さよなら原発 3・10関西2万人行動―武藤類子さんのスピーチ
2013.3.10

 皆さん、こんにちは。福島から参りました武藤類子と申します。寒い中、雨の中本当に皆さんご苦労様です。今日、「さよなら原発3・10関西2万人行動」に集う皆さまとともに過ごすことがとてもうれしいです。
 福島原発事故から2年が過ぎようとしています。福島は例年よりも寒さが厳しかった冬がようやく終わりを告げようとしています。水仙がわずかに芽を出し、光が、そして空気が早春の訪れを予感しています。しかし、雪解けとともに雪によって遮蔽されていた放射線が徐々に上昇しています。春先の強い風に放射性物質が舞う季節でもあります。いち早く顔を出すフキノトウを喜んで食べていた事故前の日々が懐かしい季節でもあり、どこか悲しい春であります。そして昨年末を機に遠くへ引越して行く人々で、引越し業者は大忙しだと聞きます。また一方で、二重生活が立ちゆかなくなり避難先から福島へ戻る人も多くいます。
 爆発した4つの原子炉からは、今も毎日2億4千万ベクレルの放射性物質が空気中に放出されています。海に出た物の量は誰にも分かりません。福島原発専用港で捕獲されたアイナメから51万ベクレルのセシウムが検出されました。原子炉を冷やし続けるための水は濾過装置を経て大きなタンクに溜められていましたが、後2年でタンクは満杯になるそうです。東京電力はストロンチウムを濾過しきれていない水を希釈して海に流すと考えています。
 再び大きな地震で崩れ落ちたら北半球の大惨事になるかもしれないという4号機の燃料プール、今年11月ようやく取り出す作業が始まります。しかし、地上から50メートル以上のところで行われる作業の安全性は確保されているのだろうか、作業員の被ばく量はどのくらいなのだろうか、誰もが不安に思っています。原発内で被ばくしながら働く作業員の6割以上は福島県人であり、事故で職を失った人々も多く含まれています。危険手当のピンハネなど作業員の待遇の劣悪さは問題となっています。また、除染作業員たちも被ばくしながらの厳しい労働を十分な防護策も与えられないままに低賃金で強いられています。最近、除染作業員の中に16才の少年が混じっていたことが判りました。莫大なお金を投入して行われる除染の効果には、あまり期待が持てないのが実情です。…放射性のゴミは大きな袋に詰められて村や町のあちこちに積み上げられています。
 最近18才未満の子どもたちの甲状腺検査の2011年度の検査結果が今日公表されました。約3万8千人の内、悪性診断をされた人が10人いました。そしてその中で、3名がガンと確定されました。福島県立医大の副学長となった山下俊一氏らは、この結果をエコーなど医療機器の発達により発見が進んでいるとの見解を発表しました。他県などの検査結果でも嚢胞や結節の出現率が同じかむしろ他県の方が多いと発表し、原発事故との関連がないという結論付けをしています。福島の地方紙では一面全部使ってそれを報道していますが、本当にそうなのでしょうか。そんなに簡単に結論づけていいのでしょうか。少なくとも健康被害に関してはまだ判らないというのが実情なのではないでしょうか。私たちは子どもたちの健康被害を皆、心から心配しています。
 昨年の衆議院選挙の前に議員立法で子供被災者支援法という法律ができました。子どもたちの避難の権利が含まれた被害者救済がどのような形で行われていくのかが問われる大変重要な法律です。しかし、この法律の具体的な中身は全く決まっていません。予算すら付いていない状態です。一日も早くこの法律が被害者の本当の意味での救済となる法律として機能することを私たちは切に望んでいます。どうか皆さんもこの支援法への関心を持っていただけたらと思います。
 このほか福島の中では8千ベクレル以上の稲わら、それから牧草などの農林関係の廃棄物の焼却実験炉が密かに造られようとしていたり、除染の伐採林を使った木質バイオマス発電所が造られようとしています。これらの安全性はどうなのか、放射性物質を焼却することの安全性は一体どうなのか。奇跡的に残っている比較的線量が低く安全な地に、このような施設が建てられていることに大変疑問を感じています。
 昨年12月には郡山市において、IAEAと日本政府の共催で加盟国100カ国以上が参加する国際閣僚会議が行われました。その中では大半の国が、IAEAの基準の下に新しい安全な原発を造り推進していくと言っています。アフリカの国々などは、輸入をして経済発展に繋げるという発表を次々にしました。被災地福島県がすでに安全であることが宣伝され、原子力産業の巻き返しを露骨に主張していくこの国際会議に、非常な違和感と不安を覚えました。そして福島県は190億円という莫大な予算を投じて県内2カ所に環境創造センターというものを設立し、除染や廃棄物処理について、また人々の放射線に対する教育、広報についての研究をするとうたっています。そして福島県にはIAEAが常駐するといわれています。チェルノブイリ原発事故の後にWHOと協定を結んでチェルノブイリ事故の健康被害を外に出さない、研究をさせない、そういうことをしてきたIAEAが福島に来るということにとても危機感を感じています。
 そして一番の問題は、意図的にあるいは無意識に行われる人々の分断です。賠償範囲の線引き、新たなる放射能安全神話の流布、強引とも思われる復興策の数々、このような中で人々はさらに引き裂かれ、または互いを気遣ってものが言えなくなる状況があります。私たちがかかわる問題は、複雑化し細分化されています。私たちの悲しみと怒りは消えることはありません。
 しかし私たちはこの2年間、ただ怒りに身を任せてきた訳ではありません。調べ、学び、自分を省み助け合い、声を上げることを余儀なくされてきました。怒りの表現は様々ですが、困難を極める現在の社会の中で私たちは今、冷静さと明晰さを持つ怒りが必要なのではないかと思います。皆さんはたき火の火をご覧になったことがあると思います。最初に薪の表面を燃やす炎はとても深い赤で、炎は激しく動き回ります。やがて熾き(おき)ができると静かにトロトロとした炎となり明るい朱色になります。最も高熱を発するときに中心に光の玉を抱くように白い炎となります。深く美しい成熟した火をそこに見ます。怒りもまた成熟したものは、新しい世界に向け何かを変えていこうとする深く美しい怒りとなるのではないでしょうか。生きる尊厳を奪うもの、そして、命を蔑ろにするものに私たちは真っ直ぐにその怒りを向けていきましょう。もしかしたらそれは自分自身の中にも向けざるを得ないことがあるかもしれません。
 最後に嬉しいニュースを一つお話させていただきたいと思います。福島県民が昨年始めた福島原発事故の責任を正す告訴運動が第一次で1300人あまり、全国に広げた第二次告訴で1万4千人を超え、そしてこの1月から始めた厳正な捜査と起訴を求める緊急署名が、たった2ヶ月で昨日第一次、第二次提出分を合わせて10万筆を突破しました。この場をお借りして皆様のご協力に対してお礼申し上げます。本当にありがとうございます。
 1人の手から10人の手に、そしてさらに10人の手に繋がりがどんどんと横に広がる実感があります。一人一人が自分を磨きつつ、手を繋ぎ共に歩んで参りましょう。皆さんの熱い思いが段々雨脚を弱めています。これからも皆さんと手を繋ぎ歩んで参りたいと思います。今日は本当にありがとうございました。

テープ起こし 美浜の会

(13/03/31UP)