長尾さん、福島第一原発等で被ばくし、労災を申請 大阪市在住の長尾光明さん(78才)は、1977年から82年まで、福島第一原発、浜岡原発、「ふげん」で定期検査に従事し被ばくしました。退職後の98年には第3頸椎病的骨折のため手術をうけ、「多発性骨髄腫」と診断され、療養を続けています。長尾さんは、石川島プラント建設に入社し、配管工事の技術者として原発の定検作業に従事してきました。 4年3ヶ月の原発での労働で、70ミリシーベルト(mSv)もの被ばくを受けています。これは「被ばく手帳」に記載されている外部被ばくの量です。他方、長尾さんが働いていた当時、福島第一原発はプルトニウム等のアルファ放射能で汚染されていたという事実が内部告発で明らかになりました。長尾さんも内部被ばくしていたことは明らかです。 長尾さんは、昨年11月、病気の原因は原発での被ばくであるとして、福島県の富岡労基署に労災申請を行いました。現在、厚生労働省で審査が行われています。白血病の労災認定基準の3倍以上もの被ばくを受け、さらに内部被ばくまでしていたことからして、病気と被ばく労働との関連は明らかです。長尾さんが高齢であることからして、速やかな労災認定が必要です。また、長尾さんのみにとどまらず、当時福島第一原発で働き、深刻な内部被ばくを強いられた多くの労働者の救済へ進もうと、多くの人が協力して支援の活動を行っています。 労災認定を勝ちとるための2つの柱 [1]70mSvもの外部被ばく−早急に労災認定を 1.白血病認定基準の3倍以上の被ばく 長尾さんは、ガンマ線による外部被ばくだけで70mSvもの被ばくを受けています。これは、白血病の労災認定基準の3倍以上に達しています。白血病の認定基準は、@5mSv×従事年数の被ばく、A被ばく後1年を超える期間に発生した疾病、B骨髄性白血病またはリンパ性白血病に罹っていること、です。この基準に従えば、5mSv×4.3年=21.5mSvとなり、長尾さんが受けた70mSvは、白血病認定基準の3倍以上もの被ばく量です。 2.多発性骨髄腫は白血病の類似疾患 多発性骨髄腫は骨髄の細胞が腫瘍化する悪性の病気です。現在の労災認定基準では、多発性骨髄腫は、上記白血病のように具体的基準が決められていません。しかし、この病気は白血病と同じく骨髄のガンであり、血液の悪性疾患です。20数年前に定められた認定基準に縛られることなく、白血病の類似疾患として認められるべきです。 3.多発性骨髄腫は放射性起因性の疾病 広島・長崎の原爆被爆者の間にも、多発性骨髄腫が多発しています。「関西労働者安全センター」の調査によれば、原爆症認定において多発性骨髄腫が認定された事例は、19993〜2002年度で17件あったとのことです。「原爆放射線の人体影響1992」では、多発性骨髄腫について「病変の場が同じ骨髄である白血病が被爆者に多発したことを考え合わせると放射線による被爆者の晩発障害の一つとして念頭におくべきである」としています。また長崎原爆病院が発表した1999年度「原爆被爆者診療概況」では、被爆者の間で、多発性骨髄腫が増加していることが特徴的だと報告されています(前年度1人から99年度は11人に増加)。このように、この病気は、白血病と同様に放射線被ばくに起因するものなのです。 以上のように、長尾さんが罹患している多発性骨髄腫は、放射線被ばくに起因するものであり、原発での労働と病気の間に相当因果関係があることは明らかです。よって業務上の疾病として、速やかに労災認定されるべきです。
[2]福島第一原発 深刻なプルトニウム・アルファ放射能による汚染と被ばく 長尾さんが福島第一原発で働いていたのは、1977年10月〜1979年12月、1981年9月〜1982年1月の間です。この頃は、福島原発での被ばく(外部被ばく)が急増していた時期にあたります[下記グラフ参照]。 実はこの時期、福島第一原発はプルトニウム等のアルファ放射能によって恐ろしく汚染されていたことが、当会に届いた内部告発によって明らかになりました。通常の原発の運転ではアルファ放射能が原発建屋内に広がったり、排気筒から放出されることはありません。1978年12月の福島T−1号機で明らかになった燃料棒破損事故が原因と思われます。内部告発で送られてきた資料は、東京電力が1981年12月に作成した「スタックからの放出放射能の低減に関する検討結果について(松葉作戦)」と題するものでした。 