11名もの死傷者を出した美浜3号機事故から2年
関電は美浜3号機の運転再開を断念し、閉鎖せよ
老朽原発にムチ打つ、稼働率至上主義の検査制度の改悪に反対しよう
「関電プルサーマル」という名の亡霊の復活を阻止しよう


■美浜3号機の運転再開に反対する
 11名もの死傷者を出した国内最悪の事故から2年。関電は早くも美浜3号機の運転再開を狙っている。国の事故調査委員会は、3月28日に「関電の再発防止策はおおむね自律的に行われつつある」とする報告書をまとめ解散した。関電にのみ課されていた「特別な保安検査」も終了させた。国の報告を錦の旗に、関電は5月10日に運転再開のための事前協議を地元に申し入れ、5月26日、福井県知事が運転再開を承認した。
 しかしその直後、遺族は、早期の運転再開に対し関電を厳しく批判した。関電は当初予定していた7月運転再開計画を断念せざるを得なくなった。そして、9月末に「試運転」を行い、一旦運転を停止して、10月中旬にも本格的な運転再開を行うというスケジュールに変更した。現在、「試運転」に向けて、準備を進めている。関電が運転再開を急ぐのは、それによって美浜3号機事故を過去のものとしてしまうこと、さらにプルサーマルを進めるためには、福井県の意向として美浜3号機の運転再開が前提条件になっているためだ。
 遺族の気持ちを踏みにじり、運転再開のみに邁進する関電の姿勢は、相も変わらぬ傲慢さを示している。美浜3号機事故は、28年間も配管の肉厚検査を行わず、検査の手抜きと定検短縮等で稼働率を90%に引き上げた矢先に起きた。事故時には、作業員の救出を最優先させることさえしなかった。下請け作業員の生命までも奪った美浜3号機は、関電の安全性軽視の体質の象徴として、閉鎖すべきである。運転再開や、今後30年も運転を続けるなどもってのほかだ。
 関電・東電のプルサーマルが頓挫したままでは、「2010年までに15〜16基で実施」という国と電事連のプルサーマル計画は到底実現できない。そのため、美浜3号機をなんとか運転再開に持ち込み、禁句であった「関電プルサーマル」に息を吹き込もうとしている。私たちは、福井・関西の人々と共に、全国の反ブルサーマルの運動と連帯し、関電プルサーマルの復活を許さない。

■検査制度の改悪に反対しよう
 美浜3号機事故は、老朽原発での稼働率至上主義の危険な運転に警鐘を鳴らした。しかし国と電力会社は、その教訓とは全く逆行する動きを具体化させている。新規立地が見込めないために、老朽化していく既存の原発にむち打つという検査制度の改悪である。国の「検査のあり方検討会」は、「原子力発電施設に対する検査制度の改善について(案)」を出し、8月13日まで意見募集をしている。美浜3号機事故の教訓を踏まえ、老朽化対策を充実させるためと称しているが、その狙いは、定検期間の短縮と、現行の13ヶ月運転の延長などにより、低下している稼働率を上昇させることにある。定期検査中に行っていた検査を、運転中に行うことで定検を短縮させること。そのために「状態監視保全」として、毎回の定検で分解点検していた弁等について、運転中にデータを取得し、異常を検知して初めて分解点検を行うことで、定検中の検査を削減する。さらに「運転中保守(オンラインメンテナンス)」で、予備の待機中ポンプを運転中に分解点検する等である。現状では、2台のポンプで100%の能力を維持している場合、3台目のポンプは、動いているポンプに故障が生じた場合の予備として待機している。「運転中保守」を導入すれば、1台のポンプが故障すれば、予備のポンプは分解中なので使えず、ポンプの能力は半減してしまい、大事故へとつながる危険な状態を生むことになる。
 また、定期検査の間隔は、現行の「13ヶ月に1回」には技術的合理性はないとして、最大24ヶ月の連続運転を可能にしようとしている。定期検査をいつ行うかについては、電力会社がたてる「保全プログラム」にまかせる。これまでの「一律の規制」から「炉ごとの規制」へ、「時間計画保全」から「状態監視保全」への転換である。検査制度の抜本的改悪によって、米国並みに90%の稼働率を達成しようとしている。
 美浜3号機事故で直接問題になった配管の肉厚管理については、機械学会が「配管減肉管理に関する技術規格案」を出し、18日まで意見募集をしている。「規格案」では、BWR原発で手抜き検査として問題になっていた「代表部位」による検査を容認している。PWR原発では、「みかけ上減肉」を事実上容認する内容となっている。関電が機械学会に提案した「みかけ上減肉」とは、「測定点のズレにより、大きな減肉となったもので、実際には減肉ではない」というものだ。関電は、「測定点のズレ」を証明することもできないのに、「みかけ上減肉」という概念に固執してきた。そもそも「測定点のズレ」を認めること自体が、ずさんな検査であることを示している。「測定点のズレ」を許さないように測定方法を厳密化すべきなのに、その検査の前提条件をあいまいにしたままのずさんな「規格案」となっている。
 「状態監視保全」等は、関電でも既に一部導入している。国は、これらを制度として認め、全面的な改悪を推し進めようとしている。

