は じ め に


 この翻訳資料集を発行する直前に、BNFLの2つの再処理工場(ソープとB205)が運転停止に追い込まれたというニュースが飛び込んできた。9月22日付の英国「ガーディアン」紙によると、再処理の後に出てくる高レベル廃液をガラス固化処理する施設が事故・故障で運転できず、廃液が増加し、英国規制当局NIIの許容限度いっぱいになったためである。BNFLはNIIからの法的制裁を受ける前に、自ら「メンテナンスのため」として運転を停止した。高レベル廃液をガラス固化処理するために、3つのラインがある。その3つともが運転停止状態にありながら、BNFLは再処理を続けていた。日本を含む海外顧客とのベースロード契約(初めの10年間の契約)に基づく再処理が遅れており、それを少しでも挽回するためと考えられる。
 高レベル廃液のガラス固化処理がうまくいかないために、再処理工場の処理量を削減したり、運転停止に追い込まれるという可能性については、この翻訳資料集で紹介しているCORE[環境の放射能汚染に反対するカンブリア人の会]の報告書の中で、既に指摘されていた。COREの報告書は、海外顧客とのベースロード契約が、BNFLが言う1年延期ではなく、数年、あるいは10年遅れる可能性があることを指摘している。この指摘は、今回の運転停止によって、一層現実味を帯びてきた。
 これに関するCOREのプレスリリースと「ガーディアン」紙の記事を資料として、急遽収録した。

 翻訳した3つの種類の文書は、BNFLの再処理が技術的にも経済的にも破綻していることを示している。BNFLと日本を含む海外顧客達が、共通の利害で始めた再処理が、ソープ運転開始以来10年にして、契約の不履行と内部対立をあらわにする程までに行き詰まっている。これらの現状は、再処理が大きな転換点に差しかかっていることを示している。

 他方、日本の政府・電事連・日本原燃は一体となって、BNFLの破綻の実態をひた隠しにし、六ヶ所再処理工場の建設を強行し、運転開始を狙っている。

 この翻訳資料集発行にあたって、COREからメッセージをいただいた。それは、私達が今、「再処理先進国」イギリスの現実から、多くを学ぶよう呼びかけている。

 この翻訳資料集が、BNFLの再処理に反対する運動に、そして、六ヶ所再処理工場を止めるための運動に、少しでも役立つことができれば幸いです。


 この翻訳資料集は、大きく3つの文書からなっている。

■CORE報告書「BNFLと再処理 顧客への欺瞞は続く」2001年6月
 この報告書では、@ソープ再処理工場の毎年の再処理量が目標に及ばず、再処理工程後のガラス固化ラインでもトラブル続きで高レベル廃液を政府の命令どおり削減できないこと、A契約完了期日の延期に伴う追加費用に海外顧客が強く反発していること、B放射能放出基準を守るために、再処理量を押さえなければならず、その結果、再処理の契約完了は10年遅れるだろう、ということが具体的に暴露されている。これらは、後に紹介する2つのリーク文書はもとより、BNFLが発表した資料、綿密な質問書などを通じて入手した資料を基にして、独自の調査と詳細な検討のうえに導き出された結論である。

■今年5月にリークされた、BNFLと海外顧客達との会合に関する2つの文書
 これは、2000年9月18日付「海外顧客の声明」と、2001年3月23日付の合同会議の議事録である。共通の利害の下に、ソープ再処理工場を進めてきたBNFLと海外顧客達の間で、深い対立が生じていることを示している。BNFLの技術的能力に対する不満と、電力自由化の進行の中で、顧客達がこれまで通りに膨大な再処理費用を、BNFLの言い値で支払い続けることへの限界が、彼らの言葉で語られている。再処理が商業ビジネスとして成り立たないということを示している。

■セラフィールド再処理工場等からの放射能放出に関するリーク文書
 これは、文書の表題もなく、匿名で、グリーンピースとCOREに送られてきたものである。昨年1月頃に作成されたものと思われる。ここでは、年間の再処理量を増加させれば、膨大な放射能放出となり、政府の許可基準を超えてしまい、運転を停止せざるを得なくなるという実状が書かれている。ヨウ素129とトリチウムの放出は、現状でも許可基準ぎりぎりであること、また、ガラス固化処理施設からのヨウ素129の放出は、最悪現在の2倍に達し、第3ラインの運転開始によって、一層の放射能放出が見込まれることを示している。さらに、今後高燃焼度燃料の再処理によって、これらに一層拍車がかかること等が記されている。

 それぞれの文書には、本文の前に、要点・解説を付している。特に、リーク文書は、本文だけでは分かりにくい点が多いため、それを補う形で、分かる限りの説明をつけている。尚、CORE報告書に付している[再処理概念図]と[参考:各ケースの図式]は、当会で作成したものである。

 リーク文書に関しては、略語の意味について、COREのマーティン氏の教示を受けた。翻訳にあたっては、グリーン・アクションに御協力いただいた。記して、感謝申し上げます。なお、翻訳に関しての責任は、当会にあります。

2001年9月
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会



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