1.20年以上も東電・国は隠し続けてきた この資料等から、当時のすさまじいまでの汚染の実態が明らかになりました。福島T−1号機の建屋内は、定検時にアルファ放射能が床一面に降り積もっていました。空気中のアルファ放射能の濃度は、建屋1階の大物搬入口付近で、許容濃度の350倍にも達していました。東電と国は、20年以上に渡って隠し続けてきたのです。「松葉作戦」には、長尾さんが働いていた福島T−2号機もアルファ放射能で汚染されていたと書かれています。 2.長尾さんがアルファ放射能を吸入した可能性 長尾さんは、原子炉建屋内の格納容器で作業する時は防護マスクをしていましたが、格納容器の外ではマスクを外していたと言います。建屋1階の大物搬入口付近は「銀座通りというほど、空気のきれいな所だ」と思っていたのです。しかし、マスクをつけていなかったその場所も、プルトニウム等で汚染されていたのです。もちろん、そのことは知らされていませんでした。 3.福島原発で内部被ばくした多くの労働者の救済につなげよう 当時福島原発で働いた労働者達は、確実にアルファ放射能を吸い込み、被ばくしているに違いありません。アルファ放射能による汚染という問題を明らかにすることは、長尾さんの労災認定を勝ちとることを促進します。同時に、当時福島原発で働いていて被ばくしている多くの労働者の救済につながる道です。そのため、支援の活動は、東電や東芝と交渉を行うよう、汚染と被ばくの実態を明らかにする取り組みを進めています。
アルファ放射能の検出限界値をわざと引き上げ、放出を隠した東電 長尾さんは福島Tー2号機で働いていた。そのタービン建屋排気筒では、1981年3月末と6月初めの2回、アルファ放射能が検出されている(2つの*印)。そのときは、短横棒で示す検出限界値が低くとられていた(測定に時間をかければ検出限界値は下がる)。 ところが、その後東電は、検出限界値を高くして、アルファ放射能を見えないようにしてしまっている。「松葉作戦」で自ら立てた目標値(グラフ内破線)を放棄し、アルファ放射能を外部に放出する道を選んだことがわかる。 多くの人々が力を合わせて支援に取り組んでいます 長尾さんの労災認定を勝ちとるための活動は、関西労働者安全センターをはじめ、労働運動や反原発運動に取り組んでいる諸団体・個人が力を合わせて取り組んでいます。 富岡労基署に対しては、長尾さんの多発性骨髄腫が被ばくに起因する事に関して、阪南中央病院の村田三郎医師が意見書を提出されています。アルファ放射能による被ばくについては、当会の小山が意見書を提出しています。被ばく労働者の実態を告発し続けている樋口健二さんも、写真で長尾さんの労災認定を訴えています。 7月24日には、13団体の連名で(下記参照)要望書を出し、早期に労災認定するよう、厚生労働省との交渉を行いました。同日、東京電力に対しても、福島第一原発の汚染の実態を示す情報を公開するよう要求して交渉を行いました。 福島県では、双葉地方原発反対同盟と脱原発福島ネットワーク等の共同で、東電交渉が行われています。 今後、全造船石川島分会の労働組合が中心になって、当時の被ばく環境等を明らかにすることを目的に、東電の元請け企業でありデータを握っている東芝等との交渉が準備されています。 長尾さんの労災認定を勝ちとるための支援活動は、第一に、「被ばく手帳」に記載されている外部被ばく線量によって、被ばくと多発性骨髄腫発症が相当因果関係にあることは明らかであり、早期の認定を行うよう要求しています。さらに、プルトニウムまでも吸わされたほどの長尾さんの劣悪な労働環境を明らかにすること、同時に、それを通じて、当時福島第一原発で被ばくした多くの労働者を救済する道につなげていこうと取り組まれています。闇の中に隠されてきた被ばく労働の実態を白日のものにし、労働者救済の運動につなげていきましょう。長尾さんの労災認定は、そのための大きな一歩でもあります。長尾さんの原発労災認定を勝ちとろう。 (関西労働者安全センター/東京労働安全センター/神奈川労災職業病センター/全国労働安全衛生センター/双葉地方原発反対同盟/原子力資料情報室/ヒバク反対キャンペーン/被曝労働研究会/原水爆禁止日本国民会議/福島県平和フォーラム/脱原発福島ネットワーク/全造船石川島分会/美浜の会) |
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2003年9月 |