「六ケ所再処理施設総点検に関する検討会」の
11月14日付「評価意見」に関する評価ノート



2003.12.1 美浜の会

(この評価ノートは、検討会評価意見の中から問題を限定して評価しています。
また、その内容にできるだけ即して評価するようにしたつもりのものです)


1.はじめに
 「六ケ所再処理施設総点検に関する検討会」(以下、検討会)が作成した「日本原燃轄ト処理施設品質保証体制点検計画書に対する評価意見」(以下、評価意見)が、11月14日付けで原子力安全・保安院から日本原燃に通知され、公表された。この評価意見は、9月9日に日本原燃が原子力安全・保安院に提出した「再処理施設品質保証体制点検計画書」(以下、点検計画書)に関する4回の検討会での検討の集約としてまとめられたものである。原子力安全・保安院は日本原燃に対し、この評価意見を採り入れた点検計画を再提出するよう求めている。日本原燃が点検計画を再提出したときは、この評価意見がまともに反映されているかどうかが、まず第一に問題になるだろう。そのため我々としても、この評価意見を評価しておくことが必要かつ重要であり、同時に、評価意見の限界をも把握しておく必要がある。
 ここでは、評価意見の全体を評価することは差し控えたい。問題の焦点をはっきりと絞る方が、いまの問題点を明確に浮上さえることができると考えるからである。ここで取り上げるのは、以下の点である。
 第2節:評価意見の「1.はじめに (1)」に書かれている内容を詳しく評価する。ここで評価意見は、日本原燃の点検計画の発想を批判し、それに別の考えを対置している。すなわち、日本原燃の9月9日付け点検計画書のやみくも的点検計画を批判し、あれだけ多くの不正溶接が起こったのはなぜかという原因究明を優先すべきであるとの考えを対置している。このことが、点検計画書の再提出を求めるという検討会の理由と根拠になっている。
 第3節:評価意見の「7.今後の検討の進め方」の最後の部分に、「不適切溶接施工に関する問題点の原因究明」については確認が終了しているので、今後の検討課題には含めないと読みとれる記述があるが、第4回検討会の事実に反しているので、これを批判的に検討する。
 第4節:その原因究明の重要ポイントが、過去の建設過程でスケジュールを優先したのが不正溶接などの原因ではないかという問題であった。この問題は検討会の過程で、第4回においてさえ、繰り返し議論されている。ところが奇妙なことに、評価意見ではまったく触れられていない。そこで、原因究明が終わっていないことを端的に示すために、及び、スケジュール問題を再度検討課題とするよう求めるために、この問題を我々なりに総括する。
 第5節:これらの評価・検討を通じて、いま何を問題にすべきかについて、検討会に対する要求事項として抽出したい。
 これらの検討を通じて、日本原燃とはいかに頼りない信頼できない企業であるかが自然と浮上する。このような企業が建設した再処理工場など、その全体がまるで信頼できないということである。

2.「既に調査確認されている品質保証体制の問題点」とは何か−評価意見1(1)の評価
 評価意見は、「1.はじめに」の(1)の冒頭で、次のような問題を持ち出している。
 「今回の点検の目的は、最終的には日本原燃鰍フ品質保証体制全体の点検までを行うものであるが、日本原燃鰍ゥら提出された点検計画の最初の段階の中心的な作業は設備機器等の健全性の点検作業となっている。このような品質保証体制の点検の進め方は、品質保証活動というものが一般的に点検に基づく不都合な点の修正・改善を繰り返す継続的な活動とされていることからも、必ずしも不適切ということにはならない。しかしながら、・・・。」
 ここで評価意見の主眼点は、「しかしながら」以後にあるのであって、そこまでの部分では、「必ずしも不適切ということにはならない」と配慮しながらも、日本原燃の点検計画の考えを基本的に批判している。その批判の対象になっているのが、「日本原燃鰍ゥら提出された点検計画の最初の段階の中心的な作業は設備機器等の健全性の点検作業」だという点である。つまり、9月9日付け日本原燃の点検計画では、最初の段階に「設備機器等の健全性の点検作業」をもってきていることを批判し、それに「しかしながら」以後の考えを対置している。
 これは、点検計画をどういうものとして捉えるかという点で非常に重要なので、これまでの経過にまで若干さかのぼって見ておこう。

