六ヶ所プール問題検討会第7回に向けての要望書
―工程問題の全貌を明らかにしてください―



2004年1月19日

六ヶ所再処理施設総点検に関する検討会
主査 神田 啓治 様
委員 各位 様


 「六ヶ所再処理施設総点検に関する検討会」も6回が重ねられ、昨年12月26日の第6回では、不適切溶接について日本原燃による「根本原因分析」の説明がなされました。しかし、その説明は、下請け業者の不適切溶接をなぜ見抜けなかったかに重点が置かれ、なぜ下請け業者が不適切溶接を行ったかについては解明されるものではありませんでした。事実、最終的に到達したはずの「根本原因」は、さらに「なぜ」と問いかけることが十分に可能な程度の、限られた範囲内のものにすぎません。

 第6回検討会に、日本原燃は初めて工程についての資料6−5「使用済燃料受入れ・貯蔵施設プール施工時の工程について」を提出しました。その目的は、「F施設プールライニング工事は、工程的に厳しかったのではないか、そしてそれが引いては当該工事において異常な数の不適切な溶接施工を行った原因ではないか」という疑問・批判に答えるためであると記述されています。確かに、原燃の「根本原因分析」の中では、工程問題は完全に除外されています。このことを根拠づけるのが資料6−5の役割だというわけです。
 なぜこれほどまでに原燃は、工程問題を不適切溶接の原因から排除しようとするのか、私たちはその動機に強い関心をもたざるを得ません。工程というような重要情報が、このときになるまで隠されてきたことも非常に奇妙なことです。ちなみに、今年1月5日に原燃は、ライニングプレートの補修作業の際に、既設のライニングプレートを変形させたためにこれを補修する旨を公表しましたが、なぜそのような事態を引き起こしたのか、その原因については一言も触れていません。原因の解明はしないというのが原燃の体質なのでしょうか。
 幸いにも第6回検討会では、資料6−5に対して委員の皆様から的確な対応がなされました。会議で指摘された批判・質問と、それへの原燃の対応、または会議で決められたことは以下です

−a資格のある溶接士を何ヶ月張り付けたのかという質問が出されましたが、その場では原燃は答えていません。
−b工法の違いがあるのに、その点を評価せずに、単純に人と時間だけで結論づけるのは余りにも稚拙だとの批判が出され、工法の違いを「根本原因分析」に盛り込むべきだとの主張がありました。
−cこれらを踏まえて近藤主査は、工法の問題には委員の間で「特別な関心」があるので、この問題を「根本原因分析」で扱うべきだと確認しました。

 第7回検討会では、これらの点を踏まえた資料が原燃から提出されるものと私たちは理解しています。工法の違いが問題になるのはまったく初めてであり、第7回検討会では、この問題が不適切溶接の原因として改めて深く議論されることを、私たちは強く期待します。

私たちは、以下の点を要望いたします。

要 望 事 項

(1) 私たちの下記の疑問点をぜひ明らかにしてください。
(2) 原燃は主張の直接の証拠となる1次資料をほとんど提出していません。
工程の全貌が明らかになるような生の資料を提出するよう求めてください。


疑 問 点

I. 資料6−5の結論に関する疑問点

 まず、資料6−5の論理方法をいったん認めた上で、その結論にかかわる疑問点を提起します。
 論理方法として原燃は、F施設でのH元請社分の後張り(コンクリート打設後)ライニング工事(ライニングの設定・溶接作業)だけを抽出し、それを同じH社の軽水炉BWRプールの後張りライニング工事(同作業)と比較しています。工程全体では両者で工法が違うため、後張りという共通部分に目を付けたというのです。両方で作業工数(作業員数×日数)を計算した結果、下表のように比率が約16倍となり、それが溶接線長比(工事量比)約15倍と同程度であることから、「工事期間が厳しいとは言えないと判断できる」と結論づけています。
溶接線長 工事期間 作業工数 溶接線長比 作業工数比
六ヶ所再処理F施設
軽水炉BWRプール
10.4km
0.7km
約7ヶ月
約1ヶ月
約6,100人日
約 380人日
約15
約16
 ここでカギとなる量は作業工数ですが、この計算のためには、作業員数と作業日数の両方が必要です。ところが作業員数の記述は皆無で、作業日数も「工事期間」というあいまいな量で代替されており、明確に規定されているとは言えません。

疑問1.作業工数の計算に用いた作業員数と作業日数はそれぞれいくらですか。

疑問2.作業員とは、溶接資格をもった人だけなのか、それとも「設定」作業だけを行う人まで含めているのですか。
上記のように、ここでいうライニング工事には、溶接だけでなく「設定」作業も含まれていることを考慮してください(資料6−5の1頁下から8行目と5行目)。

