六ヶ所再処理工場 頻発する事故、しかし原因究明なし
プルトニウム漏えいでも「事後保全」−漏れてから取り替えればよし
1億ベクレル放出しても放射能は「検出限界以下」(ND)


 六ヶ所再処理工場で事故・トラブルが相次いでいる。原燃の兒島社長も5月30日の定例記者会見で、「集中している。もう少しゆっくり出てきてほしい」(河北新報5月31日)と認めたとおりだ。トラブルの原因が特定できないまま、次のトラブルが発生しているが、それでもアクティブ試験はスケジュールどおり進め、遅れた分の時間まで取り戻そうとしている。六ヶ所村長から批判されたように、トラブルに関する情報は極度に非公開にしようとしている。
 これでは今後さらに事故・トラブルが頻発する。地元で雇用された人たちの被ばく量も増えていくに違いない。原燃や県の対応に対しては青森県議会でも批判が高まっている。そのせいか、内部被ばく事故に対しては青森県もようやく重い腰をあげて現場視察に出向いた。
 現在の段階で、起きた事実に即して問題点を整理した。

1.放射能漏れでも「事後保全」−T字継ぎ手の腐食貫通
 今年5月17日に、精製建屋内のプルトニウム精製系にある配管のT字型継ぎ手から放射能を含む液が漏えいした。実は、昨年7月のウラン試験の最中にも、同種継ぎ手から漏えいが起きていた。その原因は、この継ぎ手の製造過程で不純物が混入したため、不純物が硝酸腐食に導いたためであることが分かっていた。そうであるなら、(1)少なくとも同じ製作ロットで製作され、かつ(2)硝酸溶液が内部に通るすべての継ぎ手で漏えいが起こる危険性のあることは明らかであった。この2条件を満たす継ぎ手はすべて直ちに交換すべきであった。しかし、原燃は表面の観察をしただけで、つまり貫通腐食がないことを確認しただけで、何の措置もとらなかった。今回の漏えいの起きた継ぎ手もまさにその2条件を満たしていたのだから、漏えいが起きるのは必然だったのである。
 今回の漏えいの後、原燃は前記2条件を満たす精製建屋の38の継ぎ手(既漏えいの2箇所を除く)を検査し取り替えた。その中の5箇所で内部に侵食があったという。放置すればこれらでも次の漏えいが起こるのは必然だった。今回の漏えいで原燃はプルトニウム精製系を停止していたが、継ぎ手の取り替え措置の後、国の使用前検査を受けてすべては解決したとし、プルトニウム精製系の運転を5月30日に再開した。
 これで解決済みにしていいのだろうか。(1)なぜ当該ロットに不純物が混在したのか、その原因は突き止められていない(不純物が具体的に何かも公表されていない)。(2)これでは他のロットで同様の不純物が混入していないという保証は得られない。
 しかし、原燃はこれらは問題にしなくていいのだという。なぜなら、今回のT字継ぎ手も、同種の継ぎ手(全部で62箇所)もすべてセル外にあるという。漏れが起きても取替えができる場所にあるというのだ。それゆえに、これらの管理は基本的に「事後保全」、つまり漏れが起きれば取り替えるという管理の仕方でいいのだという。昨年7月に漏えいが起こっていながら同種継ぎ手を取り替えなかった姿勢も、結局は「事後保全」方式から来ていたのである。
 だが、もしこれが原発ならばけっして許されないだろう。PWRの2次系配管のように基本的に放射能が存在しない場合でも、事後保全管理は採られていない。これを許せば美浜3号機事故が頻発するだろう。まして内部に高レベルの放射能を含んだ硝酸液が流れている配管である。事後保全を許せばこれからも放射能漏えいは頻発し、その都度プルトニウムを含む溶液のふき取り作業に地元雇用の下請け労働者が動員される。労働者被ばくが増大することは免れない。
 
