検査の簡略化を狙う機械学会の「配管減肉管理に関する規格(案)」
◆2次系配管の管理は電力会社まかせ
◆「その他部位」も局部減肉も無視、◆ステンレス配管の減肉は例外事例、
◆最小肉厚を割り込んでもOK


 現在、日本機械学会は配管減肉管理のための新たな規格の策定作業を進めている。「規格(案)」を公開し、一般からの意見を募集している。その後に、この「規格」に沿って技術規格を策定しようとしている。
 この「規格(案)」は、2次系配管の管理を電力会社まかせにするとの無責任極まりない基本的姿勢を冒頭から打ち出している。そして、その中身は、ただでさえ抜け穴だらけの現行の管理指針から大きく後退したものとなっている。管理対象を「減肉事象」と狭く限定することで、「その他部位」を管理対象外とし、さらに、局部的な減肉については埒外なものとしている。女川1・2号機や、美浜3号機で明らかになったようなステンレス鋼配管での減肉は例外的なものとして事象に応じた個別管理の方向を示唆している。さらに、技術基準で定める最小肉厚を下回っても、事後に措置を講じればOKとしている。等々。
 この機械学会の「規格」が正式なものとなれば、現行の2次系配管の管理指針よりも検査は一層簡略化されることになる。意見受付は、3月14日(月) までである。「規格(案)」に反対する意見をだそう。

・意見受付公告
  http://www.jsme.or.jp/std/pgc/kouchi/PWTM_kouchi_annai.htm

・配管減肉管理に関する規格(案)
  http://www.jsme.or.jp/std/pgc/kouchi/RPWTMRC2.pdf

(※)意見受付公告のページのアドレスは、頻繁に変更が繰り返され、開くことが出来ないという現象が度々発生しています。上のアドレスでページを開けない場合、以下の手順で意見受付広告のページを開いて下さい。

1)配管減肉管理に関する規格(案)への意見受付公告の開き方
 機械学会発電用設備規格委員会のご意見募集のページ(下のアドレス)を開き、「●意見受付公告」の「(17)発電用設備規格 配管減肉管理に関する規格(案)」をクリックしてください。
   http://www.jsme.or.jp/std/pgc/kouchi/koukoku_ichiran.htm

2)配管減肉管理に関する規格(案)の開き方
 意見受付公告のページの一番下にある「本HPからも規格案はご覧いただけます」の「規格案」をクリックすることで見ることができます。

(1)すべて電力会社まかせの無責任極まりない「規格(案)」
 機械学会の「規格(案)」はまず冒頭で、その第一の目的は、電力会社(設備管理者)の責任を明確に定めることにあると強調し、2次系配管の管理指針の策定と減肉管理を実施する責任は第一義的に電力会社にあるとの基本姿勢を明確にしている。
 その上で「規格(案)」は、電力会社の定める管理指針が満たすべき要件について列挙しているが、電力会社が新たに管理指針を定めても、それが規格に適合しているかどうかについて、確認を受けるための申請を必ずしも行う必要はないとしている。機械学会としては、2次系配管の安全性について、規格という枠組みの策定までは行うが、後は責任を負わない。実態としてはすべて電力会社任せにする。これが、「規格(案)」の最大の特徴である。