疑問3.資料4−1図−3にあるH社の溶接士13名を作業員とすると、作業工数は2730人日と上記の約半分になり、必要工事の半分程度は手抜きされたことになるのではありませんか。
 資料4−1図−3には、H社の溶接士は13名と書かれています。これだと作業時間を7ヶ月とフルにとっても、作業工数=13人×210日=2730人日となって、上記6100人日の半分以下にしかなりません。そうすると、必要な溶接工事量(溶接線長)はBWRの場合の15倍あったのに、実際に投入した作業工数はBWRの7.2倍と半分程度しかなかったことになります。ここから必然的に出てくる結論は、すべての必要作業に手が回らないために、工事の半分程度は手抜きしたということになりますが、この点はどうなっているのでしょう。それとも同じ作業日数でも、作業密度が倍あったか、または夜も寝ずに働いたということでしょうか。

疑問4.「工事期間」をそのまま作業日数とするのではなく、場所ごとの実溶接時間を明確に示し、その作業日数を採用すべきではありませんか。
 作業工数を計算する際の作業日数には、実作業日数をとるべきです。ところが、資料6−5図2ではライニングの開始と完了時だけが示されていて、その間の暦時間がそのまま工事期間とされています。実作業時間の詳細が何も説明されていません。3つの貯蔵プールや燃料移送水路など場所ごとの溶接作業の具体的な時間経過が公表され、その都度の投入作業員数とともに、実作業時間が明らかにされる必要があります(この点は実は、下記の全工程問題と関係しています)。

疑問5.資料6−5の目的は、不適切溶接の原因分析から工程問題を除外するための根拠を示すことだと理解されます。それなら、もし資料6−5の結論が否定されるか、もしくは根拠不十分となった場合は、工程問題は当然にして原因の中に加えることになると思われますが、いかがでしょうか。


II. 工程全体に関する疑問点

 前記疑問4を詰めていくと、結局は後張りライニングだけを抜き出せばよいというわけではなく、工程全体が明らかにされねばならないことになると思われます。

疑問6.無理な工程だったのではないかとの疑問に原燃が答えるためには、後張り溶接だけでなく、すべての工程を比較検討する必要があるのではないでしょうか。
 先張りでも後張りでも溶接作業としては同質なので、BWR作業と量的に比較することは可能なのに、なぜ全体の溶接工程で比較しないのですか。さらに、問題になっているのは工程に無理があったのではないかということなのに、一部の工程だけを抜き出しても、その答えにはなりません。コンクリート打設なども含むすべての工程を比較検討する必要があるのではないでしょうか。

疑問7.少なくともBWR工程で示されている程度の工程を、F施設でも具体的に示すことが、評価のためには必要ではないでしょうか。
 検討会資料6−5図−2の工程図で示された工程内容(ここでは図Aとして参照)が、F施設とBWRであまりにも大きく違っています。BWRでは、施工順序や各部・各種の工程と工期がかなり細部まで記載されていますが、F施設ではそれらに対応する記述がまったくと言っていいほどありません。

−a BWRの工程では大ブロック工法がとられていますが、その説明は資料6−5の図4に記載されています。図Aを見ると、大ブロック設定期間にコンクリートが4回に分けて打設されています。その間、第2回目の打設直後から床下地材設定が行われ、第4回の打設後に床下地材仕上げが行われ、その終了と同時に、床への後張りライニングが始まって約1ヶ月かかり、その終了直後に床部PT(浸透探傷試験)とVcT(真空発砲試験)が約20日間実施されています。一つひとつの工程が明確であり、およそ妥当な期間設定で実施されているように見えます。資料6−5の図−4ともおおむね対応しています。

−b ところが、F施設について図Aを見ると、書かれているのは3種類のバーチャートだけです。コンクリート打設のための型枠はいつ組んだのか、コンクリートの打設はいつ何回に分けて行ったのか、型枠などはいつはずしたのか、これらの工程がすべて終了した後に後張りライニング工程に入ったのか、それともコンクリート打設の終了した部分から順に後張りライニングを行ったのか、まるではっきりしていません。ただし、図A左上の「建屋工事に合わせて施工済み」との記述からすれば、後張りライニング開始時にはすべての場所でのコンクリート打設(建屋工事)が終了していたとしか読み取れません(この真偽には後で触れます)。また、問題となっている現場での板取は行ったのかどうかもはっきりしていません。

図A:F施設/BWRプールでの後張りライニング工程比較(資料6−5図−2より作成)

