概  要


 1979年3月28日、ペンシルバニア州にあるスリーマイル島(TMI)原子力発電所2号機が部分的な炉心溶融を起こした。米国の商業用原発の歴史で−これまでのところ−最悪の事故だった。この事故が起きたのは四半世紀以上も前だという事実は、現在では原発はより安全だということの証拠として、しばしば引き合いに出される。
だが十分に安全なのだろうか。スクールゾーン内を時速90マイルで突っ走る車が、「たった」時速75マイル(120q)にまで減速すれば、より安全ではあるが、十分に安全とはいえない。スクールゾーンにいる子どもたちは、たいへんなリスクにさらされることになる。
 米国の原発は、1979年以来1基も炉心溶融を経験していないからといって、現在では十分に安全なのだろうか。答えははっきりノーである。TMIの炉心溶融から27年の間に、38基の原発が少なくとも1年以上運転停止せざるを得なかった。安全余裕を最低限受け入れ可能なレベルまで回復させるためだ。このうち7基は2年かそれ以上にわたる運転停止を経験した。
 これらの原発は大事故を経験するまでに運転停止されたが、こんな幸運がこれからも続くと仮定するわけにはいかない。これらの運転停止の数と長さは、安全性の問題がいかに深刻で広範に及んでいるかを証明している。

安全規制軽視の歴史
 これらの長期化した操業停止の大多数は部品の破損によって引き起こされたのではなく、原発の安全運転のためには広範でシステム全体にわたるメンテナンスのための停止が必要となるほど、構成部品の全般的な劣化がすすんだために引き起こされたのである。連邦政府の安全規制は、各原発所有者に対し、さまざまな問題を発見して解決する是正措置プログラム(しばしば品質保証プログラムと称される)を整備するよう求めているが、一年を越える操業停止を再調査してみると実際の是正措置プログラムが不適切であることがわかる。各々の場合に、これらの不適切な是正措置プログラムが見落としたり不適当に「是正」した多くの問題を発見して解決するために、またこれらのプログラム自体の欠陥を処置するために、かなりの時間とコストを要した。言い換えれば、原発所有者が法令遵守に復帰し、運転ができるよう原発を十分安全にするのに、1年を越える期間がかかったということだ。
 これほど多くの原発が、連邦政府の安全規制が受容すると考えられる最低限の条件のもとで運転再開できるまでに1年かそれ以上停止しなければならないようでは、原発の安全性が十分だとは到底言えない。長期化した操業停止は、いかに安全余裕が蝕まれるがままにされ、そしてそれが原発を一層危険で必要以上に高くつくものにしているかを、一見して明らかなように証明している。さらにまた、不適切な是正措置プログラムによって引き起こされる長期化した操業停止は、各原発所有者が何度も多くの場所で連邦政府の安全規制に違反してきたことを示している。

監視機関は目を覚ませ
 原子力規制委員会(NRC)は、米国の原発の安全性を監視しているわけだが、実際に原発の安全レベルを監視する仕事をよりよく果たしてもらわなくては困る。そして、受け入れ可能なレベルにまで回復するのに1年かそれ以上かかるようなところまで安全余裕が蝕まれてしまわないうちに介入できるようになってもらいたい。特に次の事項に関してNRCはその安全規制実績を改善しなければならない。
・ 是正措置プログラムの妥当性を評価すること
・ 他の原発で確認された是正措置プログラムの不首尾について、原発所有者と情報交換すること
・ すべての利用可能な原発データを統合し、全国各地のNRC職員が、同種の原発での潜在的な諸問題について「点を結ぶ」ことができるようにすること 
・ 一年を越える操業停止につながり得る安全性に関する運転実績の低下が発生する頻度を下げること
 NRCを監督する米国議会は、ここにあげた改善が効果的かつ迅速に達成されることを保証しなければならない。これらの改善は、わが国の現存する104基の原発が本当に十分安全だと考えられるべきであるなら、絶対に必要なものである。そしてこれらの改善を達成することは、連邦政府の補助金を受けるいかなる新規の原発建設にとってもその前提条件でなければならない。そうでなければ、原発の次の安全問題は、単に潜在的な長期化した操業停止を意味するだけではすまないかもしれない−通行量の多いスクールゾーンに向けて猛スピードで突っ込んでいく車より、はるかにひどい脅威にさらされることを意味するかもしれないのだ。