング材が現場に搬入されている。これでは、現場寸法を「板取」に反映させたくても、反映させることはできない。工事の工程を作成する際に、「板取」を行わず、設計図に基づく寸法で材料の発注を行う方式を採用したのではないか?
 また、荷受人が元請の日立であることからすれば、日立もライニング寸法に関する責任を負うべきであるのに、日立には「施工会社の自主管理」任せの点だけで責任を問い、寸法に関する責任をすべて施工業者に転嫁するのは、責任の所在をあやふやにするものではないか。
 このような工法では、現地でライニング板の寸法が合わないことが出てくるのは当然であるのに、そのことに対する対策も立てられず、施工会社は不正溶接と知りながら工期に押されて実施せざるを得なかったことは明らかである(検討会資料4−1添付No.19)。
 原燃の記述では、「コンクリート打設後に下地材、埋込金物の位置を測定し、ライニング板の寸法に反映させることは、施工会社が通常採るべき施工手順であり、実際に実施されていたとの証言もあるが、H元請会社の工事、施工要領書、制作要領書、工事・現地試験要領書のいずれにも現地寸法の測定要領の記載はなく、測定結果に関する記録も残されていない」(検討会資料4−1添付No.25)となっているだけで、当初から現地板取など想定されていなかったことが明確にされていない。

*3 差し迫った工期設定は使用済み燃料受入れ事業開始時期に合わせたためか
 95年10月頃から次々と検査を行い、96年3月末には、溶接工事が終了しているが、この工期設定は、使用済み燃料受入れ事業開始の当初予定(96年4月)に関係しているのではないのか。

(付記)コンクリートの打設時期が明確になり、【資料A】に書き加えることができるならば、F施設の建設の工程はより明確になり、問題点が浮かび上がるであろう。