2.3つの漏えい事故の原因はすべて未だ不明
 今回のT字継ぎ手漏えい事故の原因は、製作過程での不純物混入にあったが、なぜどのようにして不純物が混入したかは公表されていない。それゆえ、他の工程で不純物が混入していないという保証は何もない。
 アクティブ試験開始以後の漏えい事故はこれで3度目である。第1は4月11日の溶解槽セルでのハル洗浄液40リットルの漏えいであったが、なぜ作業員が間違った操作をしたのか、なぜ簡単に漏れるような構造になっていたのかなどの疑問について原燃は何も明らかにしていない。見間違えないように栓の部分に色を塗っただけである。第2は4月23日の分離建屋から精製建屋に配管を導く洞道内での漏えいであるが、この漏えいがどこから来ているのかいまだに特定されていない。配管からの漏えいではないとされているだけである。
 このように事故・トラブルの場合に何よりも重視すべき原因究明がなされないままで、アクティブ試験のスケジュールが優先されているのである。

3.プルトニウム被ばくの原因は未だ不明
 次は5月19〜20日に起こったとされる協力会社社員のプルトニウム内部被ばく事故である。この作業員が着ていた作業着を5月22日に洗濯前に検査したところ、被服の右胸部に放射能汚染(最大でアルファが1.5Bq/cm2、ベータが0.17Bq/cm2)があった。この数値からこれは基本的にプルトニウムなどのアルファ核種による汚染である。ちなみに原発の管理区域ではアルファ汚染の上限は4Bq/cm2であり、その場合は汚染度を10分の1の0.4 Bq/cm2以下に下げる必要がある。今回のアルファ汚染密度はその4倍もあった。原燃は糞や尿を検査するバイオアッセイ法によって内部被ばくがあることを確認した。
 しかし、例によって原燃の公開する情報はきわめてあいまいずさんなものであるため、全体として何が起きたのかがつかめない。
・行われていた「分析作業」の全体像が明らかでない。どんな溶液を何のために乾燥させていたのか。
・なぜ作業着が汚染したのか。グローブボックスやフードの構造や使い方が明らかにされていない。溶液がどのようにして飛び散る可能性があったのだろうか。
・この作業で直接吸入した可能性はないのか。そのような可能性のある作業でなぜマスクをしていなかったのか。
・バイオアッセイでは糞や尿はいつ採取されたのか。どちらから何ベクレル検出されたのか。0.01mSvは吸入による評価か、それとも経口摂取による評価か。評価に当たってはICRP−78の方法が使われたのか。
・胸に放射能が付いていたのに、どうして管理区域外にでることができたのか。なぜより前に検出できなかったのか。
 まず被ばくの実態と原因を、被ばく労働の管理体制の欠陥も含めて明らかにすることが第一で、そうでないとまた被ばく事故が起こることは避けられない。集会を開いて「ゼロ災、ゼロ災」と叫びながら、安全旗に向かってをいっせいに指差してみても問題は解決しない。
「作業員被ばくで原燃が全社集会/安全確保誓う」デーリー東北6月1日付

