六ヶ所再処理工場のガラス固化セルにおける高レベル廃液漏えい事故
原燃がアピールする保安規定違反の「組織要因」とは?
ガラス固化溶融炉の本質的欠陥こそが問題の根本だ

 六ヶ所再処理工場で1月21日に起きた高レベル廃液の漏えい事故について、日本原燃は5項目にわたる保安規定違反を指摘され、それについて4月30日までに報告を出すよう原子力安全・保安院から指示されていた。
 それに応えて原燃は、4月30日付で2つの報告書を公表した。「再処理事業所再処理施設における高レベル廃液漏えいに関する保守作業等に係る保安規定違反について」(※1)及び、「高レベル廃液ガラス固化建屋固化セルにおける高レベル廃液の漏えいについて‐組織要因に関する分析(根本原因分析)‐」(※2)である。保安規定違反をもたらした組織要因は、組織要因分析(※2)で記述されている内容と共通である。
 保安規定違反を起こしたほどの組織要因をどう捉えるのか、ここに問題の焦点がある。

1.原燃が分析した中心的な組織要因
 「組織要因」について原燃は次のように述べている(下線は引用者)。「『直接要因をなぜ未然に防止することが出来なかったのか』、『根本的な原因は何だったのか』の2点について、当該事象の根本原因分析結果だけでなく、従来の内部監査等から得られている知見も織り込んで分析・検討を行った。これにより、直接要因を誘発したと考えられる組織の運営管理に係る一連の背後要因を、組織要因まで深堀りして抽出した結果は、以下のとおりである。
@ リスクの回避(略)
A 工程の確保
 「アクティブ試験の最終段階において、竣工を延期せざるを得ない状況が繰り返され、経営者とガラス固化施設を担当する部門は勿論、社内の関係者が当社の置かれた四囲の状況下で、より大きなプレッシャーと焦りを感じていたため、その遅延を取り戻したいという意識が蓄積された。会社は、安全確保を最優先に掲げ、経営トップから担当者一人ひとりに至るまでその理解はあったが、現実には日々の会話と業務指示において、工程確保に必死になる空気があり、立ち止まって冷静に考える意識が希薄になったことは否めない。(後略)」(※2の4、10頁)。
 つまり、ガラス固化がうまく行かない状況の中で、工程(スケジュール)を何としても守らねばならないという「四囲」からのプレッシャーを感じ、それを事実上優先したことがまさに「組織要因」であると述べている。

2.原燃が主張する「組織要因」が意味するもの
 ここに引用した原燃の「組織要因」は、本来なら当然「対策」に生かされるためのものであるはずだ。ところが、「対策」はもっぱら組織内コミュニケーションの確保に限られている(※2の6,10頁)。「工程の確保」の重圧が要因だといいながら、スケジュールの延期さえ問題にしていない。
 つまり、この「組織要因」は独立したものであり、自ら置かれた立場に関するある種の社会的アピールのような様相を呈しているのである。それは原燃という現場の悲鳴のようにも聞こえるが、開き直りを表明しているようにも受けとれる。
 今回の報告書がかもしだす雰囲気は、にっちもさっちも進まなくなってしまった状況の中で、現日本原燃の元社長である豊田正敏氏が原子力委員長に最近提出したと言われる主張、「いまのガラス固化溶融炉は欠陥商品であり、国産技術を強引に導入した原子力開発機構が責任をもって費用も全額負担して改修せよ」との主張と奇しくも符合することになる。これらは、溶融炉問題の深刻さを示すものであり、同時に、責任の転化でもある。
 この「組織要因」を「深堀り」するまでもなく素直に見れば、そこには、ガラス固化溶融炉の本質的欠陥こそが問題の根本であり、その欠陥を除去しない限り保安規定違反に導いたような「組織要因」も除去できないことが示されているのだ。

3.ガラス固化セル汚染除去作業の実態とガラス固化溶融炉の実態
 スケジュール優先であったことを本質的な反省点とする今回の報告に立てば、5月にガラス固化溶融作業の開始、8月にアクティブ試験の竣工といういまのスケジュールは、当然真っ先に撤回されるべきである。ところが、4月30日の社長会見ではこの点にはまったく触れていない。
 他方、青森県の蝦名副知事からは、今回の報告だけでなく攪拌棒の曲がりの原因などまですべて含めて県議会の全員協議会で説明するよう求められている。この要請に応じれば、いまのスケジュールが成り立たないことは明らかだ。
 まずは、いま中断しているガラス固化セル内の除染作業を再開しなければならない。ところが、4月30日の社長会見では、「廃液が付着した固化セル内のガラス溶融炉関係機器ならびに配管等の洗浄作業は、その作業に用いるクレ−ンが先月一旦復旧したものの再度の動作不良が発生したことから、現在、中断しており、その原因調査を行っております」と述べている。このカメラを取り付けたクレーンの「再度の動作不良」は3月31日に起こっており、すでに1ヶ月を経過したのに未だ原因さえ把握できていないということだ。人が近づけないセル内で予期せぬトラブルが起こったとき、その調査・修繕が非常に困難であることは想像に難くない。
 さらに社長会見では、「今後は、洗浄作業を実施後、攪拌棒の曲がりやレンガ落下の原因究明を進め、溶融炉を加熱し、炉底に落下したレンガを回収した上で炉内復旧・試験再開を図ってまいる所存であります」と述べている。ところが、炉内のレンガがなぜ、いつ落下したのかが定かでない。原燃は当初は曲がった攪拌棒をとり出そうとしたときに棒の先端が当たったから落ちたとの見解であったが、最近の報道では、棒が曲がるより前に自然に落下したことにしたいらしい。もしそうだとすれば、炉には勝手に崩壊するような根本的欠陥があることになる。いまの炉はどうしようもない欠陥品だというためには都合のいい説だということになるのだろうか。
 いずれにせよ、これらの作業がいつ終わるのか、いまはまったく目処が立たない状況にある。

4.ガラス固化溶融炉の本質的欠陥
 これらの作業が何とか終わったとしても、ガラス固化溶融炉の本質的欠陥が待ちかまえている。白金族の作用、特に不溶解残渣を入れた場合の白金族問題を克服できる見込みはまったく立っていない。これまでは、この本質的欠陥から目をそらし、もっぱら対症療法を繰り返してきたが、それらはすべて裏目にでた。もはや将来に何も展望は見えていない。
 現在のガラス固化溶融炉には本質的な欠陥があるので、これ以上無駄な努力を重ねるべきではない。このことを原燃自体がはっきりと表明すべきときである。そして、このような事態を招いた責任がすべて具体的に詳細に明らかにされるべきである。六ヶ所再処理工場は閉鎖するしかない。
 さらに、このような実態を踏まえれば、第二再処理工場に現実性がないことは誰の目にも明らかだ。第二再処理工場に使用済MOX燃料を運ぶという架空の話で人々を抑えつけてだましながら、MOX燃料の装荷を無理矢理認めさせるというような不条理をまずは止めるべきである。MOX燃料の装荷を中止し、プルサーマルは凍結するべきである。

(09/05/03UP)