美浜3号機事故1年にあたって
声   明

老朽原発にむち打つ経済性最優先の運転に警告を発した美浜3号機事故
事故の警告を受け止め、監視を強化し、老朽原発の停止へと向かおう

 5名もの死者を出した国内最悪の美浜3号機事故から1年になる。関西電力は、7月25日、原子力事業本部を美浜町に移した。8月5日には美浜原発で「安全の誓い」の石碑の除幕式を行った。6日には、木内計測の殉職者一周忌追悼式が行われた。
 関電は8月4日、美浜発電所3号機「配管取替等の技術基準適合確認の実施計画書」を国に提出した。破断したオリフィス下流部とその周辺配管をステンレス鋼配管に取り替えるというものである。関電は工事期間を「約1ヶ月」としている。国から許可が下り次第、交換に着手。早くも美浜3号の運転再開を狙っている。
 しかし、石碑の建立や「安全第一」とのスローガンの連呼、原子力事業本部の現地移転などで、果たして事故の再発を防ぐことができるのか。そもそも、5名もの死者を出した事故について、原因は真に解明されたのか、関電と国はどのような責任をとったというのか。

 美浜3号機事故は、老朽化の進む過程でありながら、定検短縮で稼働率を上げ、修繕費を削減して効率化を追求する経済性最優先の運転が、いかに危険なものであるかを示した。1990年代中頃から定検短縮等々の経済性を競い合ってきたその結果が、美浜3号機事故である。それは、経済性最優先の危険な運転の臨界点だった。はたしてこの事故の教訓は、くみ取られ、活かされ、そして状況は改善されているのだろうか。

 原発の老朽化はとどまることなく進んでいる。関電の場合、今年で運転開始から30年に達する原発は4基(美浜1、美浜2、高浜1、高浜2)、25年以上は7基にもなり、関電の11基の原発の多くを占める。他方で、電力自由化を巡る競争は激しくなるばかりである。老朽原発にむち打って経済性を最優先にする危険な運転の傾向は、今後も一層強まってくる。経済性と安全性の対立は、原発の老朽化の中で、一層深まる。これ以上の経済性最優先の運転にストップをかけなければ、老朽原発の過酷な運転にストップをかけなければ、その先には、一層深刻な大事故がまちうける。美浜3号機事故は、そのことを警告しているのである。
 事故から1年にあたり、事故と事故の責任、配管管理の手抜きと老朽炉60年運転に突き進もうとする関電と国の姿勢を改めて問いたい。

■ 事故から1年経った今も、関電の経営トップは事故の責任を基本的に取っていない。3月に出した「再発防止に係る行動計画」でも、トップは安全第一だったが現場までその意識を浸透させることができなかったなどと、現場に責任を転嫁している。藤社長は安全管理・事故再発防止の担当役員に就任し、秋山会長は会長職に留任したままだ。
 また、国も何ひとつ責任を取らなかった。関電トップの責任逃れに目をつぶり、事故の原因と責任に関する本質的な解明を放棄した。保安院は、事故が関電による保安規定遵守義務違反であることを示唆しながら、何らの措置もとっていない。保安規定遵守義務違反は、原子炉の設置・運転許可の取消しに至るほどの大きな問題である。
 事故の直接の原因となった点検リスト漏れについては、具体的な経緯と原因は依然として明らかにされないままである。なぜ28年間もリストから漏れ続けていたのか、スケルトン図には「オリフィス」という文字が書かれていながらなぜ付番だけが抜けたのか、いつの時点でリスト漏れに気づいたのか等々は、今もって隠されている。これらを解明するために必要な、当該部位の点検結果整理票、点検結果管理票等を公開するよう要求しても関電は一切応じようともせず隠したままである。
 人命救出を最優先にしなかったことについても不問に付されたままである。関電は事故直後から、事故現場に被災者がいるのを知りながら、蒸気を止めず、噴出するにまかせた。主蒸気隔離弁を早期に閉じていればもっと早く蒸気を止めることができたにもかかわらず、救出を最優先とする運転操作を行わなかった。これは、刑事責任が係わる可能性もある問題であろう。これに対して保安院は、「最終報告」(2005年3月30日)において、仮に運転員が早期に流出を止める措置をとっていたとしても、被害の低減には関係なかったと言わんばかりの主張を行った。これで、被災者の救出問題についての議論も追求も一切封じ込めてしまった。保安院との交渉では、「(蒸気が)出てしまった後ですから」と何度も繰り返し、「どうせ助からなかったんだ」と言わんばかりの人命軽視の姿勢を取り続けた。

■ 経済性最優先という関電の姿勢は、基本的に変わっていない。関電が今日出した「関西電力は、つねに安全を最優先させることを誓います」という文書がそのことを示している。事故1年目に出したこの文書では、事故の「背景には、安全を優先するという意識が私たちの中に十分浸透していなかった」と事故原因を総括している。「意識」の問題だけで、その物的基礎である経済性最優先の問題については一言もふれていない。6月1日に関電が出した「美浜発電所3号機事故 再発防止対策の実施計画」では、「安全を何よりも優先します」としながら、運転中に作業者を建屋内に入れることを含めた定検前準備作業の再開を検討している。関電交渉でも、「今後、定検前の準備作業のため運転中に作業者を入れないとは言えない」と公言した。また関電の今年度の定検計画では、大飯3号で42日間、高浜1号では44日間という短い定検が予定されている。従来通りの定検短縮方針に何の変わりもない。配管管理のために今後5年間で200億円をかけるというが、過去に手抜きをして修繕費等を削減してきた分をカバーするにすぎない。原発依存度の高い関電にとっては、構造的問題として、原発の修繕費をカットし、定検短縮を進めなければ経済的に見合わないという問題がついてまわる。他の電力会社以上に経済性を追求しようとする衝動力は、関電をとらえて放さない。