4.なんと1億ベクレル放出でも検出限界以下(ND)──原燃の4月定期報告書
 ようやく5月30日に原燃は、4月分の放出放射能量をまとめた「六ヶ所再処理工場に係る定期報告書」を公表した。そこには、4月分の再処理量がPWR燃料で8体分、約4トンUであると書かれている(もう少し正確には3.7〜3.8トンUだと思われる)。
 その結果4月に放出した放射能量が「当月の放出量」として書かれているが、海洋放出についてはトリチウム(H-3)だけ数値があり、他はすべてND(検出限界以下)と書かれている。大気放出については、クリプトン85(Kr-85)、トリチウム、ヨウ素129(I-129)以外はNDである。全量放出するはずの炭素14もNDになっている。
 では、NDとはどのように規定されているのかを原燃広報に確かめた。NDとは、濃度が国のいわゆる測定指針(発電用軽水型原子炉施設における放出放射性物質の測定に関する指針)で規定されている「測定下限濃度」未満である場合をいうのである。ただし、炭素14とヨウ素129は測定指針で規定されていないが、これらは先行施設(東海施設)で採用された値(国も了承)を適用したという。それらは下記の表にまとめておいた。
 たとえば、トリチウムの海洋放出(液体放出)では、「測定下限濃度」は0.2Bq/cm3である。今回の放出では廃液を600m3放出している(放出前貯槽1つの大きさが600m3で、これが1バッチに相当しているらしい)。もし測定下限濃度の廃液を600m3放出したとすれば、その中にはトリチウムが1.2×108Bq含まれていることになる。今回放出したトリチウム量は1.7×108Bqだから、これは検出限界を超えて放出したことになる。そのため、放出量の項に数値が書かれている。ところが、放出量が仮にたとえば1.0×108Bq(1億Bq)だったとすると、このときの濃度は検出限界未満になるのでNDと書かれることになる。毎秒1億個の放射線を出してもゼロ放出と同じ扱いになるのである。そして、たとえばヨウ素129の5月分以降もNDだったとすると、ND+ND=NDとなるので、年間を通じてヨウ素129は放出されなかったのと同じ扱いになるのである。
 そもそも測定指針がつくられたのは1978年9月のことで、そのときから「測定下限濃度」は基本的に変わっていない(単位が変わっただけ)。測定技術の進歩など無視されている。現にたとえば東電が公表している測定値には、下限濃度より相当に低い値も含まれていることを見ても測定指針など事実を覆い隠すためにあるとしか思えない。今回原燃がNDと書いている放出量でも、実際には測定値が存在するに違いない。その値を公表すべきである。また、測定指針ではなく実際の測定機器に応じた下限濃度を明らかにして、NDはその値以下であることを明記すべきである。
 測定指針に関してはもう一つ重要な点がある。測定指針の第1表には、測定下限濃度の他に、「最小計測頻度」の欄がある。気体の希ガスは連続測定、気体ヨウ素は1週間に1回測定、気体トリチウムは1ヶ月に1回測定などと決められている。液体放出に関しては、ヨウ素129(おそらく他も)はバッチごと測定だという。ということは、海洋放出では測定値は1回放出ごとに把握されており、気体でも1週間ごとに測定されているものもあるということだ。それなら液体放出についてはバッチごとに、気体でも可能なものは1週間ごとに測定値を公表すべきである。現に東電は気体放出については1週間ごとに公表している。

5.情報は極力非公開
 今回のプルトニウム内部被ばく事故では、被ばく線量は0.01mSvだと原燃は公表した。しかし、これは初めての被ばくだったから公表したまでで、今後は基本的に2mSv以上の場合でないと公表しないという。海洋放出の場合も最初は関心が高いだろうと思って公表したが、後は基本的に公表しないという。1ヶ月ごとの放出量(ND付き)だけで見よというわけだ。
 概して原燃の公表の仕方は実に雑である。配管事故なら、通常はその配管の直径や厚みなどを公表するものである。しかし原燃はいっさい書いていない。わざわざ電話して聞かないと分からない。今回のT字継ぎ手にしても、全部で何個あって、精製建屋には何個あって、そのうち硝酸に触れているものが何個あってと公表しないものだから、新聞によってまちまちの扱いになるのである。そのため、それを正確に把握するためにわざわざ電話しなければならない。
 原燃は基本情報すら公開しないし、情報は極力出したくないという姿勢なのである。

6.原因の徹底究明、情報公開を要求しよう
 以上、これまで発生した六ヶ所再処理アクティブ試験での原燃の管理状況などを概観した。さまざまな事故・トラブルの原因究明がまともになされないまま、スケジュールが優先されている。プール漏えいの頃からの姿勢がまったく改善されていないばかりか、それが当然化されている。何よりも、プルトニウムまで含む放射性溶液のとおる施設の扱いが実にずさんである。通常の原発ならけっして許されないことがまかりとおっている。情報公開もまともになされていない。
 このままで行けば、地元雇用労働者の被ばくが増えるのは必然である。外部に放射能を放出していながらゼロ扱いするような姿勢が許されるなら、多くの放射能が放出されても感覚が麻痺してしまう。やがては大きな事故につながりかねない。そのような危惧をもたざるを得ないような管理がまかりとおっているのである。
 情報公開のあり方を根本から改めさせなければならない。



原燃が5月30日に発表した「六ヶ所再処理工場に係る定期報告書(平成18年4月報告)」の6頁目の表を基に作成。水色の部分は原燃の報告書には記載されていない。
測定下限濃度は「測定指針」の値。
 *1は先行施設(東海再処理工場)で採用されている値を転用している(原燃)。