亀裂が検出できない蒸気発生器細管検査では
「もんじゅ」で原子炉暴走事故をもたらす
福井県は「もんじゅ」の安全審査入りを認めるな!


                 1. 「もんじゅ」では蒸気発生器細管の亀裂が検査できない
                 2. 特に検査が難しい蒸発器細管
                 3. 疲労破壊は蒸発器細管でも起こる
                 4. 1本の破断が大量細管破断事故をもたらす
                 5. 細管の大量破断が誘発する中間熱交換器細管の破損
                 6. 中間熱交換器の破損と原子炉の暴走
                 7. 安全審査入りをやめさせよう
                 8. 福井県知事は安全審査入りを認めるな


<1. 「もんじゅ」では蒸気発生器細管の亀裂が検査できない>
 昨年11月に、高速増殖炉「もんじゅ」蒸気発生器細管の検査技術についての技術的困難が「内部告発」によって明るみに出た。これを受けての原発反対福井県民会議をはじめとする諸団体・諸個人の粘り強い活動によって、いまの技術(うず電流探傷検査:ECT)では亀裂はまったく検出できないことが明らかとなり、当の核燃サイクル機構も事実上これを認めた。
 亀裂が検出できないということは、どんなに努力をしてもずさんな検査しかできないことを意味する。これは蒸気発生器細管の「もんじゅ」のシステム全体における位置を考えると、絶対に看過してはならない事実である。1995年12月の「もんじゅ」火災事故とその事故調査、「もんじゅ」訴訟等のなかで明らかになっていること、すなわち、(1)空気や水と爆発的に反応するナトリウムを利用することの危険性、(2)軽水炉とは異なり原子炉炉心へのボイドの流入(1次系ナトリウムにガスが流れること)が原子炉の暴走を誘発する高速炉特有の危険性、とを合わせて考えるならば、チェルノブイル事故のような、取り返しのつかない事故を、このECT技術の不備が招き得るのである。

<2. 特に検査が難しい蒸発器細管>
 「もんじゅ」の蒸気発生器は蒸発器と過熱器とからなる。ともに細管をらせん状に巻いたヘリカルコイル型であるが、蒸気のみが通過する過熱器がステンレス鋼でつくられているのに対して、水と蒸気とが流れ、その内側で沸騰が起こる蒸発器はクロムモリブデン鋼(自転車のスポークを思い出せばよい)で出来ている。その成分のほとんどは鉄である。鉄は磁石によくくっつくが、この性質がそのECTを、軽水炉のそれと比べて一層難しくしている。特に外面の検査では周波数を高くできないので信号強度が落ちてしまう。合金であるため部分によって磁性にばらつきが出る、鉄なので錆びやすく錆が出きるとまたもや信号が変化してしまう等、問題山積である(「もんじゅ」建設当初からこの細管の中が錆びついており、今や錆びだらけではないかとの疑惑が深まっている)。そうではあっても応力腐食割れを起こす可能性の高い部分なのでクロムモリブデン鋼が使われてしまった。ECTを実施する目的からは最悪の材料選択といえる。細管の本数は150本、長さ80m、外径は約32mm、厚みはわずか3.5mmである。この薄い壁を隔ててナトリウムと水とが流れている。しかも80mという長さのため何カ所もの溶接箇所があるが、これは溶接部を避けた設計を採用した過去に諸外国にあった高速増殖炉と比べても異例の選択と言える。溶接部分の亀裂は特に検出が難しいからである。

<3. 疲労破壊は蒸発器細管でも起こる>
 美浜2号炉事故や「もんじゅ」火災事故の原因となった疲労破壊を思い出そう。長い間見つからずに進展していた亀裂が、ある日突然に細管や温度計さやの破断をもたらした。何重にも巻かれたヘリカルコイルを横切るようにしてナトリウムはその外側を流れるので細管の振動は絶対に避けられない。熱膨張等により各部の支持のされ方が異なってしまうので、様々な固有振動数を持つ細管の部分が形成されていることになり、「もんじゅ」火災事故で実際にそうだったように、その何処かでは共振が避けられず疲労進行する危険性があるだろう。また曲率の大きな細管底部の曲げ部分や取り出し口近くの溶接部等にも大きな応力がかかる可能性が指摘されている。疲労破壊の特徴は、一旦進み出すと亀裂は破断まで進んでしまうという点にある。

<4. 1本の破断が大量細管破断事故をもたらす>
 それでは細管破断が起きるとどうなるか?その答えは1987年に発生した英国高速増殖原型炉PFRの細管破断事故によって示されている。高圧の水蒸気がナトリウム中に吹き出し、ナトリウム水反応が発生した。わずか十秒の間に40本の細管がギロチン規模の破断を起こし、他に70本の細管が大きく変形した。「もんじゅ」の安全審査では「実際よりも十分に厳しい結果を得るために」一本の破断の後に周辺の3本が破損するとされているが、実際の事故はそれの10倍の規模だったのである。そうなった理由は安全審査では高温ラプチャ(千数百度を超える高温下で細管自体の強度が低下して内圧におされて破裂する)という現象を考慮に入れていないからである。では日本では誰もこの現象を知らなかったのかというとそうではない。その事故に先立つこと6年、1981年に動燃は25本の細管が高温ラプチャによって破断した模擬実験を行っていた。動燃はこの結果を科技庁にも安全委員会にも隠し通していたのである。