◆6月24日付け原子力安全・保安院通達
 最初の新たな出発点は、6月24日付けの原子力安全・保安院の厳重注意を伴う日本原燃への通達「日本原燃株式会社再処理施設使用済燃料受入れ・貯蔵施設におけるプール水漏えい等に関する対応について」である。そこで、原因究明等について次のように指示している。
「1.品質保証体制について
(1) 使用済燃料受入れ・貯蔵施設及び再処理施設本体に関し、施設・設備建設時の不適合処理等に関する品質保証体制について点検を行い、品質保証体制が正しく機能しなかった原因の究明を行い、その結果について報告すること。
(2) 品質保証体制が正しく機能せずに建設された可能性のある箇所に関する点検計画を策定し、報告すること。」
 つまりここでは、上記(2)での不正溶接箇所などの「点検計画を策定し、報告すること」より前に、「品質保証体制に点検を行い、品質保証体制が正しく機能しなかった原因の究明を行い、その結果について報告すること」を要求している。

◆8月6日付け日本原燃報告書
 この要求に応えて日本原燃から最初に出されたのが、8月6日付け報告書「使用済燃料受入れ・貯蔵施設のプール水漏えいに係る調査、点検結果及び補修計画について」である。この基本的な考えは「はじめに」で次のように記述されている。
「使用済燃料受入れ・貯蔵施設のPWR燃料貯蔵プールにおける漏えい検知装置を通じたプール水の漏えいの原因は、不適切な施工による計画外の溶接部に発生した貫通欠陥によるものであった。
当社は、・・・プール内の各部位について他に計画外溶接が存在するか否かの点検を実施することとした。
(中略)
 調査においては、このような不適切な施工について、関係者への聞取り調査、施工記録などの書類調査、切り出し試験片の分析調査などを行って事実関係を究明するとともに、点検及び補修作業に対する徹底した検討を行ってきたが、今般、その結果がまとまったので報告する。今後は、この報告に沿って、安全確保を第一義として、確実に補修工事を実施して信頼回復に努めていく所存である。」
 最初の部分では、水漏れの原因は穴が開いたことだと言っている。原子力安全・保安院の要求している「品質保証体制が正しく機能しなかった原因の究明」など行われた気配さえない。それなのに最後は「補修工事を実施」すると強調までしているのである。

◆9月9日付け日本原燃の点検計画書
 その次に日本原燃が出してきたのが、9月9日付け点検計画であった。その「1.目的」に基本的な考えが次のように書かれている。
「平成13 年7 月に発生した使用済燃料受入れ・貯蔵施設のPWR燃料貯蔵プールにおけるプール水漏えいの原因は、不適切な施工による計画外の溶接部に発生した貫通欠陥によるものであったことから、使用済燃料受入れ・貯蔵施設及び再処理施設本体の同様の設備について点検を行った。その結果、上記漏水箇所以外に多数の計画外溶接や埋込金物の不具合が判明した。(中略)
 これらの原因は、施設の設計・建設時の品質保証体制が十分に機能していなかったものと判断し、当該箇所の点検・補修に留まらず、改めて再処理施設の健全性の確認、品質保証活動の検証を行い、必要に応じて改善を行う。(中略)
 本点検計画書は、再処理施設の主要な設備及び建物を対象として、それらが当社要求仕様及び法令要求を反映した設計及び工事の方法の認可申請書(以下、「設工認」という。)のとおりに施工されたことを確認するための点検手順を示したものである。」
 最初の部分で水漏れの原因は穴開きだと言い、次の段落でそれらの原因は「施設の設計・建設時の品質保証体制が十分に機能していなかった」ためであると「判断」しているが、やはりここでも「品質保証体制が正しく機能しなかった原因の究明」などかけらも見られない。それどころか最後で、これは「点検手順を示したもの」だとまで書いている始末。
 なお、最後に書かれている「施工認のとおりに施工されたことの確認」という内容についても、評価意見では「2.点検目的について」で、そのことは「この点検計画のすべてではない」とクギを刺されている。

