報告 大飯原発3・4号運転差し止め仮処分裁判 第4回審尋(2012年8月13日)

制御棒挿入性の問題について裁判所が確認
 ◆評価基準値2.2秒を超えれば設置許可上、運転はできない
 ◆関電主張の挿入時間1.88秒は国の耐震バックチェックで認められたものではない

 8月13日13時30分より、大飯原発3・4号運転差し止め仮処分裁判第4回審尋が、大阪地裁508号法廷で行われました。傍聴席は原告約30名、関西電力は10名弱で、いつものように満席でした。今回、裁判長は、「関心を持っている点について尋ねたい」として、安全審査指針類か存在するのかどうか、そして特に制御棒挿入性の問題について原告被告双方の見解を確認していきました。そのため約1時間におよぶこれまでにない長い審尋となりました。

 前回の7月9第3回審尋以降に、関電は8月10日に主張書面を出しました。原告は、この関電の書面に反論する主張書面(4)を8月13日に提出しました。原告側主張書面(4)では、関電の活断層2連動時の制御棒挿入時間を1.88秒とする主張や、再調査が決まったことに一言も触れずにF−6断層が活断層であることを否定する主張等を批判しています。

 今回多くの時間をかけた制御棒挿入性の問題を中心に報告します。

◆安全設計審査指針類は有効なのか

 まず、裁判長は、「いろいろ論点はあるが、最も関心を持っている点について尋ねる」とし、安全設計審査指針類の安全基準の問題について質問しました。「安全基準があるのかないのか。審査基準はないということですか。本来はあったが見直し作業中なのでないということですか。関電はどうなのですか」と原告、被告双方に確認しました。
 原告は福島事故で安全審査指針類の見直しが行われており、「あるべき指針類は存在しない」と明確に答えました。裁判長は関電に対して「指針が改定されない限りあるということなのか、仮になくても『今でも安全』という言い方もしている。基準があるというなら何か」と何度も尋ねました。関電は「審査指針の見直しと言っても判然としない。仮にそうであっても、+αで安全性を確保している。具体的危険性を言えるようなことはない」と答えるだけでした。裁判長は「基準があるのかないのかということなのですがね」と、関電の回答に首をかしげたままでした。

◆活断層3連動時の制御棒挿入時間――「数字が分からないのに基準を下回るとは?」(裁判長)

 裁判長は「大事だと思っているので尋ねたい」とし、まず、活断層の2連動と3連動、それぞれの場合に制御棒が挿入される評価時間について、双方に確認しました。「2連動の場合、原告は2.16秒。関電は1.88秒という違いですね」「3連動の場合は、原告2.37秒(基準値2.2秒を上回る)、関電はいくらですか」。裁判長が大事な数字だとして、何度も尋ねたにもかかわらず、関電は「正式な数値は出していないが、基準値2.2秒を下回る」と答えるだけでした。裁判長は「3連動の場合の具体的な数字は出ていないのですか。数字が分からないのに下回るとは?」と関電の答えにあきれた様子でした。

◆「設置許可を前提とする限り、基準値2.2秒を超えたら運転できない」ことを双方に確認

 次に、裁判長は、「これからが一番大事な点ですが」として、「制御棒の挿入時間が評価基準値2.2秒を超えたら運転できないことについては、争う余地なしということでいいですね」と双方に確認を求めました。その上で、「2.2秒を超えたら運転できない理由は、危険性があるからか、それとも、設置許可に照らして許されないからか」と尋ねました。関電は、「基準値2.2秒を超えても危険ではない。設置許可が理由である」と答えました。裁判長は「2.2秒を超えて、変更申請なしで運転できるのですか」と重ねて関電に尋ねました。関電は「現状の枠組みを前提にすれば運転はできない」と答えました。
 裁判長は「その意味で、2.2秒を超えるかどうかが最も重要になる」と念を押しました。原告は「関電は3連動の場合に2.2秒を超えるかどうか、数値を出していない」と指摘しました。裁判長は「そうですね。何秒ですか」と、3連動時の挿入時間を改めて問いました。しかし、関電側弁護士はすぐに答えられず、傍聴席にいた関電社員にメモを渡されて、ようやく「1.99秒です」と答える始末でした。

