プルトニウム被ばく事故−原燃の「調査結果と今後の対応」(6月9日)
被ばくの原因説明はすべてが推測で証拠を示さず
対策は大きなゴミ袋の設置
作業員の安全より作業効率を優先、マスク着用は「対策が定着するまで」
原燃は前2回を含めた被ばく事故の実態と関連資料を全て公開せよ


 6月9日付で日本原燃が発表した「再処理工場分析建屋における微量の放射性物質の体内への取込みについて(調査結果と今後の対応)」には、下記のような数々の疑問点がある。今回の発表では、どのような経緯で被ばくに至ったのか、肝心な問題は一切明らかになっていない。これで原因が判明したといえるのだろうか。

 前回(5月25日)の発表では、被服の左胸部に汚染が確認されたとし、その汚染が最大でα:1.5Bq/cm2、β:0.17Bq/cm2だとされていた。今回の調査結果では、当然この汚染がどこから、どのような経路で来たかが具体的に明らかにされるべきであった。

■被ばくの原因とされている試料皿や廃棄容器等の汚染の証拠を示さず
・今回、原燃は「汚染防止のエプロンの取り外しに伴い体内に取り込んだ可能性が高い」と発表しているが、作業服はどのような経過で汚染されたのか、どのように被ばくにつながったのか明らかにされていない。
・さらに、この汚染の源となるべき部分が確かに事実として汚染されていたことを示す証拠が何一つ示されていない。放射能を測定した証拠が何もなく、すべてが推測にすぎないのである。
・ 「調査結果と今後の対応」の参照資料の概要図によれば、「試料皿裏面に付着した放射性物質をエアロックおよびフードに持ち込んだ可能性」があるとのこと。では試料皿裏面はどれぐらい汚染されていたのか。データが公表されておらず、試料皿裏面の汚染が事実であったのかさえ不明である。
・ 同じく概要図によれば、被ばくした作業員が二重に着用していたゴム手袋のうち、「汚染した可能性のある二重目(外側)のゴム手袋を廃棄する際に、廃棄物袋から一重目のゴム手袋に放射性物質が移行した可能性」があるという。しかし、廃棄物袋(ゴミ袋)がいつから、どの程度汚染されていたのかまったく明らかにされていない。ゴミ袋そのものが今回より以前の段階で汚染されていた可能性があるのではないか。また、そもそも、ゴミ袋の汚染が試料皿裏面にあったとされる汚染とどのような関係にあるのか。このことが一切説明されていないのである。
・原燃は、対策として、汚染の可能性のある二重目のゴム手袋を廃棄する、専用の開口部の広い廃棄容器をフード内に設置するという。そのゴミ袋の大きさはどの程度なのか、果たして再発が防止できるのか。

■作業員の安全より作業効率を優先
 被ばくした作業員は、マスクを着用していなかった。原燃は、今回の対策が定着するまでの間はマスクを着用すると発表している。しかし、原燃の言う対策は、大きなゴミ袋の設置や身体(被服)検査の徹底だけである。大きなゴミ袋を置いただけで、対策が定着したとして、マスク着用の必要なしとでもいうのだろうか。
 6月10日付の毎日新聞によれば、報道陣からマスクを着用すべきではと質問された原燃は「作業効率が悪く、作業員が分析空間にとどまる時間が逆に長くなる。声がこもって作業員同士のコミュニケーションにも支障が出るなど、デメリットもある」と説明している。これは作業員の安全よりも「作業効率」を優先させるというものだ。まずは、マスク着用を徹底し作業員の安全を優先すべきではないのか。

 結局、今回の発表では、被ばく事故の実態と原因が解明されたとは到底いえない。そのため、「対策」は茶番でしかない。原燃は今回の事故についてこのような不十分な発表でお茶を濁そうというのだろうか。これでは同様の事故の再発は免れないのではないか。

■今回の被ばく事故の前にも2回の被ばく事故
 原燃は被ばく事故の実態と関連資料を全て公開せよ

 原燃は6月16日に、原子力資料情報室に届いた告発メールの内容に関する見解を出した。その中で、「アクティブ試験開始以降、管理区域用被服の汚染が今回の事象の前に2回確認されています」と告発メールの内容を認めている。告発があって初めて被ばくを認めるとはなんという姿勢だろうか。このことだけからも、原燃が都合の悪い情報を隠していることが分かる。この前2回の被ばくがいつ、どこで起きたのかを明らかにすべきだ。
 そして前2回の被ばくでは、「作業場所の空気中放射性物質濃度、表面汚染密度の測定結果から作業環境にも問題がないことを確認」していたという。しかし、今回5月に起きた被ばく事故に関しても、その前の2回の事故に関しても「空気中放射性物質濃度や表面汚染密度の測定結果」を公表していない。さらに、前2回の被ばく事故では「汚染部位は左肘、左わき腹であり呼吸域から遠いことなどから、内部被ばくはなかったものと判断した」という。しかし、放射能が被服に付着しているため、吸入した可能性は否定できない。バイオアッセイ等の内部被ばくの検査も全く行わず、勝手に「内部被ばくなし」としてしまっている。これでは、作業者の安全など確保できるはずがない。
 このままでは、地元採用の作業員や下請け労働者の健康被害は深刻なものとならざるをえない。
 原燃は前2回を含めて、被ばく事故の実態と関連資料を全て明らかにすべきだ。