<5. 細管の大量破断が誘発する中間熱交換器細管の破損>
 PFRの細管破断事故においては、激しいナトリウム水反応の結果、2次系に高い圧力が発生した。英国の推定計算によると、設計基準事故で想定された12バールにぎりぎりの11.5バールの圧力が生じていた。PFRの細管破断は過熱器で起こったが、もし水も流れている蒸発器で起こればはるかに大量の水が約150気圧の圧力差で流れ込み、より大規模なナトリウム水反応が起こったと考えられる。その結果、中間熱交換器にかかる衝撃圧は相当に大きなものになったであろう。これと同じことはもちろん「もんじゅ」にも言える。蒸発器細管の破断は大量の細管破断事故に至り、中間熱交換器の破損を引き起こす恐れがある。

<6. 中間熱交換器の破損と原子炉の暴走>
 「もんじゅ」のシステム全体を思い浮かべてみよう。原子炉内を流れ強力な放射能を帯びた一次系のナトリウムと蒸発器で発生し次いで過熱器を通りタービンを回す三次系の水・蒸気との間には二次系のナトリウムが流れている。1995年の事故が発生した部分である。わざわざそのような二次系がおかれているのは、蒸気発生器細管破断事故が直接には炉心に影響を与えないようにするためである。
 細管破断事故では熱と同時に大量の水素ガスが発生する。もし、そのガスが炉心に流れ込むと中性子の減速効果が緩和され、結果としてその中性子の引き起こす核分裂で発生する中性子数が増加する。すなわち出力が増加するのである。それは0.1秒以下の時間で生じる。ガスの量によっては出力暴走事故にも発展し得るものである。
 さて蒸発器細管で破断が起こると中間熱交換器の細管も破損する危険性があることは先に指摘した。中間熱交換器を夾んで一次系のナトリウムはほぼ大気圧であるのに対して、二次系のナトリウムは加圧されている。したがって中間熱交換器細管が破損すると二次系から一次系にナトリウムが流れ込む。蒸気発生器細管破断事故で大量の水素が発生すると、水素ガスもまた炉心に流れ込むことになり、そうなると原子炉暴走事故に発展する恐れがある。さて中間熱交換器の事故であるが、1998年11月、フランスのフェニックスで中間熱交換器が破損し、二次系のナトリウムが6トンも一次系に流入する事故が起きている。これは一次系と二次系の境界も蒸気発生器細管と同様に破損し得るという事実を示している。

<7. 安全審査入りをやめさせよう>
 核燃サイクル機構は「もんじゅ」の安全審査入りを目論でいる。福井県から安全審査の事前了解を貰おうと画策している。彼らは亀裂を見つけられないECTであっても何ら問題ないと本気で考えている。「小さなリークの段階で検知する」などと吹いているが、同じことは「もんじゅ」火災事故の前にも動燃が、美浜2号炉細管破断事故の前にも関電が言っていたことである。更に言えば疲労亀裂の場合、小さなリークの段階で亀裂の進行が停止することはまず期待できない、必ずや破断に到達する。菊地「もんじゅ」所長は、「あれは三次系の問題」と気にもとめていない様子である。これまでに明らかになっていることは、一本の細管破断が大量の細管破断をもたらし、それが中間熱交換器の破損とそれにつづく水素ガスの炉心流入による暴走事故の危険である。しかしこのような事故は安全審査でも核燃サイクル機構内部でも考慮されていないのである。1995年の火災事故の後、同所長は「一次系を10とすれば二次系は1の努力しかしてなかった」と、反省ともとれる発言をしていたが、今やそれすらも忘れているのであろう。彼らにとって安全確保は2の次ぎ、3の次ぎなのだろう。膨大な税金を浪費し今も浪費している「もんじゅ」であるが、このままでは税金をつぎ込んだ為に放射能事故を起こす結果になるだろう。「安全審査」入りを許してはならない。

<8. 福井県知事は安全審査入りを認めるな>
 安全委員会に至ってはECTの性能問題は自分達の仕事であるとも考えていない。「基本設計」だけが彼らの思考の対象なのだ。彼らに「もんじゅ」を任せると、絶対に安全審査をパスさせる。そうなると「もんじゅ」は再び我々近畿一円に住む者たちの脅威になる。 福井県当局は、このような杜撰な検査しか出来ないECTでよいと考えているのか、それで県民の生命と健康、財産が守れると考えているのか、はっきりと態度を表明すべきである。もはや専門家の委員会で議論をしたりシンポジウムを開いて県民の目を誤魔化して許されるような状態にはない。「もんじゅ」のECTは亀裂を検出出来ないことがはっきりしたのだ。そして当事者の核燃サイクル機構はそれで構わないと本気で考えているのだ。
 このままでは「もんじゅ」は取り返しのつかない事故を起こす。安全委員会には「もんじゅ」の安全性を保証するようなことは出来ないし、核燃サイクル機構にはそれを安全に運転するようなことも出来ない。それを知るにはナトリウム火災事故後の彼らの右往左往を思いだせば十分であろう、彼らには余りにも知らないことが多すぎ、余りにも国民の役に立たなかったばかりか、虚偽の報告等で欺いた。エネルギー受給を考えても「もんじゅ」はまず無用である。「もんじゅ」の安全審査入りを絶対に許してはならない。福井県知事は「もんじゅ」の安全審査入りを認めるな。(2001.3.15,Ym)

(参考)
「もんじゅ」訴訟関連書面
小林圭二著『高速増殖炉もんじゅ』七つ森書館(1994)



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