◆検討会での議論
 以上に述べたような点検計画書の基本的欠陥について、検討会では第1回から問題にされたし、ずーっと繰り返し問題にされてきたのである。例えば、第1回では次のような議論が行われた。
「【竹下委員】 これはさっきの話とももちろんリンクするんですが、保安院のほうから6月に日本原燃さんのほうに、品質保証体制が正しく機能しなかった原因の究明を行い、その結果について報告することと、こういう指示があって、これに対する答えはまだ来ていないということなんですね、結局。日本原燃さんは、今考えている品質保証計画の総点検かな、その結果、その答えを出そうとされているということなんですか。
【坪井核燃料サイクル規制課長】 この点検計画の3段階目のところに、9ぺ一ジですけれども、既知のトラブルの内容というのがあって、今現在わかっているトラブルの内容と、今度の点検で新たに出てくるものと両方合わせて分析・評価するというのが、このフローではそうなっています。その上で全体的な原因究明の答えが点検結果として報告されてくるという手順になっている、という計画だということです。それがいいかどうかは、ご議論いただく点です。」(27頁)
 つまり竹下委員が、原因究明をやれという原子力安全・保安院の要求に対する答えはまだ出されていないと指摘したのに対し日本原燃は、全体的な原因究明の答えは点検結果として報告するとの考えを示している。これに対しては当然次のような批判が起こる。
「【竹下委員】 いや、一般論でございまして、工程上に無理のあったプロセスは一体どの部分であるとか、あるいは実際に、多分安全上、重要度分類というのも非常に重要な考え方なんですけれども、その設備によって一生懸命力を入れないかんところもあるし、比較的軽いところもある。そういう安全重要度の考え方もあるんですけれども、工程と、それぞれ受注した、担当したメーカー自身のいわゆる技術的能力、あるいはそれがぼんとうに技術的な能力がちゃんと反映する形で工事がされたのかどうか、そこをチェックして、どうも、いや、ここは工程上無理があって、大動員でやったんですよ、じゃあ、やっぱりそこは怪しいね、そういうところを徹底的に調べましょうとか、そういうほうがやっぱり合理的ではないか。(後略)
【井川委員】 ちょっと具体的な提案なんですけれども、少なくとも今、竹下さんもおっしゃったとおりで、その背後にある原因がわからないと、そればかり調べているわけにはいかないんですけれども、少なくとも原燃さん自身が、こういう問題が自分たちにあったんだということを自覚した上での再点検でなければいけない。それは先ほど来の、原因についての報告が全く来ていない段階でこれを云々しても、ちょっと不安だな、心もとないなと。
 つまり、彼ら自身がこういうことを起こしてしまった体質として、何が内部にあったか。推測するに全く同じで、今年の9月だか10月ですか、10月にウラン試験をやりたかった、再来年か何かに運転したかったということで、おしりがつっかえているし、何度もおくれてきた事業だから今回だけはというのは推測するに一番自然な感じなんですけれども、果たしてスケジュールだけに合わせるという体質が、巨大な組織ですから、それが1つの慣性としてどんどん突っ走るという組織体質が今も残っているとしたら、いくらきれいな体制をつくっても、また同じことを繰り返すおそれというのがある。したがって、そこを、自分たち自身で最終的な原因としてどういうものだと自覚しているかというのをとにかく聞きたいなと。(後略)」(第1回28頁)
 ここでの2人の発言は、「工程」、「スケジュール」という概念が初めて持ち出されたという意味でも非常に重要である。井川委員の「こういう問題が自分たちにあったんだということを自覚した上での再点検でなければいけない」という指摘が、結局は、今回の評価意見に基づいて点検計画を再提出せよという要求にまでつながり、その要求の根拠となったのである。それは、次の城山委員がいうように「何でこんなことが起こったんだ」という疑問である。
「【城山委員】おそらく、今、近藤先生がおっしゃった1つ目と2つ目が絡んでくるのかと思いますけれども、要するにすごくシンプルな質問で、何でこんなことが起こったのかというのが、多分、一番大きなクエスチョンだったんだと思うんですけれども、それがちゃんと説明になっているかどうかという点、もう少しちょっと考えていただきたいんですけれども、例えば何で信頼したのかという話ですね。元請は軽水炉について十分経験があるから信頼した、だけれども、ここで書かれているのは、これは逆に言うと素人でもわかる話なんでしょうけれども、全然違うものをつくるんだ、だから本来はもっと考えるべきだったと言うんですけれども、これは説明ではなく、ファクトなんだと思うんですね。つまり、何で全然違うものを発注するのに十分こういうことを検討しなかったのかというのがクエスチョンなので、クエスチョンを言いかえたに過ぎないわけです。だとすると、何でこんなことが起こったんだというのをむしろ知りたい話なんだろうと思います。」(第2回13頁)
 このようにして、前述のように評価意見のはじめの部分で記述されているように、「点検計画の最初の段階の中心的な作業は設備機器等の健全性の点検作業」という規定が批判され、そうではなく、それより前に「原因究明」あるいは井川委員の「こういう問題」がくるべきだとの考えが対置されたのである。

