「原発テロ」の名の下に有事体制の具体化を狙う
11・27福井県美浜町での「国民保護」実動訓練に反対する
★「国民保護」実動訓練は「国民保護」ではない
  放射能放出の危険があるのに、テロリスト逮捕が最優先で住民避難は後回し
  住民避難の対象は、原発からわずか半径3qのみ
★原発事故の現実的危険性は、関電の老朽原発にむち打つ危険な運転にある
  「もんじゅ」運転再開反対!六ヶ所再処理工場のアクティブ試験反対!


 11月27日、福井県美浜町で、初の「国民保護」実動訓練が行われる。「もんじゅ」を含め15基の原発が集中立地している福井県で、テログループによって原発が攻撃されたとの想定によって、「原発テロ」というセンセーショナルな想定で実動訓練が行われようとしている。我々は、「原発テロ」の名の下に有事体制の具体化を狙う「国民保護」実動訓練に断固反対する。

■これまでの原発防災訓練とは質的に異なる「国民保護」実動訓練
 これまでも原発立地点では、JCO臨界事故後策定された「原子力災害特別措置法」(原災法)によって、自衛隊・海上保安庁・警察等が参加した大規模な防災訓練が行われてきた。しかし、今回の実動訓練は、「国民保護法」に基づく初の訓練であり、全く性質を異にする。
 美浜町での実動訓練の想定は、「関西電力株浜発電所がテログループによる攻撃を受け、同施設の一部が損傷を受けたことにより、放射性物質が放出されるおそれが生じ、その後の一連の対応を行います。今回の訓練は国民保護措置に関して行うものであり、テログループの鎮圧等は実施しません」となっている。
 この最後の一文は、今回の実動訓練が戦争準備のためという側面を薄めようとわざわざ付け加えられている。今回の訓練では、首相が発する武力鎮圧のための自衛隊への治安出動命令は含まれず、自衛隊は住民避難の護衛にあたるという。しかし、今回の訓練が、テログループの鎮圧、「武装ゲリラ」への攻撃、実際の交戦などを想定する本格的な有事訓練に向けた第一歩であることに変わりない。
 実動訓練の主体は、内閣官房、福井県、美浜町、敦賀市。参加機関は、防衛庁、警察庁、原子力安全・保安院等の国の指定行政機関、地方の指定行政機関、県内の市町村、赤十字社等の指定公共機関、さらに国公立の病院、NTT等のライフライン関係、鉄道・バス等の交通関係、漁協や報道機関等々が参加して、約1500名規模で予定されている。
 原災法に基づくこれまでの防災訓練では、もちろん防衛庁そのものが参加するということはなかった。国の関係機関は、経済産業省、文科省、消防庁、原子力安全・保安院等に限定されていた。しかし、実動部隊としては、これまでの防災訓練でも、経産省の職員を自衛隊のヘリで現地に輸送したり、住民避難とはほど遠い自衛隊や海上保安庁の巡視船を出動させたりの訓練が実施されてきた。今回の訓練は、これまでの防災訓練の実績の上に、しかし「国民保護法」という有事体制作りの質的に異なった軍事訓練である。

■「国民保護」実動訓練は「国民保護」ではない
 テロリスト逮捕が最優先で、住民避難は事故から数時間後
 放射能放出を想定しながら、避難区域は原発からわずか半径3q

 福井県は昨年12月、全国の自治体で最も早く「国民保護」計画を作成した。しかし、「国民保護」計画と言いながら、実際には国民は保護されないことが、今回の訓練内容でも明らかだ。実動訓練では、放射能放出の危険を想定しながら、テロリスト逮捕が最優先で、住民避難は後回しだ。不安を駆り立てる不気味な警報サイレンが午前8時に鳴らされるが、その頃には美浜原発は独自の事故で自動停止するというシナリオだ。しかし、テロリスト逮捕が最優先で、まずは住民は屋内に待機し、住民の避難が開始されるのは午後になってからである。また、避難住民の対象は、美浜原発からわずか半径3qに限っている。
 これが「国民保護」の実態だ。放射能汚染の危険が迫りながら、これでは住民保護など到底できるものではない。


