美浜3号機事故─事故時の運転操作、設備への影響等に関する疑問点
被災者がいるのを知りながら、なぜ蒸気噴出を早く止めなかったのか
なぜ主蒸気隔離弁を早く閉じなかったのか


 美浜3号機事故に関する評価が、3月1日の関電発表資料と3月3日の「美浜発電所3号機二次系配管破損事故調査委員会」第8回の資料として公表されている。ここではそれらのうち、事故時の運転操作や噴出した蒸気の影響などに関する報告について、疑問点を提起したい(添付資料は特に断らない場合、3月1日関電発表資料を指す)。

1.事故時に、なぜ主蒸気隔離弁を素早く閉じなかったのか
 このような事故では、主蒸気隔離弁を素早く閉じ、蒸気発生器に補助給水を送ることによって原子炉を冷却して事故を収めるというマニュアルがあったはずなのに、そのような操作がなされたとは報告されていない。実際に主蒸気隔離弁が閉じられたのは、15:22の事故発生から43分も経過した16:05となっている。その間、破断口からの蒸気の噴出が続いて被災者の救出が遅れている。さらに、高温の蒸気が電気ケーブルなど諸設備に深刻な影響を及ぼした可能性がある。しかし、報告書ではそのような問題点を解明するという視点が皆無である。
 関電は3月1日公表の報告書「美浜発電所3号機 二次系配管破損事故について」の8頁において、「今回の事故時における原子炉停止操作については、運転マニュアルに基づき実施していることを確認した。しかしながら、・・・2次系配管破損事故時に流出量を低減する具体的な対応操作を記載した運転マニュアルがないことから・・・」と述べている。これを受けて保安院は、3月3日の資料8-1で「事故時における運転員の原子炉停止操作については、運転マニュアルに沿ったものであり、妥当なものと考える」と評価している。つまり、ここでは明らかに「原子炉停止操作については」として、原子炉停止操作を2次系操作と切り離して考えている。
 関電の添付資料3-5「美浜3号機 通常停止操作と今回停止操作の相違」では、1次系操作と2次系操作に分け、それぞれで「通常操作」と「今回操作」を比較している。しかし、まずもって奇妙なのは、操作の開始時刻が1次系では15:35、2次系では15:44であり、最も肝心の事故発生から原子炉停止に至る間の15:22〜15:28及びその直後の数分間が度外視されている。さらに、ここでいう「通常操作」とは何なのか、定期検査時の原子炉停止操作のことなのか、2次系の「通常操作」とは何を想定しているのだろうか、まったく不明である。また、1次系操作と2次系操作は同じマニュアルに沿ったものなのか違うのか、これも規定されていない。
 他に、「添付資料3-7 表1」では安全解析(主給水管破断)との比較をしているが、これはどのような操作にそった解析なのか不明である。昨年9月の保安院の中間報告では、今回の事故を「主給水管破断事故相当」と規定していたが、今回の報告ではこの規定はどこへ行ってしまったのだろうか。
 1次系と2次系を切り離し、最も肝心の事故発生直後の操作を度外視する意図はどこにあるのだろうか。原子炉停止操作が2次系操作と無関係でないことは、スリーマイル島原発事故がはっきりと示している。スリーマイル島事故では、今回の美浜事故と同様に(配管破断の有無の違いがあるにせよ)、蒸気発生器への給水が止まったことが発端であった。スリーマイル島原発では、補助給水の弁が閉じられていたために、蒸気発生器による冷却が不能状態となり大事故へと発展した。すなわち、特に事故発生直後の2次系の操作が原子炉冷却に本質的な影響を与えることを如実に示している。ところが、関電と保安院の報告書ではこの関連を無視しているようである。
 実は、今回の事故にもっとも近いのは、主給水管破断事故よりはむしろ「異常な過渡変化」に属する「主給水流量喪失」であろう。そこでは「全ての蒸気発生器への給水が停止」することが想定されている。電動補助給水ポンプ2台が「すべての主給水ポンプトリップ」などにより自動起動することも同じである。タービン動補助給水ポンプ1台が起動することも同じである。ただし、関電の変更申請書では「原子炉の余熱除去は、2次側の補助給水と主蒸気逃し弁あるいは主蒸気安全弁によって行われ、・・・」という点が今回の操作と異なる。その操作では、主蒸気隔離弁を閉じることが前提になっている。そこの「解析」では、電動補助給水ポンプ1台が作動して74m3/hの流量で給水し、主蒸気安全弁が作動することになっており、それだけで事故は納まるという結論である(参考までに、主蒸気逃し弁は3個で510t/hの能力をもっているので、すべての補助給水〔85m3/hの電動2台+175m3/hのタービン動で合計340m3/h〕が行われても十分に蒸気を逃すことができる。さらに、主蒸気安全弁は21個あり、1個が240t/hなので、全部開けば5,040t/hの蒸気を逃す能力を有している)。
 「主給水流量喪失」事象のこのような解析が行われている以上、それに即したマニュアルがあるはずである。そこでは、補助給水を作動させ、かつ主蒸気隔離弁を閉じて主蒸気逃し弁または安全弁を作動させることによって原子炉冷却を行うことになっているはずではないだろうか。なぜ今回の事故時にこのような操作を行わなかったのか、その理由が明らかにされるべきである。ただし、主蒸気隔離弁は16:05に閉じられているが、それ以前に動かそうとしなかったのかどうかについては何も書かれていない。
 なお、主給水管破断事故では、主蒸気隔離弁と主蒸気逃し弁などの操作については、変更申請書では何も書かれていない。それゆえに、添付資料3-7表1での主給水管破断事故での安全解析がどのような想定で行われたのかが問題になる。この点も明らかにされるべきである。