 このことが評価意見の「1.はじめに(1)」の「しかしながら」に続く部分に記載されている。
 「しかしながら、具体的かつ継続的な活動であるとはいっても、点検計画が作成された時点で判明していることは点検計画に反映されることが必要であり、点検計画は、既に調査確認されている品質保証体制の問題点を踏まえたものであることが示されるべきである。すなわち、既に本検討会に報告・確認されているプールライニングの不適切溶接施工についての原因究明の結果やこの施工当時の日本原燃鰍フ品質保証体制(元請会社及び施工会社の品質保証体制、日本原燃鰍フ品質計画及び検査・監査体制等を含む)の組織的問題点や運用上の問題点を踏まえたものであることが示されるべきである。」
 ここで次の再提出されるべき点検計画に対して踏まえるよう要求されているのが、「既に調査確認されている品質保証体制の問題点」であり、それをさらに具体的に記述しているのが、「すなわち」以下の記述内容である。すなわち、その「問題点」には2つあり、@プールライニングの不適切溶接施工についての原因究明、A施工当時の日本原燃鰍フ品質保証体制の組織的問題点や運用上の問題点、であってこの2つは深く結びついている。
 しかし、この評価意見の中では、この「問題点」の中身がどういうものを指しているのか、これ以上の記述はない。しかし、この「問題点」は、先ほど引用した井川委員のいう「こういう問題」と同一の内容であるに違いない。そして、そのような内容は、各回での委員の意見に答える形の日本原燃の「コメントへの回答」として蓄積されてきていた。それらは、第1回での意見(コメント)に対する日本原燃回答が資料2−4−1、第2回に対して資料3−3−1、第3回に対して資料4−2−1である。そしてこれらの集約の形をとっているのが、第4回検討会に日本原燃から提出された資料4−1添付−3であるように見える。しかし、この資料だけでは、検討会でなされた議論の全体が反映されているとは言えない。もちろん、第4回の議論内容を反映した資料はまだない。
 特に問題なのは、非常に重要なスケジュールに関する内容が、この資料4−1添付−3では落とされている。スケジュールという項には、スケジュールの変更理由しか書かれていない。上記の資料だけに頼るのは危険であって、やはり検討会での議論の全体を把握する必要がある。
 このような点にあいまいさが残されているので、日本原燃が再提出した点検計画がはたして「既に調査確認されている品質保証体制の問題点」を踏まえているかどうかを検討会が判断するに際して、その判断の基準となるべき「既に調査確認されている品質保証体制の問題点」とは何かが再び議論される可能性も、同時に残されていると考えられる。

3.「不適切溶接施工に関する問題点の原因究明」はすでに確認ずみか
 上記のように評価意見は、原因究明問題を優先するような点検計画の再提出を求めたのであるが、他方では、その原因究明問題自体は終了していると読めるような判断を下している。すなわち、「7.今後の検討の進め方について」の最後の部分で、次のように記述している。
「また、本検討会は、不適切溶接施工に関する問題点の原因究明については、既に出来上がっている設備機器等の健全性に関する点検計画を評価する観点からの確認は行うことができたと考えられるので、今後は埋込金物問題や硝酸漏えい問題に関する原因究明結果の検討を進めていく。さらに、これらを踏まえた品質保証体制全体の問題点の究明や改善策についても、引き続き必要な検討を深めていくことが必要である。」
 つまり、「不適切溶接施工に関する問題点の原因究明については、・・・確認は行うことができた」と考えているのであるが、実際に行うことができたのは、「既に出来上がっている設備機器等の健全性に関する点検計画を評価する観点からの確認」なのだと言っている。この「観点」にかかっている文がどのような意味で観点を限定しているのか明らかでない。しかしいずれにせよ、「今後は埋込金物問題や硝酸漏えい問題に関する原因究明結果の検討を進めていく」としていて、「今後」の中からは「不適切溶接施工に関する問題点の原因究明」が省かれているのであるから、この問題は確認済みで終了したとの扱いを受けているとしか考えられない。