(2)「その他部位」は管理対象外−現行のPWR管理指針の枠組みからも大幅な後退
 現行のPWRの2次系配管の管理指針は、点検対象を偏流の発生する部位であるとしており、そのうち減肉傾向があると考えられる部位を「主要点検部位」、減肉傾向がないと想定される部位を「その他部位」として、いずれも点検対象とみなしている。
 ところが、「規格(案)」は、管理の対象を「偏流発生部位」ではなく、「流体流れによる配管減肉事象」であると狭く限定している。この枠組みに基づけば、現行指針における「その他部位」は管理しなくても良いことになる。現在の管理指針は欠陥だらけであることは言うまでもないが、「規格(案)」は、その現行の枠組みからさえも大きな後退となるのである。
 ちなみに、保安院の「暫定的通知」では、新しく玉型弁下流部を「減肉が顕著に発生すると予想される部位」に加えている。この部位は「その他部位」でありながら、大飯1号主給水管で大幅減肉が発生したためである。保安院の場合は、このような部位だけを新たに減肉可能部分に拾い上げることで、「その他部位」を事実上切り捨てる意向が見られる。機械学会「規格(案)」の場合は、そのような新たな拾い上げさえなく、「その他部位」についてはまったく一言も触れていない。しかし「その他部位」では、玉型弁下流部だけでなく、たとえば美浜3号での著しい減肉が示すように、いろいろな部位で減肉が進んでいるのである。
 新たな事実を踏まえて「その他部位」を全体としてどのように管理するのか、機械学会は具体的な指針を示すべきである。

(3)局部減肉は埒外と無視
 また「規格(案)」は、「流体流れによる配管減肉事象」とは、「ある程度の広がりをもつ減肉」だとしている。つまり、局部的な減肉は初めから埒外に置かれており、無視されているのである。局部減肉を無視する姿勢は、東電の福島第一原発5号機で問題になり、福島県から強く批判されている。機械学会は、局部減肉を無視する姿勢を撤回すべきである。

(4)ステンレス鋼配管における減肉は例外的なものと位置づけ
 さらに「規格(案)」は、「配管減肉事象」を基本的には腐食(コロージョン)によるものであるとし、コロージョンは炭素鋼配管でのみで発生するものとしている。ステンレス鋼配管でも浸食(エロージョン)による減肉が生じる場合があるが、「発生する箇所は限定されている」と、例外的なものと位置づけ、事象毎に個別に管理するものとしている。しかし、このような決め付けで管理範囲を狭める方向をとる前に、事実を正確に把握するべきではないだろうか。実際、ステンレス鋼管での激しい減肉は、女川1・2号機などばかりでなく、美浜3号機では、その他部位であるステンレス製の蒸気発生器ブローダウン水回収管で起こり、最小肉厚を割り込んでいることが明らかになっている。これらの事例を踏まえ、ステンレス鋼配管における減肉も、基本的な管理指針に含めるべきである。

(5)最小肉厚を割り込んだ状態での運転を容認
 「規格(案)」は、検査結果の「評価方法」として、まず、「過去に測定された厚さに基づき減肉の進展を予測し、その後のある期間において技術基準で要求される最小厚さを満足するかどうかを確認する方法」、つまり通常の余寿命管理の方法を挙げている。その上で、これとは別に、余寿命評価は行わず、「測定された厚さが技術基準で要求される最小厚さを満足しているかどうかを確認する方法」が含まれるとしている。そして、これに照応する形で、検査の評価結果に基づく「措置」として、「予防保全として計画的に行う配管取替や溶接補修」の他に、「技術基準で要求される最小厚さを下回った場合に、当該設備の供用開始前に行う配管取替や溶接補修」も含まれるとしている。
 つまり、「規格(案)」は、検査結果の履歴から減肉の進展を予測し、最小肉厚を割り込まないように管理するような手法ではなく、単純に最小肉厚を割ったか、割っていないかだけを検査するようなやり方も認めているのである。このような管理方法であれば、当然、事後に最小肉厚を割り込んでいることが判明するのであり、それまでは肉厚を割り込んだまま運転を続けることになる。「規格(案)」では、そのような場合には、次に運転を開始する前に措置を講ずれば良いという考えを取っているのである。それゆえ、場合によれば数年先の次回定検まで、最小肉厚を割り込んだ状態での運転を容認することになる。これは、安全性を根底から掘り崩す。
 保安院は、技術基準を割り込むこと自体は認めていないが、福島第一原発5号機で見つかった減肉問題について、「技術基準には余裕度を持たせてあるから、仮に最小肉厚を割り込んでも安全上問題はない」との見解を表明した。「規格(案)」の内容は、このような安全性無視の保安院の姿勢をさらに具体的に一歩進めようとするものである。