六ヶ所ガラス溶融炉の運転方法に関する8月23日付原燃報告書の批判
完全に行き詰まった溶融炉A系列から逃げ、B系列での試験再開は許されない
保安院と核燃料サイクル安全小委員会は計画変更を承認するな

 
 9月1日、六ヶ所再処理工場の竣工が、現行計画の今年10月から1年半、1年10ヶ月、あるいは2年程度延期されるとの報道がなされた。9月中旬までに最終的なスケジュールが決定されるとされている。これほどまでの大幅な延期は、日本原燃・国自身がガラス固化試験に全く見通しがないことを認めたということに他ならない。
 8月23日、原燃は、ガラス固化試験に関する7月15日付報告書の改正版「再処理施設高レベル廃液ガラス固化建屋 ガラス溶融炉運転方法の改善検討結果について(改正版)」を提出した。原燃は、行き詰まっているガラス固化A系列の試験を棚上げにして、B系列での試験を開始しようとしている。その理由付けとして原燃は改正版では「実廃液の影響を受けていないB系列」という考えを打ち出した。これを裏返せば、A系列は実廃液の影響を受けているので当面の試験には適さないと認めていることになる。しかし、どのような影響を受けているから試験できないのか、その事実は明確に示していない。実廃液の影響を受けたから試験できないのであれば、要するに現行ガラス固化溶融炉では試験などできないということになる。実際、原燃が提示している運転方法の改善策は、温度計の数を増やすという以外に明確なものは見あたらない。
 9月8日に核燃料サイクル安全小委員会再処理ワーキンググループが開催され、8月23日付報告書について審議されることになっているが、同報告書を承認することは許されない。原燃も国も、まったく無駄なガラス固化溶融炉試験自体をやめるべきである。

■B系列での試験再開は現行試験計画に反している
 7月15日付及び8月23日付報告書は、2つあるガラス溶融炉のうちA系列でのガラス固化試験が行き詰まる中、もう一方のB系列で試験を再開するという方針を示したものである。2008年6月11日付原燃報告書では「試験の流れとしては、はじめに@ガラス溶融炉(A系列)で『安定した運転状態の維持』及び『白金族元素の影響を考慮し、管理された運転状態の維持』について確認し、次にAガラス溶融炉(B系列)でのガラス溶融炉運転性能確認試験及び処理能力確認試験を実施する」とされている。この試験計画は、同月末の核燃料サイクル安全小委員会で承認されている(2008年6月30日付委員会決定)。即ち、A系列の試験が上手く行くことが、B系列の試験を開始する条件なのである。しかし、A系列の試験は、2008年10月の不溶解残渣廃液供給後の溶融ガラスの流下トラブルの後、長期中断したままである。今後も炉内残留物除去作業等を行う必要があり、再開の目途は立っていない。A系列で全く上手くいっていないのにB系列の試験を開始するという7月15日付及び8月23日付報告書は、現行試験計画に明確に反するものである。
 ガラス固化試験が長期中断に陥る前に原燃が最後に出した報告書(2008年10月27日付)は、不溶解残廃液供給後の酷い結果を棚に上げて、同廃液供給前の試験結果のみをもって2008年6月30日付委員会決定の要件である運転性能が確認されたとするものであった。あまりにも異常なものであったため、その結論は事実上否定された形になった。それ故B系列の試験に進むことは許されなかったのである。原燃は、8月5日の再処理ワーキンググループ資料にて「当該報告書においては、不溶解残渣廃液を供給する以前の運転結果の評価にあたって安定した運転ができたという結果を出すことに注力し、不溶解残渣廃液を含む廃液を供給した以降に見られた事象との関係も含め技術的な評価が十分にできていなかった。この点については、平成20年11月4日の第39回再処理WGにおいて委員から指摘を受けた」としている。即ち、A系列の試験でまともな結果が得られていないことは、原燃自身が認めている。B系列の試験を開始する条件は全くない。

■8月23日付報告書も現行試験計画を変更するまともな理由は何一つ示していない
 8月23日付報告書は、7月15日付報告書では現行試験計画との関連性が不明確である等と原子力安全・保安院に指摘されたことを受けて改正版として出された。しかし、その改正版でも、現行試験計画を変更するまともな理由は何一つ示されていない。
 8月23日付報告書で挙げられている理由は、「KMOCと実機の比較評価等をより確実に行うため、まず実廃液による影響を受けていないB系列で実施する」というものであり、さらに「KMOC試験結果の実機への反映に係る最終的な確認を行う目的で、同系列において継続して実廃液による運転確認(試験)を行う」としている。つまり、A系列が行き詰まっているが故に、この間東海村で行ってきたKMOC(実物大模型炉)での試験との比較という装いをとって、現行計画を変更する理由付けをしているだけである。KMOCでは模擬廃液しか用いていないのに、その試験結果を教訓にするというのは理由にならない。
 そもそもモックアップ試験はアクティブ試験の前段階で行われるべきものであった。そのモックアップ試験を今頃行ない、その結果を教訓にするなどというのは、アクティブ試験を行う資格が全く無いことを示すだけである。