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2.なぜ蒸気の噴出が素早く止められなかったのかー被災者の早期救助などの問題
 関電の報告書では、被災者救助の観点から、蒸気の噴出を早期に止める問題に多くのスペースを割いている。そこでの観点は、脱気器水位制御弁を早く閉じる可能性にもっぱら集中している。主蒸気隔離弁を早期に閉じることについては、一言も触れられていないが、なぜこの操作を避けるのだろうか。遅くとも、制御棒がすべて挿入され、タービンがトリップした15:28時点で直ちに主蒸気隔離弁を閉じることは可能であったはずである。

 関電の報告書によれば、破断口からの流出量885トンの内訳は次のようになる(資料3-9)。
◇流出分(上図参照)
(1)脱気器ストレージタンクから307トンだが、このうちの約300トンは15:28に給水ポンプが停止するまでに、給水ポンプで蒸気発生器に送られて蒸気になり、復水器を通って破断口に向かったと考えられる(資料3-9、4/9)。残りのわずかの量は破断口の上流側(第4低圧給水ヒータ出口ヘッダ)に合流して破断口から出たものと考えられる(資料3-9,1/9)。
(2)2次系純水タンクから604トンだが、タンク水位がほぼ横ばいになる16:00ごろまでに、このうちのおよそ80トン程度が補助給水となって蒸気発生器に入り、その大部分が蒸気になって破断口に向かったと推定される(資料3-9,3/9)。残りの大部分は直接復水器に入ってから破断口に向かったと予想される(資料3-9,1/9及び変更申請書H5.4の第8.1-1図)。流出を止めるために、復水器に行く途中の弁をなぜ閉じなかったかが問われるべきである。
(3)配管保有水から13トン。
以上を合計すると924トンとなる。
◇保持増加分:(1)腹水器ホットウエル内21トン、(2)蒸気発生器内18トンで、合計:39トン。
◇差し引き流出量=885トンとなる。
 これだけの破断口からの流出は、次のグラフが示すような時間経過をたどった(関電添付資料5-1を基に作成)。破断前に前図のA系とB系で流量が各約1700トン/hだったのが、破断によって流れやすくなったA系に流れが集中するためB系の流量はゼロになり(グラフの印)、破断側A系の流量(解析値)はほぼ4,600トン/hとなっている。この量は、通常運転時の主給水流量または主蒸気流量と同程度である。

 前述のように関電は、流出を早期に止めるために、脱気器水位制御弁を早期に閉じる方策を解析している。実際の事故時に関電が脱気器水位制御弁を閉じたのは15:44と遅く、それも人命救助のためではなかった。事実、「プラントの停止状態の確認後、脱気器水位低下、復水流量の激しい変動から、復水系統水が沸騰しているのではないかと懸念し脱気器水位制御弁を閉止した」と書かれている(添付資料3-6(1/10))。上のグラフに示すように、2階で作業員を発見したのは15:27であり、人命救助の必要があることが分かっていながら、一刻も早く蒸気を止める操作をしなければならないとの考えはいっさい浮かばなかったようである。今回の報告書で初めて早期流出停止操作を論じているが、なぜ事故時マニュアルと関連するはずの主蒸気隔離弁を閉じる方策を考えないのか不可解である。
 他方、保安院は関電のその方策さえもまるで無駄な努力であるかのように評して次のようにいう。「流出量低減の可能性に関する検討については、事故時の流出量の多少が原子炉の安全性に影響を与えるものではないことを前提とすべきものと考える」ともっぱら原子炉の冷却のみに関心を示した後、「流出量低減が被災者の救出活動や周辺設備への影響低減に役立つ可能性を否定はできないが、検討結果においても相当量の流出が想定されることに加え、今回の事故においては、被災者は事故発生直後に被災していると推測できることから、必ずしも事故被害の低減に直ちに結びつくものではなかったと考える」と述べている(資料8-1)。
 しかし、被災者救出の実際の経過を見ると、上図に示すように、2階エレベータ付近にいた1名を救出したころに、「建屋内の温度・視界などの状況を踏まえ救出」と記述されており、破断口付近にいた最初の一人目を救出するまでに24分もかかっている。もっと早くに蒸気の噴出を止めていれば、救出が早まったことは明らかである。一刻も早く救出すべきだという観点が保安院にはまるでない。
 早期に蒸気を止める操作が、マニュアルと関連する早期の主蒸気隔離弁閉止によって実施する方向がなぜ検討の対象にさえならないのか、この点が明らかにされるべきである。