 しかし、この扱いは第4回検討会での議論内容に反しており、原因究明問題はけっして終わってはいない。
 第4回検討会では、原因問題の中でも重要なスケジュール優先問題について、議論の冒頭に近藤主査が次のような趣旨を発言している。
 「スケジュールに関する議論がやや空回りしている。答えてないに等しい。つまり、問題は過去の不具合に関わる原因としてのスケジュールだが、日本原燃はそういう事実は無かったという。社長が記者会見でスケジュールを優先しないという話しを持ち出しているが、いまの社長がどうしたとかが問題ではなく、過去にどうだったかというのが問題提起されているのだ。過去の状況においてスケジュールに係わるプレッシャーがあったかなかったか、それに対する答えはいまの段階ではわからないというのもあるかも。まあ、そういうこともあったかも知れないということもあるかも。分からなかったこともあっていい。そういう意味で少しクールな整理をした方がよい」。
 すなわち近藤主査は、議論の冒頭で、この問題が終わっていないどころか、日本原燃が「答えてないに等しい」とまで述べ、確認しているのである。
 同じくこの第4回では、一連の議論の最後の段階で、「不適切な寸法がなぜ生じたのかという原因問題がある。これは根本認識の問題だ。10mmという寸法違いが起きた原因が書かれていない。忙しかったからなのか。直接原因に関する追及が必要だ」という趣旨の発言が委員からなされた。それに対して近藤主査は、「この原因問題はだんだんと真実に近づけていけばよいのであって、今日で終わる訳ではない」との趣旨を述べた後、この原因問題に関する議論をとりあえずうち切って、次の評価意見案の報告に移っている。ここで近藤主査は、スケジュール問題は今後も続くのだということをはっきりと認めている。
 しかも、その後も、評価意見案について議論する過程でも、原因問題・スケジュール問題が繰り返し出てきている。例えば松田委員は、「点検されていたのになぜ不正が起こったのか、これを丁寧に書くべきだ」と日本原燃に対して非常にクリアな口調で注文を付けている。これは要するに、日本原燃から原因についてはっきりした説明がいまだ(第4回段階でも)なされていないと主張しているのである。
評価意見の最後に、不正溶接問題の原因究明は終了したかのような記述を入れたのは、恐らく事務(原子力安全・保安院)主導の仕業だと思われるが、このような措置に対してクレームをつける必要が起こるだろう。
それとともに、原因問題の中心をなすと考えられる「スケジュール優先問題」を、積極的に提起することによって、原因究明は終わっていないことを端的に示すことが重要だろう。

4.スケジュール問題について何が明らかになっていないか、なぜスケジュールを問題にするのか−施工の工程表(当初工程表と変更工程表)の提出を求めるべき
 「工事量が、軽水炉1プラントに対して6倍ぐらいあった。6倍あるにもかかわらず、工事期間は同じくらいでやった」と日本原燃・峰松常務は説明した(第2回検討会)。その上、「通常の原発に比べて構造が複雑であった」とも、次のように付け加えた。
「【日本原燃(株)峰松常務取締役】 一番最初の、何でというのがちょっと掘り下げが足りないのではないかというご指摘だと思いますけれども、先ほども申し上げましたように、まず工事量が軽水炉の1プラントに対して6倍ぐらいの工事量があったと。そのときの工事期間について言いますと、ほぼ同じぐらいの――工事量は6倍あるにもかかわらず、工事期間は同じくらいの間でやっていると。したがって、作業員等につきましては十分な人間を投入しているんですけれども、それを管理いたします元請の管理体制は依然として軽水炉と同じであった。ここのところがまず、本来だったら、そういう体制を充実してやらなければいけないのに、それが十分なされなかったのが、まず1点でございます。
 それから、もう一つは先ほど言いましたように、軽水炉と同じ実績があるからということで同じように考えてしまったわけでございますけれども、これはファクトなんですけれども、いろいろと形状が違うところがあったとか、複雑であったとか、したがって、こういう場合であれば、施工計画とか施工手順を組むときに、元請及びその下請がちゃんと、本来だったら新しいことと認識してやらなければいけなかったのですけれども、その辺が甘かった。これにつきましては、私ども、発注者である日本原燃も甘かったと考えております。」(第2回14頁)
 しかも、問題の発端となったPWRプールの不正溶接については、以下の引用のように「本来なら出来上がったコンクリート構造体の寸法を測って板取をするのが普通」(峰松常務)であるのに、それをせず、短時間で済む「継ぎ足し溶接等の不適切なことを」行った。さらに、聞き取り調査では、現場の責任者である施工メーカーのプロジェクトマネージャーもその次の現地作業所長も「与えられている工期内で仕事をしたかった」と答えたという(第2回15頁)。
「【日本原燃(株)峰松常務取締役】 この件につきましては、メーカによってもやり方が多少違っております。今回の一番、これは不適合が今回プールで発生しているのは;三菱重工と日立製作所のものでございますけれども、この2社間でもちょっと違っておりますけれども、今回の板取は設計図でとってから設計図を施工業者に与えているわけですけれども、それを現場の寸法をはかって、それでコンクリート構造体でございますので、随分誤差が出てきます、設計図と違って。その辺をフィードバックはかけて板取の切断前にその記録を与えて、それに基づいてやるという方法をやっているのが普通なんですけれども、今回につきましては、それではもとの支給している板の中では吸収できないぐらいのものがありまして、それで自分たちで工程のあれもあったかと思うんですけれども、継ぎ足し溶接等の不適切なことをやってしまった。したがって、一応は、今申し上げたような、一般論としては現場の寸法をはかってフィードバックをかけるというようなことをやっているんですけれども、それ以上のものが幾つかあったというのがございます。」(第2回20頁)
 ここからは、「何でそんなに急いだのか」という疑問が出てきて当然である。下記引用のように、「(工事量が6倍あるのは)最初から分かっていることなのに、(軽水炉と同じ工期で)なぜ動いたのか。期間的に急いでやれという制約があったのか」(城山委員)、「工程管理上かなり無理があったのではないか」(竹下委員)、「スケジュールをおたくの会社では優先されて、・・・安全について歯止めをする体制はあるのか」(井川委員)。各委員はこのように指摘している。
「【城山委員】 最初の1点目だけちょっと確認させていただきたいのですが、要するに業務量、作業量が6倍であるのに管理体制はそのままでやって、期間も同じだったというご説明ですけれども、それは最初からわかる話なのかなと思いまして、何でそれで動いたのか。つまり、逆に言うと、これは期間的な急いでやれという制約があったという話なのか、だとすれば、その現場の人たちは、これはもしかしたらやばいかもしれないぞということは当時から思われていたことが起こってしまったということなのかというのが1つですね。
それから、管理部分が一番その数しかなかったということですと、これはそれこそ発注管理だか調達管理だかわかりませんが、それこそ積算のときに人だって当然積算するでしょうから、何でそういうことが起こったかということですよね。つまり、作業量が6倍なら管理層が6倍のものがちゃんとレピューされるべきである。単に値段の問題ではなくて、それは当然中を見るわけでしょうから、何でそういう体制でそもそも動き出したのかということが若干不思議なんですけれども、その点はいかがでしょうか。」(第2回15頁)
「【竹下委員】 今の井川委員のあれにちょっと関連するんですけれども、結局どうも工程管理上、かなり無理があったのではないかというのが1つの原因ではないかというふうに、私も最初からちょっとそういう印象を持っていたのですが、ちょっとお聞かせいただきたいのは、今、日本原燃さんはスケジュール優先ではないとおっしゃったのですが、あれは契約に基づいてやっているわけで、当然、元請、下請、発注者の力関係、3つの関係にしますと、幾ら「いや、これはとてもこの6ヵ月ではできませんよ」ということを下から上げていっても、なかなか上げづらいような、そういうあれが事実上あるのではないかと。民間のあれだから、確かにそこらをフランクにできるんですよというのか、私はちょっとそこのところはわからないので、一般論としては、幾ら当社はスケジュールをちゃんと考えてやっておりますと言っても、ほんとうにそうかという疑問はちょっとあります。」(第2回24頁)
「【井川委員】 いや、1つお伺いしたいのは、先ほど来、工事が6倍だとか何だとかで、発注されたときに、どうもこの一連の短期間のスケジュールをまず優先されて原燃さんはいろいろな作業を−−当たり前ですけれども。当たり前だとはいえ、あまりにもスケジュール重視ではないかという意味で、そういう姿勢があったのではないかと私はずっと疑問に思っておりまして、前回も申し上げましたけれども、それは根本的にスケジュール優先というのは、原子力に限らず、最近、すべての分野でトラブルを起こしているのはすべてそうなんですね。東京電力の例の点検の問題も、できるだけ短期間に点検を終わらせてパフォーマンスをしたい。(後略)」(第2回21頁)
 ところが、このような意見が繰り返し出ているのに、検討会の評価意見では、スケジュール問題が少なくともあからさまには、まったく取り上げられていない。それどころか、前述のように、スケジュール問題を含むはずの原因究明問題は終了したかのような扱いをされているのである。