■美浜3号機事故の教訓はどこに行ったのか
 美浜3号機事故は、老朽化のもたらした事故であると福井県は公式に表明した。その老朽化の実態を無視して、経済性優先のずさんな管理を行っていたという「安全文化」の欠如がもたらした事故であった。ところがこの事故の総括の中では、このような教訓がきわめてあいまいにされたまま、運転再開が容認されてきた。
 美浜事故の起こる前から潮流として存在していた経済性優先の稼働率アップの路線が、美浜事故によって一時的に足踏みさせられたものの、やはり自らの傾向を強引に貫徹させようとしている。それに疑問を呈した遺族の意向こそが、強引さの真実を浮き彫りにしているというべきである。


■稼働率低下−これまでの手抜き検査で見過ごされてきた傷が事故として顕在化
        −その上さらに検査制度の改悪で危険な運転を強行

 原発の実態はどうだろうか。とりわけBWR原発では、配管減肉や再循環系配管のひび割れ、制御棒の損傷等が多発している。それによって、稼働率は大幅に低下している。この低下は、事故によって運転停止が頻発しているためである。これまでの手抜き検査で見逃してきた傷が拡大し、冷却水の漏えい等となって、直接事故として顕在化している。女川原発の配管穴あき事故は、これまで「代表部位」だけの検査で済ましてきたため、一度も検査されていなかった箇所で起きた。典型的な手抜き検査を長年放置し続けてきた結果である。手抜き検査と定検短縮によって90年代後半から稼働率を上昇させてきた日本の原発は、その代償として事故を頻発化させ、稼働率の低下という、当然の帰結に陥っている。それにもかかわらず、落ち込んだ稼働率を上昇させることを最優先として、制度として、検査の改悪を公認するという危険な道に進もうとしている。その先に待ち受けているのは、大事故の危険である。


 関電の「経営計画(平成18年度)」の「修繕費、諸経費の抑制」の項目では、「事後保全化の範囲拡大、設備診断技術向上による点検周期・工事範囲の見直しを行うことにより、設備保全の効率化に努めます」とうたっている。すなわち、予防保全ではなく、漏えいしてから補修すればいい範囲を拡大し、点検の周期も延長して、「効率化」に邁進するという。事故の教訓も省みず、経済性最優先の姿勢に変わりはない。

 美浜3号機事故のもたらした教訓について、再度真剣に考え直すべきである。5名もの尊い生命を奪った事故の重みを忘れてはならない。美浜3号機の運転再開に反対していこう。検査制度の改悪に反対しよう。国と電力会社による、老朽原発にむち打つ策動にストップをかけよう。

2006年8月9日
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会