■「原発テロによる放射能放出」といいながら
 実際は、関電の原発事故による放射能放出という想定
 新聞報道などによれば、実動訓練の想定は、10人前後のテログループが陸上から美浜原発に迫撃砲を撃ち込み、山間部と海上に逃走するという。ところが、この「テロ攻撃」では放射能漏れは起きず、全く別の偶発的な原発の事故が重なり、放射能漏れの危険が生じるというシナリオになっている。

 しかし、公的な想定は「テログループによる攻撃を受け、同施設の一部が損傷を受けたことにより、放射性物質が放出されるおそれが生じ」となっており、テロ攻撃によって放射性物質が放出するおそれというシナリオだ。
 この食い違いについて、11月18日に美浜町で行われた実動訓練第3回調整会議終了後の報道機関への説明で、内閣官房参事補佐の松尾氏は「テロ攻撃で原発に影響が出る想定にすると、被害が出る攻撃パターンを明らかにすることになる。それは危険な面があるので避け、保安上の問題からこういう想定になった」と語ったという(11/22朝日新聞WEB版)。
 実動訓練の想定そのものが、全くデタラメだ。テロ攻撃では放射能放出の危険はないが、それでは住民を巻き込んだ訓練にならないために、全く同時期に関電が原発事故を引き起こしたと想定するという。このデタラメな想定の背景には、原発テロで大惨事になれば、ただでさえ危険な原発の周辺で暮らしている地元の人々の不安を一層大きくするために、原発テロで大惨事とは言いたくないという国の事情がある。事実、原子力安全委員会は、原発の安全審査で「原発テロ」の安全審査を最初から放棄している。仮に原発が攻撃されれば、膨大な放射能が放出し、大惨事は避けられない。
 結局、「緊急対処事態」の「想定」など、国にとってはどうでもいいということだ。要は、「原発テロ」の危険を煽り、軍事訓練を行いたいというのが本音だ。
 「原発テロの脅威」「北朝鮮の脅威」等を持ち出して、「有事訓練やむなし」、「公共機関や民間企業を動員するのも当たり前」という意識を誘導し、実動訓練に反対できない雰囲気を作り出し、抵抗意識をそいで、地元住民と国民を有事体制作り、戦争のための総動員体制作りに協力させていくことを狙っている。原発事故の危険に加えて、有事訓練の先鋒隊の役割を負わせることで、福井県民に二重の負担を強いるものである。

■現実の原発事故の脅威はどこにあるか
 原発事故による放射能放出の現実的な脅威は、老朽化した原発にむち打つ関西電力の強行運転や、検査の手抜き等々のずさんな安全管理にある。さらに、10年前にナトリウム火災事故を引き起こした危険な「もんじゅ」の運転再開にあるのではないのか。
 5名もの死者を出した昨年8月の美浜3号機事故は、老朽原発にむち打つ関電の経済性最優先の強行運転によって引き起こされた。運転開始以来、一度も配管が検査されていなかったばかりか、その事を事故の直前には知っていながら運転を続け事故を引き起こした。さらに、関電の原発では事故が頻発している。今年度上半期だけで、17件もの事故・故障が生じており、昨年度1年間の20件に追いつくほどである。それも運転開始以来35年も経つ美浜1号などの老朽原発で集中して起きている。
 しかし、美浜3号機事故後も電事連や国は、原発の定期検査の短縮、連続運転の長期化を狙っている。老朽化する原発に一層ムチ打つというものだ。
 老朽原発の運転停止と閉鎖から、脱原発に向かう以外に、原発事故の脅威はなくならない。プルトニウムを燃料とする危険な「もんじゅ」の運転再開などもってのほかだ。

 政府がやるべきことは、戦争準備ではなく、アジアの近隣諸国との地に落ちた関係を改善することだ。北東アジアの核不拡散と緊張緩和のためにも、既に約40トンもの余剰プルトニウムを抱える日本が、六ヶ所再処理工場の運転によって一層使い道のないプルトニウムを生み出すことなど許されない。

 我々は、関電の老朽原発の閉鎖、「もんじゅ」廃炉、プルサーマル阻止、六ヶ所再処理工場の稼働阻止に向けて、全国の人々と連帯して運動を強化していく。
 「原発テロ」の名の下に有事体制の具体化を狙う「国民保護」実動訓練に反対する。

2005年11月25日
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会