   注 PT/VcT:浸透探傷試験、真空発砲試験。BWRは110万kW級

疑問8.核燃料規制課の使用前検査成績書から、F施設では各場所でさまざまな工程が同時並行で実施されていたと示唆されます。工程全体の生の資料が公開されるべきではないでしょうか。
 実は、工程に関する情報が、核燃料規制課が作成した「再処理施設の工事についての使用前検査成績書」から得られます(添付のエクセル図は、この資料の検査記録を基に作成したものです。燃料移送設備とPWR用燃料貯蔵設備については、その資料添付の「検査証明書」から得られるライニング材発送情報も付加しています)。
 自主検査で、プール水が収集可能か、及び下地材がコンクリート躯体に埋設されているかという項目の検査が行われていますが、これはコンクリート躯体が完成した後で、かつライニング工事にかかる前の段階で行われています(なお、資料3−3−2添付2によれば、ライニング工事期間は平成7年7月初〜8年3月末の9ヶ月間となっています)。
 この項目の検査は、例えば燃料移送水路では、平成6年9月13日から8年1月26日まで26回実施されています。そうするとこのデータから、燃料移送水路のコンクリート躯体は、ある部分ではすでに平成6年9月にできていたが、別の部分は平成8年初頭になってからできあがったことが示唆されます。同じ検査が、燃料送り出し設備では、平成6年10月14日から8年2月19日まで19回行われており、燃料貯蔵プール(PWR用)では、平成6年11月7日から8年1月15日まで22回実施されており、これらから同様な状況にあったことが示唆されます。
 また、例えば燃料移送設備では、ライニング前の自主検査が平成7年4月〜8月の5ヶ月間は皆無で、ライニング材の搬入は平成7年4月までにほぼ終了しています。これからすると、ライニング工事はほぼ平成7年4月に開始されたと予想されます(ただしこのことは、添付エクセル図の右下に示すように、原燃の資料ではライニング期間は平成7年7月初〜平成8年3月末の9ヶ月間となっていることと矛盾します)。

疑問9.F施設工程の全貌がBWRプールの工程全体と比較され、工法の違いの全体が明らかにされ、その違いがどう考慮されたのかが問題にされるべきではないでしょうか。
 前記の自主検査過程から示唆される工程によれば、F施設とBWRプールとでは、単に後張りライニングのウエイトが異なるだけでなく、したがって大ブロック工法か否かという工法の違いだけではなく、工程全体に大きな違いがあったと思われます。すなわち、資料6−5図−2に見られるBWRの後張り工程では、ほぼその溶接作業だけがその間に実施されていたと見られます。それに対しF施設では、ライニング期間中にコンクリート打設も実施されていたことが示唆されています。さまざまな工程が同時並行的に、燃料送り出し設備や3つのプールなどさまざまな場所で進むというようになっていたと推測されます。このような違いがどのように考慮されたのかが具体的に問題にされるべきではないでしょうか。

疑問10.下請を全面信頼した原燃は、工法の違いをも認識しなかったに違いありません。なぜそうなったのか、その原因はスケジュール優先にあったのではないでしょうか。
 原燃はこれまで下請けのO社は軽水炉でのプール建設に十分な経験があるので、それを信頼したこと、ただし信頼し過ぎたことに問題があったことを明言してきました。その信頼し過ぎたことの内容は、BWRプールとF施設では違いがあるのにそれを十分考慮しなかったというものです。その違いとは、F施設の方が溶接線が長いこと(約5倍強)、天井面などをもつ複雑な構造になっている部分があるということ、ただそれだけでした。
 ところがここにきて、工法に著しい違いがあることが初めて明るみに出たのです。下請けを信頼したという以上、その工法の違いさえも、原燃レベルでは考慮されなかった可能性がきわめて高いと言えるでしょう。だからこそ、これまで表に出すほどの問題でもない、不適切溶接の原因などにはなるはずがないという態度をとり続けてきたに違いありません。
 工法の違いという重要問題を考慮するのは誰が考えても当然なことです。それなのに、いったい何が、いかなる状況が原燃にこのような不可解な態度をとらせたのか、その原因こそがまさに問題になるでしょう。その原因とは、ずばりスケジュール優先ではないでしょうか。

 六ヶ所再処理工場のプールの開設を、本体が動く予定より約7年も早く設定するような事情が事実として存在していました。継ぎ足し溶接に関する作業所長の証言「寸法不足が生じた場合、当時の状況では、工程に影響しないよう継ぎ足し溶接を実施したと考える」(資料4−1添付3・No.19項)が、スケジュール問題の存在を如実に示しています。「スケジュール問題は存在しない」という原燃の主張の理由がまるで見当はずれであることは、すでに検討会でも指摘されてきました。
 原燃は改めて、なぜプール開設の当初予定を平成8年4月に設定したのか、その間の工期が軽水炉でのプール工期と比べて無理がないとどのように判断したのかを示すべきです。そうでないと、本体工事にも無理があると推測され、再処理施設全体がまるで信頼性のないものとなるでしょう。

2004年1月19日


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