 各委員の見解に対して原燃は、平成7('95)年7月に使用済燃料受け入れの事業開始時期を、当初設定の平成8('96)年4月から平成9('97)年6月に延期した事実を持ち出すことによって、スケジュールを押し付けるようなことはしなかったと説明している。
「F施設の建設当初は、事業の開始時期を平成8年4月と設定していたが、平成7年7月に、
・設計及び工事の方法に関する認可申請に係る設計検討に時間がかかり、その申請が遅れたこと、
・冬期工事における気象条件が予想以上に厳しく、作業効率が低下したため、当初の計画どおりには工事が進まなかったこと、並びに建物工事において、当初は、一部上階の床を先に施工し、これを屋根として下階の作業を行う計画としていたが、工事の安全確保の観点等により、通常の工法どおり下階から施工する手順に見直したこと、
・燃料取扱装置の試験・検査並びに使用済燃料を使用した燃焼度計測装置の校正に係る試験・検査等に万全を期するため、その期間を見直したことにより、事業開始時期を平成9年6月と変更した経緯があるように、施工にあたっては工程を優先したスケジュールとなっていた事実は見当たらない。」(資料4−1添付−3)
 しかし、ここに書かれているのは、事業の開始時期を延期せざるを得なかった理由であって、スケジュール優先が不正溶接等を招いたのではないかという疑問に答えるものではない。問題の焦点をはぐらかしている。