■ 二次系配管の管理は改善されているのだろうか。関電は「見かけ上の減肉」という新しい概念を持ち出してきた。配管の肉厚の測定値が減肉傾向を示していても、実際には減肉しておらず、測定点のずれなどによって見かけ上減肉しているに過ぎないという考え方である。関電は美浜3号機の点検結果を整理する中でこのような考え方を持ち込み、余寿命の短くなった配管の検査結果について「見かけ上の減肉」かどうかのふるい分けを行った。配管の交換・補修を極力減らし、検査を手抜きしようとする発想から考え出したものに違いない。関電は、「見かけ上の減肉」に関する考察結果を機械学会に報告したと交渉で述べた。機械学会がこれを検査の簡略化の方便として利用する可能性は十分に考えられる。「見かけ上の減肉」なるものが持ち込まれれば、現実の減肉は見逃され、事故の危険性はさらに増大する。
 8月2日の交渉で関電は、配管管理のルールを変更したとし、「『見かけ上の減肉』であっても配管管理は通常の減肉と同じルールを適用する」と、方針の変更を明らかにした。交渉の中で、測定点がずれたなどという証拠は何もなく、「見かけ上の減肉」は根拠のない憶測に過ぎないことが明らかになったが、すると弁解のように「配管管理では『見かけ上の減肉』は使わない」と繰り返した。しかし、配管管理に反映されないのであれば「見かけ上」と評価することに何の意味もない。それでも関電は「減肉現象を正確に把握するために必要」と固執し、「他の原発でも『見かけ上の減肉』の評価を行う」との考えを示した。このように、「見かけ上の減肉」を配管管理に適用することは一旦取り下げたが、関電はあくまでも「見かけ上の減肉」という概念については放棄していない。

■ 原子力安全・保安院の要請に基づいて、日本機械学会は、二次系配管管理の新たな規格の策定作業を進めている。今年3月に機能性規格が定められ、今秋を目途に技術規格の策定作業が進行中である。保安院は機械学会の規格を採用し、新たな配管管理の「統一的な指針」にするという。新しい規格では、「その他部位」は管理の対象外とされ、ステンレス鋼配管は基本的な管理の枠組みから除外されている。膨大な数にのぼる「その他部位」を切り捨て、また、ステンレス配管の減肉という都合の悪い事例については例外的な扱いとすることで、配管検査を大幅に簡略化しようとしている。
 同時に、保安院は、実際の配管や機器といったハードウェアの健全性をチェックするのではなく、品質保証体制という制度面だけをチェックするという方針を打ち出している。国の安全規制のあり方が、具体的な安全規制から離れ、品質保証という抽象的な体制面だけを規制の対象とし、機器の検査、実態把握などは事業者まかせのより無責任なものへ大きく移行しようとしている。
 美浜3号機事故は、検査を見逃した配管において、想定以上に早く減肉が進む実態があることを示した。老朽化が進む中で、より一層厳格な配管管理が要請されてくる。ところが、進んでいる事態はまったく逆である。国が先頭に立って、配管管理の抜本的な改悪を推し進めている。これでは、事故を悪用した火事場泥棒という他ない。

■ 配管管理の改悪と平行するように、老朽化対策についても国主導で危険な動きが強まっている。総合資源エネルギー調査会の原子力安全・保安部会に設けられた高経年化対策検討委員会は、8月中にも最終報告をまとめ、原子力安全・保安院が策定した60年寿命の運転方針を認めようとしている。同委員会が今年4月6日に出した中間的な報告は、詐欺的な手法に充ち満ちている。60年運転しても安全だとの結論に実態を合わせようとしている。減肉率の加速の問題では、わずか4例のデータを基に、減肉率の加速は見られないと結論づけている。大飯1号などの実際に減肉率が加速している実態に目をつむっている。また、交換済みのステンレス配管の減肉率と交換していない配管の減肉率を一緒くたに平均化することで、平均の減肉率を小さく算出し、あたかも配管を多く交換している老朽原発の方が減肉率が小さく安全であるかのように見せかけている。その結果、2次系配管に関して特別な老朽化対策は必要ないと結論づけるのである。これまでほとんど検査されてこなかった「その他部位」は膨大な数にのぼる。これに対し保安院は、検査が膨大になるため、電力会社で測定箇所や評価を分担してやれば効率的だとまで進言している。国と電力会社は、老朽化のあるがままの実態に目をつぶり、老朽炉にむち打つ60年運転を強行しようとしている。

 事故から1年。原発の老朽化が進む下、美浜3号機事故の警告を受け止め、監視を強化し、老朽原発の停止へと向かおう。国・電力会社による老朽原発に一層むち打つ方策の一つ一つにストップをかけていこう。2次系配管管理の改悪、何がなんでも60年運転を実現しようとする動きを暴露し、阻止していこう。このことを通じて、老朽原発の停止へと進もう。

2005年8月9日
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会