六ヶ所再処理アクティブ試験第2ステップの早々に
排気筒からの放射能がガラス固化体貯蔵建屋に侵入
気象指針ではあり得ないこと−被ばく評価を根本からやり直せ

1.Eモニタの異常
 Eモニタの異常は、アクティブ試験第2ステップで、初めて使用済み核燃料のせん断を始めた8月18日の夜23時ごろに起こった。Eモニタは、海外から返還された高レベルガラス固化体を貯蔵している建屋に設置されている。その値が下図の2つ目グラフのように突然立ち上がった。 
 そのときおそらく警報が鳴ったに違いない。というのは、Eモニタは後の図が示すように、ガラス固化体を冷却した後の冷却空気中のアルゴン41を観測している。アルゴン41は空気中のアルゴン40が中性子を吸収して生じる。結局Eモニタは、ガラス固化体が発する中性子を監視していることになり、それが立ち上がることは、直接には、ガラス固化体中で自発核分裂が多発したことを意味するからである。
 建屋の担当者は、JCO事故がここでも発生したかと驚いたことだろう。あわてて調べてまわり、情報収集なども行ったことだろう。結局は次に述べるように、主排気筒から出た放射能が冷却空気に入り込んだためだとの結論になっている。ちょうどこのころ、下記A1グラフが示すように、使用済み核燃料の第5〜6体目のせん断による放射能が主排気筒から放出されていたのである。


 他にも、上図3つ目のグラフが示すように、より早い時刻に敷地内の9つのモニタが異常な高まりを見せている(またこれとは別に、敷地外約4km地点にある3つのモニタ値も同じ挙動を示している)。これは原燃によれば激しい雨のせいだということだ(この日の六ヶ所の雨量は、15時台ゼロmm、16時台4mm、17時台15mm、18時台10mm、19時台ゼロmm。異常はまだ降雨のない15:30ごろに始まっているのはなぜだろうか?)。また、23時ごろにも図上(1)(2)で示す小さな水色の3つの山が見えているが、これを示したのは主排気筒の東側にあるモニタMP6とMP7だということで、後で述べる風向きとは整合している。
 原燃はEモニタの示した異常現象を重視したせいか、上記グラフが示すように、ちょうどこの頃からピタリとせん断作業を中止し、すでに1週間以上も中止したままである。期間を短縮した第2ステップで、スケジュール優先の原燃にしては非常に珍しいことだ。


2.Eモニタ異常に関する原燃の説明
 Eモニタの異常について原燃に問い合わせると、使用済み核燃料のせん断によって主排気筒から放出された放射能がガラス固化体貯蔵建屋の冷却空気に入り込んだためだという。この日は、Eモニタの異常が起こる少し前の21:40ごろから20分間ほど無風状態(静穏)が出現し、そのために主排気筒から放出された放射能が風に流されなかったためだというのである。この様子を見るために、原燃の上記グラフから物差しで数値を読み取ってグラフを作り直し、さらに気象庁発表の風向きを重ねた図を上記に示している。
 このような原燃の説明は常識的には何となく成り立つような気がする。しかし他方、150mもの高い排気筒から放出される放射能は、容易に近くの地面に降りてこないはずではなかったか。そのことが、全体で22マイクロシーベルト、大気放出だけで19マイクロシーベルトにしかならないと原燃が自慢する根拠になっていたはずである。その大気放出放射能による被ばく計算の基礎は、気象指針にある。だから原燃が、Eモニタの異常が無風状態出現のためだと主張するのであれば、気象指針に基づいて説明しなければならない。

3.気象指針による静穏時の放射能の挙動
 まず主排気筒とガラス固化体貯蔵建屋の位置関係を確認しておこう。図に示すように、貯蔵建屋の中心は主排気筒のほぼ西側約360mの位置にある。次に、Eモニタのグラフに立ち返ると、グラフが立ち上がりかけた22:40ごろには風はほぼ東方向に吹いている(つまり西風)。これではそのころに放出された放射能は東に流されるので貯蔵建屋には行かない。
 原燃の説明では、貯蔵建屋に入り込んだのは21:40〜22:00の静穏期間に放出された放射能だという。ところが22:00からは風速1m/s程度の風が東に向かって吹いているのだから、放射能雲が22:40に貯蔵建屋に到達するためには、その西方2400mほどの位置にいなければならないことになる(1m/s×40×60s=2400m)。しかも、Eモニタグラフをよく見ると、影響は翌日の2:00過ぎまで3時間以上にわたって続いている。この間、貯蔵建屋より西の方から放射能が供給され続けたに違いない。静穏時の放射能がこれほど西に流されるのは静穏と矛盾している。それ以前から西に流されていた放射能が、静穏を境に東向きに変わった風で押し戻されたのではないだろうか。しかしこのような考えは気象指針や原燃の被ばく評価には一切入っていない。
 次に気象指針では、排気筒からの放射能は、吹き上がり高さの式(ΔH=3WD/U)に従って排気筒高さからさらに吹き上がることになっている。W=20m/sは吹き上がり速度、D=5mは排気口の直径だ。風速Uは静穏時には0.5m/sにとると気象指針に書かれている。そうすると静穏時の吹き上がり高さΔHは600mとなるので、排気筒高さを加えた有効高さは750mとなる。ウソみたいな話だが、実際の被ばく線量の計算はこのような考えに基づいているのである。有効高さが高いとたちまち地表面空気中濃度は低くなって被ばく線量も下がるという仕組みだ。また、この日は日照時間がゼロであった。このような場合の大気安定度はD型という安定したタイプだと考えられる。このような条件で気象指針に従って地表面空気中濃度を計算すると、敷地内では完全にゼロと呼んでよいほどの値にしかならない。だからこそ、気象指針に基づく原燃の計算では被ばく線量が低くでるようになっているのである。

4.原燃のなすべきこと
 ところが今回、はからずもEモニタが主排気筒から出た放射能をはっきりと検知した。つまり原燃が被ばく評価の基礎にしている気象指針では絶対に起こりえないことが起こった。この事実は、取りも直さず、気象指針が誤っていることを如実に示しているのである。
 主排気筒近くの建物に放射能が入り込むとは、原燃自身が夢にも思っていなかったに違いない。今回の事件によって、気象指針という被ばく計算の基礎が崩れたのは明らかである。
 原燃はまず、今回起こった想定外の事態に対し、具体的な資料に基づいて公に説明すべきである。直ちにアクティブ試験を中止し、被ばく評価の基礎的前提について再検討すべきである。


(注:風向きは気象庁ホームページの六ヶ所地点のデータを使用 http://www.data.kishou.go.jp/etrn/index.html