 問題になっているのは、次の点である。@城山委員の指摘にもあるように、「要するに業務量、作業量が6倍であるのに管理体制はそのままでやって、期間も同じだった」というようなスケジュール設定がなぜ行われたのか。A作業の仕方については、例えば、板取り前のコンクリート躯体の寸法測定については、事実上「通常の施工手順」が踏まれなかったが、そのような施工方法は工期に合わせるために採られたのではないのか。Bその工期(終了時期)は誰が何から決めたのか。原発サイトからの使用済核燃料搬入の事情から決めたのではないのか。

 ここで、上記Aの寸法測定について、日本原燃の報告(資料4−1添付−3)を確認しよう。
「PWRプール漏えい箇所の継ぎ足し溶接
・コンクリート打設後に下地材、埋込金物の位置を測定し、ライニング板の寸法に反映することは、施工会社が通常採るべき施工手順であり、実際に実施されていたとの証言もあるが、H元請会社の工事、施工要領書、製作要領書、工場・現地試験要領書のいずれにも現地寸法の測定要領の記載はなく、測定結果に関する記録も残されていない。
・一方、M元請会社の据付施工要領書には、測定の項目はあったが、具体的な測定方法は施工会社にまかされており、ライニング板毎に寸法を測定するような方法にはなっていなかった。
・PWRプールの漏えい箇所では、コンクリート壁の仕上がり寸法に対応させるためには、施工会社はライニング板の寸法を、図示寸法より約10mm長くしておく必要があったが、加工寸法を指示する板取表は、図面寸法のままであった。(結果として、板の寸法調整が必要となり継ぎ足し溶接が実施された)」(資料4−1添付−3、H=日立、M=三菱)
 ついでながら、この内容については、神田委員が第3回で次のようにひどく嘆いている。
「【神田委員】 大変正直に書いていただいて、しかしため息が出るような答案ですね。特に2ぺ一ジ目の下の方、2/8のところの下から3つ目のポツで、「現地寸法の測定要領の記載はなく、測定結果に関する記録も残されていない。」というのは、もういろはのいができていないということを正直に認めたということだと思うんですが。それから、3/8の4ぺ一ジ目に、コンクリート打設した後にライニングというのは分かるんだけれども、それをもう先にやってたというようなことは、原因がはっきり明確に書かれたという点では、原因はよくわかりましたけれども、何とも情けないという気持ちでやりきれない気持ちでいっぱいですね。(後略)」(第3回13頁)
 この前に神田委員は、第2回検討会で次のような疑問を提起していたのであった。
「【神田委員】 最初に私が言ったのは情報提供者という意味ではなく、実績があればそのまま信じてしまうという、元請も、下請も、発注者も、それが情けないと言いたいんです。
というのは、今の話をずっと聞いていますと、事が起きたから、これに対してこういう対応する、それはそれで結構ですけれども、もう一度何かやるとしたら、また信用できるところや過去に実績のあるところがやると、同じことをやってしまうのではないかと。会社全体がほんとうにそういう体制になっているのかというのは、ずっとさっきから聞いていて、何か不安を感じますね。
   一番いい例が、さっき、例えぱ鉄板を切るときに、コンクリートを施工した後、コンクリートというのは寸法がどんどん変わる。その寸法が変わったのをちゃんと現場で測定して切らなきゃいけないのに、実は切っちゃったんですよというような、そういう種類のことというのは、我々みたいにコンクリートを長年扱っている人間からすると、もう当たり前のことであって、何でそれができないんだと。それができなかったのが、下請の業者であったのではなくて、元請でもなくて、実際は日本原燃にそれだけの知識がないはずはなくて、あれだけの人材を集めているんですから、やる気がなかったんじゃないかという気がしますね。ですから、コンクリートは生きていてあれだけ動くということをうちの会社は知りませんでしたということはあり得ないので、実績さえあれぱ、もう油断してしまう。だから、情けない油断が重なってこうなったのであって、今回のことを解決したからといって会社としていい会社か。寄せ集めの会社ですから、ちゃんとそれを責任感を持ってやっていくだろうかという不安感はありますね。ですから、今回の問題をもとにして、さっき単純で社長からというのがありましたけれども、会社全体の取り組みはもうちょっと気合を入れたものにしてもらいたいという感じがします。」(第2回26〜27頁)
 ところで、これまでに明らかにされた施工にかかる工期は、プールライニング工事の工期(95年7月〜96年3月末)と機電関係主要工程をバーチャート(横線工程表)で表したものだけである(資料3−3−2添付−2)。
 施工の工期については、「工程でございますけれども、これは私どもが発注のときに、確かに目標工程を与えます。・・・。まず確かに私どもの計画工程がございまして、それに基づいて元請さんとスケジュールの打ち合わせをやります」(峰松常務、第2回25頁)という通り、発注時に目標工程を発注者が示し、それに基づいて元請会社は着工から完成までの詳細な工程表を作成し、工程管理を行うのである。どの施工箇所でどの程度遅れているのかを、この工程表に照らしてチェックするのである。工期の変更が必要になった場合には、変更工程表を作り直す。その際にどのぐらいの期間の延期が可能なのか、元請会社は発注者と相談しなければ、工程表は作成できない。これは、施工の「イロハのイの字」である。
 スケジュール優先ではなかったと言葉で言い訳する前に原燃は、当初工程表及び変更工程表を提出して説明しなければならない。その際には、比較のために通常の原発での使用済燃料プールの代表的な工程表も提出しなければならない。また検討会は、工程表の提出を求め、それに基づいて「適正な工期」であったかどうかを説明させ、審査すべきである。
 ところが、奇妙なことに検討会では、専門家が集まっていてスケジュール問題を繰り返し議論していながら、工程表を出すように日本原燃に要求したことは一度もない。このような姿勢のために、評価意見ではスケジュール問題は終了扱いにしたのではないだろうか。
 