◆関電の主張=2連動時の挿入時間1.88秒の算定根拠、保安院等の評価、合理性は?
 「1.88秒は耐震バックチェックで示されていない」ことを確認

 裁判長は、「1.99秒、すなわち2.2秒以内に収まるということならば、2連動時の1.88秒を算定した根拠・評価が問題となってくる」と述べました。そして、「関電書面では、1.88秒は『報告している』となっているが、国の耐震バックチェックで評価・審査を受けたのですか」と問いました。関電は、「バックチェックでは前の数値(2.16秒)で報告している」と認めました。裁判長は 「1.88秒はバックチェックの対象にはなっていないということですね」と念を押して確認しました。
次に、裁判長は、1.88秒の算定根拠、合理性について尋ねました。関電は、今年3月13日の原子力安全委員会のストレステストに関する検討会において、保安院が出した説明資料を示し、あたかも保安院が1.88秒を認めているかのように述べました。これに対して、原告側弁護士は「この資料は、関電の主張が紹介されているだけであり、バックチェックとは無関係。耐震バックチェックでは報告も審議もなされていない」と批判しました。
 一方、関電は「この保安院資料では、2.2秒という評価基準値そのものに余裕があると言っている」、また、「基準地震動の2倍の地震動でも2.2秒程度で入るとされている」とし、「1.88秒はちなみに出した数値だ」と答えました。これに対して裁判長は「この資料の見解は関電の主張ですか」と何度も問いただしました。しかし関電は答えられず、沈黙を続けました。裁判長は関電に対して、1.88秒の算定根拠、保安院などの評価、合理性について、説明するよう求めました。1.88秒について、「関電だけが言っているのか、保安院がどういう態度をとっているのか、とろうとしているのか、そこが知りたい」と述べました。

◆評価基準値2.2秒を超えた場合の具体的危険性

 最後に裁判長は、基準値と具体的危険性の問題について言及しました。「設置許可における評価基準値を超えるから運転できないと言うだけでなく、評価基準値を超えると危険だから運転できないと言えるのか」と、2.2秒を超えた時の具体的危険性を問題にしました。「基準値2.2秒を超えれば運転できないなら、関電のいう余裕があるから11秒まで安全という主張は問題にならない。許可申請でいえばそれで終わりになる。ただ安全上は、2.2秒を超えても即危険ではないということになるのか」と確認を求めました。原告は「2.2秒は安全性を確保するための数値。基準値に余裕を持たせるのは当然のことだ」と主張しました。裁判長は「約11秒までは安全だと言っている意味について、関電に主張してもらわないといけない。また、どちらからでもよいが、このことについて、保安院や第三者の見解・書面が取れるのであれば分かりやすい」と述べました。
運転差し止め仮処分における「原告におよぶ具体的危険性」について、裁判所が慎重に判断しようとしていることをうかがわせるやりとりでした。

◆次回審尋は9月5日 早期の判決(決定)を

 裁判長が以上のいくつかの論点について主張を求めたため、今回は結審にはなりませんでした。しかし今回は、制御棒挿入時間の評価基準値2.2秒を超えると設置許可に基づき運転はできないこと、そして、2.2秒に収めるために関電が新たに出してきた2連動時1.88秒という値は、耐震バックチェックを経ておらず、国の正式な手続きを踏んだものではないことを、裁判所が確認しました。これらは原告が主張してきた点であり、関電が意図的にごまかしてきたものでした。2.2秒に収まる保証がないことが確認できた以上、運転差し止め判決を下すべきです。裁判官の公正な判断を期待します。
 書面提出期限は8月31日で、次回審尋は9月5日(水)11:00からとなりました。いつもの508号法廷が空いていなかったために514号法廷になりました。原告傍聴は数名に限られますが、期日を早く入れるためです。それでもまた多くの原告・支援者が集まって、私たちの意思を示していきましょう。今回と同じく、終了後には記者会見と報告を行う予定です。
                               
2012年8月14日
大飯原発3・4号運転差し止め仮処分裁判原告団世話人会・事務局

(12/08/14UP)