■A系列が受けた実廃液による影響とは何か?
 原燃は、B系列で試験を再開する理由付けについて、7月15日付報告書では「実廃液を使った試験を実施していないB系列」としていたものを、8月23日付報告書では「実廃液の影響を受けていないB系列」というように書き直した。これを裏返せば、A系列が実廃液による影響を受けていることを認めたことになる。しかし、その影響とは何であるのかについて、報告書では一切示してない。唯一、高周波加熱コイルに付着した付着物の影響を指摘しているが、これについてはA系列の結合装置を取り替える方針を示しており、影響は取り除かれることになる。除去作業しても炉底にこびり付いたままの白金族については、2008年6月11日付報告書にて、「残留物除去を行い、溶融ガラス抜出し後に残留していた残留物の大部分を除去済」、「残留物除去後に模擬ガラスビーズをガラス溶融炉に投入して溶融し、補助電極間の通電による加熱を行うとともに補助電極−底部電極間の抵抗値を測定し、白金族元素の堆積に起因する抵抗値の低下が回復していることを確認済」とし、運転に影響が無いことをこれまで一貫して強調してきた。7月15日付及び8月23日付報告書でもこびり付いた白金族の影響については一言も触れていない。原燃は実廃液の影響とは何かを具体的に示すべきである。

■流下性低下に対する対策は温度計の数を増やすこと
 原燃の報告書では、「流下性低下等を発生させた要因に対する対策」として、@ガラス温度計の指示値、A底部電極温度計の設定値、B流下ノズルの加熱性、を挙げている。このうち、Aでは、以前の対策として底部電極温度の設定値を上げたが、好ましくないので元に戻すとしているだけ。Bでは流下ノズルの加熱性を保持する対策としてA炉の結合装置を交換するとしている(B炉ではその必要はないとしている)。残る唯一の対策は、@のガラス温度計の指示値であるが、これは温度計の数を増やして測定点の数を増やすとしている。結局温度計の数だけが頼りなのである。

■回復運転(洗浄・かくはん)を頻繁に繰り返すことしかなす術がない
 原燃は、7月15日付及び8月23日付報告書にて、「白金族元素が沈降・堆積した状況で回復運転へ移行する場合、さらに炉内状況が悪化し回復が困難な状況になることがみられた」とし、回復運転(洗浄・かくはん)に移行する判断指標にかかわりなく、定期的に洗浄運転を行うという方針を出した。そして、「安定運転の評価範囲の目安としては、廃液供給+洗浄運転+廃液供給」という流れで、「同程度のバッチ数の廃液供給運転が繰り返し実施できていることが確認」できればよいとした。2008年6月11日付報告書では、「安定した運転状態の維持」は、10バッチ(程度)の連続処理+洗浄運転+6バッチ(程度)の連続処理により確認すると具体的数字が示されていたが、8月23日付報告書では、数字を示さずに曖昧にしたのである。
 連続処理のバッチ数を曖昧にし、まともに連続処理できなくても、洗浄運転を頻繁に繰り返すことで白金族堆積が防げればそれでよいという勝手な試験基準の緩和である。
 また、洗浄運転の頻度については、2008年10月の試験でも、同年6月30日付委員会決定に基づいて回復運転に移行する判断指標を厳しくし、頻度を上げる対策を出していた。それでも白金族が堆積したからさらに頻度を上げるというのである。もはや打つ手がないということであろう。洗浄運転の頻度を上げれば、ますますガラス固化体の本数、高レベル廃棄物の容積を増やすことになる。8月5日の再処理ワーキンググループでは、委員から「ガラス固化体の製造本数に影響を与えるのではないか」との意見が出され、原燃もそれを認めている

■保安院も原燃の方針に同調
 保安院と核燃料サイクル安全小委員会は、自らが決定した試験計画を否定する7月15日付報告書を突き返さなかった。まだ承認こそしていないものの、原燃の方針に基本的に同調し、一度形式的に追加報告を出させることで体裁を取り繕い、自らの決定をいとも簡単に反故にしようとしている。
 原燃は7月28日に、7月15日付報告書が承認されていないにもかかわらず、同報告書の方針である炉内への温度計追加のための設置変更認可申請を行った。保安院は、再処理ワーキンググループで8月23日付報告書が承認され次第、これを認可するつもりである。そして原燃は、これらの承認と認可などが得られ次第、B系列で試験を開始しようとしている。
 9月8日、核燃料サイクル安全小委員会再処理ワーキンググループが開催され、8月23日付報告書が審議されることになっているが、何らのまともな理由も無い計画変更を承認することは許されない。保安院と小委員会は、2008年6月30日付委員会決定に従い、B系列での試験を開始する条件はないことを明確に示すべきである。

■B系列での試験を断念し、再処理工場を閉鎖せよ
 今回の延期により、早くても竣工は2012年4月〜10月ということになる。現行溶融炉は、現在開発中の改良型炉に2012年度に更新される計画になっている(「平成21年度新規予算要求事業に関する事前評価について」2008年9月16日、原子力立地・核燃料サイクル産業課)。更新が計画通り進められるとすれば、更新まで現行炉で試験を行い、本格操業は改良型炉で行うことになるのではないか。それ程までに現行炉では見通しが立たないということである。
 また、改良型炉も現行炉と同じ方式のLFCM法であり、白金族堆積という原理的欠陥を抱えたままのものである。今回の大幅な延期は、現行方式の原理的欠陥が克服しえないものであることを如実に示したのであり、同一方式の改良型炉でも同様のトラブルに陥ることは必至である。
 原理的欠陥から目を背け、小手先の改良だけで無展望で無駄な試験により住民の安全を脅かし続けることは許されない。B系列での試験再開を断念し、ガラス固化溶融炉試験自体を断念し、六ヶ所再処理工場を直ちに閉鎖すべきである。


(10/09/02UP)