 我々が、スケジュール(施工工期)を問題にしているのは、不良溶接があまりにも拙策な方法で行われており、作業量に比べあまりにも短い工期が当初から設定されていたというだけではない。
 再処理施設の着工については、当初から背景に、各原発サイトでの使用済燃料プールの逼迫があった。福島原発第一発電所では、96年3月から1年以内にはサイト内のプールでは貯蔵できなくなるほどまでに逼迫していた。使用済み核燃料を六ヶ所に持ち込み、原発の運転継続を何としても維持するという電事連の強い意志が働いていただろう。この事情を最優先する中で、プールの安全性がなおざりにされた。青森県民の安全性など眼中になかったに違いない。
 こうして、問題となっている使用済核燃料受入・貯蔵施設の建設は、着工当初よりスケジュール優先の工期設定にならざるを得なかったのではないかとの疑いが強く出てくる。もしそうなら、ことは溶接問題だけでなくなる。無理な工期は、施工の全ての部分に無理強いを行う。不正溶接問題は、その最初の表れにすぎない。使用済受け入れ貯蔵施設のすべてにおいて、さらには再処理施設本体において安全性が疑われる。
 にもかかわらず、日本原燃は、このような原因究明を行わずに補修工事を行い、来年1月からはウラン試験を開始したいなどと今後のことに関してもスケジュール優先の姿勢を取り続けている。こんな原燃に、住民の安全性を委ねることができるのか、再処理工場を動かす資格があるのか、これこそスケジュール問題の最たる問題ではないのだろうか。
 検討会は、住民の安全性をも脅かしかねないスケジュール問題を、従って原因究明を徹底して行わせるよう原燃に要求すべきである。

5.検討会に対して何を要求すべきか
 これまで、主に不正溶接等の原因究明問題に焦点を当てて、検討会の果たした積極面と限界を見てきた。限界は、第4回検討会の内容に反して、「不適切溶接施工に関する問題点の原因究明」は終わったとの扱いをしていることであり、とりわけ、検討会では何度も繰り返し議論され、その原因究明の本質をなすはずのスケジュール優先問題にまったく触れていないことである。
 そこで我々は、検討会に対して次のような点を要求する必要があるだろう。
(1)「不適切溶接施工に関する問題点の原因究明」を終了事項扱いするのは、第4回検討会での議論内容にも反しているので、今後も引き続き議論の対象とすること。「なぜあのような多数の不正溶接が起こったのか」を誰にも分かるように日本原燃に説明させること。
(2)スケジュール優先問題に関する議論も終了していないどころか、問題がはぐらかされたままになっている。この問題をはっきりさせるため、当初工程表及び変更工程表を日本原燃に提出させること。通常の原発の場合の工程表と比較させること。
(3)評価意見の中では、「地域社会などからの信頼回復」という言葉が、短い文章の中に3回も出ていることに注目したい。ところが日本原燃は、地域社会での問題の説明要求を頑なに拒んでいる。このような姿勢を検討会として批判すること。
(4)引き続き、すべての議論や資料を公開し、一般からの意見についても、議論の途中で真摯に聞くという態度をとること。検討会議事録を間を置かずに公開すること。
(5)日本原燃が実施している補修工事は、評価意見の考え方とも矛盾しているので、直ちに中止するよう求めること。

 我々は当面、主として検討会に注目し、そこに注文をつけて進行を牽制するように努力する方向が妥当だと考える。