3.補助給水制御弁の設計ミス
 これは恐ろしくお粗末な設計ミスというべきである。タービン動補助給水ポンプからの水は3台の蒸気発生器(SG)に入るように3つのルートに分かれるが、それぞれに制御弁がついている。その弁の下流側で、電動補助給水ポンプ2台からの水が合流するようになっている。
 15:28に自動起動したタービン動補助給水ポンプを17:12に停止した後、再び補助給水できるように弁を開けておこうとしたところ、A,B,CのうちAとCが開にならなかったという。その原因はポンプを止めたために弁のポンプ側の圧力が下がったが、弁のSG側は圧力が高く、その圧力差に抗して弁を動かすだけのバネ力がなかったからだという。Bだけは、弁にキズのようなものがあったために、SG側からポンプ側に圧力が抜けてきたので圧力が下がり開いたという怪我の功名である。
 しかし、圧力が高かったといっても、最高で6.29MPa(64気圧)という、定格的な圧力だったのであるから、明らかな設計ミスというべきである。この位置の弁は、スリーマイル島原発事故でその重要性が十分に知られているはずのものである。それなのに、なぜこのようなミスが行われ、なぜ見逃されたのかが明らかにされるべきである。
 さらに、事故という異常事態では、普段使用していない部分で思いがけない欠陥が表面化し、事故の収束想定からはずれることが起こりうる。このことが、今回の事故でも如実に示されたと捉えるべきである。

4.蒸気や水の与えた設備への影響
 今回の事故では、高温蒸気によって、制御系統や弁の作動条件などに影響を与えうるような事態が発生したことが明らかになった。ところがこの問題は、個別の問題として議論されているだけで、事故経過に影響しうるという総括的な把握がなされていない。
 少なくとも次の2点が注目されている。これらは、今回はたまたま大きな被害には至らなかったとはいえ、事故の経過に影響を及ぼしうるという点で重視すべき問題である。
・制御室への蒸気の浸入−非常に重大な問題でありながら(あるいはそれゆえに)、昨年12月まで隠されてきた。
・主蒸気隔離弁の開閉に影響しうる電磁弁の片側接地−片側だけの接地だったので隔離弁の作動に影響しなかったとされているが、そのことを示すのは16:05に弁が作動したからというだけ。それ以前でも動いたかどうかは明らかでない。
 他に、影響を与えた範囲のさまざまな機器について調査が行われているが、その具体的な結果がいっさい公表されていない。
特に電気ケーブルの絶縁状況が調査されているが、その測定結果が公表されていない。電気ケーブルは通常状態では絶縁抵抗の低下がなくても、LOCA時の条件では一挙に経年劣化が表面化することがNRCの委託研究によって1993年にすでに明らかにされている(NRC Information Notice 93-33,1993.4: LOCA条件として600krad/hr,模擬蒸気,110Vdc)。また、ケーブルの接合部についても試験が行われている(Information Notice,98-21,1998.4)。これらの結果は、日本でもある程度は重視されているが、まともな実験は行われていない。発電設備技術検査協会では、2005年度(平成17年度)後半と2007年度(19年度)後半にLOCA条件での実験(格納容器内のケーブルを想定)を予定している。美浜事故を受けて設置された「高経年化対策検討委員会」第2回において、資料2-2及び資料2-3でケーブルが取り上げられているが、LOCA条件で問題になるのは格納容器内のケーブルだとしている。
 ところが今回の事故では、2次系で、放射線なしの熱と水だけでもケーブルの劣化が問題になりうることが示された。関電は調査した絶縁抵抗の測定結果を速やかに公表すべきである。